防食概論塗装・塗料

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 ここでは,実用される各種エポキシ樹脂塗料を,その特徴で分け 【エポキシ樹脂塗料の基本分類】, 【 2液形塗料の構成】, 【常温乾燥用硬化剤】, 【加熱乾燥用硬化剤】 で紹介する。

 塗料各論(構造物用塗料)

 エポキシ樹脂塗料の基本分類

 エポキシ樹脂塗料(epoxy resin coating)は,取り扱いが容易,塗料の変性が容易,種類が豊富,硬化温度の選択幅が広い,硬化時の体積収縮が少ない,各種基材(金属,ガラス,コンクリートなど)との密着力が大きい,塗膜の耐熱性,耐薬品性に優れるなどの理由から多くの分野で用いられている。
 
 JIS K 5500「塗料用語」には,エポキシ樹脂塗料の定義はないが,一般的には「塗膜形成要素(展色材,ビヒクル)にエポキシ樹脂を含む塗料」と理解されている。
 エポキシ樹脂(epoxy resin)は,一般には,本来の架橋しうるエポキシ基(epoxy group)を含む樹脂に加えてエポキシ樹脂を主成分として作った製品に対してもエポキシ樹脂と称している。
 
 エポキシ樹脂塗料は,硬化形態や変性樹脂の違いで,一般的には,次の 3種に分けられる。主要な塗料は,本来の意味の架橋しうるエポキシ基を 2つ以上含むプレポリマーを用いるが,一部にはエポキシ樹脂製品を用い,他の反応形態で重合する塗料もある。

 ① 常温(反応)硬化形( 2液形)

 ビスフェノール A 形エポキシ樹脂を含む主剤( A 剤)と活性水素を持つ硬化剤( B 剤:多価アミン,アミンナダクト,ポリアミドなどのポリアミン類)を使用直前に混合して塗膜を形成する常温(反応)硬化形エポキシ樹脂塗料( 2液形エポキシ樹脂塗料ともいう)である。
 常温(反応)硬化形エポキシ樹脂塗料は,最も一般的な形態であり,防食塗装の下塗り塗料として広く用いられている。また,樹脂分散のための溶剤種により,溶剤形エポキシ樹脂塗料,弱溶剤形備考エポキシ樹脂塗料,及び水系エポキシ樹脂塗料に分けられる。
 なお,一般的に,溶剤種が異なると,適用できるエポキシ樹脂の種類も変わるので,作業性,塗膜特性が異なる。すなわち,溶剤形,弱溶剤形,及び水系は,基本特性の異なる別物と考えるのが適当である。
 
 【備考】
 弱溶剤形塗料(mineral spirit paint,white spirit paint,mineral terpene-soluble paint)について,JIS規格での用語定義はないが,弱溶剤形塗料について,「鋼道路橋塗装・防食便覧」で次のように定義している。
 “弱溶剤とは,脂肪族炭化水素系有機溶剤(ミネラルスピリット等)を主成分とする混合溶剤。弱溶剤形塗料は弱溶剤で希釈可能な塗料の総称。狭義には弱溶剤を主な溶剤とした塗料をさす。”
 これに従うと,弱溶剤は,一般的な長油性フタル酸樹脂塗料,合成調合ペイントなどの希釈に用いる塗料用シンナーと同等の溶剤と考えられる。従来のエポキシ樹脂ではこれらの溶剤に溶解困難なため,エポキシ樹脂を油脂類で変性するなどが必要である。同様に,水に分散するエポキシ樹脂も親水性官能基を多く持つように変性されたエポキシ樹脂を用いる必要がある。

  常温硬化形( 1液形)

 硬化剤として,後述のケチミンとエポキシ樹脂プレポリマーと予め混合した1液型のエポキシ樹脂塗料がある。ここで用いられるケチミンは,ポリアミン系硬化剤の活性水素をケトンでケチミン化することで,硬化剤の官能基を化学的にマスキングしたものである。このため,エポキシ樹脂と混合しても密閉容器中では反応することなく安定に存在できる。
 塗装後に,空気中の水分によりケチミン加水分解し,生成したポリアミンエポキシ樹脂プレポリマーとの反応で乾燥(硬化)が進むタイプである。これは 1液常温反応硬化形エポキシ樹脂塗料と呼ばれる。
 
 他には,エポキシ樹脂のエポキシ基や水酸基を不飽和脂肪酸でエステル化し,製品としてのエポキシエステル樹脂を主成分とした塗料もある。
 エポキシエステル樹脂を用いた塗料は,不飽和脂肪酸の空気中の酸素による酸化重合(oxidation polymerization)で硬化するので,乾燥過程は,アルキド樹脂(エステル化合物)塗料と同じ範疇に入る。塗料形態としては 1液形エポキシ樹脂塗料と分類される。

