防食概論塗装・塗料

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 ここでは,塗膜への塩基性の水の作用に関し, 【耐アルカリ性とは】, 【JIS 製品規格での扱い】 で紹介する。

 塗膜の評価(化学的性質;耐アルカリ性)

 耐アルカリ性とは

 JIS K5500「塗料用語」

 耐アルカリ性(alkaliproof, alkali resistance)
 アルカリの作用に対して変化しにくい塗膜の性質。
 
 アルカリ(alkali)
 水に溶解して塩基性( pH > 7 )を示し,酸と中和する物質の総称をいい,典型的なものにはアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物がある。これらは,水に溶解すると水酸化物イオン( OHを生じるアレニウス塩基(Arrhenius base)に相当する。
 他に,アンモニア,アミン,アルカリ性の水溶液やアルカリ金属を単にアルカリと呼ぶこともある。
 塩基(bace)
 一般的には,水に溶けた時に水酸化物イオン( OH )を出す物質を指すアレニウス塩基 ( Arrhenius base ) を示す。しかし,アレニウス塩基では,一般的な酸塩基反応の説明に不都合なため,より一般化した塩基の定義がブレンステッドとルイスにより示されている。
 すなわち,反応する相手からプロトンを受け取る物質を塩基と定義するブレンステッド塩基 ( Brönsted base ),電子対を供給する物質を塩基とするルイス塩基 ( Lewis base ) である。

 塗料規格耐アルカリ性

 防食塗装に用いられる代表的な塗料で,耐アルカリ性を品質として規定している塗料は,JIS K 5551「構造物用さび止めペイント」の有機溶剤を揮発成分とする反応硬化形エポキシ樹脂系塗料の A,B種JIS K 5659「鋼構造物用耐候性塗料」である。
 
 一方,防食塗装に用いられる塗料の中で,JIS K5633「エッチングプライマー」JIS K5552「ジンクリッチプライマー」JIS K5674「鉛・クロムフリー鉛さび止めペイント」JIS K5553「厚膜形ジンクリッチペイント」,及び JIS K 5551「構造物用さび止めペイント」の反応硬化形変性エポキシ樹脂系又は反応硬化形ポリウレタン樹脂系塗料の C種,水を主要な揮発成分とする反応硬化形エポキシ樹脂系塗料 D,E種JIS K 5516「合成樹脂調合ペイント」では,耐アルカリ性は規定されていない。
 
 塗料種別による耐アルカリ性の扱いの違いは,防食塗装として,例えばコンクリートなどのアルカリ(酸化カルシウム,水酸化カルシウムなど)を含む材料との接触環境でも使用可能な塗料を明確にし,その塗料の実用上十分な性能を保証することが目的と考えられる。実際に,耐アルカリ性が規定されていない塗料は,次に示すアルカリの作用で変化する化合物を成分として含む塗料又はそれらの化合物を含む可能性が高い塗料であり,元来からコンクリート面への塗装が不適切とされる塗料である。
 JIS K5633「エッチングプライマー」は,アルカリと酸塩基反応する化合物として,顔料として酸化亜鉛,無水クロム酸,添加剤としてりん酸を含む。
 JIS K5552「ジンクリッチプライマー」JIS K5553「厚膜形ジンクリッチペイント」は,顔料に両性物質の金属亜鉛末を多量に含む。
 JIS K5674「鉛・クロムフリー鉛さび止めペイント」JIS K 5516「合成樹脂調合ペイント」は,展色材に,アルカリと反応し鹸(けん)化し易いアルキド樹脂(長油性フタル酸樹脂)が用いられている。
 JIS K5551「構造物用さび止めペイント」 C,D,E種は,鹸化し難いエポキシ樹脂を主成分としているが,変性のために用いる樹脂・油脂によっては鹸化の可能性が否定できない。
 
