防食概論:塗装・塗料
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ここでは,鋼構造物などに広く用いられている防せい塗料に関し, 【非鉛系さび止めペイントとは】 ,非鉛系さび止めペイントの JIS製品規格の例として, 【一般さび止めペイント】, 【鉛・クロムフリーさび止めペイント】, 【構造物用さび止めペイント】, 【品質試験一覧】 に項目を分けて紹介する。
なお,鉛系さび止めペイントについては前項で,ジンクリッチ系さび止めペイントについては,次項で紹介する。
塗料各論(さび止めペイント)
非鉛系さび止めペイントとは
鉛化合物やクロム化合物をさび止め顔料として用いたさび止めペイントは,安価で防食性能が高いため,鋼構造物の防食に限らず多くの分野で長年活用されてきた。しかし,1990年代になると鉛・クロム化合物の人の健康に与える影響が問題視され,2000年代から使用自粛が進み,その後には鉛系・クロム系さび止めペイントに関する JIS製品規格の見直しが行われた。
2010年(平成 22年)5月にJIS K5622 鉛丹さび止めペイント(red lead anticorrosive paint),JIS K5624 塩基性クロム酸鉛さび止めペイント(badic lead chromate anticorrosive paint),JIS K5627 ジンククロメートさび止めペイント(zinc chromate anticorrosive paint, zinc chromate primer)が廃止された。
2014年(平成 26年)4月には,JIS K5623 亜酸化鉛さび止めペイント(lead suboxide anticorrosive paint),JIS K5625 シアナミド鉛さび止めペイント(lead cyanamide anticorosive paint)が廃止され,最後まで残ったJIS K 5629 鉛酸カルシウムさび止めペイント(calcium plumbate anticorrosive paint)も 2016年(平成 28年)12月に廃止された。
一方,鉛系・クロム系さび止めペイントの JIS製品規格廃止に向けて,さび止め顔料に鉛系及びクロム系成分を使用しない JIS製品規格が整備された。
2003年には,鉛系・クロム系さび止めペイントの代替を期待し, JIS K 5674 「鉛・クロムフリーさび止めペイント」(lead-free, chromium-free anticorrosive paint)が新規に制定された。
さらに,古くからが用いられていた JIS K 5621 「一般用さび止めペイント」(anticorrosive paint for general use),及び JIS K 5551 「構造物用さび止めペイント」(heavy-duty anticorrosive paints for metal structures)は,さび止め顔料についての具体的な規定はなかったが,2008年に鉛化合物及びクロム化合物を用いない内容に改訂された。
このような状況を踏まえて,使用者側としては,「鉛系さび止めペイント」の廃止に向けて,2003年(平成 15年)に新設された「鉛・クロムフリーさび止めペイント」への変更,又は塗装系そのものを「ジンクリッチプライマー」(zinc rich primer)や「ジンクリッチペイント」(zinc rich paint)を用いた長期耐久型の塗装系や「厚膜形変性エポキシ樹脂塗料」(high build type modified epoxy resin coating)などを用いた「構造物用さび止めペイント」を下塗り塗料として用いる塗装系へ変更が求められた。
なお,「鉛・クロムフリーさび止めペイント」の防せい(錆)性は,従来の鉛系・クロム系さび止めペイントに比較して劣ると評価する技術者も少なくない。このため,あえてこの塗料を用いるより,より長期防錆の期待できるエポキシ樹脂系塗料やジンクリッチペイントなどを用いた塗装仕様を選択する事業者もある。
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JIS K 56212008 「一般用さび止めペイント」
JIS K 5621「一般用さび止めペイント」は,橋梁などの大型鉄鋼構造物ほどの高い防せい(錆)性が要求されない軽量鉄骨や一般鉄鋼のさび止めを目的とするため,使用するさび止め顔料が指定されていないさび止めペイントであった。
しかし,鉛・クロム化合物の人の健康に与える影響が問題視され,2008年(平成 20年)の改訂で,適用範囲に“さび止め顔料に鉛系及びクロム系成分を使用しない”が追加された。更に,VOC対策を意識し,水を溶剤として用いる品種も追加された。
