防食概論塗装・塗料

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 ここでは,油性塗料から合成樹脂塗料への転換の歴史について,【塗料の近代化】,  【関連用語】 で紹介する。

 塗料概論(塗料の歴史)

 塗料の近代化

 現場調合型のさび止めペイント(anticorrosive paint)には,優れたさび止め機能を持つ鉛丹(red lead, minium)防せい顔料(rust preventive pigment)として長く用いられてきた。 鉛丹に匹敵する性能を持ち,代わりうる顔料が登場したのは,1928年(昭和 3年)に亜酸化鉛(lead suboxide)(一酸化鉛,PbO)が開発されてからである。
 1929年(昭和 4年)には「亜酸化鉛粉錆止塗料」(亜酸化鉛さび止めペイント)として鉛粉塗料株式会社(後の大日本塗料株式会社)から発売された。
 亜酸化鉛は,その後に JIS規格化された塩基性クロム酸鉛(basic lead chromate)(PbCrO4・PbO)やシアナミド鉛(lead cyanamide)(PbCN2)と共に,鉛丹さび止めペイントの作業性や層間はがれの欠点を補う鉛系さび止めペイント(lead-based anticorrosive paint)として,現場塗装となる塗替え塗装を中心に広く用いられるようになった。

 昭和初期には,フェノール樹脂(1872年発見,1907年ベークライト発明),フタル酸樹脂塩化ゴム樹脂などの合成樹脂(synthetic resin)を利用した塗料の開発が盛んに行われた。
 この時期のフタル酸樹脂塗料(phthalic resin coating, alkyd resin coating)は,中油性のフタル酸樹脂エナメル塗料である。天然ゴムを塩素化させた塩素ゴム樹脂が登場し,1930年代に耐水性,耐薬品性,耐候性の良さを持つ塗料として塗料化された。

 太平洋戦争後は,堅練りペイント(past paint)が大幅に減り,ほとんどが調合ペイント(ready mixed paints)にとって代わられた。
 1950年頃より,戦後復興,自動車産業の発達など技術革新の波はあらゆる産業に波及し,各分野において新製品,新技術の関発が大きく進んだ。

自動車の普及

自動車の普及
出典:平成17年警察白書,統計データ(新交通管理システム協会)

 塗料の分野では,例えば,1948年のメラミンアルキド樹脂塗料(melamine alkyd resin coating),1949年の酢酸ビニルエマルジョン塗料(vinyl acetate emulsion varnish),1952年には 1938年にスイスで発明されたエポキシ樹脂(epoxy resin)の塗料化や不飽和ポリエステル樹脂塗料(unsaturated polyester coating)の開発,1953年のシリコン樹脂塗料の開発などが挙げられる。
 
 1955年(昭和 30年)頃より,従来の乾性油を用いた油性調合ペイントにかわり合成樹脂を用いた合成樹脂系調合ペイント{ready mixed paints (synthetic resin type)}が中塗・上塗に使用されるようになり,耐候性(weathering resistance)が飛躍的に向上した。
 白顔料には,1881年に茂木重次郎らが開発した亜鉛華(酸化亜鉛,ZnO)が 1955年(昭和30年)頃まで使用され続けた。しかし,その後に,鮮やかな白色で隠ぺい力に優れる二酸化チタン(titanium dioxide,チタン白 white titanium pigment)が白顔料として開発されたことで,亜鉛華に取って代わった。

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 用語

 堅練ペイント(past paint)
 調合ペイントが広く用いられるようになる昭和初期までの塗料で,亜麻仁(あまに)油を展色剤とし,顔料を練って得られるペースト状で供給され,塗装現場で塗装時に塗装職人が亜麻仁油を用いて粘度を調整する塗料。
 調合ペイント(ready-mixed paint)
 特にボイル油を加える必要がなく,かき混ぜて一様にすれば,はけですぐ塗れるように製造したペイント。油性調合ペイント,合成樹脂調合ペイントなど。JIS K 5511「油性調合ペイント」,JIS K 5516「「合成樹脂調合ペイント」」参照。【JIS K5500「塗料用語」】
 油性調合ペイント(ready mixed paints)
 着色顔料・体質顔料などを主にボイル油で練り合わせて作った液体・自然乾燥性の塗料。【JIS K5511「油性調合ペイント」】
 ボイル油(boiled oil)
 乾性油・半乾性油を加熱し,又は空気を吹き込みながら加熱して,乾燥性を増進させて得た油。【JIS K5500「塗料用語」】 JIS K 5421「ボイル油及び煮あまに油」参照
 合成樹脂(synthetic resin)
 それ自身は樹脂の特性を持っていない,反応性分から重合,縮合のような制御された化学反応によって作られた樹脂。【JIS K5500「塗料用語」】
 有機又は無機高分子化合物からなる物質の中で,重合,縮合のような制御された化学反応によって人為的に製造されたものを指す。
 合成樹脂調合ペイント(ready mixed paints (synthetic resin type))
 着色顔料・体質顔料などを,主に長油性フタル酸樹脂ワニスで練り合わせて作った液状・自然乾燥性の塗料。【JIS K5516「合成樹脂調合ペイント」】
 アルキド樹脂塗料(alkyd resin coating, alkyd coating)
 塗膜形成要素として,アルキド樹脂を用いて作った塗料。アルキド樹脂塗料に含まれる脂肪酸には酸化形と非酸化形とがある。樹脂は脂肪酸含有量の多少によって,長油・中油・短油に分ける。
 酸化形長油アルキド樹脂を用いて作った合成樹脂調合ペイントは建築,船舶,鋼橋などの塗料の上塗りに,酸化形短油アルキド樹脂又は酸化形中油アルキド樹脂を用いて作った塗料は鉄道車両,機械などの塗装の上塗りに用いる。【JIS K5500「塗料用語」】
 チタン白(white titanium pigment)
 二酸化チタン(TiO2)を主成分とする白顔料。結晶形によって,アナタース形(anatase)とルチル形(rutile)とがある。塗料用のルチル形は,分散性・塗膜の耐候性の改善のために表面被覆処理したものが主に使用される。【JIS K5500「塗料用語」】 JIS K 5116「二酸化チタン(顔料)」では,二酸化チタンからなる顔料の品質及び試験方法について規定されている。
 二酸化チタン(titanium dioxide)
 チタン(Ti)の酸化物で,IUPAC名酸化チタン(Ⅳ) (titanium(IV) oxide)の組成式 TiO2,式量 79.9の無機化合物。結晶構造には,アナターゼ形(正方晶,アナタース形ともいう),ルチル形(正方晶),ブルッカイト形(斜方晶)がある。
 ルチル形は,熱力学的に安定で,触媒としての活性が低く,隠ぺい力が高いので,チタン白,チタニウムホワイトと称され,塗料,絵具,釉薬などの白顔料として使われている。
 アナターゼ形は,バンドギャップが 3.2 eVと小さく,紫外線より短い波長(387 nm未満)の光を吸収し,価電子帯の電子が伝導帯に励起される。この際に生成した正孔の酸化力は非常に強く,活性酸素種が生成するので,光触媒として除菌,脱臭,有機物の分解などに利用されている。
 隠ぺい力(塗膜の)(hiding power)
 塗料が素地の色又は色差を覆い隠す能力。黒と白とに塗り分けて作った下地の上に,同じ厚さに塗ったときの塗膜について,色分けが見えにくくなる程度を,見本品の場合と比べて判断する。【JIS K5500「塗料用語」】

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