防食概論塗装・塗料

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 ここでは,既設構造物の塗替え塗装で実施される塗膜劣化箇所の素地調整に関連し,【素地調整(劣化塗膜の除去)】,  【活膜を残し,劣化塗膜を除去する方法】 に分けて紹介する。

 塗装概論(塗替え塗装管理)

 素地調整(劣化塗膜の除去)

 塗替え塗装で採用される素地調整法

 既設鋼構造物などの塗替え塗装は,屋外の架設現場での作業となるため,施工に関わる制約が多く,粉じん対策や騒音対策が必要不可欠のブラスト法(abrasive blast-cleaning, blasting)を用いた素地調整の採用が困難である。このため,塗替え塗装の素地調整(surface preparation)には,多くの場合に手工具(hand tool)や動力工具(power tool)を用いた方法が採用される。

 活膜を残した素地調整

 一般的な塗替え塗装では,既存塗膜ともいわれる旧塗膜(old coating film)のうち素地に十分に密着した状態の活膜を残して,さび劣化塗膜を除去する素地調整が採用される。
 一般に,構造物架設後 50年程度まで,概ねで 3度目の塗替え塗装までは,既存塗膜の老化(aging)が進んでいないため,全面の旧塗膜を除去する塗膜更新より活膜を残す塗替え塗装が,その後の塗替え塗装周期を延伸できると考えられている。
 なお,活膜表層の劣化物,汚染物を残したまま塗り重ねた場合には,塗膜の付着阻害・はがれの原因となる。そこで,活膜部に対しては,ディスクサンダー,網状研磨具,サンドペーパーなどを用いて,表層を薄く削り取り,適度な凹凸を付与する素地調整(面粗しという)が必要である。

 劣化塗膜とは

 塗膜の変状が目視で確認できる塗膜割れ(crack, craking)塗膜はがれ(peeling, flaking, scaling)塗膜膨れ(blister)に至った旧塗膜に加えて,早晩に塗膜はがれに至るほど素地金属との付着性が低下している旧塗膜,塗膜割れに至ると想定されるほど変質(脆化)している旧塗膜など,いわゆる老化が進んだ塗膜を指す。
 
 目視で確認できる塗膜の膨れ,はがれ,割れは明白に判定できるが,その直前まで老化が進んだ塗膜を目視観察で評価するのは困難である。この種の塗膜は密着性の低下,脆化(brittleness, embrittlement)が進んでいる。【素地調整】で解説した「活膜の判定」では,目視で確認できない塗膜劣化が進んでいるかを見極める手法として用いられてきた。
 
 劣化塗膜を除去した個所の鋼素地について
 基本的には,腐食に至っていない場合が多いので,前項の除せいで紹介した除せい度(preparation grade)の概念は適用しない。しかしながら,塗替え塗膜と露出した鋼表面との付着性確保のため,鋼素地が黒皮鋼板(1960年代以前の構造物)の場合には,黒皮皮膜の面粗し目的の処理が望ましい。
 
 【参考】
 はがれ(塗膜の)(peeling, flaking, scaling)
 付着性が失われてある広さの膜が自然に素地から分離する現象。一般に,割れ,膨れが生じた後に,付着性が失われた結果,塗装系の 1層,又はそれ以上の塗膜が下層塗膜から,又は塗装系全体が素地からはがれる。はがれは,その形状,程度及び深さによって評価する。
 備考:“peeling”はリボン,又はシート状の大きなはがれ,”flaking”はりん片状の小さなはがれ,”scaling”はスケール状の大きなはがれをいうこともある。なお,”scaling”ははがれの他にさび落としの意味にも用いられる。【JIS K5500「塗料用語」】
 割れ(塗膜の)(crack, craking)
 老化の結果,塗膜に現れる部分的な裂け目。ISOでは,割れの方向性の有無,発生密度,割れの幅と深さによって評価する。また,割れの形態によっても区分する。
 備考:ヘアクラック,わに皮割れ及びからす足状割れは,割れの形状の自明な例。塗膜に現れる部分的な割れの状態によって,次のように分ける。程度の低いもの,浅いものから,ヘアクラック,チェッキング,クレージング,わに皮割れ,深割れ,からす足状割れ。【JIS K5500「塗料用語」】
 膨れ(塗膜の)(blister)
 金属中又は皮膜下にガス,液体又は腐食生成物が蓄積して,局部的にふくれる現象。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 塗膜に泡が生成する現象。水分・揮発成分・溶剤を含む面に塗料を塗ったとき,又は塗膜形成後に,下層面にガス,蒸気,水分などが発生,侵入したときなどに起こる。【JIS K5500「塗料用語」】
 老化(塗膜の)(ageing, aging)
 塗膜の性質が経時的に不可逆な変化をする現象。この経時的な変化には,劣化を意味する老化と品質向上を意味する熟成とがある。【JIS K5500「塗料用語」】
 ぜい化(脆化)(塗膜の)(brittleness, embrittlement)
 時間の経過に伴って,塗膜が柔軟性を失って小さな細片に容易に分解するようになる現象。embrittlement とは,膜がたわみ性を損なう現象。【JIS K5500「塗料用語」】

