防食概論塗装・塗料

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 ここでは,塗料と環境問題について,【塗料の環境影響】, 【揮発性有機化合物(VOC)】, 【重金属化合物】,  【その他】 に項目を分けて紹介する。

 塗料概論(塗料の環境影響)

 塗料の環境影響 

 これまでの塗料は,多岐に渡る要求性能に応えるべく,数多くの化学物質(1000種以上)を使用し,性能優先の開発が進められてきたため,「環境・健康・安全」に与える影響が指摘される物質も少なからず含まれていた。
 1990年代までは,PCB(ポリ塩化ビフェニール)などの法規制で製造・使用禁止された物質以外は,高い有害性の確認されている物質を含んでいる場合には,防護マスクや防護服着用など施工管理での注意喚起をすることはあっても,材料面からのリスク低減に向けた検討はほとんどされていなかった。
 1990年代中盤より,2000年以後から,塗料製造や塗装作業で環境上,及び健康上の問題となる物質を使用し続けるのが困難な状況が進み,リスク低減に向けた技術開発が望まれている。
 ここでは,塗料に含まれる物質が係る環境影響,健康影響について,これまでの動向を含めて,その概要を紹介する。

 

 揮発性有機化合物(VOC)

 VOC(Volatile Organic Compounds)とは,一酸化炭素(CO),二酸化炭素(CO2),炭酸(H2CO3),金属炭化物,金属炭酸塩,炭酸アンモニウム((NH4)2CO3)を除く炭素を含む化合物で,接している通常の雰囲気温度及び気圧で自然に揮発し,大気中で光化学反応(photochemical reaction )に関与する物質をいう。
 大気汚染防止法(Air Pollution Control Act),第二条第四項
 “この法律において「揮発性有機化合物」とは,大気中に排出され,又は飛散した時に気体である有機化合物(浮遊粒子状物質及びオキシダントの生成の原因とならない物質として政令で定める物質を除く。)をいう。”
 と定義している。このため,法では光化学反応に乏しい,メタン(CH4),フロン類を揮発性有機化合物から除かれている。
 
 経済産業省が 2000年に実施した VOC排出源の調査によると,塗料関連が最も多く,塗料製造時,作業時に大気へ排出される有機溶剤(有機化合物)が全排出量 1/3を占めている。
 大気に排出された有機溶剤は,作業者の健康阻害を引き起こすにとどまらず,NOx,SOx等の共存下で,太陽光(紫外線)の作用を受けオゾン(O3光化学オキシダント)や浮遊粒子状物質(SPM)の発生原因となる。このため,VOCは,環境汚染因子として注目されている。

 VOCの影響

VOCの影響
出典:経済産業省ホームページ VOC対策

 オゾン濃度変化と環境影響
 一般的に,混同されやすいハロゲン物質による成層圏のオゾン濃度低下で生じるオゾン層破壊(オゾンホール)は,地表に降り注ぐ有害紫外線や放射線量の増加で問題となる。
 地表付近の対流圏のオゾン濃度変化は,人工的原因で発生するオゾンにより濃度増加により,生物活動で発生するオゾンとのバランスが崩れ,比較的広域の動植物の生態に影響することで問題視される。
 日本では地表近くのオゾン濃度 60ppbが環境基準値として定められている。また,オゾン発生そのものは地域的な問題ではあるが,その影響は発生源から数十から 100km離れたところにも影響するため,比較的広域の環境問題として取り扱われる。
 【参考】
 光化学反応(photochemical reaction ,light‐dependent reaction)
 一般的には,光により引き起こされるさまざまな化学反応を光反応( photoreaction )というが,大気成分の太陽光による光反応(光化学オキシダント),生化学分野の光合成における光反応(色素分子が光エネルギーを吸収し,物質の酸化還元)などは光化学反応と称する場合が多い。
 光化学オキシダント(photochemical oxidant)
 光化学オキシダントとは,窒素酸化物と炭化水素とが光化学反応を起こし,生じたオゾンやパーオキシアシルナイトレート( PAN : CXHYO3NO2 )などの酸化性物質(オキシダント)の総称。
 浮遊粒子状物質(SPM)(suspended particulate matter)
 大気中に浮遊する粒子状物質のうち,大気中に長期間滞留し,人の健康に影響を及ぼす粒径 10μm以下のものをいう。この中で,粒径 2.5μm以下のものの影響が大きいため,環境基準では微小粒子状物質(PM 2.5)として監視対象になっている。
 発生源には,工場・自動車などからの人為的発生源,土壌の飛散などの自然発生源がある。この他に,ガス状物質として排出されたものが大気中で光化学反応などで生成する粒子も存在する。
 対流圏(Troposphere)
 気圏の地表から 9~17km,高度とともに気温が低下する。気象現象は対流圏で起きる 。対流圏は,赤道付近で 17km程度,極で 9km程度と地球自転の影響で厚みが異なる。
 成層圏(Stratosphere)
 気圏の地表から 9~17km(対流圏)から 50kmまで,高度とともに気温が上昇する。成層圏には,オゾン層が存在する。

