防食概論塗装・塗料

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 ここでは,塗膜の耐久性評価に用いられる人工環境試験である【促進耐候性とは】,  【 JIS試験規格(キセノンランプ法)】,  【 JIS試験規格(紫外線蛍光ランプ法)】に項目を分けて紹介する。

 塗膜の評価(塗膜耐久性;人口環境試験,促進耐候性)

 促進耐候性とは

 JIS K 5500「塗料用語」

 耐候性(weathering resistance)
 屋外で,日光,風雨,露霜,寒暖,乾湿などの自然の作用に抵抗して変化しにくい塗膜の性質。JIS K 5600-7-6「屋外暴露耐候性」参照
 促進耐候試験(accelerated weathering test, accelerated weathering, artificial weathering)
 塗膜は屋外にさらされると,日光,風雨などの作用を受けて劣化する。この種の劣化の傾向の一部を短時間に試験するために,紫外線又は太陽光に近似の光線などを照射し,水を吹き付けるなどして行う人工的な試験JIS K 5600-7-7「促進耐候性及び促進耐光性(キセノンランプ法)」 , JIS K 5600-7-8「促進耐候性(紫外線蛍光ランプ法)」 参照。
 促進耐候試験機(accelerated weathering machine)
 促進耐候性を試験する機械。各種の形式のうち,アトラス形が最も広く使われている。炭素アーク灯を 2 個用いて特定波長分布の光を発生させて塗膜に照射し,更に 120分間照射中に 102分間隔で 18分間ずつ水の霧を吹き付ける。Weather-O-meter は,アトラス会社の商標。このほかに光源としてキセノンランプ,紫外線蛍光ランプを用いるものなどがある。JIS K 5600-7-7「促進耐候性及び促進耐光性(キセノンランプ法)」,JIS K 5600-7-8「促進耐候性(紫外線蛍光ランプ法)」 参照。
 
 耐候性は,実環境への暴露試験(耐候性試験により,屋外で,日光,風雨,露霜,寒暖,乾湿などの自然の作用に抵抗して変化しにくい塗膜の性質を評価する。
 一方,人工光源を用いた促進耐候試験に抵抗して変化しにくい塗膜の性質を,一般には促進耐候性と称している。
 促進耐候試験は,人工光源に太陽光を模擬した紫外線灯を用い,塗膜表面の濡れ・乾燥の条件を繰り返す環境因子繰り返し性を評価する試験方法の一種で,主に上塗り塗膜の表面変化(色,光沢,白亜化)に対する抵抗性の評価に用いられている。
 
 すなわち,耐候性促進耐候性は,条件が大きく異なる試験を用いた塗膜の性質の評価であり,促進耐候性は,用語から想定される耐候性を促進的に評価するものではないことに留意しなければならない。
 すなわち,促進耐候試験は,直接暴露による塗膜表面の変化を試験室内で模擬・促進することを狙って開発された。しかし,直接暴露の各種要因の相互作用を考慮していないため,直接暴露とは様相の異なる結果となるケースが多く,直接暴露の促進になっていないというのが統一見解である。
 重ねて言うと,促進耐候試験結果を実環境での塗装系塗膜の耐久性と混同する例が多いが,試験結果の解釈では,“塗膜の耐候性と相関がある”と結論するのは危険であることを認識しておかなければならない。
 
 促進耐候試験は,使用する光源の違いで分けられる。一般的には,光源として用いられるものには,カーボンアーク灯,キセノンアーク灯,紫外線蛍光灯,及びメタハライド灯が知られている。
 塗膜の JIS 試験規格(促進耐候試験には,“キセノンランプ法”,及び“紫外線蛍光ランプ法”が規定されている。なお,過去には,カーボンアーク灯の規格も存在したが,現在は廃止されている。
 
