防食概論塗装・塗料

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 ここでは,厚膜形ジンクリッチペイントの品質規格及び評価方法について, 【 JIS 品質規格】, 【塗料の品質試験】 に項目を分けて紹介する。

 塗料の評価(ジンクリッチペイント)

 厚膜形ジンクリッチペイント

 JIS K 55532010厚膜形ジンクリッチペイント

 適用範囲
 この規格は,鋼材の防せい(錆)に用いる厚膜形ジンクリッチペイントについて規定している。
 備考 厚膜形ジンクリッチペイントは,亜鉛末,及びアルキルシリケート,又はエポキシ樹脂(主剤,硬化剤),顔料,及び溶剤を主な原料としたものである。
 種類: 厚膜形ジンクリッチペイントは,次の 2 種類に分ける。
 アルキルシリケートをビヒクルとした 1液 1粉末形厚膜形無機ジンクリッチペイント1種,及びエポキシ樹脂をビヒクルとした 2液 1粉末形,又は 2液形(亜鉛末を含む液と硬化剤)の厚膜形有機ジンクリッチペイント2種がある。2種の硬化剤にはポリアミド,アミンアダクトなどが用いられる。
 
 【品質項目の概要】
 塗料の成分 : 亜鉛量が規定されている。
 なお,2002年版では,2種の品質として,ジンクリッチプライマーと同様に,エポキシ樹脂の定性を規定していたが,2010年の改訂で削除された。
 塗料の性状 : 容器の中での状態,加熱残分が規定されている。
 塗装作業 : 乾燥時間(表面乾燥性),ポットライフ,厚塗り性が規定されている。
 塗膜形成機能 : 塗膜の外観,耐衝撃性(耐おもり落下性)が規定されている。
 塗膜の性能や耐久性 : 1種,2種とも耐塩水噴霧性,屋外暴露耐候性が,エポキシ樹脂を用いる 2種では加えて耐水性が規定されている。

JIS K 5553 厚膜形ジンクリッチペイントの品質
太字;塗料の品質,青太字:塗膜の品質
  項  目    1種(無機)    2種(有機) 
  容器の中での状態    粉は微小で一様な粉末であるものとする。液はかき混ぜたとき堅い塊がなくて一様になるものとする。 
  乾燥時間 h     5以下    6以下 
  塗膜の外観    塗膜の外観が正常であるものとする。 
  ポットライフ    5時間で使用できるものとする。 
  耐衝撃性(デュポン式)    衝撃によって割れ及びはがれが生じてはならない。(500g,500mm) 
  厚塗り性    厚塗りに支障があってはならない。 
  耐塩水噴霧性    塩水噴霧に耐えるものとする。 
  耐水性    ―    水に浸したとき異常がないものとする。 
  混合塗料中の加熱残分(%)    70以上    75以上 
  加熱残分中の金属亜鉛(%)    75以上    70以上 
  屋外暴露耐候性    2年間の試験でさび,割れ,はがれ及び膨れがあってはならない。 

