防食概論:塗装・塗料
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ここでは,プライマーの品質規格及び評価方法の解説に先立ち, 【プライマーとは】, 【ジンクリッチプライマーの概要】, 【エッチングプライマーの概要】 を紹介する。
塗料の評価(プライマー)
プライマーとは
JIS K 5500 「塗料用語」
プライマー(primer)塗装系の中で素地に初めに用いる塗料。プライマーは,素地の種類や塗装系の種類に応じた各種のものがある。
地肌塗り(primary coat, priming coat)
物体の素地に直接塗る工程。素地の過度の吸収及びさびの発生を防ぎ,素地に対する塗膜層の付着性を増加するなどのために行う。
JIS Z0103 「防せい防食用語」
プライマー(primer)塗料を塗り重ねて塗膜層を作るとき,耐食性と付着性とを増すために素地に直接塗る塗料。
プライマーとは,塗装系の中で素地に対して最初に用いる塗料,すなわち地肌塗りに用いる塗料である。一方,下塗り塗料は,素地に直接塗るものとは限らないので,プライマーと下塗り塗料は同一の物として扱うと誤解を生じる。
プライマーは,素地の種類や塗装系の目的に応じて採用され,その目的には,例えば,次の加工を行うまでの間,腐食の影響を避けるための一時的な防せい,次に塗り重ねる塗料と素地との付着性確保などがある。
JIS規格のプライマーには,例えば,JIS K 5535「ラッカー系下地塗料」,JIS K 5552「ジンクリッチプライマー」,JIS K 5583「塩化ビニル樹脂プライマー」(2009年廃止),JIS K 5591「油性系下地塗料」,JIS K 5633「エッチングプライマー」,JIS K 5646「カシュー樹脂下地塗料」(2009年廃止)などがある。
以下では,鉄鋼構造物などの防食塗装で利用される JIS K 5552「ジンクリッチプライマー」と,過去に使用実績が多かったJIS K 5633「エッチングプライマー」を紹介する。
【参考】
素地(substrate surface , substrate)
塗料が塗装される面。備考:素地は,未塗装表面及び既塗装表面の両者を含む。生地,下地も同義で用いられる。【JIS K5500「塗料用語」】
塗装系(coating system, paint system)
塗装される又は既に塗装されている塗料の塗膜層の総称。塗装の目的・効果を満足するように作った,地肌塗りから上塗りまでの塗り重ね塗膜の組合せを総称する用語。【JIS K5500「塗料用語」】
塗装工程(painting process, coating process)
塗装系を作るための工程。塗装の目的,塗ろうとする物体の素地,形状,数,用いる塗料の性質,塗装場所の条件などによって,素地の処理,塗料の塗り方,乾燥の方法,塗膜形成後の処理方法などを選定して,工程を設計する。
備考:ISO 用語規格では,”coating process”は,浸し塗り(※1),吹付け塗り(※2),ローラーコーティング,はけ塗り(※3)など,塗料を素地に塗装する過程を説明する一般用語としている。
(※1)浸し塗りとは,塗料を入れた槽の中に被塗物を浸した後引き上げる塗り方。(※2)吹付け塗りとは,スプレーガンで塗料を微粒化して吹き付けながら塗る方法。(※3)はけ塗りとは,はけ(ハケ)で塗料を塗る方法。【JIS K5500「塗料用語」】
ISO(International Organization for Sstandardization)
ISO(国際標準化機構)は,国際連合経済社会理事会に総合協議資格(general consultative status)を有する機関に認定された最初の組織の 1つで,各国の国家標準化団体で構成される非政府組織である。 ISOが定める国際規格を ISO規格という。
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ジンクリッチプライマーの概要
ジンクリッチプライマー(zinc-rich primer)
電気化学的防食作用を与えるのに十分な量の亜鉛末を配合した鉄鋼用のさび止め塗料。それによって,乾燥塗膜は導電性となり,金属亜鉛が素地より先に腐食して鉄部を保護する。塗膜形成要素として,アルキルシリケート系ビヒクルを用いた無機系ジンクリッチプライマーとエポキシ樹脂系ビヒクルを用いた有機系ジンクリッチプライマーとがある。【 JIS K5500「塗料用語」】すなわち,ジンクリッチプライマーは, 流電陽極方式(galvanic anode system)や犠牲防食と称される防食機能を与えるのに十分な量の亜鉛粉末を配合した鉄鋼用のさび止めペイントの一種である。
さび止めペイント(anticorrosive paint, rust inhibiting paint, anti-corosive composition, rust resisting paint)
鉄鋼のさび止め塗装に用いる塗料。さび止め顔料と塗膜形成要素との相互作用で,さび止め効果を現すものと,塗膜形成要素自体のさび止め効果によるものとがある。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
金属素地を腐食から守るために用いる塗料。さび止め顔料と塗膜形成要素との相互作用で,さび止め効果を表すものと,塗膜形成要素自体のさび止め効果によるものとがある。前者には,用いるさび止め顔料の名称を付けて呼ぶのが通例である。【 JIS K5500「塗料用語」】
JIS K 5552 2010 「ジンクリッチプライマー」
鉛化合物,クロム化合物を含むさび止めペイントの JIS規格廃止に整合するため,2010年に,2002版の試験方法に関して一部改訂(追補)されている。本規格には,亜鉛末及びアルキルシリケート又はエポキシ樹脂及び硬化剤,顔料及び溶剤を主な原料としたもので,次の 2種が規定されている。
1種 無機ジンクリッチプライマー: アルキルシリケートをビヒクルとした,1液 1粉末形のもの。
