防食概論:塗装・塗料
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ここでは,【塗料各論】を紹介するにあたり,【塗料の定義】と,【基礎用語】 を紹介する。
塗料各論(定義)
塗料の定義
古くは漆(うるし)(japanese lacquer, lacquer, japan)に始まり,対象物の表面に流動状態で塗り付け,薄い膜を作ることで,対象物の保護,美装,表面への機能付与を目的に用いられる材料を塗料(coating material, coating)という。
塗装とライニング(lining)には,明確な基準はないが,表面を覆う固体膜の厚みが 500μm程度までを塗装,それ以上をライニングと称する例が多い。すなわち,固体の膜厚 500μm未満の薄い膜が得られる流動状態で塗布できる材料が,一般的なイメージの塗料に相当し,ライニングなどに用いられる厚い膜が得られる材料を含めた場合は塗覆材ともいわれる。
塗料は,顔料を含まず透明な膜を形成するワニス(vernish)と顔料を含み不透明な膜を形成するペイント(paint)に大別される。
なお,ペンキと俗称される塗料は,用語のニュアンスがペイントとは若干異なる。一般的にペンキという場合は,狭義のペイント,すなわち顔料を乾性油で練り合わせた油性塗料(oil paint)を指す場合が多い。
塗料の目的
保護目的対象物の保護を目的とする塗料には,金属の腐食抑制を目的とする防食(ぼうしょく)塗料,木材等の腐敗抑制を目的に用いる防腐(ぼうふ)塗料,浴室などの水回りや高湿度環境でのかび発生抑制を目的に用いる防黴(ぼうかび,ぼうばい)塗料,木柱などのシロアリ対策を目的に用いる防蟻(ぼうぎ)塗料,船舶底部にふじつぼなどの生物付着の抑制を目的に用いる防汚(ぼうお)塗料,屋上やプールなどの漏水目的に用いる防水(ぼうすい)塗料,化学プラントなどで扱う腐食性の高い化学薬品などの影響低減を目的に用いる耐薬品塗料,構造物・建築物の主要構造材の火災による熱影響低減を目的に用いる防火塗料などがある。
美装目的
美装目的の塗料に期待される特性には,平滑な表面,光沢の付与,自由な彩色選択,模様付与など意匠性や景観創出などがある。
特殊機能付与
保護・美装以外の目的として,対象物表面に導電,絶縁,伝熱,遮熱,撥水,蛍光,蓄光,迷彩,有害化学物質吸着などの機能付与を目的とする塗料がある。
JIS K 5500「塗料用語」での用語定義
塗料(coating material,coating)素地に塗装したとき,保護的,修飾的,又は特殊性能をもった膜を形成する液状,ペースト状,又は粉末状の製品。流動状態で物体の表面に広げると薄い膜となり,時間の経過につれてその面に固着したまま固体の膜となり,連続してその面を覆うもの。
塗料を用いて,物体の表面に広げる操作を塗るといい。固体の膜ができる過程を乾燥といい。固体の皮膜を塗膜という。
流動状態とは,液状,融解状,空気懸濁体などの状態を含むものである。顔料を含む塗料の総称をペイントということがある。
備考:ISO用語規格では,“coating material”をここに定義される塗料として,また,“coat”を塗膜として定義している。BS用語規格も同様に“coating material”を塗料,“coat”を塗膜とするほか,“coating”を塗装として定義している。
しかし,ASTMでは,“coating”をここに定義する内容の塗料として定義しており,また,一般には,“coating”を塗料の意味で用いる場合が多いので,対応英語は,“coating material”だけでなく,“coating”を併記した。
ペイント(paint)
素地に塗付したとき,保護,装飾又は特殊な性能を持つ不透明膜を形成する液状,ペースト状又は粉末状の顔料を含む塗料。
備考:広義では,顔料を含む塗料の総称。狭義では,顔料をボイル油で練り合わせて作った塗料をいう。
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基礎用語
標準規格(standard, standard specification)
製品・サービス・組織・システムなどについて,標準化団体が定める基準。例えば,国際標準化機構(ISO)が制定する ISO規格,産業標準化法(旧名称 工業標準化法)に基づき日本産業標準調査会(JISC;旧名称 日本工業標準調査会)が制定する日本産業規格(JIS;旧名称 日本工業規格),通称 JAS法に基づく日本農業規格(JAS)などがある。
JIS(Japanese Industrial;日本産業規格),ISO(International Organization for Sstandardization;国際標準化機構),BS(British Standard;英国工業規格),ASTM(American Society for Testing and Materials;米国試験材料協会)
顔料(pigment)
一般に水や有機溶剤に溶けない微粉末状で,光学的,保護的又は装飾的な性能によって用いられる物質。無彩又は有彩の,無機又は有機の化合物で,黄色,補強,増量などの目的で塗料,印刷インキ,プラスチックなどに用いる。屈折率の大きいものは隠ぺい力が大きい。【JIS K5500「塗料用語」】
ボイル油(boiled oil)
乾性油・半乾性油を加熱し,又は空気を吹き込みながら加熱して,乾燥性を増進させて得た油。【JIS K5500「塗料用語」】
乾性油(drying oil)
薄膜にし空気中に置くと,酸素を吸収して酸化し,これに伴って重合が起こって固化し,塗膜を形成する脂肪油。高度不飽和脂肪酸を含む。【JIS K5500「塗料用語」】