  焼付硬化形

 フェノール樹脂,尿素樹脂,メラミン樹脂や酸無水物などと組み合わせた焼付硬化形エポキシ樹脂塗料である。
 塗料形態としては,溶剤や水に分散し,液状で塗り付けるタイプと,固体粉末として塗り付けるタイプ(粉体塗料)がある。
 
 プレポリマー(prepolymer)
 プレポリマーともいい,単量体(モノマー)又は単量体類の重合又は縮合反応を適当な所で止めた中間生成物で,最終の重合体との中間の重合度を持ち,硬化剤を用いた重合や架橋反応により最終製品を得るために用いられる。
 なお,単量体の重合でできたポリマー(重合体)のうち,比較的低い重合度のものをオリゴマー(oligomer)というが,プレポリマーとは意味合いが異なる。

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  2液形塗料の構成

 防食塗装などで用いられる常温(反応)硬化形エポキシ樹脂塗料( 2液形エポキシ樹脂塗料)では,エポキシプレポリマー,顔料,添加剤を含む液を主剤( A剤),他方のポリアミン類,ポリアミドなどを含む液を硬化剤( B剤)と称するのが一般的である。

 主剤( A剤)

 主剤は,架橋しうるエポキシ基を含むエポキシ樹脂(ビスフェノール A型エポキシ樹脂,ビスフェノール F型エポキシ樹脂など),改質剤(改質目的のキシレン樹脂,トルエン樹脂など),顔料,添加剤,及び溶剤で構成されている。
 エポキシ樹脂には,プレポリマー(prepolymer)のタイプや重合度(分子量)の違うものが多数ある。例えば,ビスフェノール A型エポキシ樹脂には,分子量 340,粘度 4~6(Pa・s,25℃)の液状のものから,分子量 5,500の固体のものまで,多数の商品が原料用として市販されている。
 プレポリマー(prepolymer)とは,プリポリマーともいい,単量体(モノマー)又は単量体類の重合又は縮合反応を適当な所で止めた中間生成物で,最終の重合体との中間の重合度を持ち,硬化剤を用いた重合や架橋反応により最終製品を得るために用いられる。

 硬化剤( B剤)

 硬化剤(hardener, curing agent)とは,JIS K5500「塗料用語」において,“塗料の硬度の増進又は硬化反応を促進若しくは制御するために用いられる橋かけ剤,樹脂,その他の変性剤。”と定義される。
 備考 常温硬化形塗料では,エポキシ樹脂塗料におけるアミンアダクト及びポリアミド樹脂,ポリウレタン樹脂塗料におけるポリイソシアネート類は,架橋反応によって硬化する硬化剤の代表的な例である。
 また,酸硬化形アミノ樹脂塗料における有機酸又は無機酸などの酸触媒,不飽和ポリエステル樹脂塗料の過酸化物(重合開始剤)とナフテン酸コバルト(促進剤)なども硬化剤ということがある。【JIS K5500「塗料用語」】
 「塗料用語」の備考で紹介した例の前者は,塗膜形成要素展色材(架橋剤・硬化剤)として,後者は添加剤(硬化促進剤)として扱われる。
 
 なお,荷姿として硬化剤と称される製品は,厳密な意味での硬化剤ではなく,エポキシ基と反応できるポリアミン類,ポリアミド,酸無水物などの活性水素を持つ有機化合物と溶剤とを主な構成成分とし,改質剤,顔料を含む場合もあるなど,硬化剤を含む薬剤を意味する。
 常温硬化形のエポキシ樹脂塗料には,ポリアミドやポリアミン類が,強制乾燥や焼付硬化形の塗料には,酸無水物,多塩基酸,芳香族ポリアミン,イミダゾール誘導体などが硬化剤として用いられる。
 
 このように,エポキシ樹脂塗料と称される材料は,使用できる樹脂,硬化剤,及び改質剤の種類が多く,組合せを変えることで塗料・塗膜の性質を大きく変えることができる。
 従って,エポキシ樹脂塗料とひとくくりに称するが,製品ごとに特性が大きく異なることを理解したうえで選択・使用するよう心がけるのが望ましい。

