防食概論塗装・塗料

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 ここでは,塗膜と環境との相互作用の評価法として, 【耐候性(屋外暴露耐候性)】, 【単独塗膜の耐候試験例】, 【複合塗膜(塗装系)の耐候試験例】 に項目を分けて紹介する。

 塗膜の評価(塗膜耐久性;耐候性,屋外暴露)

 耐候性(屋外暴露耐候性)

 JIS K5500「塗料用語」

 耐候性(weathering, weathering resistance)
 屋外で,日光,風雨,露霜,寒暖,乾湿などの自然の作用に抵抗して変化しにくい塗膜の性質。JIS K 5600-7-6「屋外暴露耐候性」参照
 耐候試験(weathering test)
 塗膜の耐候性を調べる試験。JIS K 5600-7-6「屋外暴露耐候性」参照。
 耐候試験台(exposure rack)
 塗膜の耐候性を試験するために,塗装試験片を取り付けてさらす台。塗膜が太陽光にできるだけ直面することが望ましい。自動的に直面するようにしたものもある。固定式のものは,台が正南向きで,塗面が上向きに傾いている。JIS K 5600-7-6「屋外暴露耐候性」では, 水平面との傾きが 45度と定めている。

 JIS Z0103「防せい防食用語」

 屋外暴露試験(outdoor exposure test)
 試験片を,一定期間屋外にさらして,自然環境での腐食,さび,劣化などの状態を調べる試験。大気暴露試験,耐候性試験ともいう。
 
 開放及び遮へい大気環境下で行う暴露試験(耐候試験,屋外暴露試験)は,「防せい防食用語」や「塗料用語」の定義にはないが,一般的には大気暴露試験(atmospheric corrosion test, atmospheric exposure test)といわれている。
 耐候性屋外暴露耐候性の評価に用いられる試験方法には,試験する環境の違いに応じて複数定義されている。次には, JIS Z 2381「大気暴露試験方法通則」に規定されている暴露試験方法の種類を紹介する。
 直接暴露試験方法(direct outdoor exposure test, direct exposure test)
 日照,雨,雪,風などの自然状態における大気環境下で試料を直接暴露する試験方法。
 太陽追跡集光暴露試験方法(intensified weathering by daylight using Fresnel mirrors)
 太陽放射光の光軸方向を追跡し,フレネル反射鏡を用いて太陽放射光を反射集光する部位に設置した試料保持枠に試料を取り付けて暴露する試験方法。
 ブラックボックス暴露試験方法(black box exposure test)
 黒色処理した金属製試験箱の上面に試料を取り付けた状態で暴露する試験方法。
 アンダーグラス暴露試験方法(exposure to daylight under glass, weathering using glass-filtered daylight)
 暴露試験方法の一種で,板ガラスで覆った試験箱内に試料を取り付け,板ガラスを透過した太陽放射光に暴露する試験方法。
 遮へい(蔽)暴露試験方法(sheltered exposure test, sheltered atmospheric corrosion tests)
 遮へい構造物の下,中又は屋内に試料を設置して,日照,雨,雪,風などの直接の影響を避けた状態で暴露する試験方法。
 
 塗膜の耐候性評価は,選定した環境に暴露し,試験片表面の変化,例えば,さび(表面露出のさび,人工傷部のさび,表面下のさびなど),ふくれ,塗膜割れ,色・光沢の変化,白亜化などを観察して行われる。
 耐候性評価には,選定した暴露地の気象因子環境汚染因子,試験片の形状,暴露開始時期など多くの要因が影響する。
 このため,耐候性の評価では,規定された暴露条件下で,暴露期間中の気象因子が把握されていない限り,異なる暴露地,暴露期間の試験結果を相互比較できないなどの課題もある。
 
 そこで,暴露試験に関しては,塗料試験片の作製や暴露方法について規定するJIS K 5600-7-6屋外暴露耐候性」のみならず,JIS Z 2381 「大気暴露試験方法通則」JIS Z 2382 「大気環境の腐食性を評価するための環境汚染因子の測定」などに従い適切に実施しなければならない。
 すなわち,屋外暴露耐候性とは,試験片を単に屋外に曝して置くことを意味していないことに留意しなければならない。
 
 【参考】
 大気暴露試験(atmospheric corrosion test, atmospheric exposure test)
 開放,及び遮へい大気環境下で材料及び製品を暴露して,それらの化学的性質,物理的性質,及び性能の変化を調査する試験。【 JIS Z2381「大気暴露試験方法通則」】
 直接暴露試験(direct outdoor exposure test, direct exposure test)
 日照,雨,雪,風などの自然状態における大気環境下で試料を直接暴露する試験方法。【JIS Z2381「大気暴露試験方法通則」】
 実地試験(plant test, service test, field test)
 材料の使用環境中に試験片を設置するか,装置の部品そのもの,部材などを試験片とする腐食試験。【JIS G0202「鉄鋼用語(試験)」】

