防食概論:塗装・塗料
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ここでは,鉄道の既設の鋼橋に適用される塗替え塗装の中で,腐食が進み放置できない状態の耐候性鋼腐食面に適用される 【劣化耐候性鋼用・塗装系 WS 】, 【塗装仕様】, 【厚膜型エポキシ樹脂ジンクリッチペイントの品質】, 【厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料の品質】, 【厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料上塗の品質】 を紹介する。
鉄道橋の防食塗装(塗替え塗装)
劣化耐候性鋼用・塗装系 WS
「塗装指針」 2013;第Ⅳ編 無塗装構造物 第 1章 耐候性鋼 保護塗装の要否の判定
無塗装橋梁の保護塗装は,全面塗装ではなく,保護性さびの形成が期待されない部材に対してのみ行なう部分塗装となるため,要否の判定は部材ごとに実施する。保護塗装の要否は,部材ごとに,目視で層状はく離さびの有無で判定する。なお,点検個所は,保護性さびの形成し難い部材下面,桁端部,支点部,連結部及び排水装置付近等の水周り個所を重点的に行なうのが良い。
また,海岸に比較的近い構造物や冬季に凍結防止剤を散布する道路に近い構造物では,点検の頻度を他の環境の無塗装橋梁より多くするのが望ましい。
保護性さびの形成し難い部材とは,耐候性鋼材の腐食の特徴が発揮できない条件下で腐食している部材になる。耐候性鋼材が,保護性さびを形成するためには,塩化物イオンなどの不働態皮膜破壊特性を有する腐食促進因子が少なく,適度な乾湿繰り返しが必要である。
少量の腐食促進因子の飛来環境では,付着した腐食促進因子が雨等で流される(雨洗という)部位について,保護性さびの形成が期待できる。しかし,雨洗を受けない部材下面などは,腐食が進行し,保護性さびの形成が期待できない。このような部位では,保護塗装が必要になる。
「塗装指針」 2013;第Ⅰ編 塗装一般 第 D章 解説(塗装系の特徴), 劣化耐候性鋼用 塗装系 WS
塗装系 WS は,無塗装橋梁の腐食劣化した耐候性鋼に,延命化を目的に塗装する場合に適用するものである。この塗装系は,耐候性鋼を裸で使用している構造物,及び部材などで,保護性さびが形成されず,そのまま放置したのでは,構造物,及び部材の設計寿命までの維持が困難と判断されたときに,延命化を目的に適用するものである。
なお,過去の例から,構造物全体が処置の対象となるほどの腐食に至ることはなく,多くの場合は,雨洗効果が期待できない部材下面などが対象となる。すなわち,施工面積としては,全体の 1/4 程度ですむと考えられる。
この塗装系は,新設時または塗替え時に適用される。塗替えの仕様については,1996年から検討してきた成果で,素地調整として,ブラストを用いる仕様(塗装系 WS 1-6 )を基本とする。
しかしながら,構造物構造や線区・架設環境の制約からブラスト処理を採用できない場合も想定される。
そこで,やむを得ない場合の塗装仕様(塗装系 WS 2-6 )も規定しているが,塗膜の耐久性が劣るため,早期の塗替え塗装が発生することになる。
構造物設計段階で,保護性さびの形成が困難なことが推定される場合には,新設時に当該箇所の部分塗装が推奨される。この場合に適用される塗装系は,工場における一般外面の塗装系 L と同じ塗料組み合わせであるが,全塗料が部分塗装となる保護塗装系 WS 1-2 である。
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塗装仕様
【塗装系 WS 1-6 】
(財)鉄道総合技術研究所で実施した試験(鉄道総研報告 Vol.15, No.7, 2001.7 )により,保護性さびが形成されない状況(架設環境など)では,厚く堆積したさび層中に,腐食を促進する塩化物イオンなどが蓄積している。このため,保護塗装塗膜の十分な耐久性を期待するためには,ブラスト工法の採用が必須である。
素地調整
層状の浮きさびが発生した部位・部材について,ブラスト処理を用いて,入念な除錆(除錆度-2 以上)を行う。
下塗り塗装
① 素地調整後その日のうち(部分塗装)
厚膜型エポキシ樹脂ジンクリッチペイント: 使用量 300g/m2(刷毛・ローラ塗り)
② ①塗装後 2日以上,1カ月以内(部分塗装)
厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料: 使用量 200g/m2(刷毛・ローラ塗り)
③ ②塗装後 1日以上,7日以内(部分塗装)
厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料: 使用量 200g/m2(刷毛・ローラ塗り)
