防食概論:塗料・塗装

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         素地調整技術と変遷

 素地調整(surface preparation)とは,塗装に適した下地を得るための表面調整方法である。素地調整と同様の作業について,技術分野の違いにより,下地処理(substrate),前処理(pretreatment),生地ごしらえ(surface preparation),ケレン(cleaning, hand cleaning)などの用語が用いられる。
 鋼の防食塗装(anticorrosion coating)では,塗付けた塗膜の付着が確保できるように,鋼材表面のミルスケール,劣化塗膜,さびなどの付着障害となる物質を除去すると共に,適切な表面粗さ(surface roughness, surface profile)の付与を目的に,素地調整が実施される。
 素地調整方法は,作用する力の違いで機械的素地調整(mechanical surface preparation)化学的前処理(chemical pretreatment)に分けられる。

 【機械的素地調整】

 機械的素地調整は,物理力を用いて行う素地調整をいい,具体的には研削で塗装に適した表面を作る方法である。
 研削に用いる手法は,動力が活用されるまでは,人力に頼る手工具(hand tool)のみに頼っていた。動力の利用が一般化するに至り,作業効率の向上や仕上がり精度の向上を目的に,動力工具(power tool)が開発されるとともに,機械処理が可能なブラスト処理技術の開発が進んだ。
 現在実用されている素地調整方法は,工具(tool)(手工具,動力工具)による方法,ブラスト処理(abrasive blast-cleaning , blasting)による方法に分けられる。
 
 工具による素地調整
 動力工具は,小型化が進み,1940年(昭和15年)ころより利用されるようになったが,その多くは工業製品の塗装や船舶の塗装など工場内の作業が中心で,現地施工となる構造物等の塗替え塗装に使用の試みがなされたのは,小型化が一層進んだ 1953年(昭和28年)頃と言われている。
 電動の研磨機,ワイヤーホイル,カッターなどの動力工具を用いる工法によって,人力による手工具に比較して塗替え塗装の作業能率は著しく向上したが,小型化が進んだといっても人力による手工具に比較して大きく,構造物の構造によっては作業困難な個所が少なからずある。従って,人力による手工具と動力工具の併用が今現在でも必要不可欠である。
 工具(tool)
 工作に使用する道具の総称である。工具は,手作業用の手工具,機械に取り付けて用いる機械工具に分けられる。機能上からは,切削工具,研削工具,鍛造工具,仕上工具,木工具,測定工具,検査工具などに分ける。
 動力工具(power tool)
 手工具の動作を人力ではなく,電気,空気圧,油圧を動力として行う手作業用の工具をいう。用語の定義からは,動力工具も手工具の一種となるが,一般的には,人力による手作業用の工具のみを手工具といい,動力工具と区別する例が多い。
 電気を動力とするものを電動工具(electric power tool, motor-operated electric tool),空気圧を動力とするものを空圧工具(pneumatic tool, air tool)やエアーツールといい,油圧を動力とするものを油圧工具(hydraulic tool)という。
 
 ブラストによる素地調整
 珪砂(けいしゃ)を吹き付けるサンドブラスト(sand blasting, sand blast)は,1870年(明治3年)に,アメリカのベンジャミン・タイルマン(ティルマン)によって発明され,船舶のさび落とし,塗装やめっき時の金属表面処理として用いられた。日本では,1887年(明治20年)頃に,東京高等工芸学校(現 東京工業大学)窯業科でサンドブラスト機を初めて導入したが,一般での実用は大正期に入ってからである。
 
 当時の日本におけるブラストの使用は,米国とは異なり,小型の物件への適用のみであった。大型物件への適用は,1945年(昭和20年)頃に,鉄道車両の塗装で使われたのがはじめてとされている。
 鋼橋などの大型構造物への適用は,さらに遅れて,1951年(昭和26年)頃の鋼鉄道橋へのサンドブラストの試験施工を経て,1960年代から実用技術として橋梁の製作に採用された。
 現場作業となる塗替え塗装の素地調整には,適用事例が増えてはいるが,一般的な工法としての普及には至っていない。この原因として,現場施工固有の制約(騒音,粉じん汚染など)に対応できる技術が未発達なためと考えられている。
 
 粉じん対策を目的としたバキュームブラスト(vacuum blasting equipment)は,1949年に米国の「バキュームブラスト社」で開発され現在に至っている。サンドブラストなど一般的なエアーブラスト(オープンブラストなどともいう)に比較して,作業効率が低いため,粉じん対策を必要とする特殊な環境での使用に限定されている。
 同様に,粉じん対策として,水を活用したブラスト法が開発され,各分野での適用が進んでいる。しかし,鋼橋の塗替え塗装への本格導入には至っていない。

