防食概論:塗装・塗料
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ここでは,鉄道の鋼橋塗装に適用される新設時の防食塗装系 【一般外面・塗装系 BSU】, 【塗装仕様】, 【鉛・クロムフリー長ばく形エッチングプライマー】, 【鉛・クロムフリーさび止めペイント】, 【長油性フタル酸樹脂塗料】 を紹介する。
鉄道橋の防食塗装(新設塗装)
一般外面・塗装系 BSU
「塗装指針」 2013;第Ⅰ編 塗装一般 第 D章 解説(塗装系の特徴), 塗装系 BSU
塗装系 BSUは,工事桁,定期交換部材などの 5年程度の短期使用を目的とした鉄桁等鋼構造物に適用することを前提としている。このため,高い防食性能を期待していない。また,このような構造物では,施工コストの縮減が大きな課題となる。そのため,景観性能を重視しない場合や鋼の腐食を許容する場合などには,中・上塗り塗装を省略することもできる。
具体的には,鉛・クロムフリーさび止めペイント 2回塗りのみの仕上げとなる。この塗膜の耐久性は,過去の試験結果から一般環境で腐食が開始するまでに 3~4年と類推される。
例えば,従来の鉛系さび止めペイント 1回塗りの試験片を,高温多湿で飛来塩分量の多い沖縄県宮古島(後述の腐食カテゴリ C5以上の腐食性環境)に暴露した試験で,腐食開始までに 1年~2年要したとの報告*などから推定される。
*:「新発電システムの標準化に関する調査研究」平成12年3月,(財)日本ウェザリングテストセンター
硬化機構と塗装間隔
工場でさび止めペイントを塗装後,現場で長油性フタル酸樹脂塗料中塗を塗付ける場合に,その塗装間隔は 6か月に制限されている。この理由は,6か月以上経過すると,鉛系さび止めペイントの塗膜がほぼ完全硬化しているために,平滑で完全硬化した面に直接長油性フタル酸樹脂塗料中塗を塗装すると層間はく離を生じる可能性が大であることによる。
従って,6か月以上経過した後で長油性フタル酸樹脂塗料を塗装するためには,十分な面あらし(素地調整)が必要となり,そのために設定塗膜厚よりかなり膜厚減になるので,上記のような塗装間隔の制限が規定されている。
なお,12か月以上経過する場合は,塗膜の劣化状態とさびの発生状況により,その後の措置を判断する必要があり,専門家に相談すべきである。また,このような対応をとる場合には,鉄桁等鋼構造物の仮置場所及び保管方法には,十分な配慮が必要である。
その他注意事項
鋼・コンクリート合成桁や跨線橋取り付け階段等では,鋼材とコンクリート面が接触している個所が多くなる。これらの接触面では,直接あたる雨水や結露による水はコンクリートとの接触によりアルカリ性になり,長油性フタル酸樹脂塗膜を劣化・分解(アルカリ性によるけん化)させることになる。
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塗装仕様
「塗装指針」 2013;第Ⅱ編 新設構造物 第 A2章 塗装仕様(塗装系), 一般外面の塗装系 BSU
原板(製鋼工場)
素地調整
黒皮鋼板のまま,又はブラスト処理
ブラスト処理の場合は,除錆度: ISO Sa2 1/2 以上,表面粗さ: 10 点平均粗さ 80μmRzJIS 以下
プライマー塗装
ブラスト処理後 4 時間以内に,
鉛・クロムフリー長ばく形エッチングプライマー:使用量 130g/m2(工場;吹付け塗り)(膜厚 15μm)
プライマーの膜厚は総合膜厚に加えない。
橋梁製作工場
2 次素地調整・ブラスト処理しプライマーを塗装した原板は,さびやプライマー塗膜損傷部のみを部分ブラスト処理
・黒皮鋼板のまま組み立てた場合は,ブラスト処理で,
除錆度: ISO Sa2 以上,表面粗さ: 10 点平均粗さ 50μmRzJIS 程度とし,
直ちに鉛・クロムフリー長ばく形エッチングプライマー塗り付け(標準使用量 130g/m2,工場;吹付け塗り)
下塗り塗装
① プライマー塗装後 12 時間以上,3 カ月以内
鉛・クロムフリーさび止めペイント:使用量 170g/m2(工場;吹付け塗り)(膜厚 35μm)
② ①塗装後 2 日以上,1 カ月以内
鉛・クロムフリーさび止めペイント:使用量 170g/m2(工場;吹付け塗り)(膜厚 35μm)
橋梁製作工場,又は橋梁架設現場
中塗り塗装
工場塗装では 2 日以上,1 カ月以内,現場塗装では下塗り塗装後 2 日以上,6 カ月以内