④ ③塗装後 1日以上,7日以内(部分塗装)
厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料: 使用量 200g/m2(刷毛・ローラ塗り)
中塗り塗装 なし
上塗り塗装
下塗り塗装後 1日以上,7日以内(部分塗装)
厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料上塗: 使用量 200g/m2(刷毛・ローラ塗り)
【塗装系 WS 2-6 】
この塗装仕様は,推奨しかねるが,構造物構造や線区・架設環境の制約から,やむを得ずブラスト処理を採用できない場合も想定される。この場合の塗装仕様である。しかし,塗装系 WS 1-6 に比較して,塗膜の耐久性が著しく劣るため,早期の塗替え塗装(塗膜耐久性として 10年程度まで)に至る可能性が高い。
素地調整
層状の浮きさびが発生した部位・部材について,動力・手工具を用いて,可能な限りの除錆(除錆度-3 以上)を行う。
下塗り塗装
① 素地調整後その日のうち(部分塗装)
厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料: 使用量 200g/m2(刷毛・ローラ塗り)
② ①塗装後 1日以上,7日以内(部分塗装)
厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料: 使用量 200g/m2(刷毛・ローラ塗り)
③ ②塗装後 1日以上,7日以内(部分塗装)
厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料: 使用量 200g/m2(刷毛・ローラ塗り)
中塗り塗装 なし
上塗り塗装
下塗り塗装後 1日以上,7日以内(部分塗装)
厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料上塗: 使用量 200g/m2(刷毛・ローラ塗り)
【備考】
塗装された鋼構造物とは異なり,塗替え塗装時には,数mmにも達する厚いさび層で覆われた面が素地調整の対象となる。
一般的には,フランジ下面や上フランジ付近の腹版の一部など,雨洗を受けない部位(作業し難い部位でもある)が対象となる。
これらの個所は,通常のブラスト処理では作業効率の悪い端部,隅角部を多く含むことになる。そこで,さび層の厚さ及び素地調整箇所の特徴から,ブラスト処理での素地調整,及び塗装は,次のような手順で行うのが効率的である。
● ブラスト処理に適した飛散防止の養生を行う。
● ハンマー等を用いて,層状の付着力が低く,厚いさび層を充分に除去する。
● ブラストで除錆度‐2 以上に仕上げる。
● その日の内に塗装系 WS 1-6 の第 1 層目(厚膜型エポキシ樹脂ジンクリッチペイント)を塗装する
塗装系 WS 2-6 を適用した個所については,比較的短い周期での塗替え塗装が必要になる。
さび層の厚さ,及び素地調整箇所の特徴から,動力工具,手工具を用いた素地調整,及び塗装は次のような手順で行うのが効率的である。
● 通常の飛散防止の養生を行う。
● ハンマー等を用いて,層状の付着力が低く,厚いさび層を充分に除去する。
● 動力・手工具等を用いて除錆度-3 以上に仕上げる。
このとき,ディスクサンダーやカップワイヤーなどの研磨タイプの工具では,さび層の表面に光沢が生じ,一見では鋼素地が露出したかの錯覚に陥る。
そこで,ジェットたがねなどの衝撃を与えるタイプの工具を併用して,厚いさび層を残さないように心がける。
● その日の内に塗装系 WS 2-6の第 1 層目(厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料)を塗装する
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厚膜型エポキシ樹脂ジンクリッチペイントの品質
「塗装指針」 2013;附属書 A 塗料規格及び試験方法
SPS 66053-11 厚膜型エポキシ樹脂ジンクリッチペイント
品質
下表には,厚膜型エポキシ樹脂ジンクリッチペイントの塗料品質,比較のため JIS K5553 2010 「厚膜型ジンクリッチペイント」 2種(厚膜型有機)の品質を紹介する。
JIS 等で規定される品質の「塗装作業性」,「塗膜の外観」については,これらの品質に適合しない塗料の販売が考え難いこと,また,他の品質を検査する際にこの品質は容易に把握できることから,鉄道では,全ての塗料規格でこれらの品質を規定していない。また,実環境で 2年程度の「耐候性」(屋外暴露耐候性)を規定していない。これは,塗料成分の規定により,塗膜の機械的,化学的,及び耐久性の室内試験を行うことで,耐候性が確保できると考えているためである。
項 目 | SPS 66053-11(有機) | JIS K5553( 2種有機) |