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 常温乾燥用硬化剤

 常温(反応)硬化形エポキシ樹脂塗料( 2液形エポキシ樹脂塗料)に用いられる主な硬化剤の特徴を紹介する。

 アミン類

 アミン(amine)とは,アンモニア(NH3)の水素原子(H)を炭化水素基,又は芳香族原子団で置換した化合物の総称である。
 アミンには,アンモニアの水素原子が 1個置換された一級アミン,2個置換された二級アミン,3個置換した三級アミンに分類される。また,1分子中のアミンの数でモノ-アミン,ジ-アミン,トリ-アミン,ポリ-アミンに分類される。さらに,炭化水素の構造種類により,脂肪族アミン,脂環族アミン,芳香族アミンに分類される。
 アミンによるエポキシ樹脂の硬化では,アミンの活性水素とエポキシ基が反応して二級アミンを生成し,次いで二級アミンとエポキシ基との反応で三級アミンを生成することで重合する。
 従って,アミン系硬化剤の分子中に活性水素が 3個以上必要となる,すなわちアミノ基(amino groupe, -NH2)が 2個以上必要である。なお,硬化機構からは,エポキシ基と活性水素が当モルとなるエポキシ樹脂量と硬化剤量の配合が最適の組み合わせである。

 脂肪族アミン

 エポキシ樹脂の室温で反応する代表的な硬化剤である。脂肪族アミンを用いた場合は,発熱が著しく可使時間(pot life,ポットライフ)が短くなる。また,皮膚刺激性や毒性があるため取り扱いに注意が必 要である。
 鎖状脂肪族ポリアミンには,ジエチレントリアミン(DTA),トリエチレンテトラミン(TTA),テトラエチレンペンタミン(TEPA),ジプロプレンジアミン(DPDA)などががある。

 変性アミン

 脂肪族アミンの特性の改善,すなわち ①ポットライフの延伸,②硬化速さの調整,③樹脂との相溶性改善,④硬化剤の液化,⑤空気中の炭酸ガスと反応抑制,⑥毒性や皮膚刺激性の改善などを目的に変性されたアミン類が用いられる。その代表的な物を次に紹介する。
  (1) アミンアダクト(amine adduct)
 ポリアミンエポキシ樹脂アダクトともいわれ,エポキシ樹脂に過剰の DETA(ジエチレントリアミン)などのポリアミンを反応させて得られた残留アミノ基の活性水素を持つ化合物である。
 アミンアダクトは,分子量が大きく,低揮発性,低い毒性,小さい発熱などの特徴がある。
  (2) ケチミン(ketimine)
 カルボニル基(carbonyl group)を持つケトン R-(C=O)-R' の酸素をイミノ基(imino group)で置換した形のイミン(imine)の一種で,ケトイミンともいわれ,一般式で,R-(C=NH)-R' で表される物質の総称である。
 脂肪族ポリアミン(例えば,DTA,TTA,DPDAなど)をケトン(例えば,メチルエチルケトン(MEK),イソブチルメチルケトン(MIBK)など)と反応させて得られるケチミンは,空気中の水分で加水分解しポリアミンを生成する。
 この特性を利用して,エポキシ樹脂プレポリマーと予め混合しておき,1液型エポキシ樹脂塗料の硬化剤として用いられる。また,ハイソリッド塗料(high solids coating)にも用いられる。

 ポリアミド樹脂

 ポリアミド(polyamide)とは,連鎖中の繰返し構造単位がアミドの形のものである重合体。【JIS K 6900「プラスチック―用語」】
 エポキシ樹脂の硬化剤として用いられるポリアミド樹脂は,ダイマー酸(HOOC-D-COOH)ポリアミン(H2NC2H4NHC2H4NH2の縮合で得られ,分子中に反応性の一級アミンと二級アミンを有するポリアミドアミンである。
 ポリアミドアミンは,常温でビスフェノール A形のエポキシ樹脂と反応するが,脂肪族ポリアミンに比較して反応速度が遅い。すなわち,長い可使時間(ポットライフ)が得られる。
 なお,アミド結合(amide bond)とは,アミンとカルボン酸の脱水縮合反応で生成されるカルボン酸アミド( R–C(=O)–N R'R")の構造のうち,C(=O)–N のカルボニル基と窒素との結合部をいう。

 ポリメルカプタン硬化剤

 メルカプタン(mercaptan)とは,アルコールの酸素原子を硫黄原子に変えたチオール基 (thiol group, メルカプト基,スルファニル基,スルフヒドリル基ともいう) -SH をもつ化合物をメルカプタンと総称し,分子中に複数のチオール基を持つ化合物をポリメルカプタン(polymercaptan)という。
 エポキシ樹脂の硬化剤として,次の 2種が用いられる。
  (1) 液状ポリメルカプタン
 ポリメルカプタンは 0℃から -20℃でも反応できるので低温硬化剤として注目されている。実用では,促進剤として三級アミンを添加する。常温での可使時間(ポットライフ)は 2~10分と短く,10~30分で実用強度になる速硬化性がある。
  (2) ポリスルフィド樹脂
 ポリスルフィド(polysulfide)とは,硫黄原子を鎖状に結合した化学構造を含む化合物(多硫化物)の一種で, R-(S)n-R' で表される有機多硫化物をポリスルフィドという。
 ポリスルフィド樹脂は,液状ポリメルカプタンと同じように末端にチオール基をもつが,低温での速硬化性はなく,可撓性付与剤を兼ねた硬化剤として用いられる。三級アミンやポリアミン硬化剤と併用して室温硬化剤ととして用いることが多い。
 
