防食概論:塗装・塗料
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ここでは,特殊機能による塗料分類を, 【機能別分類とは・クリヤ塗料】, 【さび止め止めペイント】, 【熱特性に注目した塗料】, 【かび防止塗料】, 【防汚塗料】, 【電気特性に注目した塗料】, 【屋根用高日射反射率塗料】 に分けて紹介する。
塗料各論(分類)
機能別分類とは・クリヤ塗料
塗料に求める特殊機能による分類の例を紹介する。この種の分類には多数あるが,ここでは,実用例の多いクリヤ塗料,さび止めペイント,耐熱塗料,防火塗料,かび防止塗料,防汚塗料,電気絶縁塗料,導電塗料,電波吸収塗料,屋根用高日射反射率塗料を紹介するが,他には,つやなしペイント(flatpaintflat oil paint),つや消し塗料(flat paint, matte coating),多彩模様塗料(multicolor paint)などもある。
クリヤ塗料(clear coating material,clear coating)
素地に塗装したとき,保護的,装飾的,又は特殊性能をもつ固体の透明な膜を作る塗料。顔料(pigment)を含まない。
備考:主に酸化によって乾燥するクリヤ塗料は,ワニスという。【JIS K5500「塗料用語」】
【参考】
乾燥(塗料)(drying)
塗付した塗料の薄層が,液体から固体に変化する過程の総称。塗料の乾燥機構には,溶剤の揮発,蒸発,塗膜形成要素の酸化,重合,縮合などがあり,乾燥の条件には,自然乾燥,強制乾燥,加熱乾燥などがある。また,乾燥の状態には,指触乾燥,半硬化乾燥,硬化乾燥などがある。【JIS K5500「塗料用語」】
酸化重合(oxidation polymerization)
不飽和脂肪酸の二重結合は化学的に反応しやすく,空気中の酸素と徐々に結びつき過酸化物やラジカルを生じる。これらを開始剤として,二重結合間の重合反応が進むことを酸化重合と呼ぶ。
分子中に複数の二重結合を持つ不飽和脂肪酸を主成分とする乾性油(drying oil)は,自動酸化されやすく,室温の大気中で容易に高分子化する。なお,自動酸化(autoxidation)とは,酸素,紫外線の存在下で起こる酸化をいう。
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さび止めペイント
さび止めペイント(anticorrosive paint,rust inhibiting paint)
鉄鋼のさび止め塗装に用いる塗料。さび止め顔料と塗膜形成要素との相互作用で,さび止め効果を現すものと,塗膜形成要素自体のさび止め効果によるものとがある。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
金属素地を腐食から守るために用いる塗料。さび止め顔料と塗膜形成要素との相互作用で,さび止め効果を表すものと,塗膜形成要素自体のさび止め効果によるものとがある。前者には,用いるさび止め顔料の名称を付けて呼ぶのが通例である。【JIS K5500「塗料用語」】
【参考】
さび止め顔料(rust preventive pigment, rust inhibitive pigment)
金属にさびが発生するのを防止する機能を持つ塗料用顔料。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
金属にさびが発生するのを防止する機能をもつ顔料。
備考:単なる遮断機能の作用ではなく,化学的及び/又は電気化学的に金属の腐食を制御又は防止する機能をもつ顔料をいう。【JIS K5500「塗料用語」】
次節で紹介する防せい顔料(さび止め顔料)は,金属素地と直接接触するプライマー,下塗り塗料に用いられる。なお,防せい(錆)顔料は一般的な名称であるが,JIS用語規格ではさび止め顔料と記される。
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熱特性に注目した塗料
耐熱塗料(heat resistant coating)
明確な定義はないが,一般的には塗膜が 100℃以上(300~600℃)の熱影響を受けても実用可能な塗料を指す場合が多い。耐熱塗料に用いられる樹脂は,アクリル系樹脂,ウレタン系樹脂,シリコン系樹脂,ふっ素系樹脂の 4つに分類される。身近な製品として,フライパン,鍋などの調理器具,レンジ周りの部品などで用いられている。
防火塗料(fire-retardant paint)
難燃性の塗膜形成要素を用いるか,加熱したとき塗膜が泡立ち,膨れ上がって断熱層になるように作った塗料。【JIS K5500「塗料用語」】
建築物の屋内用を目的とする塗料が多い。JIS K 5661「建築用防火塗料」では,次の 3種が規定されている。
防火塗料 1種:発ぽう性のもの。
防火塗料 2種:発ぽう性のもので下塗用と上塗用とに分け,両方で効果をあげるもの。
防火塗料 3種:厚塗りするもの。
塗料の性能は,JIS A1321「建築物の内装材料および工法の難燃性試験方法」により試験し,難燃 2級または難燃 3級に合格することが求められる。
建築材料の難燃性,不燃性は,平成 14年 6月に改正された建築基準法施行令に準じて定められている。施行令によると,加熱試験で次の 3要件を満す時間により,不燃材料(20分間),準不燃材料(10分間),及び難燃材料(5分間)に分けられる。
3要件:① 燃焼しない,② 有害な変形,溶解,亀裂,その他を生じない,③ 避難上有害な煙又はガスを発生させない。