---|---|---|
亜鉛末(質量分率 %) | 53以上 | ― |
エポキシ樹脂(質量分率 %) | 3以上 | ― |
硬化剤(質量分率 %) | 1以上 | ― |
溶剤(質量分率 %) | 25以下 | ― |
混合塗料中の加熱残分(%) | 75以上 | |
加熱残分中の金属亜鉛(%) | 70以上 | |
塗膜中の鉛(質量分率 %) | 0.06以下(* 1 ) | ― |
塗膜中のクロム(質量分率 %) | 0.03以下 | ― |
エポキシ樹脂の定性 | エポキシ樹脂を含むこと。 | ― |
容器の中での状態 | 粉は微小で一様な粉末であるものとする。液はかき混ぜたとき堅い塊がなくて一様になるものとする。 | |
乾燥時間 h | 6以下 | |
塗膜の外観 | ― | 塗膜の外観が正常であるものとする。 |
ポットライフ | 5時間で使用できるものとする。 | |
耐衝撃性(デュポン式) | ― | 衝撃によって割れ及びはがれが生じてはならない。(500g,500mm) |
厚塗り性 | 厚塗りに支障があってはならない。 | |
耐水性 | 水に浸したとき,異常がないものとする。 | |
耐塩水噴霧性 | 塩水噴霧に耐えるものとする。 | |
屋外暴露耐候性 | ― | 2年間の試験でさび,割れ,はがれ及び膨れがあってはならない。 |
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厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料の品質
「塗装指針」 2013;附属書 A 塗料規格及び試験方法
SPS 66099-12 (1)厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料
施工時の気温 10℃以上で使用する厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料(常温用),気温 5~20℃程度で使用する厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料・低温用(低温用)がある。
品質
下表には,厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料の塗料品質,比較のため JIS K 5551 2018「構造物用さび止めペイント」C種(反応硬化形変性エポキシ樹脂系塗料)の品質を紹介する。なお,C種には,常温で用いる 1号と低温で用いる 2号がある。
JIS 等で規定される品質の「塗装作業性」,「塗膜の外観」については,これらの品質に適合しない塗料の販売が考え難いこと,また,他の品質を検査する際にこの品質は容易に把握できることから,鉄道では,全ての塗料規格でこれらの品質を規定していない。また,実環境で 2年程度の「耐候性」(屋外暴露耐候性)を規定していない。これは,塗料成分の規定により,塗膜の機械的,化学的,及び耐久性の室内試験を行うことで,耐候性が確保できると考えているためである。
項 目 | SPS 66099-12(1)(常温用) | JIS C種 1号(常温) | SPS 66099-12(1)(低温用) | JIS C種 2号(低温) |
---|---|---|---|---|
顔料(質量分率 %) | 20以上 | ― | 20以上 | ― |
変性エポキシ樹脂または 変性ポリオール(質量分率 %) |
15以上 | ― | 15以上 | ― |
硬化剤(質量分率 %) | 3以上 | ― | 3以上 | ― |
溶剤(質量分率 %) | 40以下 | ― | 40以下 | ― |
加熱残分 % | 60以上 | ― | 60以上 | ― |
塗膜中の鉛(質量分率 %) | 0.06以下 | |||
塗膜中のクロムの定量 (質量分率%) |
0.03以下 | |||
容器の中での状態 | かき混ぜたとき,堅い塊がなくて一様になる。 | |||
半硬化乾燥性 | 常温 16時間 | 低温 24時間 | ||
塗装作業性 | ― | 支障がない。 | ― | 支障がない。 |
塗膜の外観 | ― | 正常である。 | ― | 正常である。 |
ポットライフ | 23℃ 5時間 | 5℃ 5時間 | ||
たるみ性 | ― | たるみがない。 (すき間200μmで流れがない) |
― | たるみがない。 (すき間200μmで流れがない) |
上塗り適合性 | 支障がない。 | |||
耐衝撃性 | 割れ及びはがれがない。 | |||
耐屈曲性 | 直径10mmの折り曲げに 耐えるものとする。 |
― | 直径10mmの折り曲げに 耐えるものとする。 |
― |
付着性 | 分類 1以下 | 分類 1又は分類 0 | ||
