防食概論塗装・塗料

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 ここでは,塗料・塗膜の特性に大きく影響する塗膜構成要素,すなわち【顔料】, 【さび止め顔料・防せい顔料】, 【体質顔料】 を紹介する。

 塗料概論(塗料の構成要素)

 顔料

 顔料(pigment;ピグメント)
 一般に水や有機溶剤に溶けない微粉末状で,光学的,保護的又は装飾的な性能によって用いられる物質。無彩又は有彩の,無機又は有機の化合物で,着色,補強,増量などの目的で塗料,印刷インキ,プラスチックなどに用いる。屈折率の大きいものは隠ぺい力が大きい。
 備考:特殊な場合には,例えば,防せい顔料では,ある程度の水溶性が必要とされることがある。【JIS K5500「塗料用語」】
 
 顔料は,腐食抑制機能の付与を目的とする防せい顔料・さび止め顔料(rust preventive pigment, rust inhibitive pigment),厚塗り性,隠ぺい性等の付与や改善を目的とする体質顔料(filler, extender pigment),色彩の付与を目的とする着色顔料(color pigment),その他の強度,弾性,導電性などの機械・物理特性の付与や改善を目的とする特殊顔料(special pigments)に分類される。

 さび止め顔料(防せい顔料)

 腐食抑制を目的に添加される顔料は,一般的に防せい(錆)顔料と称することが多い。しかし,JIS規格の用語にはさび止め顔料(rust preventive pigment, rust inhibitive pigment)が好んで用いられる。
 塗装による防食(corrosion prevention)は,めっきなどの金属被覆やホウロウなどの無機被覆と同様に,対象物表面を外部環境から遮断する環境遮断が基本である。
 しかし,塗装で用いる塗膜は有機高分子材料のため,数百μm 程度の厚みでは,金属の腐食に影響する酸素や水分子の透過を十分に遮断することはできない。更には,一般的な施工(塗装作業)で均質な塗膜を形成することが困難で,少なからずの塗膜欠陥部(不均質部位)を含むのが通例である。
 このように,有機高分子材料で構成される実用塗膜の弱点を補うため,多くの防食塗装系の下塗り塗料(undercoat, priming coat)には,さび止め顔料(防せい顔料)を用いたさび止めペイント(anticorrosive paint, rust inhibiting paint)を採用している。
 
 2000年代以前の主要なさび止め顔料は,安価で高い性能を示す鉛(Pb)やクロム(Cr)の化合物が用いられていいた。例えば,JIS製品規格として,鉛丹(Pb3O4),亜酸化鉛(Pb2O),ジンククロメート(ZnCrO4・4Zn(OH)2),シアナミド鉛(CN2Pb),塩基性クロム酸鉛(PbCrO4・PbO),鉛酸カルシウム(2CaO・PbO2(Ca2PbO4))などが規定されていた。なお,これらを用いた鉛系さび止めペイント(lead-based anticorrosive paint)の JIS製品規格は 2010年から 2018年までの間に順次廃止されている。
 
 近年は鉛化合物やクロム化合物の健康被害に対する関心が高まり,鉛やクロムを含まないさび止め顔料が用いられるようになった。代表的なものには,亜鉛末(Zn),りん酸亜鉛系(例えばZn3(PO4)2),りん酸アルミニウム系(例えばAlH2P3O10・2H2O),モリブデン酸塩系(例えばZnMoO4/ZnO),亜リン酸亜鉛系(例えばZnPHO3/ZnO)などがある。
 
 非鉛系さび止めペイント(lead-free anticorrosive paint)
 鉛化合物を含まない顔料を用いたさび止めペイント全般を指す。JIS製品規格には 合成樹脂調合ペイントや合成樹脂エマルションペイントを用いる塗装仕様において,さび止め顔料に鉛系及びクロム系成分を使用しないで,一般的な環境下での鉄鋼製品などのさび止めに用いる JIS K56212008 「一般用さび止めペイント;Anticorrosive paints for general use」,一般的な環境下での鉄鋼製品,鋼構造物などのさび止めに用いる塗料で,鉛フリー及びクロムフリーのさび止め顔料を含む JIS K56742008 「鉛・クロムフリーさび止めペイント;Lead-free, Chromium-free anticorrosive paints」,エポキシ樹脂系,変性エポキシ樹脂系塗料を用いた鋼構造物などの下塗りに用いる JIS K 55512018「構造物用さび止めペイント」,さび止め顔料として亜鉛末を用いた JIS K 55522010 「ジンクリッチプライマー」,JIS K 55532010 「厚膜形ジンクリッチペイント」などがある。

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 体質顔料

 体質顔料(filler, extender pigment)
 増量(厚膜化)に加えて,着色性(隠ぺい性)や塗膜強度の改善を目的に用いられる。一般的に用いられる材料には,次のものがある。

 バライト粉(barytes)
 粒子径 5~100μm,重晶石(硫酸バリウムBaSO4)を粉砕したもの。
 耐候性,耐熱性塗料に用いられる。

 沈降性硫酸バリウム(precipitated barium, sulfate, blane fixe)
 粒子径 0.01~5μm,重晶石の還元生成物である硫化バリウムと硫酸との反応生成物(BaSO4)をふるい分け,表面処理したもの。
 光沢・発色性改善,平滑性向上を目的に用いられる。

 タルク(talc)
 粒子径 1~30μm,滑石を粉砕・分級したもの。
 増量,顔料の沈降防止,塗膜ひび割れ防止などの目的に用いられる。

 炭酸カルシウム系(calcium carbonate)
 炭酸カルシウム(CaCO3には,糖晶質石灰石を粉砕・分級した重質炭酸カルシウム(粒子径 0.7~15μm)の他に,化学的に合成した沈降性炭酸カルシウム(precipitated calcium carbonate ;粒子径 0.02~5μm)もある。
 増量,粘性・強度の調整を目的に用いられる。

 粘土鉱物系
 カオリン(kaoline, kaolinite),クレー(clay)などを主成分とする鉱物を粉砕・分級したもの。樹脂との濡れ性改善のため,カップリング剤(分子中に無機物との親和性がある基と有機物と反応する官能基を持つ添加剤,仲介役)で表面処理したものなどがある。
 塗膜のつや・強度の調整,顔料沈降防止を目的に用いられる。
 
 【参考】
 隠ぺい力(塗膜の)(hiding power)
 塗料が素地の色又は色差を覆い隠す能力。黒と白とに塗り分けて作った下地の上に,同じ厚さに塗ったときの塗膜について,色分けが見えにくくなる程度を,見本品の場合と比べて判断する。【JIS K5500「塗料用語」】
 隠ぺい率(塗膜の)(contrast ratio)
 塗料が下地の色の差を覆い隠す度合。黒と白とに塗り分けて作った下地の上に,同じ厚さに塗ったときの,塗膜の45度,0度拡散反射率又は三刺激値Yの比で表わす。【JIS K5500「塗料用語」】
 カップリング剤(coupling agent)
 分子中に無機物との親和性がある基と有機物と反応する官能基を持つ添加剤。通常ではなじみ難い有機質材料と無機質材料の仲介役として作用する。
 例えば,ビニル基やエポキシ基を持つシランなどのシランカップリング剤(silane coupling agent)は,複合材料の樹脂と繊維(フィラー)の分散性向上,複合材料の特性向上,無機材料の表面改質などに用いられる。

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