 【参考】
 カーボンアーク灯(carbon arc lamp)
 放電灯(discharge lamp)の一種で,炭素(カーボン)電極間のアーク放電によって発光する発光管を持たない放電灯。発光管を持たないため,大気中での放電では,炭素電極の消耗と反応ガスの発生が起きる。
 キセノンランプ(xenon arc lamp)
 キセノンアーク灯ともいい,高圧のキセノンガスを封入した放電管で,可視域から紫外域の連続スペクトルが自然昼光に近い光が得られる。
 紫外線蛍光ランプ(fluorescent UV lamp)
 一般蛍光灯と同じ原理で点灯するもので,蛍光体とガラスの種類を変えることで,種々の分光分布が得られる。JIS K 5600-7-8 「促進耐候性(紫外線蛍光ランプ法)」 では,タイプ1,タイプ2,タイプ3 の 3種類のランプが規定されている。
 タイプ 1は,一般に UVB(313)と呼ばれ,波長 313nm のピーク放射をもち,太陽光線には存在しない 300nm 未満の波長で相当量の放射線を放射する。タイプ 2 は,一般に UVA(340)と呼ばれ 340nm のピーク放射をもつ。タイプ 3 は,一般に UVA(351)と呼ばれ 351nm のピーク放射をもつ。タイプ 2 とタイプ 3 は,何れも 300nm 未満の放射がないランプである。
 メタハライド灯(metal halide lamp)
 高圧水銀灯と類似した構造を持ち,発光管の中に水銀,希ガス,金属のハロゲン化物(主としてヨウ化物)を封入したもの。電極間のアーク放電で,金属ハロゲン化物が金属原子とハロゲン原子に分解する。これにより,金属原子の励起・電離によって金属固有の線スペクトルを持つ光が発生する。

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 JIS試験規格(キセノンランプ法)

 JIS K 5600-7-7「塗料一般試験方法−第 7部:塗膜の長期耐久性−第 7節:促進耐候性及び促進耐光性キセノンランプ法)」(Testing methods for paints−Part 7 : Long-period performance of film−Section 7 : Accelerated weathering and exposure to artificial radiation (Exposure to filtered xenon-arc radiation)
 適用範囲
 この規格は,光源としてキセノンアークランプを用いた促進試験装置内で,水及び水蒸気の作用を含めて,促進耐候性試験,又は促進耐光性試験によって,塗膜を暴露する方法について規定する。
 この試験方法では,試験前,試験中,及び試験後の選択した要因を比較測定することによって,個別に評価することができる。
 この規格は,試験の最も重要な要因,及び暴露装置の条件を規定する。
 
 用語及び定義
 この規格で用いる主な用語及び定義は,JIS K 5500「塗料用語」によるほか,次による。
 老化現象(ageing behaviour)
 促進耐候性試験又は促進耐光性試験における塗膜の性質の変化。
:老化を起こす要因の一つの尺度は,400nm以下の波長又は特定の波長,例えば,340nmにおける放射露光量 Hである。塗膜の老化現象は,塗膜の種類,塗膜の暴露条件,老化の進行を監視するために選択した特性及びその変化の程度に依存する。
 放射露光量,H(radiant exposure)
 試験片に放射され,次の式で与えられる放射エネルギーの量。
   H=∫Edt
   ここに,E:放射照度 (W/m2)
        t:暴露時間(秒)
       H:放射露光量 (J/m2)
:放射照度Eが総暴露時間中一定であれば,放射露光量HはEとtとの積となる。
 老化基準(ageing criterion)
 試験による,塗膜の選択した特性の変化の程度。老化基準は,規定によるか又は受渡当事者間の協定による。
 
 原理(抜粋・要約)
 ある放射露光量 Hを放射した後,塗膜の選択した特性の変化の度合いを得るために,及び/又はある度合いの老化を生じるのに必要な放射露光量を得るために,フィルタを通したキセノンアーク放射による促進耐候性試験,又は促進耐光性試験を行う。
 自然暴露においては,太陽光の照射が塗膜の老化の必す(須)な要因と考えられる。同じことが窓ガラスを通した放射に対する暴露にも当てはまる。したがって,促進耐候性試験,又は促進耐光性試験において,この要因をシミュレートすることが特に重要である。
 キセノンアーク光源には,二つの異なるフィルタシステムがある。一つは,紫外域,及び可視域で水平面全天放射の分光分布に一致させるもの(方法 1),もう一方のフィルタは,紫外域,及び可視域で厚さ 3mmの窓ガラスを通した水平面全天放射の分光分布に一致させるもの(方法 2)で,いずれも分光放射照度を修正するように設計されている。
 さらに,キセノンアーク放射 800nm までの範囲では太陽光の放射とよく一致するので,その範囲の放射照度の規定に対してCIE No.85が用いられる。
 暴露装置内での試験中に,キセノンアークランプ及びフィルタシステムの劣化によって,分光放射照度 Eが変化する。したがって,単に照射時間だけでなく,400nm以下の波長域又は特定波長,例えば,340nmでの放射露光量 Hについても測定を行う。
 塗膜に及ぼす自然のさまざまな作用を,正確にシミュレートすることは不可能である。したがって,この規格では,促進耐候性試験という用語を自然暴露(耐候性試験)とは区別している。窓ガラスを通した太陽光をシミュレートする試験は,この規格では促進耐光性試験としている。
 