空気中で徐々に酸化して固まる油で,油絵具や油ワニスに利用される。一般的にはヨウ素価(成分中の不飽和脂肪酸の量を示す指標)で分類され,ヨウ素価 130以上を乾性油,100~130を半乾性油,100以下を不乾性油という。
広く知られる乾性油には,亜麻仁(あまに)油・桐(きり)油・芥子(けし)油・紫蘇(しそ)油・胡桃(くるみ)油・荏(えごま)油・紅花(べにばな)油・向日葵(ひまわり)油などがある。
乾性油の主成分である不飽和脂肪酸(二重結合を持つ)の二重結合が空気中の酸素と反応し,過酸化物やラジカルを生じる。これらが開始剤となり,二重結合間の重合反応が進行することで分子量の大きな網目状の高分子となる。不飽和脂肪酸の量が多いもの,すなわちヨウ素価の高い油ほど固まるのが早い。
不飽和脂肪酸の酸化反応や重合反応は発熱反応である。このため,ヨウ素価の高い油を布などに含ませ,空気にふれる面積を大きくすると,急速に反応が進み自然発火する恐れがある。
よう素価(iodine value, iodine number)
油脂・樹脂に化学的に結合する酸素の量に比例し,不飽和度を推定するために用いる。試料 100gと結合するハロゲンの量を換算して得るよう素の g数で表す。ウィス法とハンス法とがある。【JIS K5500「塗料用語」】
塗膜(coat, film, paint film, coating)
塗られた塗料が乾燥してできた固体皮膜。
備考:ISO(国際規格) 用語規格では,単一の(1回の)塗装でできる塗料の連続層を“coat”,素地に 1回又はそれ以上塗装してできる連続層を“film”と定義。【JIS K5500「塗料用語」】
乾燥(塗料)(drying)
塗付した塗料の薄層が,液体から固体に変化する過程の総称。
塗料の乾燥機構には,溶剤の揮発,蒸発,塗膜形成要素の酸化,重合,縮合などがあり,乾燥の条件には,自然乾燥,強制乾燥,加熱乾燥などがある。また,乾燥の状態には,指触乾燥,半硬化乾燥,硬化乾燥などがある。【JIS K5500「塗料用語」】
自然乾燥(air drying , air-drying)
塗料を常温の空気中で乾燥させる方法。【JIS K5500「塗料用語」】
強制乾燥(force drying, forced drying)
自然乾燥よりも少し高い温度で塗料の乾燥を促進する工程。通常の焼付塗料に用いられるより低い温度,通常は,66℃(150℉)までの温度で乾燥する場合をいう。【JIS K5500「塗料用語」】
加熱乾燥(stoving, baking)
塗り付けた塗料の層をあらかじめ設定された最低温度で加熱して,バインダーの架橋(分子量を増大)を起こさせて硬化させる工程。加熱は暖めた空気の対流,赤外線の照射などによる。加熱して乾燥させて得た塗膜は一般に硬い。通常は,66℃(150℉)以上の温度で乾燥する場合をいう。一般に加熱乾燥の温度範囲と時間は,塗料ごとに規定されている。【JIS K5500「塗料用語」】
加熱乾燥は,焼付け(stoving, baking)ともいわれる。
表面乾燥(上乾き)(surface dry , sand dry)
塗料の乾燥状態の一つ。水平に置いた試験片の塗面に,規定量のバロチニ(細かいガラス球)を指定の高さから落とし,10秒後に試験片を傾けて,軽くはけではいて塗膜の表面にきずを付けずに,バロチニを除去できる乾燥状態をいう。
備考:上乾きは,塗った塗料の層が,表面だけが乾燥状態になり,下層は軟らかく粘着性があって未乾燥状態にあることをいう。【JIS K5500「塗料用語」】
焼付け塗料を除き,バロチニ法(Ballotini method)による表面乾燥性(surface-drying)の測定方法については,JIS K 5600-3-2「塗料一般試験方法−第3部:塗膜の形成機能−第2節:表面乾燥性(バロチニ法)」に規定されている。
指触乾燥(set-to-touch, dust-free, dust dry)
塗料の乾燥状態の一つ。塗った面の中央に触れてみて,試料で指先が汚れない状態(set-to-touch)になったときをいう。
備考:ASTM,BS では,このほかに,塗面にほこり(綿の繊維や顔料グレードの炭酸カルシウムなど)が付着しなくなった状態を dust-free にあるという。【JIS K5500「塗料用語」】
半硬化乾燥(dry to touch, touch dry)
塗料の乾燥状態の一つ。塗った面の中央を指先でかるくこすってみて塗面にすり跡が付かない状態(dry to touch)になったときをいう。
備考:BS では,指先で軽く圧力をかけて押えても,指紋の跡が残らず,粘着性を示さない状態(touch dry)をいう。【JIS K5500「塗料用語」】
硬化乾燥(dry-hard, hard dry, dry-through, dry through, through dry)
塗膜の表面は乾燥しているが,塗膜の大部分は,まだ柔らかいといった状態ではなく,塗膜の厚さ全体にわたって乾燥している状態をいう。
塗料又は関連製品の単一塗膜系,又は多層膜系が,規定された乾燥時間経過後に,硬化乾燥状態に達しているかどうかの判定を行う試験方法は,JIS K 5600-3-3「塗料一般試験方法−第3部:塗膜の形成機能−第3節:硬化乾燥性」に規定されている。この規格では,規定された荷重,ねじれ,及び時間の下で,規定されたガーゼが塗膜に跡を残したり,損傷させたりしない場合を硬化乾燥状態であるとする。
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