2種 有機ジンクリッチプライマー: エポキシ樹脂をビヒクルとした,2液 1粉末形,又は 2液形(亜鉛末を含む液と硬化剤)のもの。
一般的な鋼橋の製作において,鋼材メーカーで実施される鋼板のブラスト処理(原板ブラストという)に続き直ちにプライマー(ショッププライマー)が塗装される。ショッププライマーを塗装した鋼板はショップ鋼板と呼ばれる。ジンクリッチプライマーは,乾燥膜厚 15~20μm となるように塗装される。
この塗装の目的は,その後に実施される橋梁製作メーカーでの鋼橋組立作業中の一次防せい(temporary rust prevention)である。なお,橋梁製作メーカーで実施する本塗装に先立って行われる橋梁ブロックのブラスト処理は,製品ブラストといわれる。
【参考】
アルキルシリケート(alkyl silicate)
金属ケイ素とアルコールの反応で合成されるアルコキシシランの一種で,水と容易に加水分解,縮重合する。例えば,エチルシリケート{Si(OC2H5)4 ;IUPAC名 テトラエトキシシラン(Tetraethoxysilane)は,大気中の水蒸気により縮重合する。
エポキシ樹脂(epoxy resin)
分子中にエポキシ基を 2個以上含む化合物を重合して得た樹脂状物質。エピクロヒドリンとビスフェノールとを重合して作ったものなどがある。【JIS K5500「塗料用語」】
ショッププライマ―(shop primer)
鋼材をブラスト処理し,本塗装に先立って,ブラスト直後に塗装する塗料。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
一般的な鋼橋の製作では,鋼板のブラスト処理(原板ブラストという)とショッププライマー塗装は,鋼材メーカーで実施される。ショッププライマーを塗装した鋼板はショップ鋼板と呼ばれる。この塗装の目的は,その後に実施される橋梁製作メーカーでの塗装系の本塗装までの間の一次防せいである。なお,橋梁製作メーカーで実施する本塗装に先立って行われる橋梁ブロックのブラスト処理は,製品ブラストといわれる。
一次防せい(錆)(temporary rust prevention)
作業工程,保管,輸送中などにおける短期間の防せい。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
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エッチングプライマーの概要
エッチングプライマー(etching primer, pretreatment primer, wash praimer, etch rimer)
成分の一部が素地の金属と反応して化学的生成物を作り,素地に対する塗膜の付着性を増すことを目的としたプライマー。【 JIS Z0103「防せい防食用語」】金属塗装の際の素地処理に用いるプライマーの一つ。成分の一部が生地の金属に反応して化学的生成物を作り,生地に対する塗膜の付着性を増すようにした,金属素地処理用の塗料。主に,りん酸・クロム酸を含む。通常は,全成分を二つに分けて作って一組として供給し,使用の直前に混合する。【 JIS K5500「塗料用語」】
JIS K5633「エッチングプライマー」
金属塗装の際に,金属素地に対する塗装系の付着性を増加する目的で用いるものと,鋼板の素地調整後,本格塗装を行うまでの間,一時的に防せい(錆)力を付与する目的で用いるものとがあり,生地を清浄にした後,直ちに塗り付け,その後にさび止め塗料,上塗り塗料などを塗り重ねて塗装系を構成する金属表面処理用の地肌塗り塗料である。素地の金属と反応するためのりん酸,又はりん酸とクロム酸塩顔料とを含み,ビニルブチラール樹脂などのアルコール溶液を主なビヒクルとする液状の塗料で, 成分を分けて主剤と添加剤との 2液とし,使用の直前に混合するように作ったものである。
エッチングプライマーは,素地の金属と反応するためのりん酸,又はりん酸とクロム酸塩顔料とを含み,ビニルブチラール樹脂などを主なビヒクルとするアルコール溶液の塗料である。
荷姿は,成分を分けて主剤と添加剤との 2液とし,使用の直前に混合するのが一般的である。
主剤には,ビニルブチラール樹脂( PVB :ポリビニルブチラール)のアルコール溶液にジンククロメート(亜鉛 Zn とクロム酸イオン CrO42- を主成分とする化合物)などを分散した溶液を用い,添加剤にはりん酸水溶液が用いられる。
主剤と添加剤を混合することで,ジンククロメートとりん酸が反応し,生成したりん酸クロムの錯塩が PVBの水酸基と反応し三次元の網目構造を取り強固な被膜になる。
さらに,りん酸塩が金属表面に結合(吸着)し,被膜との結合で有効な防せい被膜(図 参照)を形成すると考えられている。
JIS K5633「エッチングプライマー」には,
金属生地に対する塗装系の付着性増加を目的とし,塗り付けた後,数日以内に次の塗料を塗り重ねるように作った 1種(短暴型エッチングプライマー)と,
鋼板の素地調整後,本格塗装を行うまでの間,一時的に防せい力を付与する目的で,塗り付けた後,数か月以内に次の塗料を塗り重ねるように作った 2種(長暴形エッチングプライマー)とがある。
なお,近年のクロム酸塩(六価クロム)の有害性に対する対策として,クロム酸塩の代替材料として,ホウ酸塩などを用いたクロムフリーのエッチングプライマーが開発されている。
ビニルブチラール樹脂(polyvinyl butyral resin)
ポリビニルブチラール樹脂 PVB は,ブチラール樹脂ともいうポリビニルアセタールの一種で,ポリビニルアルコールをブタノール(ブチルアルコール)でアセタール化(この場合ブチラール化ともいう)したもの。
PVB樹脂は透明性を有する熱可塑性樹脂で,ガラス,金属,セラミクスなどの基材に接着する。また,有機溶剤への溶解性,他樹脂との相溶性に優れ,安全ガラスの中間膜,セラミックス用バインダー,塗料・インク用の展色材,分散剤などに広く用いられている。
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