耐熱性 | ― | 160℃で 30分加熱しても, 塗膜に異常がなく,付着性が 分類 2以上であること。 |
― | 外観が正常である。 試験後の付着性試験で 分類 2,分類 1,又は分類 0 |
冷熱繰返し試験 | 冷熱繰返しに耐えるものとする。 | ― | 冷熱繰返しに耐えるものとする。 | ― |
サイクル腐食性 | さび,膨れ,割れ及びはがれがない。(120サイクル) | |||
屋外暴露耐候性 | ― | さび,膨れ,割れ 及び はがれがない。(24か月) |
― | さび,膨れ,割れ及び はがれがない。(24か月) |
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厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料上塗の品質
「塗装指針」 2013;附属書 A 塗料規格及び試験方法
SPS 66099-12(2)厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料上塗
施工時の気温 10℃以上で使用する厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料(常温用),気温 5~20℃程度で使用する厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料・低温用(低温用)がある。
品質
下表には,厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料上塗の塗料品質,比較のため JIS K 5551 2018「構造物用さび止めペイント」C種(反応硬化形変性エポキシ樹脂系塗料)の品質を紹介する。なお,C種には,常温で用いる 1号と低温で用いる 2号がある。
JIS 等で規定される品質の「塗装作業性」,「塗膜の外観」については,これらの品質に適合しない塗料の販売が考え難いこと,また,他の品質を検査する際にこの品質は容易に把握できることから,鉄道では,全ての塗料規格でこれらの品質を規定していない。また,実環境で 2年程度の「耐候性」(屋外暴露耐候性)を規定していない。これは,塗料成分の規定により,塗膜の機械的,化学的,及び耐久性の室内試験を行うことで,耐候性が確保できると考えているためである。
項 目 | SPS 66099-12(2)(常温用) | JIS C種 1号(常温) | SPS 66099-12(2)(低温用) | JIS C種 2号(低温) |
---|---|---|---|---|
顔料(質量分率 %) | 20以上 | ― | 20以上 | ― |
変性エポキシ樹脂または 変性ポリオール(質量分率 %) |
15以上 | ― | 15以上 | ― |
硬化剤(質量分率 %) | 3以上 | ― | 3以上 | ― |
溶剤(質量分率 %) | 40以下 | ― | 40以下 | ― |
加熱残分 % | 60以上 | ― | 60以上 | ― |
塗膜中の鉛(質量分率 %) | 0.06以下 | |||
塗膜中のクロムの定量 (質量分率%) |
0.03以下 | |||
容器の中での状態 | かき混ぜたとき,堅い塊がなくて一様になる。 | |||
半硬化乾燥性 | 常温 16時間 | 低温 24時間 | ||
塗装作業性 | ― | 支障がない。 | ― | 支障がない。 |
塗膜の外観 | ― | 正常である。 | ― | 正常である。 |
ポットライフ | 23℃ 5時間 | 5℃ 5時間 | ||
たるみ性 | ― | たるみがない。 (すき間200μmで流れがない) |
― | たるみがない。 (すき間200μmで流れがない) |
上塗り適合性 | ― | 支障がない。 | ― | 支障がない。 |
耐衝撃性 | 割れ及びはがれがない。 | |||
耐屈曲性 | 直径10mmの折り曲げに 耐えるものとする。 |
― | 直径10mmの折り曲げに 耐えるものとする。 |
― |
付着性 | 分類 1以下 | 分類 1又は分類 0 | ||
耐熱性 | ― | 160℃で 30分加熱しても, 塗膜に異常がなく, 付着性が分類 2以上であること。 |
― | 外観が正常である。 試験後の付着性試験で 分類 2,分類 1,又は分類 0 |
サイクル腐食性 | ― | さび,膨れ,割れ及び はがれがない。(120サイクル) |
― | さび,膨れ,割れ及び はがれがない。(120サイクル) |
屋外暴露耐候性 | ― | さび,膨れ,割れ及び はがれがない。(24か月) |
― | さび,膨れ,割れ及び はがれがない。(24か月) |
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