防食概論:塗装・塗料
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ここでは,塗膜と環境との相互作用について,【耐久性とは】, 【塗膜の長期耐久性】, 【防食塗料の JIS製品規格と耐久性】 に項目を分けて紹介する。
塗膜の評価(塗膜耐久性;耐久性とは)
耐久性とは
JIS K5500「塗料用語」
耐久性(durability)物体の保護,美粧など,塗料の使用目的を達成するための,塗膜の性質の持続性。
塗膜は,展色材(vehicle)やビヒクルとも呼ばれ,塗膜の骨格となる高分子材料(樹脂)の塗膜形成要素(film forming material),塗料に少量添加して,塗料の作業性,乾燥性などや塗膜の機械特性などの一つ若しくはそれ以上を改善又は変性する塗膜副要素(添加剤;additive),及び着色などの光学的性質,さび止めなどの保護的性質,又は装飾的な性能を付与する顔料(pigment)など多種多様の化合物での構成されている。
塗膜構成成分は,暴露環境に起因する水,酸素,他気体成分,塩などの環境成分,屋外では日射に含まれる紫外線との間で起きる化学反応など環境因子との相互作用により,暴露時間と共に徐々に変化する。
実環境では,環境因子の影響を長期間受けることで,塗膜の変質(劣化,老化)が進み,遂には使用に耐えない状態になる。塗膜変質の厳密な評価には,実環境に直接暴露するのが最良の方法と考えられる。しかし,この方法では評価結果が得られるまで長期間を要する。このため,塗膜に最も影響すると考えられる因子を選択し,強化することで,短期間の試験で塗膜の耐久性を推定できる試験方法が望まれ,多くの方法が提案され,最終的に JIS試験規格として採用されている。
塗膜耐久性の試験規格
塗膜の耐久性に影響する要因は,① 塗料の品質,② 塗装系(塗料の組合せ),③ 塗装技術,④ 塗装作業管理,⑤ 暴露環境因子といわれている。塗膜の耐久性評価では,これらの要因全てを考慮した試験方法の選択が望ましい。実際には,塗装技術,作業管理,及び環境因子の影響を任意に制御できるように試験条件を一般化するのは困難である。
従って,実際に用いる耐久性評価試験は,試験対象の塗料・塗装系に対し,試料の性能を最大限発揮できる塗装技術と施工管理を選択して試験片を作製し,特定の環境因子を選択して行う試験となっている。しかし,環境因子を限定すること,環境因子の強度(濃度)を高めたり,高い温度に曝すことにより,実環境での変化との相関が保てない場合も多い。
このことは,採用した環境因子に対する塗膜の抵抗性について,塗膜間の相対比較はできるが,実用上で最も知りたい情報の実用環境での“塗膜の耐久年”を評価するのは,不合理であることを示す。
従って,JIS 規格の長期耐久性試験を実施したとしても,各種要因・因子の総合的影響の結果である塗膜耐久性(塗膜寿命)を直接評価できないこと,単一の試験結果から寿命推定するのは危険であることを認識しておかなければならない。
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塗膜の長期耐久性
一般的に,塗膜の長期耐久性評価を目的に採用される試験項目は,耐湿性,耐塩水噴霧性,環境因子繰り返し性,耐光性,(促進耐候性),耐候性などである。
それぞれの概要を次に紹介する。なお,赤字の項目は,別の項で,JIS 製品規格での扱いを含めてより詳細に紹介した項目である。
耐湿性(moisture resistance, humidity resistance, resistance to humidity)
高湿度下での塗膜付着性,耐ふくれ性,腐食性などを評価することを目的とし,試験方法には,塗膜表面に結露が生じない程度の高湿度下で試験する方法,塗膜表面を結露させて試験する方法がある。
耐塩水噴霧性(resistance to neutral spray)
塩水噴霧試験に耐える性質。塩水噴霧試験は,塩化ナトリウム水溶液を連続的に噴霧し,塩化ナトリウム水で表面が薄く覆われた状況下での塗膜下腐食や塗膜傷部からの腐食進行に対する抵抗性を評価する。
噴霧水には,酸性成分を添加した塩水,腐食性を強化した塩水などを用いる試験もある。
環境因子繰り返し性(resistance to cyclic conditions)
選択された環境因子を組み合わせ,これの繰り返しの負荷で塗膜の変化(表面特性,ふくれ,割れ,さび)に対する抵抗性を評価する試験である。