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 重金属化合物

 これまでに,汎用的に用いていた塗料の添加剤(additive)や顔料(pigment)に,人体に有害な重金属化合物も使用されていた。
 一般に,土壌などの重金属汚染(pollution by heavy metals)という場合は,重金属一般ではなく,水銀(Hg),鉛(Pb),カドミウム(Cd),クロム(Cr)などの有害性が認められる特定の重金属化合物をいう。
 なお,軽金属と重金属は,明確な定義はないが,金属の比重による一般的な分類で,比重 4~5 を下回るものを軽金属(light metal),上回るものを重金属(heavy metal)とする。
 
 近年に,有害性の認められる重金属化合物が与える影響,すなわち作業者の健康阻害,塗装された構造物周辺の土壌や水質汚染に対する取り扱いが注目されている。
 さび止めペイントに,安価で性能が高いため,多く使用されていた鉛化合物クロム化合物を用いた 防せい顔料は,健康被害の観点から使用量削減に関して世界的な関心を集めている。日本では,具体的な法規制になっていないが,欧米では塗料中の鉛含有量に対して法規制を実施している。
 日本では,自主的であるが,早急の対策が必要な重金属として注目し,鋼構造物用の塗装仕様から排除する動きが2005年頃から出ている。これらの動向は,各事業者の自主的活動に止まらず,業界としても活動が進み,2008年以後には 鉛系さび止めペイントの JIS規格廃止への機運が高まり,2016年までに全廃されている。
 これにより,今後に塗装される塗膜には有害性の認められる重金属は含まれないことになる。しかし,過去に塗装された旧塗膜で重金属を含むものも多数残されているので,この塗膜処理について,具体的な対策が検討課題として残る。

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 その他

 化学物質は,程度の差はあれ危険性・有害性を有している。危険性・有害性を十分に把握し,適切に使用することで,人や環境へのリスク回避が可能となる。
 塗料に使用されている化学物質の危険性・有害性に関しては,1997年10月に公表された(社)日本塗料工業会の「塗料産業に関わる化学物質の有害性調査報告書」が参考になる。
 また,化管法により,有害性が認められる化学物質(指定化学物質)が一定量以上含まれる場合に,SDS(安全データシート)の発行が義務付けられているので,塗料に使用される化学物質の有害情報を容易に入手できる環境が整っている。
 【参考】
 化管法
 1999 年(平成 11年)制定の「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」(Law concerning Reporting etc. of Release of Specific Chemical Substances to the Environment and Promotion of the Improvement of Their Management)の略称。
 SDS(Safety Data Sheet)
 化管法 SDS制度は,事業者による化学物質の適切な管理の改善を促進するため,化管法で指定する第一指定化学物質(462物質),第二指定化学物質(100物質),又はそれを含有する製品を他の事業者に譲渡又は提供する際に,化管法 SDS(安全データシート)として特性及び取扱いに関する情報の提供を義務づける制度。なお,平成 24年までは,SDS(Safety Data Sheet)をMSDS (Material Safety Data Sheet,化学物質等安全データシート)と称していた。

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