 装置(抜粋・要約)
 光源及びフィルタ
 デイライトフィルタ,及び窓ガラスフィルタを通したキセノンアークランプの分光放射照度分布が規定されている。照度分布は,290nm~400nm までの総放射照度に対する百分率で示される。
 通常,試験片ホルダ面での時間当たりの平均の放射照度 Eは次による。
 ・300nm~400nm間では 60W/m2,又は 340nmでは 0.51W/(m2・nm)(方法 1
 ・300nm~400nm間では 50W/m2,又は 420nmでは 1.1W/(m2・nm)(方法 2
 受渡当事者間の協定によって,高い放射照度(例えば,300nm~400nm間では 60W/m2~180W/m2まで)を用いてもよい。
 試験槽空調システム
 試験槽を規定するブラックスタンダード温度,又はブラックパネル温度に保つために,湿度及び温度を調節した清浄な空気を試験槽内に循環させる。
 試験片にぬれを与える装置(方法 1 に用いる)
 試験片にぬれを与える装置は,規定するぬれ時間中,a) 表面に水を噴霧,b) 試験槽内の試験片を水中に浸せき,のいずれかの方法で試験片をぬらすように作る。
 ブラックスタンダード温度計,又はブラックパネル温度計
 a) ブラックスタンダード温度計 (black standard temperature;BST)
 厚さ約 0.5mmのステンレス鋼の平たん(平滑)な板とする。代表的な寸法は長さ約 70mm,幅約 40mmとする。光源に向く表面は,2500nmまでのすべての入射光を少なくとも 90%吸収する耐候性に優れた黒色層で塗装する。光源にさらされない平板の面の中央に良好な熱伝導を保つように白金抵抗センサを取り付ける。
 b) ブラックパネル温度計(black panel temperature;BPT)
 耐食性の平たん(平滑)な金属板とする。代表的な寸法は長さ約150mm,幅は約70mm,厚さ約1mmである。光源に向く表面は,2500nmまでのすべての入射光を少なくとも 90%吸収する耐候性に優れた黒色層で塗装する。ダイヤル表示付き黒色塗装のバイメタル温度計,又は抵抗式温度計の感熱部は,暴露される面の中央にしっかりと取り付ける。  
 放射計(radiometer)
 試験槽内の試験片表面が受ける放射照度 E及び放射露光量 Hは,2πsrの視野及び良好な余弦感度をもつ光電子式受光器を備えた放射計で測定する。
 
 手順(抜粋・要約)
 ブラックスタンダード温度計又はブラックパネル温度計の調整
 通常の試験では,ブラックスタンダード温度(BST)を 65±2℃,又はブラックパネル温度(BPT)を 63±2℃に設定する。
 色の変化を試験するときには,55±2℃の BST,又は 50±2℃の BPTに設定する。
 試験槽空気温度
 通常の試験では,試験槽空気温度 38±3℃を用いる。
 試験片のぬれ及び試験槽内の相対湿度
 他に協定がなければ,サイクル A及びサイクル Bの規定によって,試験片を繰返しぬらすか,又はサイクルC及びサイクルDの規定によって,試験槽内の相対湿度を一定に保つ。
 サイクル A及びサイクル Bは,屋外暴露をシミュレートすることを意図している(方法 1)。
 サイクル C及びサイクル Dは,窓ガラスを通した暴露をシミュレートすることを意図している(方法 2)。


表 −試験片ぬれサイクル
  サイクル    A    B    C    D 
  操作    連続運転    不連続運転    連続運転    不連続運転 
  ぬれ時間 分    18    18    ―    ― 
  乾燥期間 分    102    102    永続    永続 
  乾燥期間中の相対湿度 %    40~60    40~60    40~60    40~60 
 注記: 試験槽内の空気の相対湿度は,各試験片の色が異なるため温度も異なるので,試験片表面に接する空気の相対湿度とは必ずしも等しくならない。
 
 老化現象の評価(抜粋・要約)
 評価の方法は, JIS K 5600-8-1 ~ JIS K 5600-8-6 「塗料一般試験方法−第 8 部:塗膜劣化の評価」シリーズ による。
 受渡当事者間の協定がない限り,試験の中間段階で試験片を洗浄したり,磨いたりしてはならない。
 試験の最終段階で,塗膜の特性を測定する表面を洗浄するか洗浄しないか,又は磨くか磨かないかは,受渡当事者間で協定する。

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 JIS試験規格(紫外線蛍光ランプ法)