 【参考】
 三級アミン
 アミンの活性水素がすべて炭化水素で置換した三級アミンは,エポキシ基との付加反応に寄与しないが,重合触媒として作用する。
 三級アミンは,ポリアミンやポリアミド硬化剤の促進剤または共硬化剤,酸無水物の促進剤として利用されている。
 代表的なものに,ピペリジン, N,N-ジメチルピペラジン, トリエチレンジアミン,ベンジルジメチルアミン(BDMA),2- (ジメチルアミノメチル)フェノール(DMP-10) ,2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(DMP-30) などがある。
 イミダゾール類
 イミダゾール(imidazole)とは,五員環内に窒素原子二つ(1,3位)を含む複素環式化合物(heterocyclic compound)の一つで,1,3-ジアゾール(C3H4N2)ともいうアミンの一種。
 イミダゾール類は,三級アミン同様に,有機酸無水物,ジシアンジアミド,多価フェノール,芳香族アミンなどの硬化促進剤ないしは共硬化剤として使用することができ,長い可使時間,速い硬化速度,硬化物の高い耐熱性など三級アミン類にない特長がある。
 主な物には,2-メチルイミダゾール, 2-エチル-4-メチルイミダゾール, 1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウム・トリメリテート,エポキシ-イミダゾールアダクトなどがある。

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 加熱乾燥用硬化剤

 焼付硬化形などの外部からエネルギーを与えて硬化を開始する目的で用いられる硬化剤の例を紹介する。

 芳香族アミン

 アミン(amine)とは,アンモニア(NH3)の水素原子(H)を炭化水素基,又は芳香族原子団で置換した化合物の総称である。
 芳香族アミンは,常温硬化形に用いる脂肪族アミンに比べて塩基性が弱いこと,及び芳香環の立体障害により,室温では硬化が遅い。このため,一般には,硬化反応を進めるために加熱が必要でる。
 この硬化剤を用いた塗料の硬化反応は,2段階で行われる。1段目で発熱を少なくするように 80℃前後の低めの温度で行い,2段目として高温(150~170℃)で加熱する。

 酸無水物類

 酸無水物(acid anhydride)には,カルボン酸無水物と無機酸無水物がある。
 無機酸無水物とは,無水硝酸(五酸化二窒素:N2O5),無水炭酸(二酸化炭素:CO2)など酸性を示す 2個の水酸基の間から水 1分子がとれた形の化合物などである。
 カルボン酸無水物とは,一般式 R–CO–O–CO–R' で表される化合物で,環状脂肪族酸無水物,芳香族酸無水物,脂肪族酸無水物に分けられる。
 アミン系硬化剤に比較し,硬化条件の制約は多いが,可使時間(ポットライフ)が長く,硬化物の電気的特性,化学的特性,機械的特性が優れるなどの特徴がある。環状脂肪族酸無水物は,エポキシ樹脂用硬化剤として最も一般的で,汎用目的の酸無水物硬化剤の大半を占める。芳香族酸無水物は,固体で粉末成型粉体塗料などに用いられる。ポリカルボン酸無水物などの脂肪族酸無水物は,単独であるいは他の酸無水物との併用で粉体塗料や注形樹脂用硬化剤として用いられる。
 エポキシ樹脂の硬化に用いられる主な酸無水物系硬化剤には,無水フタル酸,テトラおよびヘキサヒドロ無水フタル酸,メチルテトラヒドロ無水フタル酸,無水メチルナジック酸,無水ピロメリット酸,無水ヘット酸,ドデセニル無水コハク酸などがある。

 その他特殊用途の硬化剤

 室温で安定に貯蔵でき,熱,光,圧力などにより急速に硬化する能力をもつ硬化剤(三フッ化ホウ素-アミン錯体,ジシアンジアミド,有機酸ヒドラジッドなど)を潜在性硬化剤という。
 特に,光または UV(紫外線)の照射で分解し,樹脂を硬化させる硬化剤(ジフェニルヨードニウムヘキサフロロホスフェート, トリフェニルスルホニウムヘキサフロロホスフェート)を光・紫外線硬化剤という。

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