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 単独塗膜の耐候試験例

 防食塗装に用いられる全ての JIS塗料製品規格では,その品質に耐候性(防錆性,屋外暴露耐候性)が規定されているが,当該塗料の塗膜単体で試験する塗料と,下塗りから上塗りまでの塗料の組み合わせ,すなわち塗装系の複合塗膜として試験する塗料に分けられる。
 塗料の塗膜単体で試験する塗料には,プライマーとして用いられるJIS K 5633 「エッチングプライマー」,及びJIS K5552 「ジンクリッチプライマー」下塗り塗料として用いられるJIS K 5553「厚膜形ジンクリッチペイント」がある。

 JIS K 5633 「エッチングプライマー」

 試験片の作製
 試験板
 寸法 300mm×150mm×1mm の研磨によって調整した鋼板。
 試験片の作製
 試験板の表面にはけ塗りによって,試料を 1回塗りする。試験片の裏面と周辺とは,試料と同じ塗料を用い,1 時間ごとに 2回以上塗り包んでおき,7~14日おいたものを試験片とする。試験片の数は,試料と見本品について,それぞれ 3枚とする。 ただし,試験片ごとの試験成績にばらつきが少ないことが分かっているときは,耐候試験片は 1枚にして差し支えない。
 試験条件及び観察
  JIS K 5600-7-6 「第6節:屋外暴露耐候性」によるほか次による。
 試験の開始は,毎年 4月又は 10月とする。 試験の期間は,3か月とする。
 評価項目及び評価方法
 さびは JIS K 5600-8-3 「さびの等級」によって,膨れは JIS K 5600-8-2 「膨れの等級」によって,はがれは JIS K 5600-8-5 「はがれの等級」によって評価し,同時にそれぞれ試料と見本品の耐候試験片を目視によって直接比較して調べる。
  評価項目は,さび・膨れ・はがれとする。耐候試験片の表面に,外部からの物質の付着,又は損きずによって,よごれ・変色・さびなどの欠陥が認められたときは,その状態について記録して参考にする。
 判定
 3か月間暴露の試験片について,見本品と比べて,さび・膨れ・はがれの程度が大きくないとき,屋外暴露耐候性の規定に適合するものとする。

 JIS K5552 「ジンクリッチプライマー」

 試験片の作製
 試験板
 寸法 300mm×150mm×3.2mm のブラストで処理した鋼板。ブラストの条件は,除せい度 ISO 8501-1 Sa2・1/2以上,研掃材グリット,表面粗さ 25μmRZJISを標準とする。
 試験片の作製
 片面に乾燥塗膜の厚さが 15μm~20μm になるように 1回吹付け塗りし,7日間置いて試験片とする。この場合,試験片の周辺及び裏面は試料と同じ塗料を用い,1時間ごとに 2回以上塗って試験に影響がないように塗り包んでおく。
 試験条件及び観察
  JIS K 5600-7-6 「第6節:屋外暴露耐候性」によるほか次による。
 試験の開始時期は,毎年 4月とする。
 試験の期間は,6か月とする。
 観察の時期は,試験開始から 6か月とする。
 評価項目及び評価方法
 <膨れの等級は JIS K 5600-8-2 「膨れの等級」によって,さびは JIS K 5600-8-3 「さびの等級」によって,割れは JIS K 5600-8-4 「割れの等級」によって,はがれは JIS K 5600-8-5 「はがれの等級」によって評価し,同時にそれぞれ試料と見本品の耐候試験片を目視によって直接比較して調べる。
 判定
 3枚中 2枚の試験片について,さび,割れ,はがれ及び膨れがあってはならない。ただし,亜鉛の腐食生成物は判定の対象外とする。

