防食概論:塗装・塗料
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ここでは,塗膜と環境との相互作用の評価法として, 【促進耐候性】, 【 JIS K 5516 「合成樹脂調合ペイント」の促進耐候性】, 【 JIS K 5659 「鋼構造物用耐候性塗料」の促進耐候性】 に項目を分けて紹介する。
塗膜の評価(塗膜耐久性;促進耐候性)
促進耐候性
屋外で,日光,風雨,露霜,寒暖,乾湿などの自然の作用に抵抗して変化しにくい塗膜の性質を耐候性(weather resistance , weathering)という。塗膜の耐候性を評価するためには,実環境への暴露試験(耐候性試験)が必要となる。
これに対し,人工光源を用いた試験機を用いた促進耐候試験に抵抗して変化しにくい塗膜の性質を,一般に促進耐候性と称している。
促進耐候性は,用語としてみると,促進された耐候性? あるいは耐候性を促進? などと解釈される用語になっている。しかしながら,自然の作用に抵抗し変化しにくい塗膜の性質である耐候性は,複雑な環境因子の長時間をかけた相互作用の結果であり,この作用を合理的に促進できる技術の開発に至っていないのが現状である。
過去に,塗料技術の向上により,耐久性の高い塗膜が開発され,耐候性を見極めるための実環境への暴露試験(耐候性試験)に 10年以上の長期間を要するようになった。そこで,短い時間で耐候性を推定できる試験方法が望まれ,環境因子の一部の強度を高めた試験方法(人工環境試験)が検討され,それを促進耐候試験と命名したことが誤解の原因である。
この結果として,促進耐候試験に耐える塗膜の性質を促進耐候性というようになってしまった。
促進耐候試験は,人工光源の光,水,温度,湿度のみを因子とした人工環境試験であり,自然の作用に抵抗して変化しにくい塗膜の特性である耐候性を促進して評価できると考えるには無理がある。このため,促進耐候性は,用語として JIS試験規格の表題など一般的に用いられているが,JIS K 5500「塗料用語」に定義されていないと推察される。
JIS K 5500「塗料用語」
耐候性(weathering resistance)屋外で,日光,風雨,露霜,寒暖,乾湿などの自然の作用に抵抗して変化しにくい塗膜の性質。JIS K 5600-7-6「屋外暴露耐候性」参照
促進耐候試験(accelerated weathering test, accelerated weathering, artificial weathering)
塗膜は屋外にさらされると,日光,風雨などの作用を受けて劣化する。この種の劣化の傾向の一部を短時間に試験するために,紫外線又は太陽光に近似の光線などを照射し,水を吹き付けるなどして行う人工的な試験。JIS K 5600-7-7「促進耐候性及び促進耐光性(キセノンランプ法)」 , JIS K 5600-7-8「促進耐候性(紫外線蛍光ランプ法)」 参照。
促進耐候試験機(accelerated weathering machine)
促進耐候性を試験する機械。各種の形式のうち,アトラス形が最も広く使われている。炭素アーク灯を 2 個用いて特定波長分布の光を発生させて塗膜に照射し,更に 120分間照射中に 102分間隔で 18分間ずつ水の霧を吹き付ける。Weather-O-meter は,アトラス会社の商標。このほかに光源としてキセノンランプ,紫外線蛍光ランプを用いるものなどがある。JIS K 5600-7-7「促進耐候性及び促進耐光性(キセノンランプ法)」,JIS K 5600-7-8「促進耐候性(紫外線蛍光ランプ法)」 参照。
JIS Z0103「防せい防食用語」
屋外暴露試験(outdoor exposure test)試験片を,一定期間屋外にさらして,自然環境での腐食,さび,劣化などの状態を調べる試験。大気暴露試験,耐候性試験ともいう。