ブラスト装置の例

ブラスト装置の例
出典:厚地鉄工株式会社 カタログ

 ブラスト処理(abrasive blast-cleaning, blasting)
 金属製品に防せい防食を目的として塗料などを被覆する場合に,素地調整のために行われる。研削材に大きな運動エネルギーを与えて金属表面に衝突させ,金属表面を細かく切削及び打撃することによってさび,スケールなどの付着物を除去して金属表面を清浄化又は粗面化させる方法。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 処理される表面に高運動量のブラスト研削材を衝突させる方法。金属製品の防せい防食を目的として塗料などを被覆する場合に,素地調整のために行われる。研削材に大きな運動エネルギーを与えて金属表面に衝突させ,金属表面を細かく切削及び打撃することによってさび,スケールなどを除去して金属表面を清浄化又は粗面化させる方法(JIS Z 0311「ブラスト処理用金属系研削材」参照)。【JIS K5500「塗料用語」】
 加工面に固体金属,鉱物性又は植物性の研磨材を高速度で吹き付け,表面を清浄化,磨耗若しくは硬化させる方法。
 参考:対応国際規格では,使用する研磨材などの種類によって,アブレシブブラスト(abrasive blasting),ビードブラスト(bead blasting),ガラスビードブラスト(glass bead blasting),カットワイヤブラスト(cut wire blasting),グリットブラスト(grit blasting),サンドブラスト(sand blasting),ショットブラスト(shot blasting),ウエットブラスト(wet blasting)の用語を規定している。【JIS H 0400「電気めっき及び関連処理用語」】

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 【化学的前処理】

 化学的前処理(chemical pretreatment)
 塗料の塗装前に施されるすべての化学的方法をいう一般用語でもある。【JIS K5500「塗料用語」】
 一般的には,化学力を活用し,時には物理力を補助的に用いて塗装に適した表面を作る方法で,溶剤の溶解力を活用した脱脂(degreasing),酸やアルカリなどの溶解力を用いたさび落とし,金属表面に化成皮膜を形成する化成処理(conversion treatment)を指す。
 化成処理(conversion treatment, chemical oxidation, chemical conversion)
 化学的処理によって金属表面に安定な化合物を生成させる表面処理方法。りん酸塩処理・黒染め処理・クロメート処理などがある。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 
 機械的素地調整では,金属表面の油汚れの除去は極めて困難である。このため,脱脂作業は重要な塗装前処理になる。
 簡便な脱脂で済む場合は,溶剤を含んだ布による拭き取り方法が適用される。厳密な脱脂が必要な場合は,溶剤浴中での超音波洗浄,蒸気清浄,アルカリ洗浄など様々な化学的手法が用いられる。これらの手法は,主に工業製品の塗装前処理として古くから活用されている。
 化成処理は,金属表面に被膜を形成し,その被膜と塗膜との相乗効果(被膜の防せい力と塗膜との密着性向上)で防食性能の向上を図ることを目的に実施される。化成処理の初めは,1906年に英国W. T. Coslettのりん酸鉄被膜発明といわれている。現在も,鋼板,亜鉛めっき鋼,合金めっき鋼の塗装前処理として,りん酸塩処理(phosphating)やクロメート処理(chromating, chromate treatment)による化成皮膜が活用されている。
 
 機械的素地調整で行う塗膜はく(剥)離を補助する化学的方法として,溶剤の浸透による塗膜膨潤を利用し,塗膜の剥離作業を容易にする塗膜剥離剤(coating film remover, paint remover)がある。
 塗膜剥離剤は,機械部品等の点検(磁粉探傷など)目的の塗膜はく離作業に古くから用いられてきた方法である。近年には,建築物の塗替え塗装において,騒音対策の一手法として塗膜剥離剤が活用されるようになった。 また,鋼道路橋では PCB含有塩化ゴム塗膜の除去作業において,環境への飛散防止を目的に利用されている。
 塗膜剥離剤のみでは,鋼に付着するさび黒皮の除去は期待できない。さらに,旧さび止めペイントを完全に除去することも困難である。このため,塗膜剥離剤と機械的素地調整作業の併用が一般的である。
 