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 活膜を残し,劣化塗膜を除去する方法

 平面部の塗膜除去(活膜を残す)

 ここでは,塗膜除去に用いる工具に関する留意点を紹介する。
 手工具を用いた作業
 手工具のスクレーパー(力棒),細のみ,鋲かきなどは,塗膜にせん断力(shear stress)を加えながらの作業となるので,活膜の判定を兼ねた素地調整といえる。で比較的容易に除去できる。
 せん断力や衝撃力を与えない動力工具による作業
 該当する動力工具としては,研磨布を取り付けたディスクグラインダ(ディスクサンダー),カップワイヤーなどである。これらを用いた作業では,塗膜除去を意識した作業を行わないと,比較的付着力の残っている劣化塗膜を残す場合がある。これらの工具を用いる場合は,手工具を用いて劣化塗膜と活膜を確認しつつ作業を行うようにしなければならない。
 次には,代表的な素地調整手順を示す。
     基本操作
  1. 活膜の確認
     塗膜割れや塗膜はがれ周辺の一見健全に見える塗膜に,広い面はスクレーパーを用い,狭い個所は鋲かきを用いて,刃を当てがい,塗膜面に斜めに剥ぎ取るつもりで力を加える。
     塗膜が面状での剥離や,小片となりポロポロ剥離するようであれば,劣化塗膜と判断し,その範囲を確認する。
     力を加えても剥離しない場合は,活膜と判断する。
  2. 塗膜除去範囲の確定
     活膜の確認操作を繰り返し,移動せず1回の作業で処理できる範囲の塗膜状態を確認する。
  3. 塗膜除去作業
     活膜の確認範囲を,適切な手工具動力工具を用いて劣化塗膜除去,及び活膜の面粗し作業を行う。

塗膜除去用具の例

塗膜除去用具の例

 広い平面の塗膜全除去

 塗膜割れが密に発生しているなど,ある程度の面積に対し,小面積の活膜部を含めて塗膜を除去しなければならない場合や,塗膜更新目的に旧塗膜を全部除去する場合は,上記の基本操作では効率が悪く,活膜が点々と残る可能性が高い。
 この場合は,活膜を除去できる能力を有する工具,すなわち,衝撃力と強いせん断力を与えられるケレンハンマー,ジェットたがね,ダイヤモンドホイールなどを利用して塗膜除去する。当該工具では,点々と塗膜が残り凹凸の多い表面仕上がりになるので,最後にスクレーパーやディスクサンダーによる仕上げ作業を行うのが効率的である。
 構造物全面の鋼素地を露出し,現場での気象変動や汚染物質飛来の中での塗装になる。従って,塗替え塗膜には,新設時塗膜ほどの品質は期待できない。
 【参考】
 施工時の制約が少なく,適切な養生が可能な場合は,活膜を意識せずに処理できるブラスト処理の採用を検討するのが良い。特に,ジンクリッチペイントを用いた塗装系への塗膜更新を計画する場合は,鋼素地の粗面化が望ましいので,ブラスト処理を適用できる素地調整が推奨される。

 狭あい部,ボルト・ナット部の塗膜除去

 狭あい部,ボルト・ナット部などは平面部用の工具が使用困難なので,狭い個所に対応できるジェットたがね,手工具(ケレンハンマ,鋲かきなど)の併用で処理し,仕上げに金ブラシを用いるのが良い。

 

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