防食概論:塗装・塗料
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ここでは,塗膜及び素地金属への塩水の作用に関し,【耐塩水性とは】, 【JIS 製品規格での扱い】 で紹介する。
塗膜の評価(化学的性質;耐塩水性)
耐塩水性
JIS K5500「塗料用語」
耐塩水性(gasoline resistance)食塩水の作用に対して変化しにくい塗膜の性質。
塗料規格と耐塩水性
防食塗装に用いられる代表的な塗料で,耐塩水性を品質として規定している塗料は,JIS K5633「エッチングプライマー」の長暴形 2種,JIS K 5516「合成樹脂調合ペイント」 の大型鉄鋼構造物に用いられる 2種上塗り用である。一方,防食塗装に用いられる塗料の中で,JIS K5633「エッチングプライマー」の短暴形 1種,JIS K5552「ジンクリッチプライマー」,JIS K5674「鉛・クロムフリー鉛さび止めペイント」,JIS K5553「厚膜形ジンクリッチペイント」,及び JIS K 5551「構造物用さび止めペイント」,JIS K 5516「合成樹脂調合ペイント」 の建築物や鉄鋼構造物に用いられる 1種と大型鉄鋼構造物に用いられる 2種中塗り用,及びJIS K 5659「鋼構造物用耐候性塗料」では,耐塩水性は規定されていない。
塗膜による防食原理は,塗膜による下地の金属と環境との物理的な遮断(環境遮断)に加えて,下塗り塗膜に用いられるさび止め顔料の化学的・電気化学的作用による。
塗膜による防せい性の維持は,原則的には,塗膜耐久性として認識される使用環境と塗膜との相互作用による塗膜の変質や劣化を原因とする塗膜の環境遮断性能の低下程度で議論される。
しかし,この性能は,塗装により,塗膜が設計通りの均質な膜として得られた場合であり,実用の塗装では,ライニング膜などで重要検査項目として挙げられるホリデー(ピンホールなど)の発生が避けられない。このような素地に達する塗膜欠陥を多く有すると,塗装後の早期にさび(錆)の発生に至る。
耐塩水性は,通常の塗装作業で素地に達する塗膜欠陥の発生し易さを評価できる。なお。上記の耐塩水性が規定されていない塗料は,防食原理が異なるジンクリッチ系塗料,複数層で厚膜形の塗装仕様で用いられるため塗装系塗膜として素地に達する塗膜欠陥の発生が考え難いエポキシ樹脂系塗料である。
【参考】
防食(corrosion prevention, corrosion protection)
金属が腐食するのを防止すること。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
防せい(錆)(rust prevention)
金属に錆が発生するのを防止すること。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
さび止め顔料(rust preventive pigment, rust inhibitive pigment)
一般には防せい(錆)顔料ともいわれる。金属にさびが発生するのを防止する機能を持つ塗料用顔料。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
金属にさびが発生するのを防止する機能をもつ顔料。備考:単なる遮断機能の作用ではなく,化学的及び/又は電気化学的に金属の腐食を制御又は防止する機能をもつ顔料をいう。ほとんど又は全くさび止め効果のないべんがらに対して,鉛丹及びクロム酸亜鉛は,さび止め顔料の例である(BS)。【JIS K5500「塗料用語」】
ホリデー(holiday)
塗膜やライニング膜などの被膜に存在する素地に達する文字通りのピンホール(pinhole)の他に,き裂,薄膜部,空洞(void)などの微小欠陥の総称として用いられる。なお,日本では,ホリデーの意味合いでピンホールと称する場合も多い。
ピンホール(pinhole, pore)
被膜を貫いて,素地や下地まで達している微細孔。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
材料の表面の極めて小さな直径の穴。注;フィルムの場合には,その穴は通常全厚さを貫通している。【JIS K 6900[プラスチック用語」】
塗膜に針で作ったような小さな孔がある欠陥。肉眼で見分けられる程度の小さな孔をいう。【JIS K5500「塗料用語」】
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JIS 製品規格での扱い
ここでは,JIS K5633「エッチングプライマー」の長暴形 2種,JIS K 5516「合成樹脂調合ペイント」 の大型鉄鋼構造物に用いられる 2種上塗り用の品質項目“耐塩水性”を紹介する。
エッチングプライマー 2種