主なものには,低温と高温を繰り返す耐湿潤冷熱繰返し性(humidity and cool-heat cycling test),塩水噴霧,乾燥,湿潤などの条件を組合せ,これを繰り返すサイクル腐食性(resistance to cyclic corrosion conditions)などがある。この中で,湿潤,紫外線を組み合わせた試験の促進耐候試験(artificial weathering test, accelerated weathering test)は,別で紹介する。
耐光性(light fastness, light resistance, light stability)
顔料,及び塗膜の特性,特に色が光の作用に抵抗して変化しにくい性質。【JIS K5500「塗料用語」】
カーボンアーク灯や水銀ランプを用いて,光(主に紫外線)を当て,塗膜表面の変化(色,光沢,白亜化)を評価し,塗膜表面の耐紫外線性を評価する。塗膜表面の濡れ条件と組み合わせた試験方法もある。この中で,湿潤,紫外線を組み合わせた試験の促進耐候試験は,別に紹介する。
促進耐候性(artificial weathering, accelerated weathering)
「促進耐候試験」の概念は,「環境因子繰り返し性」,及び「耐光性」の概念に含まれる特性試験であり,「促進耐候性」の定義はないが,日本では広く用いられている用語である。
試験は,太陽光を模擬した紫外線灯と塗膜表面の濡れ・乾燥条件下での,塗膜表面の変化(色,光沢,白亜化)に対する抵抗性を評価する。
評価試験法は,直接暴露による塗膜表面の変化を試験室内で模擬・促進することを狙って開発されたが,直接暴露で影響する要因の相互作用を考慮していないため,直接暴露とは様相の異なる結果となるケースが多く,直接暴露の促進になっていないというのが統一見解である。
この試験結果の解釈では,“塗膜の耐候性と相関がある”と結論するのは危険であることを認識しておかなければならない。耐候性との相関を誤解されないように,「促進耐候試験」の名称を「促進耐光試験」や「人工環境試験」などに変更すべきと考える技術者もいる。
耐候性(weathering resistance)
屋外で,日光,風雨,露霜,寒暖,乾湿などの自然の作用に抵抗して変化しにくい塗膜の性質。【JIS K5500「塗料用語」】
耐候性の評価は,試験片を屋外に直接暴露し,塗膜表面変化,ふくれ,割れ,さびの発生などの経時観察で行われる。
屋外暴露では,暴露地の気象因子,試験片の形状,暴露開始時期など多くの因子が影響する。このため,耐候性の評価では,規定された暴露条件下で,暴露期間中の気象因子が把握されていない限り,異なる暴露地,暴露期間の試験結果を相互比較できないなどの問題もある。
屋外暴露耐候性(outdoor exposure test, natural weathering)
試験片を,一定期間屋外にさらして,自然環境での腐食,さび,劣化などの状態を調べる試験。大気暴露試験,耐候性試験ともいう。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
実施に関しては,JIS Z 2381「大気暴露試験方法通則」に従う。特に,暴露結果の考察では,試験と同時に行われる暴露環境の環境因子,気象因子の測定結果が重要となる。
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防食塗料の JIS製品規格と耐久性
品質項目に「塗膜の長期耐久性」が規定されている防食塗装用塗料のJIS 製品規格を次に示す。
JIS K 5633 「エッチングプライマー」では,“耐候性”
JIS K 5552 「ジンクリッチプライマー」では,“耐塩水噴霧性”と“耐候性”
JIS K 5674 「鉛・クロムフリーさび止めペイント」では,“サイクル腐食性”と“耐候性”
JIS K 5553 「厚膜形ジンクリッチペイント」では,“耐塩水噴霧性”と“耐候性”
JIS K 5551 「構造物用さび止めペイント」では,“サイクル腐食性”と“耐候性”
JIS K 5516 「合成樹脂調合ペイント」では“促進耐候性”と“耐候性”
JIS K 5659 「鋼構造物用耐候性塗料」では“耐湿潤冷熱繰返し性”,“促進耐候性”と“耐候性”
まとめると,防食性能を重視する下塗り塗料では,“耐塩水噴霧性”,“サイクル腐食性”,及び“耐候性”が採用され,景観性能を重視する上塗り塗料(中塗り塗料とのセット)では,“耐湿潤冷熱繰返し性”,“促進耐候性”,及び“耐候性”が採用されている。
防食塗装に用いる全ての塗料に耐候性,すなわち大気暴露試験(atmospheric corrosion test, atmospheric exposure test)ともいわれる屋外暴露耐候性(outdoor exposure test)の実施が規定されている。
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