 【参考】
 亜鉛末(zinc dust)
 金属亜鉛を主成分とする灰色の粉末。さび止め顔料として用いる。【JIS K5500「塗料用語」】
 アルキルシリケート(alkyl silicate)
 金属ケイ素とアルコールの反応で合成されるアルコキシシランの一種で,水と容易に加水分解,縮重合する。例えば,エチルシリケート{ Si(OC2H54 ;IUPAC名 テトラエトキシシラン(Tetraethoxysilane)は,大気中の水蒸気により縮重合する無機ジンクリッチペイントの展色材として用いられている。
 エポキシ樹脂(epoxy resin)
 分子中にエポキシ基を 2個以上含む化合物を重合して得た樹脂状物質。エピクロヒドリンとビスフェノールとを重合して作ったものなどがある。【JIS K5500「塗料用語」】
 硬化剤にはポリアミンや酸無水物が使用される。プレポリマーの組成と硬化剤の種類との組み合わせで多様の物性の実現が可能であること,寸法安定性,耐水性・耐薬品性及び電気絶縁性が高いことから電子回路の基板,封入剤,接着剤,塗料,FRPの積層剤として利用されている。
 常温硬化形エポキシ樹脂塗料に用いられる硬化剤には,アミンアダクト,ポリアミドが推奨されている。
 アミンアダクト(amine adduct)
 変性アミンの一種で,ポリアミンエポキシ樹脂アダクトともいわれ,エポキシ樹脂に過剰の DETA(ジエチレントリアミン)などのポリアミンを反応させて得られた残留アミノ基の活性水素を持つ化合物。エポキシ樹脂の硬化剤として用いられる。
 ポリアミド(polyamide)
 連鎖中の繰返し構造単位がアミドの形のものである重合体。【JIS K 6900「プラスチック―用語」】
 アミド結合(amide bond)とは,アミンとカルボン酸の脱水縮合反応で生成されるカルボン酸アミド( R–C(=O)–N R'R")の構造のうち,C(=O)–N のカルボニル基と窒素との結合部をいう。

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 塗料の品質試験

 ここでは,厚膜形ジンクリッチペイント塗料品質の試験法を紹介する。塗膜品質の試験法については,【塗膜の評価】・「下塗り塗料で紹介する。
 6. 試験方法
 6.1 サンプリングは,JIS K 5600-1-2 「塗料一般試験方法−第1部:通則−第2節:サンプリング」による。
 6.2 試験用試料の検分及び調整は,JIS K 5600-1-3 「塗料一般試験方法−第1部:通則−第3節:試験用試料の検分及び調整」による。
 6.3 試験の一般条件は,JIS K 5600-1-1 「塗料一般試験方法−第1部:通則−第1節:試験一般(条件及び方法)」 ,JIS K 5600-1-6 「塗料一般試験方法−第1部:通則−第6節:養生並びに試験の温度及び湿度」及び JIS K 5601-1-1 「塗料成分試験方法−第1部:通則−第1節:試験一般(条件及び方法)」によるほか,次による。
 6.3.1 試験の場所: 養生及び試験を行う場所は,標準条件(温度 23±2℃,相対湿度 50±5%),目視観察のときの光源(拡散昼光,色観察ブース)
 6.3.2 試験片の作製
 6.3.2.1 試験板JIS K 5600-1-4「塗料一般試験方法−第1部:通則−第4節:試験用標準試験板」による。ただし,特に規定する以外は,ブラスト洗浄によって調整した鋼板 (150×70×3.2mm) とする。鋼板は,JIS G 3101に規定する SS400の鋼板,ブラスト条件は,除せい度 ISO 8501-1 Sa2・1/2以上,研削材 グリット,表面粗さ 25μmRZJISを標準とする。
 6.3.2.3 試料の塗り方: 混合した試料は,よくかき混ぜた後,目開き 600μm の金網でろ過し,直ちに塗る。試料の塗り方は,特に規定する以外は,吹付け塗り(エアスプレー塗り)とし,7日間乾燥したときに測定して,塗膜の厚さが 75±10μm になるように 1回塗る。吹付け条件は製品に指定された条件による。
 strong>6.3.2.6 膜厚の測定: JIS K 5600-1-7「塗料一般試験方法−第1部:通則−第7節:膜厚」による。
 