促進耐候試験(accelerated weathering test)
人工光源から発する光と断続的な人工降雨を与える装置を用い,試験片の腐食,さび,劣化などの状態を調べる試験。
促進耐候性と耐候性
促進耐候性防食塗装に用いられる JIS 製品(塗料)で,品質項目に促進耐候性を規定するのは,上塗り塗料として用いられるJIS K 5516 「合成樹脂調合ペイント」,及び JIS K 5659 「鋼構造物用耐候性塗料」である。試験片の作製では,下塗りから上塗りまでの塗装仕様塗膜が用いられる。
促進耐候性の評価には,光(特に紫外線)の照射と水噴霧による湿潤と乾燥の繰り返しによる上塗り塗膜の景観性能(色,光沢の変化,白亜化)が用いられる。
耐候性
品質に耐候性(防錆性,屋外暴露耐候性)”を規定するのは,防食塗装に用いられる全ての塗料である。
プライマーとして用いられるJIS K 5633 「エッチングプライマー」とJIS K5552 「ジンクリッチプライマー」の試験片は,上に塗り重ねないで単独塗膜として作製される。
下塗り塗料として用いられるJIS K 5553「厚膜形ジンクリッチペイント」の試験片は,上に塗り重ねないで作製される。一方,JIS K 5674「鉛・クロムフリーさび止めペイント」と JIS K 5551「構造物用さび止めペイント」の試験片は,当該塗料に塗り重ねられる中塗り塗料と上塗り塗料を用いた塗装仕様塗膜として作成される。
中・上塗り塗料として用いられるJIS K 5516 「合成樹脂調合ペイント」,及びJIS K 5659 「鋼構造物用耐候性塗料」の試験片は,当該塗料を塗り重ねる下塗り塗料を用いた塗装仕様塗膜として作成される。
耐候性の評価では,塗料,塗装仕様の防食機能に直接影響する塗膜変状(さび,ふくれ,割れ,はがれ)を主要観察項目としている。
促進耐候性と耐候性
促進耐候性は,上塗り塗膜に適用し,紫外線分布に特徴のある人工光源を用い,光沢度,白亜化の程度,及び色の変化を重視した評価試験法である。すなわち,上塗り塗膜の耐紫外線性を評価する試験法と考えられる。
耐候性は,屋外で日光,風雨,露霜,寒暖,乾湿などの自然の作用に対して,防食塗装に用いられる塗料では,さび,膨れ,割れ,はがれなどの塗膜変状に抗する性質,すなわち防食性能を評価する試験法と考えられる。
このように,促進耐候性試験は,耐候性とは目的が異なり,むしろ「耐光性」の定義“顔料及び塗膜の性質。特に色が,光の作用に抵抗して変化しにくい性質。”に近い用い評価試験法と考えられる。
促進耐候性は,日本語では促進と称しているため,短い試験期間で“耐候性”を評価できると誤解されがちであるが,複雑な環境因子の影響を受ける耐候性で得られた結果とは相関が低いので注意が必要である。
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JIS K 5516 「合成樹脂調合ペイント」の促進耐候性
適用範囲
この規格は,建築物(鉄部,木部),及び鉄鋼構造物の中塗り,又は上塗りに用いる合成樹脂調合ペイントについて規定する。
参考:合成樹脂調合ペイントは,着色顔料・体質顔料などを,主に長油性フタル酸樹脂ワニスで練り合わせて作った液状・自然乾燥性の塗料である。
種類
a) 合成樹脂調合ペイント 1 種 主に,建築物,及び鉄鋼構造物の中塗り,及び上塗りとして,下塗り塗膜の上に数日以内に塗り重ねる場合に用いる。
b) 合成樹脂調合ペイント 2 種中塗り用 主に,大形鉄鋼構造物の中塗りに用いる。
c) 合成樹脂調合ペイント 2 種上塗り用 主に,大形鉄鋼構造物の上塗りに用いる。
7.3 試験の一般条件
b) 試験板の作製
1) 鋼板: SPCC-SB の鋼板とし,7.5,7.7,7.11及び 7.12の試験では,溶剤洗浄によって調整した鋼板,7.14,7.15及び 7.16の試験では,研磨によって調整した鋼板とする。