 JIS K 5600-7-7「塗料一般試験方法−第 7 部:塗膜の長期耐久性−第 8 節:促進耐候性紫外線蛍光ランプ法)」(Testing methods for paints−Part 7 : Long-period performance of film−Section 4 : Humidity and cool-heat cycling test)
 序文(抜粋)
 自然暴露中に生じる老化過程を再現するために,試験室において,塗料及び関連製品を促進暴露試験に供する。一般に,多くの要因が影響するために,促進耐候試験,及び自然暴露中に生じる老化間に,確実な相関関係があると期待することはできない
 塗膜に及ぼす重要なパラメータ(光化学的に適切な範囲の放射線のスペクトル分布,試験片の温度,ぬれの種類,湿潤サイクル及び相対湿度)の影響が既知の場合にだけ,何らかの関係が期待される。
 しかしながら,自然暴露と異なり,試験室における試験は,限られた数の制御可能な変量要因を考慮に入れて遂行できるので,その試験結果はよりよい再現性がある。
 
 適用範囲
 この規格は,蛍光紫外線,及び水凝縮,又は水噴霧発生装置を用いて,塗膜の促進耐候性を測定するための試験方法を規定する。
 備考:蛍光ランプによって発生される紫外線は,自然の太陽光の紫外部だけを再現する結果,試験片は(太陽光)スペクトルのうち,狭いが破壊的な部分にさらされる。
 なお,太陽光に比べて可視部及び赤外部放射のエネルギーを欠いているため,試験片は,実用上起こるような雰囲気温度以上に加熱されない
 
 原理(抜粋・要約)
 紫外線蛍光ランプ及び水凝縮又は水噴霧による促進耐候試験は,一定の放射露光量又は合意した時間数の試験によって,一つ又は複数の性能について一定の変化を生じさせる。暴露された塗膜の性能は,同一条件で同じ塗料から作られた未暴露の塗膜の性能, 又はその老化性能が既知の塗膜と比較される。
 放射線,温度及び湿度は,すべて老化過程に影響を与える。したがって,この規格に規定された装置は,三つの要因をすべてシミュレートしている。
 この試験方法を用いて得られる結果は,自然暴露条件で得られる結果と必ずしも直接的な関係を示さない。この試験方法を耐久性の予測に用いるには,あらかじめ,これらの結果間の関係が確立されていることを必要とする。
 
 装置(抜粋・要約)
 試験槽
 試験槽は,耐食性材料で作られた温度調節できる槽で構成され,その中に,ランプ, 加熱水浴又は噴霧ノズル及び試験板ラックが取り付けられている。
 ランプ
 ほかの規定又は相互に合意した協定がなければ,UVランプは,タイプ 1(太陽光線には存在しない 300nm 未満の波長で相当量の放射線を放射;一般に UVB (313)と呼ばれ,航空宇宙技術の用途又は特別に受渡当事者間で協定した場合),タイプ 2(一般に UVA (340) と呼ばれ,340nm のピーク放射をもつ),タイプ 3(一般に UVA (351)と呼ばれ,351nm のピーク放射をもつ)の三種のいずれかでなければならない。
 試験板の湿潤装置
 試験板は,加熱水浴からの水の凝縮によって,又は水噴霧によって湿潤されなければならない。
 ブラックパネル温度計
 規定された条件で運転するよう装置を設定すること。温度は,ブラックパ ネルに取り付けた遠隔計測器によって監視されなければならない。ブラックパネル温度計は,試験片と同じ暴露条件にさらされていなければならない。
 備考:紫外線蛍光ランプは,キセノンアーク及びカーボンアーク光源に比べて赤外線の放射は比較的小さい。蛍光紫外線装置では,試験板は,主に試験板に沿って流れる加熱空気の対流によって加熱される。したがって,ブラックパネル温度計,試験板表面及び試験槽中の空気それぞれの間の温度差は小さい。
 
 手順(抜粋・要約)
 方法 A 水蒸気凝縮を含む暴露
 温度 23±5℃に維持された,通風はしているが換気のある環境にその装置を置く。ほかに協定又は規定がなければ,照射(乾燥)段階中のブラックパネル温度計を 60±3℃で 4 時間維持 する。ほかに協定又は規定がなければ,水凝縮段階中のブラックパネル温度計を 50±3℃に 4 時間維持する。
 方法 B 水噴霧を含む暴露
 水凝縮段階の代わりに,水噴霧の期間を用いるとよい。サイクルは,受渡当事者間で協定しなければならない
 試験期間
 協定若しくは規定された老化基準又は規定された放射露光量に達するまで,試験を継続する。種類の異なるすべての塗料に妥当な試験期間を規定することはできない。試験期間は,用いるランプの種類に依存する。試験板の試験は,正規には,装置の保守及び試験板の検査を行う場合を除いて,中断せずに行われる。

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