 【参考】
 リン酸塩処理(phosphating)
 りん酸(H3PO4)及び可溶性りん酸塩を主体とする水溶液で金属を処理し,その表面に不溶性のりん酸塩皮膜を作る表面処理方法。
 金属の防せい処理,塗装下地用処理などとして用いられる。形成される被膜成分に応じて,りん酸亜鉛被膜,りん酸鉄被膜,りん酸マンガン被膜処理などがある。処理液中には遊離のりん酸と被膜形成金属の第一りん酸塩があり,金属をこの液中に浸すと液中のりん酸によって金属は溶解し,同時に第一りん酸塩の加水分解が起こり,難溶性の第二及び第三りん酸塩化物が金属表面に沈着し金属面を覆う被膜となる。被膜は使用目的,作業性,コストなどによって最適なものが選定される。【JIS K5500「塗料用語」】
 クロメート処理(chromating, chromate treatment, chromate conversion coating)
 クロム酸又は二クロム酸塩を主成分とする溶液で金属を処理して防せい皮膜を作る表面処理方法。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 クロム酸及び/またはクロム酸塩からなる溶液を用いて行うある種の金属表面の化学的前処理の総称として用いられる。次に,亜鉛面やアルミニウム面で実施される例を示す。
 a)亜鉛めっき(亜鉛メッキ)(※1)後のクロム酸系処理:亜鉛の腐食による白色のさび発生を防止し,美観維持のために実施される。クロメート処理によって表面にクロム酸亜鉛の緻密な被膜ができ,亜鉛の腐食が抑制される。重クロム酸塩では黄金色に,無水クロム酸系では虹淡色の光沢のある仕上がりとなる。
 b)クロム酸塩によるアルミニウムの化成処理:クロム酸塩のほか,ふっ化物などを加えた液に浸液し,黄金色の緻密な皮膜を作る。りん酸系処理に比べて防せい力が大きい。アルミニウムのクロメート処理には,これ以外にクロム酸-りん酸系処理がある。
 (※1)亜鉛めっきには,亜鉛イオンや亜鉛錯イオンを含む電解質に直流又はパルス電流を流して,陰極上に金属亜鉛を析出させる電気亜鉛めっき,溶融した亜鉛浴に浸漬し,温度差を利用して鉄鋼表面に亜鉛を析出させる溶融亜鉛めっきがある。【JIS K5500「塗料用語」】
 亜鉛めっきで一般的に用いられるクロメート処理では,クロム酸(H2Na2CrO4),硫酸(H2SO4),硝酸(HNO3),リン酸(H3PO4)などを含む溶液に浸漬し,6価クロムから3価クロムへの還元反応と,亜鉛の酸化反応で生成した水酸化クロム(Cr(OH)3)とクロム酸から生成する網目構造を持ち亜鉛イオンを含んだゲル状の皮膜(クロメート処理皮膜)を形成する処理である。
 塗膜剥離剤(coating film remover, paint remover)
 溶剤等の主成分に蒸発制御剤,増粘剤,界面活性剤などの添加物を加えたもので,塗膜内部への浸透で,塗膜の軟化,膨潤,溶解が起こり,塗膜除去を容易にするための薬剤である。
 塗膜剥離剤には,ジクロロメタン(dichloromethane;CH2Cl2 )を主成分としたものが性能が高く,長らく使われてきた。
 近年になり,環境保全,労働安全衛生の見地から,建築物や構造物などの大面積に使用する剥離剤として,ジクロロメタンの使用が自粛されるようになり,塗膜剥離の性能は劣るが,環境や人体への影響がより小さいアルコール系溶剤を用いたものなどが使用されるようになってきている。
 PCB(Poly-Chlorinated Biphenyl)
 ポリ塩化ビフェニル(polychlorinated biphenyl),ポリクロロビフェニル(polychlorobiphenyl) の略称で,ベンゼン環が 2つ結合した芳香族化合物ビフェニル(分子式 C12H10,構造式 C6H5-C6H5 )の水素原子が塩素原子で置換された化合物の総称である。PCB は,塩素の置換数が 1個のモノクロロビフェニルから 10個置換したデカクロロビフェニルまでの 10種類ある。置換塩素の位置の違いによる異性体は,209種存在する。
 化学的に安定で,熱媒体,変圧器やコンデンサなどの電気機器の絶縁油,塩ビ管や塗膜の可塑剤などの幅広い分野で用いられていたが,生体に対する毒性が高く,体内の脂肪組織に蓄積され,発癌性,皮膚障害,内臓障害,ホルモン異常を引き起こすため,現在は製造・使用が禁止され,廃棄物に対しても非常に厳しい管理が求められる。

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