c) 試料の塗り方: はけ塗りとし,1回ごとの塗付け量は,100cm2 当たり 0.50±0.05mL とする。はけの種類は,JIS K 5600-1-5 「塗料一般試験方法−第1部:通則−第5節:試験板の塗装(はけ塗り)」の 3.1(はけ)又は附属書 A[試験板の塗装(はけ塗り)]による。
7.15 促進耐候性
a) 試験板: 7.3 b) 1) に規定する寸法 150mm×70mm×0.8mm 鋼板とする。
b) 試験片の作製: 7.14 と同じ方法によって,試料及び見本品それぞれ 3枚を作製する。ただし,1種の試験片では,中塗り及び上塗りは同一の塗料を用いる。作製した試験片は,1枚を原状試験片とし,残り 2枚を供試試験片とする。
c) 試験方法: JIS K 5600-7-7「塗料一般試験方法−第7部:塗膜の長期耐久性−第7節:促進耐候性及び促進耐光性(キセノンランプ法)」に規定する装置(方法 1促進耐候性)を用いて,試験片ぬれサイクルのサイクル Aによって,規定の照射時間(240時間)を経過した後,取り出して一般状態で 1時間放置する。
d) 評価項目及び評価方法: 白亜化の等級は JIS K 5600-8-6「塗料一般試験方法−第8部:塗膜劣化の評価−第6節:白亜化の等級」によって,膨れは JIS K 5600-8-2「塗料一般試験方法−第8部:塗膜劣化の評価−第2節:膨れの等級」によって,剝がれは JIS K 5600-8-5「塗料一般試験方法−第8部:塗膜劣化の評価−第5節:はがれの等級」によって,及び割れは JIS K 5600-8-4「塗料一般試験方法−第8部:塗膜劣化の評価−第4節:割れの等級」によってそれぞれ評価し,同時に試験後の供試試験片及び見本品供試試験片を目視によって直接比較して調べる。
また,色及びつやの変化の程度は,試験後の供試試験片と原状試験片とについて,及び試験後の見本品供試試験片と見本品原状試験片とについて,それぞれ目視によって観察し,供試試験片及び見本品供試試験片それぞれの試験前後の変化の差を直接比較して調べる。
e) 判定: d)の評価の結果,膨れ,剝がれ及び割れの等級は 0であり,色及びつやの変化の程度が見本品試験片に比べて大きくなく,また,白及び淡彩色では,白亜化の等級が 1又は 0のとき,“促進耐候性試験に耐える”とする。
7.14 耐塩水性
b) 試験片の作製: 試験板 2枚の表面(試験面)に,JIS K 5674「鉛・クロムフリーさび止めペイント」の 1種を塗付け量 100cm2 当たり 0.4±0.05mL で,はけ 1回塗り,24時間乾燥後,その上に 2種中塗り用塗料を 7.3 c) によって 1回塗り,24時間乾燥し,更に 2種上塗り用塗料を 7.3 c) によって 1回塗り重ねる。7日間置いて試験片とする。 なお,乾燥及び養生は,標準状態で行う。
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JIS K 5659 「鋼構造物用耐候性塗料」の促進耐候性
適用範囲
この規格は,主に鋼構造物の美装仕上げ塗りに用い,長期の耐候性をもつ塗料について規定する。
種類
A種a):上塗り塗料c): 1級,2級,3級e)
A種:中塗り塗料d): 等級なし
B種b):上塗り塗料: 1級,2級,3級
B種:中塗り塗料: 等級なし
注
a) 溶剤形塗料で,有機溶剤を主要な揮発成分とし,主剤,硬化剤などを混合し反応硬化させて用いる(多液形)塗料。
b) 水性塗料で,水を主要な揮発成分とし,主剤,硬化剤などを混合し反応硬化させて用いる(多液形)塗料と,1液で反応硬化させて用いる(1液形)塗料とがある。
c) 上塗り塗料の原料は,ふっ素系樹脂,シリコン系樹脂又はポリウレタン系樹脂とする。
d) 中塗り塗料は,表 4(塗り重ね塗料の組合せ)の組合せで用いる。
e) 等級については,促進耐候性及び屋外暴露耐候性の品質によって等級分けし,表 2(品質)による。
