防食概論:塗装・塗料
☆ “ホーム” ⇒ “腐食・防食とは“ ⇒ “防食概論(塗料・塗装)” ⇒
ここでは,塗膜と環境との相互作用の評価法として,【耐塩水噴霧性】, 【JIS製品規格での扱い例】 に項目を分けて紹介する。
塗膜の評価(塗膜耐久性;耐塩水噴霧性)
耐塩水噴霧性
耐塩水噴霧性(resistance to salt spray test)とは,塩水噴霧試験に耐える性質と理解されている。
塩水噴霧試験は,技術分野により用いる噴霧液が異なり,防食塗装に用いる塗膜の耐久性試験では中性の食塩水(塩化ナトリウム水)を用いた試験( JIS K5600-7-1 「耐中性塩水噴霧性」)が採用されている。
塩水噴霧試験(salt spray test)
○ 試験槽内に試験片を置いて,塩化ナトリウム水溶液を霧状にして吹き込み,金属材料の耐食性,被覆材料などの防食性を調べる試験。【JIS Z0103「防せい防食用語」】○ 食塩水溶液を噴霧状にして吹きこんだ器中に試験片を入れて金属材料,被覆金属材料,塗装金属材料などの防食性を評価する試験。【JIS K5500「塗料用語」】
○ 5%塩化ナトリウム水溶液を 35℃に保って噴霧させた試験装置内へ試験片を静置して,さび,膨れなどの発生状態を調べる試験。めっき,塗覆装などの表面処理を施したもの,ステンレス鋼などに用いられる。【JIS G 0202「鉄鋼用語(試験)」】
○ 溶射された試料を食塩水の噴霧中に暴露して,さび,膨れ,はく離などの状態を調べる試験。【JIS H8200「溶射用語」】
○ 塩水を噴霧した雰囲気中において皮膜の耐食性を調べる試験。【JIS H 0201「アルミニウム表面処理用語」】
JIS Z 2371「塩水噴霧試験方法」
塩水噴霧試験装置,装置の再現性検証方法,試験片の配置,試験条件,試験後の試験片の処理,次に示す 3種の試験用塩溶液を用いた試験について規定されている。中性塩水噴霧試験 NSS(neutral salt spray test);中性の塩化ナトリウム溶液を噴霧した雰囲気において,耐食性を調べる試験。
酢酸酸性塩水噴霧試験 AASS(acetic acid salt spray test);酢酸を添加した酸性の塩化ナトリウム溶液を噴霧した雰囲気において,耐食性を調べる試験。
キャス試験 CASS(copper-accelerated acetic acid salt spray test);酢酸を添加した酸性の塩化ナトリウム溶液に,さらに,塩化銅(II)二水和物を加えた溶液を噴霧した雰囲気において,耐食性を調べる試験。
耐中性塩水噴霧性(resistance to neutral salt spray)
中性の塩水噴霧の作用に対する塗膜の抵抗性を評価するための試験法については,JIS K 5600-7-1「耐中性塩水噴霧性」に規定されている。なお,この JIS規格の序文には,
“耐中性塩水噴霧性は,塗料や塗装系の品質チェックを目的とし,塩水噴霧の作用に対する塗膜の抵抗性と他の環境における腐食に対する抵抗性との直接の関係はなく,試験によって得られた結果は,その試料が使用されるすべての環境での腐食抵抗性の直接の指標になるものではない。”
と記されている。
すなわち,耐中性塩水噴霧性は,塗料や塗装系の選定におけるスクリーニングテストの一つとして採用するのが良い。
スクリーニング(screening)とは,生物学用語の土壌の中から微生物をピックアップすることの意味から始まり,一般的に様々な状況や条件の中から必要なものを選出すること(選抜,選別,ふるい分け)を意味するようになった。
防食塗装に用いるJIS製品規格の塗料で,品質項目として“耐塩水噴霧性”を規定するのは,JIS K 5552 「ジンクリッチプライマー」とJIS K 5553 「厚膜形ジンクリッチペイント」である。
すなわち,防錆・防食機能を強化した塗装仕様,いわゆる重防食塗装の下塗り塗料に適用される試験である。
重防食塗装(heavy duty coating)
海岸や海上のような腐食性の激しい環境に建設される鋼構造物の塗り替え周期を長くするため防食性,耐久性を有する防食塗装をいう。一般にジンクリッチペイントをプライマーとして,エポキシ樹脂,ふっ素樹脂塗料などを組み合わせて用いる。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
ページのトップへ
JIS製品規格での扱い例
