防食概論:塗装・塗料
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塗装概論(塗装工程と素地調整)
素地調整(手工具)
塗装時の素地調整(surface preparation ;ケレンともいう)は,古くから人力による手工具(hand tool)による方法にのみ頼っていた。電動機などの進歩により,機械処理が可能なサンドブラスト(sand blasting)が開発され,新設時塗装で利用されるようになった。
その後,小型で強力な電動機などが開発されたことで,手工具の動作を人力ではなく,電気,空気圧,油圧を動力として行う小型の動力工具(power tool)が開発された。
橋梁などの架設現場で実施される塗替え塗装の素地調整では,制約の大きいブラスト処理が困難なため,手工具と動力工具が用いられてきた。動力工具を用いた作業は手工具を用いた作業に比較し,作業効率は高いが,工具の小型化に限界があり狭あい部や凹凸の激しい腐食個所の処理ができない。このため,現在でも動力工具と手工具の併用が作業の基本となっている。
ここでは,実作業で用いられる主な手工具の特徴を紹介する。実施工では,工具の特性を理解し,対象物の状態に応じ適切に工具を選択しなければならない。
力棒(スクレーパー)
スクレーパーは,旧塗膜の活膜判定(塗膜の環境遮断性,及び付着性が保持された容易に剥離しない旧塗膜)なのか,劣化塗膜なのかの定性的な判定(容易に剥離するか否)にも用いられる。
これは,後述のディスクサンダーやカップワイヤーなどの動力工具では,塗膜に大きなせん断力が加わらいため,付着の弱い旧塗膜も除去されずに残るが,スクレーパーの作業では,塗膜にせん断力が加わり,付着性の低下した塗膜が比較的容易に剥離できるためである。
細のみ
狭あい部,細部及びアングル等の曲面部の劣化旧塗膜や凹凸の大きくない浅いさびの除去に用いられる。
鋲かき
リベット頭,ボルト・ナット部の劣化旧塗膜や凹凸の大きくない浅いさびの除去に用いられる。
ケレンハンマー
先端を鋭角に仕上げたハンマーで,凹凸の大きい,深いさびの除去に用いられる。
ワイヤブラシ
素地調整の仕上げ,粉化物の除去に用いる。
ダスタばけ
素地調整面の清掃に用いる腰の強い毛の刷毛(棕櫚刷毛)である。
【参考】
工具(tool)
工作に使用する道具の総称である。工具は,手作業用の手工具,機械に取り付けて用いる機械工具に分けられる。機能上からは,切削工具,研削工具,鍛造工具,仕上工具,木工具,測定工具,検査工具などに分ける。
動力工具(power tool)
手工具の動作を人力ではなく,電気,空気圧,油圧を動力として行う手作業用の工具をいう。用語の定義からは,動力工具も手工具の一種となるが,一般的には,人力による手作業用の工具のみを手工具といい,動力工具と区別する例が多い。
電気を動力とするものを電動工具(electric power tool, motor-operated electric tool),空気圧を動力とするものを空圧工具(pneumatic tool, air tool)やエアーツールといい,油圧を動力とするものを油圧工具(hydraulic tool)という。
塗膜(coat, film, paint film, coating)
塗られた塗料が乾燥してできた固体皮膜。
備考:ISO(国際規格) 用語規格では,単一の( 1回の)塗装でできる塗料の連続層を“coat”,素地に 1回又はそれ以上塗装してできる連続層を“film”と定義。【JIS K5500「塗料用語」】
塗料を素地に 1 回又は複数回塗装することによって形成する連続した塗料層。【JIS K5600-1-7「塗料一般試験方法−第1部:通則−第7節:膜厚」】
劣化(degradation, deterioration, aging)
材料の劣化は,時間経過,繰り返し使用などにより,熱,光(放射線),機械的摩擦,化学薬品,微生物などの影響を受け,化学的・物理的変化により材料の品質・性能が損なわれること。老化(aging)ともいわれる。
JIS K6900「プラスチック用語」では,劣化(崩壊;degradation)を“特性に有害な変化を伴うプラスチックの化学構造の変化。”,劣化(変質;deterioration)を“それらの特性の悪化により現れるプラスチックの物理的特性の永久変化。”,老化(aging)を“時間の経過の中で材料に生ずるすべての不可逆的な化学的及び物理的作用の全体。”と定義している。
ケレン(cleaning, hand cleaning)
JIS Z 0103「防せい防食用語」では,素地調整と同義語。
(社)色材協会編「塗料用語辞典」技報堂出版,1993では,clean の転訛(てんか)した陶工用語,鋼橋塗装,建築塗装等で鉄部のさびた部分をスクレーパ-等で除去すること。
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