防食概論塗装・塗料

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 ここでは,塗膜の特性の一つとして【機械的性質とは】, 【付着性(塗膜と素地,塗膜間)】, 【硬さ(傷つきやすさ)】, 【柔軟性(可撓性)】, 【耐摩耗性】 に項目を分けて紹介する。

 塗膜の評価(塗膜の機械的性質)

 機械的性質とは

 機械的性質(mechanical properties)
一般には,金属材料などの引張強さ,降伏点,伸び,絞り,硬さ,衝撃値,疲れ強さ,クリープ強さなど,機械的な変形及び破壊に関する諸性質。【JIS G 0203「鉄鋼用語(製品及び品質)」】
 塗膜の機械的性質
 塗膜一般に求められる機械的性質は,塗膜の安定性に関わる付着性(adhesive property),施工時,加工時の塗膜損傷に関わる硬さ(hardness)柔軟性(flexibility)に関する可撓性と耐衝撃性,使用環境での耐摩耗性(abrasion resistance, wear resistance)などの性質が挙げられる。それぞれ塗膜の要求性能に応じた機械的性質に関する複数の JIS試験規格がある。
 このサイトでは,防食塗装塗膜への適用の多い試験規格を中心に紹介する。

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 付着性(塗膜と素地,又は塗膜間)

 付着性を評価する場合に,塗膜に加える力の方向で,物理的な意味合いが異なる。大きくは,付着面に対し水平に力を加えた場合の付着性(凝集力:cohesion)と垂直に力を加えた場合の付着性(粘着力:adhesion)に分けられる。
 JIS 試験規格には,凝集力を加えながら評価する“付着性(クロスカット法)”,凝集力を加えないで垂直引っ張り力のみで評価する“付着性(プルオフ法)”がある。
 
 付着性(adhesive property, adhesion, adhesion test)
 塗膜が下地面に付着して離れにくい性質。【JIS K5500「塗料用語」】
 塗膜の付着性を評価する JIS試験規格として,プルオフ法(Pull-off test)クロスカット法(Cross-cut test)が規定されている。
 クロスカット法(cross-cut test)
 塗膜の付着性試験法の一つで,碁盤目試験(cross cut test, lattice pattern cutting test)と呼ばれていたが,JIS改訂でクロスカット法と名称が変更され,一般名称として広く用いられている。
 クロスカット法は,塗膜に素地まで貫通する直角の格子パターンを刻み込んだとき,素地からのはく離に対して塗膜の耐性を評価する試験方法である。この方法は,塗膜付着の各要因の中から特に,下塗り又は基板いずれかへの付着性に左右される特性を評価できるが,付着性の定量的な測定手段とみなしてはならない。
 プルオフ法(pull-off methods)
 プルオフ法とは,引張試験機を用いて,試験板に垂直の方向に加えた引張力で生じる塗膜のはがれ,又は破れに必要な最小の張力の測定によって,塗料,ワニス若しくは関連製品の単一塗膜,又は多層塗膜系の付着力を評価する方法である。
 この試験結果は,試験する塗膜(単層,又は多層膜)の機械的性質だけでなく,素地の性質,及び調整,塗料の塗装方法,塗膜の乾燥状態,温度,湿度,及びその他の試験環境条件によって影響される。

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 硬さ (傷つきやすさ)

 一般的な塗膜の厚みは,精々数百μm以下と薄いため,金属やプラスチック,ゴムなどで用いる硬さ試験は適用できない。このため,塗膜の硬さ評価には,表面の傷つきやすさで評価(表面硬さ)する方法が採用される。
 表面硬さ評価を目的とする試験規格には,硬さの異なる鉛筆の芯で引っかき傷のつき方で表面硬さを評価する“引っかき硬度(鉛筆法)”,一定形状の針に荷重を加えて引っかき傷のつき方で表面かたさを評価するく“引っかき硬度(荷重針法)”がある。
 
