防食概論:塗装・塗料
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ここでは,多液形塗料の混合後の消費期限,すなわちポットライフ(可使時間)について, 【ポットライフとは】, JIS製品規格例として【プライマー,ジンクリッチペイント】, 【鋼構造物用塗料】に項目を分けて紹介する。
塗料の評価(ポットライフ;可使時間)
ポットライフとは
JIS K5500「塗料用語」
ポットライフ(pot life)幾つかの成分に分けて供給される塗料を混合した後,使用できる最長の時間
用語の定義より,ポットライフは,複数の荷姿で,混合により反応硬化する多液形塗料に適用される品質である。一般的には,可使時間ともいう。
一般的には,ポットライフの試験は,JIS K5600-2-6「塗料一般試験方法−第 2 部:塗料の性状・安定性−第 6 節:ポットライフ」による。
用語の定義では“使用できる最長の時間”となっているが,塗料の JIS製品規格では,最長時間を求めるのではなく,その塗料の実用で想定される一日の塗装作業時間の最大値,例えば,塗装前準備,塗装後の後片付け時間を除き,塗料を調合してからその日の塗装作業完了までに要する時間(例えば 5 時間)を確保できるポットライフを有するかの確認試験となっている。
JIS K5600-2-6「第 6 節:ポットライフ」
適用範囲多成分塗装系の試料を調製及び養生した後,試料ごとに選択する物性値を測定することによって,ポットライフを評価するための方法。
この試験方法は,次の二つの試験方法を規定する。
a) 指定された期間の後に,特定の物性値を測定することによる合否判定試験
b) 適度な時間間隔での反復測定によるポットライフの測定
この規格は,製品を塗装するときの現場での管理のためのものではなく,実験室で,“ポットライフ”を決定することを目的としている。
原理
反応系の成分を,個々に調製した後に混合する。混合物をほぼ断熱条件下で,指定された時間,静置する。
その後,試料を混合物から採取し,特定の物性値を測定して,供試製品に必要とされる物性値に適合しているかを確認する。
様々な物性値が,複雑に反応系の影響を受けるため,測定する物性値によってポットライフが異なる結果となる。このため,ポットライフを決定する場合には,どの特性値を測定したかを明らかにする必要がある。
様々な反応系を試験するときの物性値に関する指針を,附属書に示す。
装置
容器 任意の材料で作られた容量約 500 mL で,高さが直径の 1~1.5 倍のもの。
断熱容器 反応混合物の入った容器を養生するためのもの。正確に試料のポットライフを決定するためには,サンプルを断熱に近い条件で養生する必要がある。断熱容器の材質は,ポリスチレン,ポリウレタン又はガラスの発泡体で,25 mW/(m・K)以下の断熱能力をもつもの。断熱容器の大きさは,孔を一つ以上もつブロックで,各々の孔が 20mm 以上の断熱材で囲まれるもの。孔の深さは,容器の高さと同じものとする。
手順
反応系の各成分は,別々にJIS K 5600-1-6「養生並びに試験の温度及び湿度」に従って調製する。調製後の各成分間の温度差は,1℃以上であってはならない。
混合物が試験のために適切な量になるように成分を混合する。容器に混合物を 300±3mL 入れ,断熱容器の孔に容器を入れる。
合否試験を行う場合は,混合物を指定されたポットライフ時間放置した後に,調査対象の特定の物性値を測定する。
ポットライフ自体を決める場合には,定められた間隔で,容器から試料を採取し,調査対象の特定の物性値を測定する。判定は,調査対象の物性値,例えば,光沢の値が,製品規格又は仕様書の要求事項に十分に適合していないとき,ポットライフを超えたとする。
反応系 | 測定する特性 | ポットライフの終点 | 試験方法 |
---|---|---|---|
不飽和ポリエステル(触媒入り) | 粘度 | ゲル化点 | JIS K 6901 |
エポキシ樹脂(水系) | 光沢(塗膜) | 初期の値の50%(または別途定めたのも) | JIS K 5600-4-7 |
エポキシ樹脂 (溶剤形,無溶剤形,変性型) ピッチ・ウレタン |
粘度 塗装作業性 |
定めた増加割合,又は制限値 a) 指定された方法による塗装の許容限界, b) 塗膜中の欠陥の存在(外観評価) |
JIS K 5600-2-3 |
ポリウレタン (溶剤形,無溶剤形,湿気硬化形) |
付着性 粘度 均一性 |
“混合直後の物”と比較しての違い a)(定めた)増加割合,又は制限値, b) ゲル化点 皮張り/ゲル生成 |
JIS K 5600-5-7 JIS K 5600-5-6 JIS K 5600-2-3 JIS K 5600-2-2 JIS K 5600-1-3 |