 6.4 容器の中での状態の試験は, JIS K 5600-1-1 の 4.1(容器の中の状態)による。ただし,粉末については目視によって観察し判定する。
 6.5 乾燥時間の試験は,JIS K 5600-3-3 「塗料一般試験方法−第3部:塗膜の形成機能−第3節:硬化乾燥性」による。
 6.7 ポットライフの試験は, JIS K 5600-2-6 「塗料一般試験方法−第2部:塗料の性状・安定性−第6節:ポットライフ」による。ただし,標準条件のときポットライフは 5時間とする。容器は密閉できる金属製を用い,試験板は鋼板とし,塗装はエアスプレー塗りで乾燥 は自然乾燥とする。
 6.9 厚塗り性の試験は,試料を垂直に保持した試験板の片面に 6.3.2.3の方法によって,乾燥 膜厚が約 65μm となるように塗装する。試験片をそのまま 3分間置いて,再び乾燥膜厚が約 65μm となるように塗り重ね,合計膜厚が 130±10μm になるようにする。48時間置いて目視によって塗膜を調べ,塗 面に割れ及びはがれを認めないときは,厚塗り性に支障がない。とする。ただし,このとき試験片の周辺約 20mm 以内の部分の塗膜は,評価の対象外とする。
 6.12 混合塗料中の加熱残分の試験は, JIS K 5601-1-2 「塗料成分試験方法−第1部:通則−第2節:加熱残分」による。ただし,1種は液について,105±2℃で 1時間の条件で測定し,粉末との混合比から混合塗料の加熱残分を求める。2種は混合塗料について 105±2℃で 3時間の条件で測定する。
 6.13 加熱残分中の金属亜鉛の定量は,附属書 2(規定)(溶剤不溶物中の金属亜鉛の定量)による。ただし,亜鉛粉末のこん(梱)包形態によって,次の 2種類の試験方法を適用する。
 a) 1液 1粉末形,又は 2液 1粉末形の試料: 粉末中の金属亜鉛の量を求め,加熱残分中の金属亜鉛は,粉末の混合比及び加熱残分から算出する。
 b) 2液形の試料: 亜鉛粉末の入っている液から,附属書 1(規定)(溶剤不溶物の定量)によって溶剤不溶物を分取し,溶剤不溶物中の金属亜鉛の量を求め,溶剤不溶物及び加熱残分から金属亜鉛を算出する。なお,溶剤不溶物を分取するときに用いる溶剤は,JIS K 8903 に規定する 4-メチル-2-ペンタノン(メチルイソブチルケトン)及び JIS K 8034 に規定するアセトンを容量比 1:1 で混合する。
 6.14 エポキシ樹脂の定性(2010年追補で全文を削除)
 参考:2002年版抜粋
 エポキシ樹脂の定性は,JIS K5551「エポキシ樹脂塗料」の附属書 1による。この場合,抽出溶剤は,JIS K 8680に規定するトルエン及びアセトンを容量比 1 : 1 で混合したものを用いる。
 定性は,試料の 赤外吸収スペクトルをエポキシ樹脂の赤外吸収スペクトル(図)と比べ,次にエポキシ樹脂の特性吸収を調べる。試料の赤外吸収スペクトルパターンが, エポキシ樹脂の赤外吸収スペクトルパターンと類似し,試料のスペクトルに指定する 5つの特性吸収を認めたときは,“試料中にエポキシ樹脂を含む。”とする。
 なお,JIS K5551「エポキシ樹脂塗料」は,2008年にJIS K5551「構造物用さび止めペイント」に改訂され,品質項目「エポキシ樹脂の定性」が廃止されている。ただし,2010年版の JIS K 5552「ジンクリッチプライマー」の 2種には品質項目「エポキシ樹脂の定性」が規定されている。
 
 附属書 1(規定) 溶剤不溶物の定量
 1. 要旨 試料に溶剤を加えて溶剤可溶物を溶かし,遠心分離して得た固形物を溶剤不溶物として,これを試料中の質量分率として求める。
 附属書 2(規定) 溶剤不溶物中の金属亜鉛の定量
 1. 要旨 溶剤不溶物中の金属亜鉛を塩化鉄(III)溶液に溶解し,還元によって生成した第 1 鉄イオンを過マンガン酸カリウム溶液で滴定して,対応する金属亜鉛の量を溶剤不溶物中の質量分率として求める。

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