 硬さ(硬度;hardness)
 物質,材料の表面近傍の機械的性質の一つ。JIS K5500「塗料用語」では,硬度を“固体の物体による押し込み又は貫通に抵抗する乾燥塗膜の能力(性質)。”と定義している。
 塗膜の硬度は,厚みが 1mm以下と薄いため,参考の項に示す金属やゴムで採用されている押し込み法では,塗膜の変形以外に素地の影響が大きく計測困難である。このため,塗膜の硬度は,引っかき法を用いて評価されている。
 塗膜の試験規格には,JIS K 5600-5-4「第4節:引っかき硬度(鉛筆法)」,JIS K 5600-5-5「第5節:引っかき硬度(荷重針法)」がある。
 硬さの概念は,数値化して表現しようとする場合の試験方法の定義により様々な値を取る。また,金属,セラミックス,ゴムなどの材料特性によっても,微小な変形を与える力に対する挙動がそれぞれ異なる。
 なお,硬さ試験には,材質により,ブリネル硬さ(押し込み),ビッカース硬さ(押し込み),ヌ―プ硬さ(押し込み),ロックウェル硬さ(押し込み),バーコール硬さ(押し込み),モノトロン硬さ(押し込み),ショア硬さ(反発硬さ),鉛筆硬さ(引っかき),マンテルス硬さ(引っき)などがある。
 押込み硬さ試験(indentation hardness test)
 剛体とみなせる特定の圧子を試料の試験面に押込み,その時の押込み荷重及び試験片に生じた永久変形の大きさから,その試料の硬さを決める硬さ試験の総称。ブリネル硬さ試験,ビッカース硬さ試験,ロックウェル硬さ試験などがある。【JIS G 0202「鉄鋼用語(試験)」】
 反発硬さ試験(rebound hardness test)
 特定のハンマを一定のエネルギーで試料の試験面に衝突させ,ハンマが試験面から反発される際のエネルギーからその試料の硬さを決める硬さ試験の総称。代表的なものにショア硬さ試験がある。【JIS G 0202「鉄鋼用語(試験)」】
 引っ掻き硬さ(scratch hardness)
 先端部が円錐や三角錐の圧子を用い,一定幅の引っ掻き傷をつけ,その時の荷重から硬さを数値化して算出するマルテンス硬さ,標準となる硬度が定められた鉱物で引っ掻き,傷の有無を調べるモース硬度が知られる。
 塗膜の硬さ試験には,JIS K 5600-5-4「第4節:引っかき硬度(鉛筆法)」,JIS K 5600-5-5「第5節:引っかき硬度(荷重針法)」が用いられる。
 鉛筆引っ掻き抵抗試験(pencil scratch test, pencil hardness test)
 硬度の異なる鉛筆を用いて試験面に対し 45°を保ちつつ線引きし,塗膜の表面硬度を調べる試験。使用する鉛筆の硬度記号で表示する。【JIS G 0202「鉄鋼用語(試験)」】

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 柔軟性 (可撓性)

 塗膜の柔軟性は,塗装物が変形した際の塗膜の変形に対する抵抗性に影響する。
 緩やかな変形に対する評価試験方法には,直線的な変形を与える“耐屈曲性(円筒形マンドレル法)”,半球状に変形させる“耐カッピング性”がある。
 急激な変形,すなわち衝撃的な変形を与える評価試験には“耐衝撃性(耐おもり落下性)”がある。
 
 可撓性(かとうせい)(flexibility)
 外力で物質がしなやかにたわむ性質で,たわみ性撓性(とうせい)ともいう。塗料分野では耐屈曲性ともいう。
 力を加えると変形する性質の弾性(elasticity)と混同されやすい。弾性は外力を除くと原形に回復することを条件として言及されるが,可撓性では原形に回復することを条件とせず,弾性変形のし易さについてのみ言及している。
 柔軟性(flexibility, softness, pliability):やわらかく,しなやかな性質。
 たわみ性(flexibility, pliability):工学的には,曲げ剛性(flexural rigidity)の逆数をいう。
 耐屈曲性(塗膜の)(flexibility)
 乾燥塗膜が塗られている素地の変形に損傷を起こさずに順応する能力。屈曲試験では,試験片を,塗膜を外に,素地の板を内側にして丸棒に沿って 180度折り曲げ,塗膜の割れの有無を調べる。
 素地の板が厚いほど,丸棒の直径が小さいほど,塗膜に与えられる伸び率と,塗膜に起こる上面から下面にかけての伸び率の不均等性は大きい。塗膜がもろくなくて伸び率が大きいとたわみ性が優れていると判定される。
 備考 膜のたわみ性を説明するため, “elasticity” という用語を用いることは正しくない。【JIS K5500「塗料用語」】
 塗膜の耐衝撃性(impact resistance, shock resistance, chip resistance)
 塗膜が物体の衝撃を受けても破壊されにくい性質。衝撃試験では,試験片の塗面におもりを落下して,割れ・はがれの有無を調べる。【JIS K5500「塗料用語」】
 衝撃試験(impact test)
 材料の靭性又は脆性を調べるため,試験片に衝撃荷重を加えて破断し,要したエネルギーの大小,破断の様相,変形挙動,き裂の進展挙動などによって評価する試験。
 衝撃荷重を加える方法によって,衝撃引張,衝撃圧縮,衝撃曲げ,衝撃ねじりなどの各種試験方法がある。また,用いる試験機によって,シャルピー衝撃試験,アイゾット衝撃試験などと区別される。【JIS G0202「鉄鋼用語(試験)」】
 衝撃的な荷重で材料を破壊するために要するエネルギーの値を衝撃強さ(impact strength)といい,耐衝撃性および靱性(じんせい)の指標として使われる。
 プラスチックの耐衝撃性評価には,アイゾット衝撃試験(Izod impact strength test),シャルピー衝撃試験(Charpy impact test),落錘衝撃試験などが用いられ,それぞれ衝撃的な荷重の加え方,試験片の大きさ形状などが異なる。
 落錘衝撃試験(falling weight impact test, drop weight test)
 読み「らくすいしょうげきしけん」,試料におもり(錘)を自由落下(落錘)させ,耐衝撃性を評価する試験。この試験での耐衝撃性を耐おもり落下性ともいう。
 塗膜の耐おもり落下性(impact resistance)
 塗料及びその関連製品の乾燥塗膜が,規定条件下でおもり落下によって変形するときの割れ及び/又は素地からのはがれを評価する耐おもり落下性試験には,次のの 3種の試験方法が知られている。
 落体式 (falling-weight method):先端が丸い円柱形のおもりを外筒に沿って落下させ,塗膜に対する曲げ及び伸びの抵抗性を評価。
 落球式(falling ball method):素地の変形が極めて少ない場合に用いられ,塗膜の表面に球体を激突させ,そのときの塗膜の衝撃抵抗性で,割れ・はがれの有無を評価。
 デュポン式 (DuPont method) :撃ち型と受け台が落球式と異なり,両者間のすき間がないので,エッジ部の衝撃と変形を同時に受ける抵抗性を評価する。