ポリ(ビニルブチレート) | 非鉄素材への付着性 | - | JIS K 5600-5-6 |
アルキドメラミン(酸触媒形) | 透明性 | a) 濁り,b) ヘイズ | ISO 15715 ISO 13803 |
シリケート | 均一性 耐溶剤性 |
表面皮張り “混合直後の物”と比較しての違い |
JIS K 5600-1-3 JIS K 5600-6-1 |
JIS K 5600-1-3「塗料一般試験方法−第1部:通則−第3節:試験用試料の検分及び調整」, JIS K 5600-2-2「塗料一般試験方法−第2部:塗料の性状・安定性−第2節:粘度」, JIS K 5600-2-3「塗料一般試験方法−第2部:塗料の性状・安定性−第3節:粘度(コーン・プレート粘度計法)」, JIS K 5600-4-7「塗料一般試験方法−第4部:塗膜の視覚特性−第7節:鏡面光沢度」, JIS K 5600-5-6「塗料一般試験方法−第5部:塗膜の機械的性質−第6節:付着性(クロスカット法)」, JIS K 5600-5-7「塗料一般試験方法−第5部:塗膜の機械的性質−第7節:付着性(プルオフ法)」, JIS K 5600-6-1「塗料一般試験方法−第6部:塗膜の化学的性質−第1節:耐液体性(一般的方法)」, JIS K 6901「液状不飽和ポリエステル樹脂試験方法」, ISO 15715「Binders for paints and varnishes−Determination of turbidity」, ISO 13803「Paints and varnishes−Determination of haze on paint films at 20°」
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プライマー,ジンクリッチペイント
プライマー,ジンクリッチペイントなどでポットライフを規定する JIS製品規格での取り扱いを紹介する。
JIS K5633「エッチングプライマー」
素地の金属と反応するためのりん酸,又はりん酸とクロム酸塩顔料とを含み,ビニルブチラール樹脂などのアルコール溶液を主なビヒクルとする液状の塗料。上記附属書(物性値に関する指針)におけるポリ(ビニルブチレート)に該当する。7.6 ポットライフの試験は,JIS K 5600-2-6によるほか次による。
7.6.1 試験板・試料 試験板は,ぶりき板 (500×200×0.3mm) とし,試料は,混合したものを用いる。
7.6.2 操作 密閉できる金属製容器を用い,混合して 8時間後の試料について,容器の中での状態,塗膜の外観,塗装作業性を調べる。
7.6.3 判定 容器の中での状態が容易に一様になり,塗装作業性に支障がなく,塗膜の外観が正常であるときは, 8時間使用できる。とする。
JIS K5632「ジンクリッチプライマー」
塗膜形成要素として,アルキルシリケート系ビヒクルを用いた無機系ジンクリッチプライマーとエポキシ樹脂系ビヒクルを用いた有機系ジンクリッチプライマーとがある。上記附属書(物性値に関する指針)におけるシリケート,及びエポキシ樹脂[溶剤形,無溶剤形,変性型]に該当する。6.8 ポットライフの試験は,JIS K 5600-2-6によるほか次による。
6.8.1 試験容器 試験容器は,密封できる金属製,ガラス瓶又はポリエチレン製とする。
6.8.2 試験 試験板は,ブラスト処理をした鋼板で,寸法は 200×100×3.2mm とする。
6.8.3 操作 操作は,次による。
a) 主剤と硬化剤をその製品に規定した方法によって,よく混合し,容器に入れふたをし,標準条件で 5時間静置したものを試料とする。
b) 試料をかくはん棒でよくかき混ぜ,容器の中での状態を調べる。
c) 試料を目開き 600μm の金網でろ過し,エアスプレーで塗り,試験片を立て掛けて 48 時間置いた後,塗膜の外観を調べる。
6.8.4 判定 判定は,試料をかき混ぜたとき,顔料の沈降がないか,あってもかき混ぜれば容易に一様に分散し,混合直後に比べて著しい粘度の上昇及びゲル化がなく,更に,に塗膜の外観にが正常で,流れ・あな及びしわの程度が大きくないときは,ポットライフは 5時間で使用できる。とする。
JIS K 5553「厚膜形ジンクリッチペイント」
厚膜形ジンクリッチペイントは,亜鉛末,及びアルキルシリケート,又はエポキシ樹脂(主剤,硬化剤),顔料,及び溶剤を主な原料としたものである。6.7 ポットライフの試験は,JIS K 5600-2-6による。ただし,標準条件のときポットライフは 5時間とする。容器は密閉できる金属製を用い,試験板は鋼板とし,塗装はエアスプレー塗りで乾燥 は自然乾燥とする。
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鋼構造物用塗料