 JIS K 5553 「厚膜形ジンクリッチペイント」

 試験片の作製
 試験板
 寸法 300mm×150mm×3.2mm のブラストで処理した鋼板。ブラストの条件は,除せい度 ISO 8501-1 Sa2・1/2以上,研掃材グリット,表面粗さ 25μmRZJISを標準とする。
 試験片の作製
 片面に乾燥塗膜の厚さが 75±10μm になるように 1回吹付け塗り(エアスプレー塗り)し,7日間置いて試験片とする。この場合,試験片の周辺及び裏面は試料と同じ塗料を用い,1時間ごとに 2回以上塗って試験に影響がないように塗り包んでおく。なお,試験片の枚数は 2枚とし,そのうち 1枚は原状試験片とする。
 試験条件及び観察
  JIS K 5600-7-6 「第6節:屋外暴露耐候性」によるほか次による。
 試験の開始時期は,毎年 4月又は 10月とする。
 試験の期間は,2年とする。
 観察の時期は,試験開始から 12か月後及び 24か月後とする。
 評価項目及び評価方法
 膨れは JIS K 5600-8-2 「膨れの等級」によって,さびは JIS K 5600-8-3 「さびの等級」によって,割れは JIS K 5600-8-4 「割れの等級」によって,はがれは JIS K 5600-8-5 「はがれの等級」によって評価する。
 判定
 試料耐候試験片について,原状試験片と目視によって比べ,2年間の試験でさび,割れ,はがれ及び膨れがあってはならない。ただし,亜鉛の腐食生成物は判定の対象外とする。

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 複合塗膜(塗装系)の耐候試験例

 防食塗装に用いられる全ての JIS塗料製品規格では,その品質に耐候性(防錆性,屋外暴露耐候性)が規定されているが,当該塗料の塗膜単体で試験する塗料と,下塗りから上塗りまでの塗料の組み合わせ,すなわち塗装系の複合塗膜として試験する塗料に分けられる。
 塗装系の複合塗膜,すなわち当該塗料を含めて,実用が想定される塗料の組み合わせで得られた塗膜として試験する塗料には,下塗り塗料として用いられるJIS K 5674「鉛・クロムフリーさび止めペイント」,及び JIS K 5551「構造物用さび止めペイント」中・上塗り塗料として用いられるJIS K 5516 「合成樹脂調合ペイント」,及び JIS K 5659 「鋼構造物用耐候性塗料」がある。

 下塗りJIS K 5674「鉛・クロムフリーさび止めペイント」
 中・上塗りJIS K 5516「合成樹脂調合ペイント」

 試験片の作製
 試験板
 寸法 300mm×150mm×1mm の研磨によって調整した鋼板。
 試験片の作製
 試料の塗り方
 JIS K 5674 吹付け塗り,JIS K 5516 はけ塗り
 塗装仕様
 下塗り JIS K 5674を吹付け塗り 1回で乾燥膜厚 30μm~40μm になるように,又は,はけ塗り 2回で乾燥膜厚 30μm~40μm になるように塗り付ける。
 中塗り 下塗り塗装後,JIS K 5516 の 1種及び 2種中塗り用を乾燥膜厚 20μm~30μm になるように塗り重ね,標準状態で 24時間乾燥させる。
 上塗り 中塗り塗装後,JIS K 5516 の 1種には更に 1種を,2種中塗り用には,2種上塗り用を塗り重ね,一般状態で 7~14日乾燥したものを,試験片とする。
 試験条件及び観察
  JIS K 5600-7-6 「屋外暴露耐候性」によるほか次による。
 1)試験の開始時期は,4月又は 10月とする。
 2) 試験片の暴露の角度は,水平に対し 30度とする。
 3) 試験の期間は,JIS K 5516 の 1種では 12か月,JIS K 5516 の 2種及び JIS K 5674では 24か月とする。
 4) 試験・観察の時期は,開始後 12か月及び 24か月とする。
 評価項目及び評価方法
 JIS K 5674「鉛・クロムフリーさび止めペイント」
 屋外暴露を終了した試験片の塗面について,さびの有無を観察し,更に試験片を適切な溶剤(例えば,キシレンなど)に浸して塗膜を全部剝がし,試験板素地のさびの発生状態を JIS K 5600-8-3 「さびの等級」によって評価する。同時に同様に処理した見本品試験片と試料試験片とを比較する。
 JIS K 5516「合成樹脂調合ペイント」
 白亜化の等級は JIS K 5600-8-6「白亜化の等級」によって,膨れは JIS K 5600-8-2「膨れの等級」によって,剝がれは JIS K 5600-8-5「はがれの等級」によって,及び割れは JIS K 5600-8-4「割れの等級」によってそれぞれ評価し,同時に屋外暴露耐候試験片と見本品屋外暴露耐候試験片とを目視によって直接比較して調べる。
 また,色及びつやの変化の程度は,屋外暴露耐候試験片と原状試験片とについて,及び見本品屋外暴露耐候試験片と見本品原状試験片とについて,目視によって観察し,それぞれの変化の差を直接比絞して調べる。
 判定
 JIS K 5674「鉛・クロムフリーさび止めペイント」防せい(錆)性
 試験の期間が 24か月に達したとき,3枚のうち 2枚の試験片の塗面にさびがなく,塗膜を剝がした場合,さびの程度が見本品試験片に比べて大きくないとき,“防せい(錆)性をもつ”とする。
 JIS K 5516「合成樹脂調合ペイント」屋外暴露耐候性
 1種では 1年間の試験で,2種では 2年間の試験で,膨れ,剝がれ及び割れがなく,色及びつやの変化の程度が見本品試験片の変化の程度に比べて大きくなく,また,白及び淡彩色では,白亜化の等級が 4,3,2,1又は 0のとき,“1種は 1年間の,2種は 2年間の屋外暴露耐候性試験に耐える”とする。