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 耐摩耗性

 乾燥塗膜の試験規格として“耐摩耗性(研磨紙法;rotating abrasive-paper-covered wheel method)”,“耐摩耗性(摩耗輪法;rotating abrasive rubber wheel method)”,“耐摩耗性(試験片往復法;reciprocating test panel method)”がある。
 湿潤状態の試験規格として“耐洗浄性(washability)”がある。
 
 耐摩耗性(abrasion resistance, wear resistance)
 相対運動する金属面の機械的引っかき,金属的粘着などが総合されてその面が損耗する現象を磨耗といい,これに耐える性質。【 JIS G0203「鉄鋼用語(製品及び品質)」】
 塗膜の耐摩耗性については,JIS K5600-5-8「第8節:耐摩耗性(研磨紙法)」,JIS K5600-5-9「第9節:耐摩耗性(摩耗輪法)」,JIS K5600-5-10「第10節:耐摩耗性(試験片往復法)」がある。
 JIS H8503「めっきの密着性試験方法」には,めっき皮膜の耐摩耗性として,往復運動磨耗試験,平板回転磨耗試験,両輪駆動磨耗試験など,5種類の試験方法が規定されている。【JIS H 0400「電気めっき及び関連処理用語」】
 アルミニウムの陽極酸化皮膜の耐摩耗性には,砂落し摩耗試験,噴射摩耗試験,往復運動平面摩耗試験などが用いられる。【JIS H 0201「アルミニウム表面処理用語」】
 試験片往復法(reciprocating test panel method)
 JIS K 5600-5-10 「塗料一般試験方法−第 5 部:塗膜の機械的性質−第 10 節:耐摩耗性(試験片往復法)」
 適用範囲 この規格は,塗料の試験方法に関する一連の規格の一つである。 この規格は,スガ式摩耗試験機を用い,静止状態にある回転輪に取り付けた研磨紙に対して,乾燥塗膜を摩擦させることによって,その耐摩耗性を測定するための方法について規定する。
 原理 試験片上の乾燥塗膜は,静止した回転輪の外周に取り付けられた研磨紙に対して,規定の条件で試験片を摩擦することによって摩耗される。試験中は,静止した回転輪には荷重がかけられるので研磨紙は試験片に規定の力で押し付けられる。試験片が往復運動するごとに,回転輪が少しの角度だけ回ることによって,研磨紙の未使用部分が次々に送り出されて試験片に接触する。規定回数の往復運動 (DS : Double Stroke) の後,試験片の摩耗減量が測定される。1往復当たりの摩耗減量 (mg/DS) 及び耐摩耗性 (DS/mg) が計算される。
 研磨紙法(rotating abrasive-paper-covered wheel method)
 JIS K 5600-5-8 「塗料一般試験方法−第 5 部:塗膜の機械的性質−第 8 節:耐摩耗性(研磨紙法)」
 適用範囲 この規格は,塗料の試験方法に関する一連の規格の一つである。 テーバー形摩耗試験機を用い,回転軸に取り付けた研磨紙によって乾燥塗膜を摩耗させて,その耐摩耗性を測定するための方法について規定する。
 原理 乾燥塗膜は,規定の条件でテーバー形摩耗試験機の回転輪に取り付けられた研磨紙によって摩 耗される。試験中は,回転輪には規定の荷重が加えられる。耐摩耗性は,規定の回転数の摩耗を受けたときの摩耗減量又は塗膜がはがれて下塗り塗膜若しくは素材表面に達するのに必要な回転数として求められる。
 摩耗輪法(rotating abrasive rubber wheel method)
 JIS K 5600-5-9「塗料一般試験方法−第 5 部:塗膜の機械的性質−第 9 節:耐摩耗性(摩耗輪法)」
 適用範囲 この規格は,塗料の試験方法に関する一連の規格の一つである。 この規格は,テーバー形摩耗試験機を用い,回転する摩耗輪によって乾燥塗膜を摩耗させて,その耐摩耗性を測定するための方法について規定する。
 原理 乾燥塗膜は,テーバー形摩耗試験機の回転する摩耗輪によって摩耗する。試験中は,摩耗輪には規定の荷重がかけられる。耐摩耗性は規定回転数の摩耗を受けたときの摩耗減量,又は塗膜がはがれて下塗り塗膜,若しくは素材表面に達するのに必要な回転数として求められる。

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