鋼構造物用のさび止めペイント,耐候性塗料などでポットライフを規定する JIS製品規格での取り扱いを紹介する
JIS K 5551「構造物用さび止めペイント」
A 種,B 種は有機溶剤を揮発成分とする反応硬化形エポキシ樹脂系塗料で,C 種は有機溶剤を揮発成分とする反応硬化形変性エポキシ樹脂系塗料,又は反応硬化形変性ウレタン樹脂系塗料で,D種,E種は水を主要な揮発成分とする反応硬化形エポキシ樹脂系塗料である。上記附属書(物性値に関する指針)におけるエポキシ樹脂[溶剤形,無溶剤形,変性型],及びポリウレタン(溶剤形,無溶剤形,湿気硬化形)に該当する。
7.9 ポットライフ
a) 試験容器:試験容器は,容量約 500mLで高さが直径の 1~1.5倍の密封できる金属製,ガラス製又は ポリエチレン製とする。
b) 保持装置:JIS K 5600-2-6の 6.2(断熱容器)による。
c) 試験板:試験板は,研磨によって調整した SPCC-SB の鋼板とする。ただし,大きさは150 mm×70 mm×0.8 mmとする。
d) 試験方法:操作は,次による。
1):1液形の場合,こん(梱)包容器を開缶後よくかくはん(攪拌)し,試験容器に入れ蓋をする。多液形の場合は,主剤,硬化剤などをそれぞれよくかくはん(攪拌)し,均一液体とした後,その製 品の製造業者が指定する混合比率によって,試験容器に入れ,よく混合した後蓋をする。試験容器 を保持装置に入れ養生する。なお,試料は,うすめ液でうすめた試料を用いてもよい。
2):A種,B種及び C種 1号の場合は,(23±1)℃で養生,C種 2号の場合には,(5±1)℃で養生し,5時間後に取り出して,試料とする。また,D種及び E種の場合は,(23±1)℃で養生し,3時間後に取り出して,試験試料とする。
3):試料をかくはん(攪拌)棒でよくかくはん(攪拌)し,容器の中の状態を調べる。
4):3)の後,直ちに試料を試験板に塗り試験片とする。試験片を立て掛けて 48時間置いた後,塗膜の外観を調べる。
e) 評価及び判定:次の全ての状態にあるとき,ポットライフが A種,B種及び C種では“ 5時間”,D 種及び E種では“ 3時間”とする。
1):d) 3)によって試料をかくはん(攪拌)したとき,試料が容易に一様に分散し,混合直後に比べて著しい粘度の上昇及びゲル化がない。
2):d) 4)によって塗膜の外観を観察したとき,見本品と比較して,流れ,穴及びしわの程度が大きくなく,割れ及び剝がれがない。
JIS K 5659「鋼構造物用耐候性塗料」
中塗りの原料は,規格に明記されていないが,エポキシ樹脂を用いる場合が多い。上塗り塗料の原料は,ふっ素系樹脂,シリコン系樹脂又はポリウレタン系樹脂を用いる場合が多い。上塗り塗料は,上記附属書(物性値に関する指針)におけるポリウレタン(溶剤形,無溶剤形,湿気硬化形),中塗り塗料は,エポキシ樹脂[溶剤形,無溶剤形,変性型]に該当する。
7.8 ポットライフの試験は,次による。
a) 試験容器:試験容器は,容量約 500mLで高さが直径の 1~1.5倍の密封できる金属製,ガラス製又は ポリエチレン製とする。
b) 保持装置:JIS K 5600-2-6の 6.2(断熱容器)による。
c) 試験板:A種に用いる試験板は,研磨によって調整した大きさ 150×70×0.8 mm の SPCC-SB の鋼板とする。また,B種に用いる試験板は,溶剤洗浄によって調整した,大きさ 200×100×2mm の板ガラスとする。
d) 試験方法:操作は,次による。
1):1液形の場合,こん(梱)包容器を開缶後よくかくはん(攪拌)し,試験容器に入れ蓋をする。多液形の場合は,主剤,硬化剤などをそれぞれよくかくはん(攪拌)し,均一液体とした後,その製 品の製造業者が指定する混合比率によって,試験容器に入れ,よく混合した後蓋をする。試験容器 を保持装置に入れ養生する。なお,試料は,うすめ液でうすめた試料を用いてもよい。
2):標準状態で,A種は 5時間,B種は 3時間養生してから取り出して,試料とする。
3):試料をかくはん(攪拌)棒でよくかくはん(攪拌)し,容器の中の状態を調べる。
4):3)の後,直ちに試験片を作製する。試験片を立て掛けて 48時間置いた後,塗膜の外観を調べる。
e) 評価及び判定:次の全ての状態にあるとき,ポットライフは A種では“ 5時間”,B種では“ 3時間”とする。
1):d) 3)によって試料をかくはん(攪拌)したとき,試料が容易に一様に分散し,混合直後に比べて著しい粘度の上昇及びゲル化がない。
2):d) 4)によって観察したとき,見本品と比較して,塗膜の外観流れ,穴及びしわの程度が大きくなく,割れ及び剝がれがない。
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