塗料に添加される難燃剤には,三酸化アンチモン(Sb2O3),水酸化マグネシウム(Mg(OH)2),水酸化アルミニウム(Al(OH)3),ポリりん酸アンモニウムなどがある。
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かび防止塗料
かび防止塗料(fungus resistant coating)
素地又は塗膜に,かびが発生するのを防ぐために用いる塗料。かび防止剤を加えて作る。【JIS K5500「塗料用語」】
防黴(ぼうばい,ぼうかび)塗料などともいい,建築物内装,特に浴室,台所,醸造工場,食品工場の内装材に一般的に用いられている。
一般的には,塗料副要素(添加剤)として,バイオサイド薬剤を添加した塗料を用いる。薬剤を製造する会社により,関連団体として(社)抗菌製品技術協議会(SIAA)が設立され,ここで薬剤の標準試験方法の策定,性能評価を行っている。
【参考】
バイオサイド製品(biocidal product)
有害生物防除等の目的で使用される殺生物性製品(防腐剤,防かび剤,防藻剤,防虫剤,忌避剤,木材防かび剤など)をいう。欧州では,2013年から殺生物性製品の市場における利用,及び使用に関する規則,いわゆる殺生物性製品規則(Biocidal Product Regulation, BPR)が施行され,欧州に輸出される製品はこの規則に準じなければならない。
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防汚塗料
防汚塗料(anti-fouling paint)
塗膜に有害な生物(ふじつぼ,海草など)が付着するのを防ぐ性質(防汚性)を有する塗料で,主として船底塗料として用いられる。
防汚性(antifouling property)
表面に有害な生物などが付着するのを防ぐ塗膜の性質。主として船底塗料(※1)に対して,塗膜に生物(ふじつぼ,海草など)が付着するのを防ぐことを目的に求められる性質である。【JIS K5500「塗料用語」】
【参考】
船底塗料(ship bottom paint)
船底の腐食防止,生物付着防止,生物侵入防止などに用いる塗料。鋼船船底塗料と木船船底塗料とがある。
鋼船船底塗料は,塗膜形成要素の種類によって油性塗料,ビニル樹脂塗料,塩素化樹脂系塗料などに分かれ,目的によって A/C(さび止め塗料), A/F(防汚塗料), B/T(水線塗料)の 3種類ある。
A/C(anti-corrosibe paint)はさび止め用で,下塗りと中塗りとに用い,A/F(anti-fouling paint)は生物付着防止のための防汚用として上塗りに用い,B/T(boot topping paint)は水線部の防汚用又は耐候性の上塗りに用いる。
一般に,さび止め用 A/Cは,さび止め顔料を加えて作り,防汚用 A/Fは,防汚顔料又は防汚性物質を加えて作る。なお,塗膜形成要素自体が防汚性能をもち,海水中で徐々に溶出するタイプの A/F もある。
防汚顔料には,高い効果の持続が期待できる有機すず化合物を長年使用してきた。しかし,海洋汚染(生態系に影響)の観点から 1990年に使用禁止となった。その後は,亜酸化銅(Cu2O)などの銅化合物や塗膜形成要素が徐々に溶解するタイプの塗料などが使用されている。【JIS K5500「塗料用語」】
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電気特性に注目した塗料
電気絶縁塗料(electrical insulating varnish)
電気絶縁性の大きい塗膜を作る塗料。コイルワニス,コア-ワニス,エナメル銅線用ワニス,接着用ワニス,絶縁布用ワニスなどがある。【JIS K5500「塗料用語」】
JIS C2351「エナメル線用ワニス」では,油性エナメル線(乾性油),ポリウレタン線(ポリウレタン),ホルマール線(ポリビニルホルマール),ポリエステル線(テレフタル酸系ポリエステル),及びポリエステルイミド線(ポリエステルイミド)が規格され,要求品質に絶縁破壊電圧が規格されている。
導電塗料(electrical conductive coating, conductive coating)
導電性塗料ともいい,電気伝導(electrical conduction)を有する塗膜を形成し,表面の静電気除去,電波ノイズ対策,電気回路の形成などを目的に用いられる。
電波吸収塗料(electric wave absorption paint)
障害となる電波を吸収するための塗料。航行する船舶のレーダーに影響する長大橋,大型船舶のマストや甲板上の構造物などに適用される。
金属表面に導電性材料とフェライトを構成成分とした吸収層,フェライトを配合した変成層との二層構造となるような塗料を用いる。
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屋根用高日射反射率塗料
JIS K56752011「屋根用高日射反射率塗料;High solar reflectant paint for roof」に規定される建築物の屋根及び屋上の塗装に用いる自然乾燥形エナメル系で,品質項目に日射反射率が規定される塗料。
この塗料は,夏季の屋内温度上昇を抑制し,冷房効率の向上,大都会におけるヒートアイランド現象防止などを目的とした用途で用いられている。
塗料種は,希釈剤の違いから次の 2種に分けられる。
1種: 水を主要な揮発成分とする液状・自然乾燥形の塗料。
2種:有機溶剤を揮発成分とする液状・自然乾燥形の塗料。
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