 【参考】
 酸塩基反応(acid-base reaction)
 塩を形成する化学反応をいう。アレニウスの定義による酸と塩基の反応では,水と金属塩を生成する。
 ブレンステッド・ローリーの定義による酸と塩基の反応では,金属塩に限定されず,必ずしも水の生成を伴わない反応で,非水溶液での反応も扱える。
 両性物質(amphoteric substance)
 酸とも塩基とも反応する物質のことである。一般には,この性質を持つ金属単体(亜鉛,スズ,鉛,アルミニウム,ベリリウムなど)を両性金属,金属や半金属(一般的にはホウ素、ケイ素、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン、テルルの6元素)の酸化物で酸・塩基と反応する両性酸化物を合わせて両性物質と称している。両性酸化物を形成する物には,Zn, Sn, Pb, Al, Be, Si, Ti, V, Fe, Co, Ge, Zr, Ag, Sn, Au などが知られている。
 鹸(けん)化(saponification)
 油脂又はエステルがアルカリによって加水分解し,石けんを生成する反応。脂肪酸のアルカリによる中和反応も含まれる。
 一般的には,次式に示すように,油脂(脂肪)を水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの塩基を使ってグリセリンと高級脂肪酸塩に加水分解することをいう。
     R-COOCH2CH(OOC-R)CH2OOC-R + 3NaOH → C3H5(OH)3 + 3R-COO-Na ,R:アルキル基
 コンクリート(concrete)
 セメント(cement)に砂(細骨材),砂利(粗骨材),水などを混ぜ,凝固させた硬化物をコンクリートという。なお,セメントを水で溶いて混ぜたものをセメントペーストといい,セメント,水,細骨材のみの硬化物をモルタル(mortar)という。
 セメント(cement)
 セメントとは,広義には水和や重合し硬化する粉体や接着剤全体を指す。コンクリートの製造に用いられるセメントは,「ポルトランドセメント」,「混合セメント」,「特殊セメント」に大別される。
 ポルトランドセメントは,炭酸カルシウム(CaCO2)の鉱物(方解石)からなる石灰石(limestone),粘土(clay),珪石(silica stone,主成分二酸化けい素;SiO2),鉄(Fe)を原料とし,焼成することで得られた水硬性のクリンカー(clinker)鉱物と硫酸カルシウム(CaSO4)を主成分とする鉱物の石膏(せっこう;gypsum)を混ぜて粉砕して得られる。

 

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 JIS 製品規格での扱い

 ここでは,JIS K5551 「構造物用さび止めペイント」 B種(反応硬化形エポキシ樹脂系塗料 60μmタイプ),及び JIS K5659「鋼構造物用耐候性塗料」の品質項目“耐アルカリ性”を紹介する。
 
 試験板
 JIS K5551JIS K5659とも試験板は,大きさ 150mm×70mm×0.8mm の鋼板とする。
 
 試験片の作製
 JIS K5551「構造物用さび止めペイント」
 試験片の枚数は 3枚とし,JIS K5551「構造物用さび止めペイント」 の塗料(下塗り塗料)を規定の塗膜厚みとなるようスプレー塗りで 1回塗る。
 24 時間置いた後,JIS K5659「鋼構造物用耐候性塗料」に規定する中塗り塗料を,それぞれJIS K 5600-1-1吹付け塗り)の方法で 1回塗り重ねる。
 更に 24 時間置いた後,同一の中塗り塗料で板の周辺を,試験に影響がないように塗り包み,6日間置いて試験片とする。1枚は原状試験片とする。
 JIS K 5659「鋼構造物用耐候性塗料」では
 下塗り塗料として,JIS K5551「構造物用さび止めペイント」に規定する B種,又は C種を乾燥塗膜厚み 55~ 65μmとなるようにスプレー塗りし,1日放置後,中塗り塗料をスプレー塗りで規定の厚みに一回塗り重ね,1日置いた後に上塗り塗料をスプレー塗りで規定の厚みに塗り重ねる。
 裏面・側面の処理では
 1日後に試験片の裏面,及び周辺を製造業者の指定するさび止めペイントで試験に影響がないように塗り包み,6日間置いたものを試験片とする。試験片 3枚のうち 1枚を原状試験片とする。
 
 試験方法
 耐アルカリ性の試験方法は,JIS K 5600-6-1 「耐液体性(一般的方法)」 の方法 1 (浸せき法)手順 A による。
 ただし,試験液の種類,及び試験条件は,次による。
 1) 試験液
 JIS K 5551「構造物用さび止めペイント」では
 水酸化ナトリウム試薬を水によって,50 g/L の水溶液に調整し,試験に用いる。
 JIS K 5659「鋼構造物用耐候性塗料」では
 水酸化カルシウムを脱イオン水で調整した飽和溶液を用いる。
 2) 試験条件
 試験温度は 23±1℃とし,浸漬時間は168時間とする。浸漬方法は次による。
 JIS K 5551「構造物用さび止めペイント」では
 容器に試験液を 150mm の深さまで入れる。試験片 2枚を長辺が垂直になるよう糸につるし,120mm の深さまで浸す(上部 30mm は試験液に浸さない。)。
 JIS K 5659「鋼構造物用耐候性塗料」では
 試験液に完全に浸漬する。
 3) 試験終了後の処置及び観察方法
 浸せき終了後,洗浄等の処置を行い,処置後 1回目の観察を目視で行う。更に 2時間後 2回目の観察を目視によって行う。
 
 評価,及び判定
 観察によって 2枚の試験片を評価する。1回目,及び 2回目の観察のいずれもが,原状試験片と比べて
 JIS K 5551「構造物用さび止めペイント」では
 液面から幅約 10mm 外部(大気)に出た部分を含む塗膜に,膨れ,割れ,はがれ,穴,軟化を認めないとき,“異常がない。”とする。
 JIS K 5659「鋼構造物用耐候性塗料」では
 塗膜に膨れ,割れ,はがれ,穴を認めず,色の変化の程度が大きくないときは,“異常がない。”とする。

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