適用範囲:この規格は,さび止め顔料に鉛系及びクロム系成分を使用しないで,一般的な環境下での鉄鋼製品などのさび止めに用いる一般用さび止めペイントについて規定する。ただし,JIS K 5674 に規定する鉛・クロムフリーさび止めペイントは除く。
種類:種類は,次によって区分する。
a) 1種 屋内外における鉄鋼製品に用いるボイル油系さび止め塗料。
b) 2種 屋内外における鉄鋼製品に用いる有機溶剤を揮発成分とする液状・自然乾燥性のさび止め塗料。
c) 3種 屋内外における鉄鋼製品に用いる速乾性で,短期間の防せい(錆)性をもつ有機溶剤を揮発成分とする液状・自然乾燥性のさび止め塗料。
d) 4種 屋内における鉄鋼製品に用いるもので,水を主要な揮発成分とする液状・自然乾燥性のさび止め塗料。
品質:
項 目 | 1 種 | 2 種 | 3 種 | 4 種 |
---|---|---|---|---|
容器の中での状態 | かき混ぜたとき,堅い塊がなくて一様になる。 | |||
低温安定性(‐ 5℃) | ― | 変質しない。 | ||
塗装作業性 | 支障がない。 | |||
表面乾燥性 | 表面乾燥する。(1種20時間,2種8時間,3種2時間,4種4時間) | |||
塗膜の外観 | 正常である。 | |||
上塗り適合性 | 支障がない。 | |||
耐屈曲性 | 折り曲げに耐える。( 6mm) | |||
付着安定性 | はがれを認めない。 | |||
サイクル防食性 | 膨れ,さび及びはがれがない。(1,2種 28サイクル,3,4種 20サイクル) | |||
加熱残分(質量分率 %) | 90以上 | 70以上 | 60以上 | 50以上 |
防せい(錆)性 | 6か月の防錆性を持つ。 | 3か月の防錆性を持つ。 |
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JIS K 56742019 「鉛・クロムフリーさび止めペイント」
この規格は,2003年に制定され,その後 2008年に改正された。その後 2008年版の引用規格 JIS K 5108 鉛丹(顔料)の廃止に伴い,2019年に改正されている。
適用範囲:この規格は,一般的な環境下での鉄鋼製品,鋼構造物などのさび止めに用いる塗料で,鉛フリー及びクロムフリーのさび止め顔料を含む鉛・クロムフリーさび止めペイントについて規定する。
注記 この規格は,環境対応で廃止された,各種鉛含有 JISさび(錆)止めペイントの代替えとして開発され,JIS K5621 「一般さび止めペイント」よりも長期にわたる屋外での防食性を求められている塗料である。
種類:種類は,次とする。
a) 1種 有機溶剤を揮発成分とする液状・自然乾燥形のさび止め塗料。
b) 2種 水を主要な揮発成分とする液状・自然乾燥形のさび止め塗料。
品質:
項 目 | 1 種 | 2 種 |
---|---|---|
容器の中での状態 | かき混ぜたとき,堅い塊がなくて一様になる。 | |
低温安定性(‐ 5℃) | ― | 変質しない。 |
塗装作業性 | 支障がない。 | |
表面乾燥性 | 表面乾燥する。(8時間) | |
塗膜の外観 | 正常である。 | |
上塗り適合性 | 支障がない。 | |
耐屈曲性 | 折り曲げに耐える。( 6mm) | |
付着安定性 | はがれを認めない。 | |
サイクル防食性 | 膨れ,さび及びはがれがない。(36サイクル) | |
加熱残分(質量分率 %) | 75以上 | 50以上 |
塗膜中の鉛(質量分率 %) | 0.06以下 | |
塗膜中のクロム(質量分率 %) | 0.03以下 | |
防せい(錆)性 | 防錆性を持つ。(24か月) |
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JIS K 55512018「構造物用さび止めペイント」
2008年版
適用範囲:橋りょう(梁),タンク,プラントなどの鋼構造物,及び鉄,鋼,ステンレス鋼,アルミニウム,アルミニウム合金の建築などの金属部分の塗装に用いる構造物用さび止めペイントについて規定する。ただし,この規格の塗料は,発がん性のおそれのあるタール成分を含まないものとする。
種類: 厚みと材料種の違いで,A種,B種,及びC種の 3種に分けられる。
A 種 反応硬化形エポキシ樹脂系塗料で,膜厚が約 30μmの標準形塗料である。主に鋼構造物及び建築金属部の防せい(錆)に用いられる。
B 種 反応硬化形エポキシ樹脂系塗料で,膜厚が約 60μmの厚膜形塗料である。主に鋼構造物の長期防せい(錆)に用いられる。
C 種 反応硬化形変性エポキシ樹脂系,又は反応硬化形変性ウレタン樹脂系塗料で,標準の膜厚が約 60μmの厚膜形塗料である。主に鋼構造物の長期防せい(錆)に用いられる。
なお,C 種は,常温環境下で施工する C種 1号,及び低温環境下で施工する C種 2号に分けられる。
品質:
項 目 | A 種 | B 種 | C1 種 | C2 種 |
---|---|---|---|---|
容器の中での状態 | かき混ぜたとき,堅い塊がなくて一様になる。 | |||
半硬化乾燥性 | 半硬化乾燥している。(常温 16時間) | 低温 24時間 | ||
塗装作業性 | 支障がない。 | |||
塗膜の外観 | 正常である。 | |||
ポットライフ | 23℃ 5時間 | 5℃ 5時間 | ||
たるみ性 | ― | たるみがない。(すき間200μmで流れがない) | ||
上塗り適合性 | 支障がない。(中塗り塗料を塗り付けて,作業性,外観などを評価) | |||
耐衝撃性 | 割れ及びはがれがない。(デュポン式300g,500mm) | |||
付着性 | 分類 0 | 分類 ,1又は分類 0(JIS K 5600-5-6) | ||
耐アルカリ性 | 異常がない。 | ― | ||
耐揮発油 | 異常がない。 | ― | ||
耐熱性 | ― | 外観が正常である。試験後の付着性試験で分類 2,分類 1,又は分類 0 | ||
サイクル腐食性 | さび,膨れ,割れ及びはがれがない。(120サイクル) | |||
塗膜中の鉛の定量 (質量分率%) |
0.06以下 | |||
塗膜中のクロムの定量 (質量分率%) |
0.03以下 | |||
屋外暴露耐候性 | さび,膨れ,割れ及びはがれがない。(24か月) |
まえがき ・・・平成31年(令和元年)9月19日までの間は,工業標準化法第19条第1項等の関係条項の規定に基づくJISマーク表示認証において,JIS K 5551:2008を適用してもよい。・・・
序文:この規格は,1991年に制定され,その後2002年及び2008年の改正を経て今日に至っている。今回,あらたに水性さび止めペイントに対応するために改正した。なお,対応国際規格は現時点で制定されていない。
適用範囲: 2008年版と同じ。
種類: 2008年版の A種,B種,C種 1号,C種 2号と表現は異なるが同一内容。 2018年版では,水性の D種と E種が追加された。。
D種:水を主要な揮発成分とする反応硬化形エポキシ樹脂系塗料で,膜厚が約 30μm の標準形塗料。主に建築金属部の防せい(錆)に用いるもの。
E種:水を主要な揮発成分とする反応硬化形エポキシ樹脂系塗料で,膜厚が約 60μm の厚膜形塗料。主に鋼構造物の長期防せい(錆)に用いるもの。
品質:塗料種別 A, B, C の品質は 2008 年版と同一。なお,下表の赤字は塗料種別 A, B, C と大きく異なる項目を示す。
項 目 | D 種 | E 種 |
---|---|---|
容器の中での状態 | かき混ぜたとき,堅い塊がなくて一様になる。 | |
低温安定性(−5±2℃) | 変質しない | |
半硬化乾燥性 | 半硬化乾燥している。(常温乾燥16時間) | |
塗装作業性 | 支障がない。 | |
塗膜の外観 | 正常である。 | |
ポットライフ | 23℃ 3時間 | |
たるみ性 | ― | たるみがない。(すき間200μmで流れがない) |
上塗り適合性 | 支障がない。(中塗り塗料を塗り付けて,作業性,外観などを評価) | |
耐衝撃性 | 割れ及びはがれがない。(デュポン式300g,500mm) | |
付着性 | 分類 0 | 分類 1 又は分類 0 |
耐アルカリ性 | ― | |
耐揮発油性 | ― | |
耐熱性 | ― | 外観が正常である。試験後の付着性試験で分類 2,分類 1又は分類 0 |
サイクル腐食性 | さび,膨れ,割れ及びはがれがない。(120サイクル) | |
塗膜中の鉛の定量(質量分率%) | 0.06 以下 | |
塗膜中のクロムの定量(質量分率%) | 0.03 以下 | |
屋外暴露耐候性 | さび,膨れ,割れ及びはがれがない。(24か月) |
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品質試験一覧
JIS規格の各品質項目に対する試験方法は次の通りである。
項 目 | 概 要 | 試験 方法 |
---|---|---|
容器の中での状態 condition in container |
塗料を容器に入れて貯蔵した後の状態。顔料を含む塗料では,かき混ぜるか練り混ぜるかしてみて,一様な状態になればよいとする。 | JIS K 5600-1-1の4.1(容器の中の状態) |
低温安定性(-5℃) low temperature stability |
冷却しても常温に戻せば,元の性能状態に戻る性質。 | JIS K 5600-2-7の4.(低温安定性) |
塗装作業性 | 試料を製品規格に規定する方法で塗装して,塗装作業に支障がないかどうかを調べる。 | JIS K 5600-1-1の4.2(塗装作業性) |
表面乾燥性 surface-drying test |