長油性フタル酸樹脂塗料中塗:使用量 140g/m2(工場), 110g/m2(現場;刷毛・ローラ塗り)(膜厚 30μm)
上塗り塗装
中塗り塗装後 1 日以上,15 日以内
長油性フタル酸樹脂塗料上塗: 使用量 130g/m2 (工場), 105g/m2 (現場;刷毛・ローラ塗り)(膜厚 25μm)
【備考】
使用量は,工場塗装ではスプレー塗りの場合を,架設現場塗装は,刷毛・ローラ塗りの場合を示す。
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鉛・クロムフリー長ばく形エッチングプライマー
「塗装指針」 2013;附属書 A 塗料規格及び試験方法
SPS 66062-3 鉛・クロムフリー長ばく形エッチングプライマー
品質
下表には,鉛・クロムフリー長ばく形エッチングプライマーの塗料品質,比較のため JIS K5633 2010 「エッチングプライマー」2 種(長暴形)の品質を紹介する。
JIS 等で規定される品質の「塗装作業性」,「塗膜の外観」については,これらの品質に適合しない塗料の販売が考え難いこと,また,他の品質を検査する際にこの品質は容易に把握できることから,鉄道では,全ての塗料規格でこれらの品質を規定していない。また,実環境で 2年程度の「耐候性」(屋外暴露耐候性)を規定していない。これは,塗料成分の規定により,塗膜の機械的,化学的,及び耐久性の室内試験を行うことで,耐候性が確保できると考えているためである。
項 目 | SPS 66062-3 | JIS K5633( 2種長暴形) |
---|---|---|
密度 20℃ g/cm3 | ― | 0.88~1.20 |
容器の中での状態 | かき混ぜたとき,堅い塊がなくて一様になるものとする。 | |
加熱残分 % | 20以上 | |
溶剤不溶物 % | ― | 9以上 |
項 目 | SPS 66062-3 | JIS K5633( 2種長暴形) |
---|---|---|
密度 20℃ g/cm3 | ― | 0.80~1.00 |
りん酸 %(H2PO4として) | ― | 6以上 |
項 目 | SPS 66062-3 | JIS K5633( 2種長暴形) |
---|---|---|
ブチラール樹脂(質量分率 %) | 5以上 | ― |
フェノール樹脂(質量分率 %) | 2以上 | ― |
りん酸 %(H2PO4として) | 0.1以上 | ― |
顔料(質量分率 %) | 5以上 | ― |
溶剤(質量分率 %) | 87以下 | ― |
塗膜中の鉛(質量分率 %) | 0.06以下 | ― |
塗膜中のクロム(質量分率 %) | 0.03以下 | ― |
ポットライフ | 8時間で使用できるものとする。 | |
塗装作業性 | ― | はけ塗りで塗装作業に支障があってはならない。 |
乾燥時間 min | 30以下 | |
塗膜の外観 | ― | 塗膜の外観が正常であるものとする。 |
耐おもり落下性(デュポン式) | 300mm の高さから落としたおもりの衝撃によって,割れ・はがれがあってはならない。 | |
耐屈曲性(円筒形マンドレル法) | 直径 6mm の折り曲げに耐えるものとする。 | |
耐塩水性 | 塩化ナトリウム溶液に浸したとき,異常がないものとする。 | |
屋外暴露耐候性 | ― | 3か月間の試験で見本品と比べて,さび・膨れ・はがれの程度が大きくないものとする。 |
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鉛・クロムフリーさび止めペイントの品質
「塗装指針」 2013;附属書 A 塗料規格及び試験方法
SPS 66053-13 鉛・クロムフリーさび止めペイント
品質
下表には,鉛・クロムフリーさび止めペイントの塗料品質,比較のため JIS K5674 2019 「鉛・クロムフリーさび止めペイント」1 種(有機溶剤系)の品質を紹介する。
JIS 等で規定される品質の「塗装作業性」,「塗膜の外観」については,これらの品質に適合しない塗料の販売が考え難いこと,また,他の品質を検査する際にこの品質は容易に把握できることから,鉄道では,全ての塗料規格でこれらの品質を規定していない。また,実環境で 2年程度の「耐候性」(屋外暴露耐候性)を規定していない。これは,塗料成分の規定により,塗膜の機械的,化学的,及び耐久性の室内試験を行うことで,耐候性が確保できると考えているためである。