 下塗りJIS K 5551「構造物用さび止めペイント」
 中・上塗りJIS K 5659 「鋼構造物用耐候性塗料」

 試験片の作製
 試験板
 研磨によって調整した大きさが 300mm×150mm×1mmの鋼板(SPCC-SB)。
 試験片の作製
 試料の塗り方:吹付け塗り(エアスプレー塗り)
 塗装仕様
 JIS K 5551「構造物用さび止めペイント」
 A種については,24時間間隔をおいて 2回塗り,24時間おいてから,JIS K5659「鋼構造物用耐候性塗料」に規定する A種中塗り塗料を 1回塗る。
 B種及び C種については,1回塗り,24時間おいてから,JIS K5659に規定する A種中塗り塗料を 1回塗る。
 D 種については,24時間間隔をおいて 2回塗り,24時間おいてから,JIS K5659 に規定する B種中塗り塗料を 1回塗る。
 E種については,1回塗り,24時間おいてから,JIS K5659に規定する B種中塗り塗料を 1回塗る。
 中塗りの乾燥膜厚は,25μm~35μmとする。塗装後,A種,B種,C種,D種及び E種は,7日間おいて試験片とする。
 JIS K 5659 「鋼構造物用耐候性塗料」
 試験板の片面に JIS K 5551 「構造物用さび止めペイント」に規定するさび止めペイント B種,C種及び E種のいずれかを,乾燥膜厚が 55μm~65μm になるように 1回塗装
 室内に 1日放置後,中塗り塗料を乾燥膜厚が 55μm~65μm になるように 1回塗装
 更に1日放置後,上塗り塗料を乾燥膜厚が 20μm~30μm になるように 1回塗り重ねる。
 室内に 7日間置いたものを試験片とする。
 試験条件及び観察
  JIS K 5600-7-6 「屋外暴露耐候性」によるほか次による。
 試験期間は,24か月,試験開始時期は,4月又は 10月とする。
 評価項目及び評価方法
 JIS K 5551「構造物用さび止めペイント」
 試料の屋外暴露耐候性試験片と原状試験片とで,さび,膨れ,割れ及び剝がれを目視によって比較観察し差を評価する。さらに,屋外暴露耐候性試験片と見本品の屋外暴露耐候性試験片とを比べて,さび,膨れ,割れ及び剝がれを目視視によって観察し差を評価する。ただし,試験片の周辺及び端から 10mm 以内の塗膜は観察の対象外とする。
 JIS K 5659 「鋼構造物用耐候性塗料」
 白亜化の等級は JIS K 5600-8-6「白亜化の等級」によって,膨れは JIS K 5600-8-2「膨れの等級」によって,剝がれは JIS K 5600-8-5「はがれの等級」によって,及び割れは JIS K 5600-8-4「割れの等級」によって評価する。
 また,色及びつやの変化の程度は,屋外暴露耐候試験片と原状試験片とについて,及び見本品屋外暴露耐候試験片と見本品原状試験片とについて,目視によって観察し,それぞれの変化の差を直接比絞して調べる。光沢保持率は,屋外暴露耐候性試験片及び原状試験片について,鏡面光沢度を測定し,光沢保持率を算出する。
 判定
 JIS K 5551「構造物用さび止めペイント」
 試験開始後 24か月たったときの評価によって,屋外暴露耐候性試験片と見本本品及び原状試験片とで,さび,膨れ,割れ及び剝がれに差がないときは,“さび,膨れ,割れ及び剝がれがない”とする。
 JIS K 5659 「鋼構造物用耐候性塗料」
 試験開始後 24か月たったときの評価によって,塗膜に,膨れ,剝がれ及び割れがなく,色の変化の程度は,見本品と比べて大きくなく,かつ,各等級によって白亜化の等級及び光沢保持率が,品質表に示した各等級の条件を満たしたとき“屋外暴露耐候性に耐える”とする。

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