7.3 試験の一般条件
b) 試験板の作製
1) 試験板: 研磨によって調整した SPCC-SB の鋼板とする。
2) 試料の調整: 1液形の場合は,かくはん(攪拌)し,均一の液体とする。多液形の場合は,均一にした主剤,硬化剤などを,その製品の製造業者が指定する混合比率で混合し,更にかくはん(攪拌)によって均一にする。多液形塗料は,混合したときから A種は 5時間を過ぎたもの,B種は 3時間を過ぎたものは,試験に用いてはならない。
3) 試料の塗り方: 2)で調製した試料を使用直前によくかくはん(攪拌)し,直ちに試験板の片面にエアスプレー塗りで 1回塗る。塗付け量は,7日間乾燥後の乾燥膜厚を測定し,中塗りのときは 25μm~35μm,上塗りのときは 20μm~30μm になるようにする。
7.20 促進耐候性
a) 試験板: 7.3 b) 1) に規定する寸法 150mm×70mm×0.8mm 鋼板とする。
b) 試験片の作製: 7.16 b) と同じ方法によって,試料及び見本品それぞれ 2枚を作製する。作製した試験片は,1枚を原状試験片とし,残り 1枚を供試試験片とする。
c) 試験方法: JIS K 5600-7-7「塗料一般試験方法−第7部:塗膜の長期耐久性−第7節:促進耐候性及び促進耐光性(キセノンランプ法)」による。
1) 照射時間は,次のいずれかによる。
1.1) 7.21の試験結果が得られる前に行う場合には,1級では 2 000時間,2級では 1 000時間,3級では 500時間とする。
1.2) 7.21の試験結果が得られた後に行う場合には,1級では 500時間,2級及び 3級では 300時間とする。
2) 試験条件は, JIS K 5600-7-7の方法1,及び試験片ぬれサイクル Aによる。規定の照射時間を経過した後,取り出して室内に 1時間放置する。
d) 評価
1) :割れ・はがれ・膨れの有無は,上塗り塗料の促進耐候性を試験した試験片と見本品の促進耐候性を試験した試験片とを目視によって比較し,評価する。
2) :色の変化の程度を,上塗り塗料の促進耐候試験片と原状試験片とを目視によって比較し,促進耐候試験によって生じた色の変化を調べる。次に見本品について同様に比べ,更に,試料と見本品との変化の大小を比べる。
3) :上塗り塗料の促進耐候性試験を実施した試験板の,鏡面光沢度の測定を行い,光沢保持率を求める。
4) :上塗り塗料の促進耐候性試験を実施した試験板の,白亜化の等級を,JIS K 5600-8-6 「白亜化の等級」によって評価する。
e) 判定
判定は,評価結果に基づいて,塗膜に,割れ・はがれ・膨れがなく,色の変化の程度が見本品と比べて大きくなく,更に白亜化の等級が 1,又は 0 であって,かつ各等級によって光沢保持率が次の条件を満たしたとき,1 級は,“照射時間 2000 時間の促進耐候性試験に耐える。”,2 級は,“照射時間 1000 時間の促進耐候性試験に耐える。”,3 級は,“照射時間 500 時間の促進耐候性試験に耐える。”とする。
光沢保持率の条件
( )内は屋外暴露耐候性の結果が得られた後で試験する場合の照射時間と光沢保持率
1 級: 80%以上(500 時間,90%以上)
2 級: 80%以上(300 時間,90%以上)
3 級: 70%以上(300 時間,80%以上)
7.16 耐アルカリ性
b) 試験片の作製:試験板の片面に JIS K 5551 「構造物用さび止めペイント」に規定するさび止めペイントを下塗り塗料として,乾燥膜厚が 55μm~65μm になるように吹付け塗りで 1回塗装し,室内に 1日放置後,中塗り塗料を 7.3 b) 3) の方法で 1回塗り,更に1日放置後,上塗り塗料を7.3 b) 3)の方法で 1回塗り重ねる。室内に 7日間置いたものを試験片とする。
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