ここでは,JIS K 5552 「ジンクリッチプライマー」及びJIS K 5553 「厚膜形ジンクリッチペイント」の品質項目“耐塩水噴霧性”を紹介する。
JIS K5552 ジンクリッチプライマー
適用範囲この規格は,鋼材の防せい(錆)に用いるジンクリッチプライマーについて規定する。
備考: ジンクリッチプライマーは,亜鉛末及びアルキルシリケート又はエポキシ樹脂及び硬化剤,顔料及び溶剤を主な原料としたものである。
種類
a) 1種 無機ジンクリッチプライマー: アルキルシリケートをビヒクルとした,1液 1粉末形のもの。
b) 2種 有機ジンクリッチプライマー: エポキシ樹脂をビヒクルとした,2液 1粉末形又は 2液形(亜鉛末を含む液と硬化剤)のもの。
耐塩水噴霧性
耐塩水噴霧性の試験は, JIS K 5600-7-1 「耐中性塩水噴霧性」による。
試験板は,6.3.2.1 に規定するブラスト処理をした鋼板を,試料 1個について 3枚ずつ用意し,6.3.2.3 の方法で乾燥膜厚が 20μm~25μm になるように混合した試料を 1回塗り,直ちに周辺をはけで 1回塗り増し,1種は 48時間,2種は 168時間置いて試験片とする。
1種は 168時間,2種は 72時間試験を行った後,試験片を取り出して流水で洗い,室内に 2時間置いて,目視によって塗膜を調べる。このとき,試験片の周辺約 10mm 以内及び塗膜に付けたきずの両側それぞれ 3mm 以内の塗膜は,評価の対象としない。
試験片 2枚以上について塗膜に赤さびを認めないときは, 塩水噴霧に耐えるとする。
6.3.2.1 試験板 : JIS K 5600-1-4 「試験用標準試験板」による。ただし,特に規定する以外は,ブラスト処理した鋼板 (150×70×3.2mm) とする。ブラストの条件は,除せい度 ISO 8501-1 Sa2・1/2以上,研掃材グリット,表面粗さ 25μmRzJISを標準とする。
6.3.2.3 試料の塗り方 : 混合した試料は,よくかき混ぜた後,目開き 600μm の金網でろ過し,直ちに塗る。初めの混合から時間を測定して,5時間を過ぎたものは試験に用いてはならない。試料の塗り方は,特に規定する以外は,吹付け塗り(エアスプレー塗り)とし,7日間乾燥したときに測定して,塗膜の厚さが 15~20μm になるように 1回塗る。
JIS K5553 厚膜形ジンクリッチペイント
適用範囲この規格は,鋼材の防せい(錆)に用いる厚膜形ジンクリッチペイントについて規定している。
備考 厚膜形ジンクリッチペイントは,亜鉛末,及びアルキルシリケート,又はエポキシ樹脂(主剤,硬化剤),顔料,及び溶剤を主な原料としたものである。
種類
厚膜形ジンクリッチペイントは,次の 2 種類に分ける。
アルキルシリケートをビヒクルとした 1液 1粉末形の厚膜形無機ジンクリッチペイント(1種),及びエポキシ樹脂をビヒクルとした 2液 1粉末形,又は 2液形(亜鉛末を含む液と硬化剤)の厚膜形有機ジンクリッチペイント(2種)がある。2種の硬化剤にはポリアミド,アミンアダクトなどが用いられる。
耐塩水噴霧性
耐塩水噴霧性の試験は, JIS K 5600-7-1 「耐中性塩水噴霧性」による。
試験板として,6.3.2.1 によってブラ ストで処理した鋼板(150×70×3.2mm)を,試料 1個について 2枚ずつ用意し,その両面を 6.3.2.3 の方法で 1回塗り,直ちに周辺をはけで 1回塗り増し,1種は 48時間,2種は 7日間置いて試験片とする。試験は 1種で 360時間,2種では 240時間行い,試験片を取り出して流水で洗い,室内に 24時間置いて目視によって観察する。2枚の試験片の双方の塗膜に,赤さび及び膨れを認めないときは,塩水噴霧に耐えるとする。
6.3.2.1 試験板: JIS K 5600-1-4「第4節:試験用標準試験板」による。ただし,特に規定する以外は,ブラスト洗浄によって調整した鋼板 (150×70×3.2mm) とする。鋼板は,JIS G 3101に規定する SS400の鋼板,ブラストの条件は,除せい度 ISO 8501-1 Sa2・1/2以上,研削材 グリット,表面粗さ 25μmRZJISを標準とする。
6.3.2.3 試料の塗り方: 混合した試料は,よくかき混ぜた後,目開き 600μm の金網でろ過し,直ちに塗る。試料の塗り方は,特に規定する以外は,吹付け塗り(エアスプレー塗り)とし,7日間乾燥したときに測定して,塗膜の厚さが 75±10μm になるように 1回塗る。吹付け条件は製品に指定された条件による。
このページの“トップ”へ