バロチニ法(Ballotini method)を用いた塗料が乾燥(液体から固体に変化する過程の総称)するのに必要な時間。 | JIS K 5600-3-2(表面乾燥性) |
塗膜の外観 | 塗装作業性の試験に合格した試験片と見本品とを比較し,差異の有無を観察する。 | JIS K 5600-1-1の4.4(塗膜の外観) |
半硬化乾燥 dry to touch, touch dry |
塗った面の中央を指先でかるくこすってみて塗面にすり跡が付かない状態。 | JIS K 5600-1-1の4.3(乾燥時間) |
ポットライフ pot life |
幾つかの成分に分けて供給される塗料を混合した後,使用できる最長の時間。 | IS K 5600-2-6(ポットライフ) |
たるみ(塗膜の) sagging |
垂直又は傾斜した面に塗料を塗ったとき,乾燥までの間に,塗料の層が下方に移動して起こる局部的な膜厚の異常。 | 塗料規格に定める方法 |
上塗り適合性 overcoatability |
ある塗料の塗膜の上に,決められた塗料を塗り重ねたときに,塗装上の支障が起こらず,正常な組合せ塗膜層が得られるための,塗り重ねられる下地塗膜の性状。 | 塗料規格に定める方法 |
耐屈曲性 bending resistance |
塗膜が素地の変形に対し,塗膜の損傷なしで追従する性能。 | JIS K 5600-5-1(耐屈曲性) |
耐衝撃性 impact-resistant |
試験片に物体が激突したときの衝撃及びそれによって生じる試験板の変形に対する塗膜の抵抗性。 | JIS K 5600-5-3(耐おもり落下性) |
付着安定性 interlayer adhesion |
JIS K5674「鉛・クロムフリーさび止めペイント」に規定される品質で,紫外線の影響を受けた塗膜に中塗り塗料を塗り重ねたときの付着性で,中塗り塗料の品質;層間付着性Ⅰに相当する下塗り塗料の品質を付着安定性という。 | 塗料規格に定める方法 |
付着性 adhesion |
塗膜に素地まで貫通する直角の格子パターンを刻み込んだとき,素地からのはく離に対しての塗膜の耐性。 | JIS K 5600-5-6(クロスカット法) |
耐アルカリ性 alkali resistance |
アルカリの作用に対して変化しにくい塗膜の性質。 | JIS K 5600-6-1(耐液体性) |
耐揮発油性 gasoline resistance |
揮発油の作用に対して変化しにくい塗膜の性質。 | JIS K 5600-6-1(耐液体性) |
耐熱性 heat resistance |
塗膜が加熱されても変化しにくい性質。 | JIS K 5600-6-3(耐加熱性) |
サイクル防食性 resistance to cyclic corrosion conditions |
塩水噴霧/乾燥/湿潤のサイクル条件を用い,塗料製品規格に規定するサイクル数に耐える性能。 | JIS K 5600-7-9 の附属書 1(サイクル D) |
加熱残分 % nonvolatile content |
塗料を一定条件で加熱したときに,塗料成分の一部が揮発又は蒸発した後に残ったものの質量の,元の質量に対する百分率。 | JIS K 5601-1-2(加熱残分) |
塗膜中の鉛(質量分率 %) | 加熱残分中の鉛の定量。 | 塗料規格に定める方法 |
塗膜中のクロム(質量分率 %) | 加熱残分中のクロムの定量。 | 塗料規格に定める方法 |
防せい(錆)性,屋外暴露耐候性 natural weathering |
太陽の放射及び大気に対して塗膜及び塗装系の耐久性。 | JIS K 5600-7-6(屋外暴露耐候性) |
JIS K 5600-2-7「塗料一般試験方法−第 2 部:塗料の性状・安定性−第7節:貯蔵安定性」
JIS K 5600-3-2「塗料一般試験方法−第 3 部:塗膜の形成機能−第 2 節:表面乾燥性(バロチニ法)」
JIS K 5600-5-1「塗料一般試験方法−第 5 部:塗膜の機械的性質−第 1 節:耐屈曲性(円筒形マンドレル法)」
JIS K 5600-5-6「塗料一般試験方法−第 5 部:塗膜の機械的性質−第 6 節:付着性(クロスカット法)」
JIS K 5600-6-1「塗料一般試験方法−第 6 部:塗膜の化学的性質−第 1 節:耐液体性(一般的方法)」
JIS K 5600-7-6「塗料一般試験方法−第 7 部:塗膜の長期耐久性−第 6 節:屋外暴露耐候性」
JIS K 5600-7-9「塗料一般試験方法−第 7 部:塗膜の長期耐久性−第 9 節:サイクル腐食試験方法−塩水噴霧/乾燥/湿潤」
JIS K 5601-1-2「塗料一般試験方法−第1部:通則−第2節:サンプリング」
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