適用範囲この規格は,エッチングプライマーについて規定する。
備考: エッチングプライマーは,金属塗装の際に,金属素地に対する塗装系の付着性を増加する目的で用いるものと,鋼板の素地調整後,本格塗装を行うまでの間,一時的に防せい(錆)力を付与する目的で用いるものとがあり,生地を清浄にした後,直ちに塗り付け,その後にさび止め 塗料,上塗り塗料などを塗り重ねて塗装系を構成する金属表面処理用の地肌塗り塗料である。
エッチングプライマーは,素地の金属と反応するためのりん酸,又はりん酸とクロム酸塩顔料とを含み,ビニルブチラール樹脂などのアルコール溶液を主なビヒクルとする液状の塗料で,成分を分けて主剤と添加剤との 2液とし,使用の直前に混合するように作ったものである。
種類
a) 1種: 金属生地に対する塗装系の付着性を増加する目的で,塗り付けた後,数日以内に次の塗料を塗り重ねるように作ったもの。
b) 2種: 鋼板の素地調整後,本格塗装を行うまでの間,一時的に防せい力を付与する目的で,塗り付けた後,数か月以内に次の塗料を塗り重ねるように作ったもの。
耐塩水性
試験片の作製
a) : 試験板に試料を 7.3.2(はけ塗り)によって 1回塗る。24 時間後に 2回目を塗り重ね,96時間おいたものを試験片とする
b) : 試験片の処理は,周辺を融解したパラフィン に浸して引き上げ,塗り包んでおく。
操作
操作は,JIS K 5600-6-1 「耐液体性(一般的方法)」の方法 1(浸せき法)手順 A (単一の液相を使用)とし,次による。
a) : 容器を用意し,約 150mm の深さまで塩化ナトリウム溶液 (30g/L) を入れて,温度を 23±1℃に保つ。
b) : 塩化ナトリウム溶液の中に,試験片を糸でつるして約 120mm の深さまで浸し,24時間保つ。
a) : 24 時間浸せき後,試験片を取り出し流水で洗い,立てかけて一般状態で 24時間乾燥させた後,目視によって塗膜を調べる。
判定
試験片 2枚の塗膜にさび・割れ・はがれを認めないときは,“塩化ナトリウム溶液に浸したとき,異常がない”とする。
合成樹脂調合ペイント 2種上塗り用
適用範囲この規格は,建築物(鉄部,木部),及び鉄鋼構造物の中塗り,又は上塗りに用いる合成樹脂調合ペイントについて規定する。
注記:合成樹脂調合ペイントは,着色顔料・体質顔料などを,主に長油性フタル酸樹脂ワニスで練り合わせて作った液状・自然乾燥性の塗料である。
種類
a) 合成樹脂調合ペイント 1 種 主に,建築物,及び鉄鋼構造物の中塗り,及び上塗りとして,下塗り塗膜の上に数日以内に塗り重ねる場合に用いる。
b) 合成樹脂調合ペイント 2 種中塗り用 主に,大形鉄鋼構造物の中塗りに用いる。
c) 合成樹脂調合ペイント 2 種上塗り用 主に,大形鉄鋼構造物の上塗りに用いる。
耐塩水性
試験板
試験板は,鋼板(150mm×50mm×0.8mm)とする。
試験片
試験板 2 枚の両面に,JIS K 5622 「鉛丹さび止めペイント」の 2 種を塗付け量 100cm2当たり 0.3±0.05 mlで,はけ塗りで 1 回塗る。
24 時間放置後,試験板の片面に中塗り用塗料をはけ塗りで 1 回塗り,24 時間後,更に上塗り用塗料をはけ塗りによって 1 回塗り重ねる。
24 時間後,試験片の周辺約 5mmと裏面を下塗りに用いたさび止めペイントで塗り包み, 6 日間置いて試験片とする。
なお,下塗りに用いるさび止めペイントは,JIS K 5622 「鉛丹さび止めペイント」の2種の代わりに,JIS K 5623 「亜酸化鉛さび止めペイント」の 2 種,JIS K 5624 「塩基性クロム酸鉛さび止めペイント」の 2 種,JIS K 5625 「シアナミド鉛さび止めペイント」の 2 種のいずれかを,製造業者の指定によって用いてもよい。この場合は,塗付け量は 100cm2当たり 0.4±0.05mlとする。
操作
操作は, JIS K 5600-6-1 「耐液体性(一般的方法)」の方法 1(浸せき法)手順 A (単一の液相を使用)によるほか,次による。
a) 容器を用意し,約 150mm の深さまで塩化ナトリウム溶液 (30g/L)を入れて,温度を 23±2℃に保つ。
b) 塩化ナトリウム溶液の中に試験片を糸でつるして約 120mmの深さまで浸し,48 時間保つ。
c) 48 時間浸せきした後,試験片を取り出し,流水で洗い,立て掛けて一般状態で 2 時間放置した後,目視によって塗膜を調べる。ただし,試験片の周辺及び液面から幅約 10mm以内の塗膜は,観察の対象外とする。
判定
試験片 2 枚の塗膜に,膨れ,さび,割れ及びはがれを認めないときは,“塩化ナトリウム溶液に浸しても異常がない。”とする。
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