項 目 | SPS 66053-13 | JIS K5674( 1種溶剤系) |
---|---|---|
全顔料(質量分率 %) | 30以上 | ― |
防せい(錆)顔料(質量分率 %) | 5以上 | ― |
ボイル油又はフタル酸樹脂 (質量分率 %) |
10以上 | ― |
溶剤(質量分率 %) | 25以下 | ― |
加熱残分(質量分率 %) | 75以上 | |
塗膜中の鉛(質量分率 %) | 0.06以下 | |
塗膜中のクロム(質量分率 %) | 0.03以下 | |
容器の中での状態 | かき混ぜたとき,堅い塊がなく一様になる。 | |
塗装作業性 | ― | 支障がない。 |
表面乾燥性 | 表面乾燥する。(8時間) | |
塗膜の外観 | ― | 正常である。 |
上塗り適合性 | 支障がない。 | |
耐屈曲性 | 折り曲げに耐える。(6mm) | |
付着安定性 | - | はがれを認めない。 |
サイクル防食性 | 膨れ,さび及びはがれがない。(36サイクル) | |
防錆性 | ― | 防錆性を持つ。(24 か月) |
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長油性フタル酸樹脂塗料の品質
「塗装指針」 2013;附属書 A 塗料規格及び試験方法
SPS SPS 66033-4 長油性フタル酸樹脂塗料
品質
下表には,長油性フタル酸樹脂塗料の塗料品質,比較のため JIS K5516 2019 「合成樹脂調合ペイント」2 種(大形鉄鋼構造物用)の品質を紹介する。
JIS 等で規定される品質の「塗装作業性」,「塗膜の外観」については,これらの品質に適合しない塗料の販売が考え難いこと,また,他の品質を検査する際にこの品質は容易に把握できることから,鉄道では,全ての塗料規格でこれらの品質を規定していない。また,実環境で 2年程度の「耐候性」(屋外暴露耐候性)を規定していない。これは,塗料成分の規定により,塗膜の機械的,化学的,及び耐久性の室内試験を行うことで,耐候性が確保できると考えているためである。
項 目 | 66033-4 中塗 | JIS K5516( 2種中塗) | 66033-4 上塗 | JIS K5516( 2種上塗) |
---|---|---|---|---|
顔料(質量分率 %) | 40以上 | ― | 20以上 | ― |
長油性フタル酸樹脂 (質量分率 %) |
15以上 | ― | 25以上 | ― |
溶剤(質量分率 %) | 35以下 | ― | 40以下 | ― |
加熱残分 % | 65 以上 | 60 以上 | ||
塗膜中の鉛(質量分率 %) | 0.06以下 | ― | 0.06以下 | ― |
塗膜中のクロム(質量分率 %) | 0.03以下 | ― | 0.03以下 | ― |
容器の中での状態 | かき混ぜたとき,堅い塊がなくて一様になる。 | |||
塗装作業性 | ― | はけ塗りで塗装作業に 支障があってはならない。 |
― | はけ塗りで塗装作業に 支障があってはならない。 |
乾燥時間(表面乾燥性) | 16 時間以内 | |||
指触乾燥性 | 1時間以下で 指触乾燥してはならない。 |
― | 1時間以下で 指触乾燥してはならない。 |
― |
塗膜の外観 | ― | 塗膜の外観が 正常であるものとする。 |
― | 塗膜の外観が 正常であるものとする。 |
隠ぺい率 %(白及び淡彩) | 85 以上 | 90 以上 | ||
鏡面光沢度( 60度 ) | ― | 80 以上 | ||
重ね塗り適合性 | ― | 重ね塗りに支障があってはならない。 | ||
上塗り適合性 | 上塗に支障があってはならない。 | ― | ||
耐屈曲性 | 折り曲げに耐える。(6mm) | ― | 折り曲げに耐える。(6mm) | ― |
耐塩水性 | ― | 塩化ナトリウム溶液に浸しても,異常がないものとする。 | ||
促進耐候性 | ― | *1 | ||
屋外暴露耐候性 | ― | *2 |
*2 屋外暴露耐候性:2年間の試験で,膨れ,はがれ及び割れがなく,色とつやの変化の程度が見本品に比べて大きくないものとする。また,白及び淡彩では,白亜化の等級が 4 以下とする。
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