防食概論塗装・塗料

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 ここでは,アルキド樹脂を用いた合成樹脂調合ペイント,長油性フタル酸樹脂塗料の理解に資するため 【アルキド樹脂塗料】, 【変性アルキド油脂塗料】, 【油長とアルキド樹脂塗料の特性】 に項目を分けて紹介する。

 塗料各論(構造物用塗料)

 アルキド樹脂塗料

 アルキド樹脂塗料(alkyd resin coating,alkyd coating)
 塗膜形成要素(展色材)として,アルキド樹脂を用いて作った塗料。アルキド樹脂塗料に含まれる脂肪酸には酸化形と非酸化形とがある。樹脂は脂肪酸含有量の多少によって,長油・中油・短油に分ける。【JIS K5500「塗料用語」】
 
 アルキド樹脂は,前項ので紹介したように,多価アルコール(polyhydric alcohol)多塩基酸(polybasic acid),又は酸無水物(acid anhydride)との脱水縮合(dehydration condensation)で進む共重縮合(copolycondensation)によるポリエステル樹脂(polyester resin)の一種である。
 塗料業界で単にアルキド樹脂と称した場合は,後述する脂肪酸(fatty acid)で変性(modification)した多価アルコールを用いた油変性アルキド樹脂を指す場合が多い。
 
 アルキド樹脂は,脂肪酸の含有量(油長の多いものから長油アルキド中油アルキド・短油アルキドに分けられる。また,使用する脂肪油は,不飽和脂肪酸の量により,乾性油不乾性油,半乾性油に分けられ,乾性油の多少により,アルキド樹脂を酸化形や非酸化形に分ける。
 なお,建築,船舶,鋼橋などの中・上塗り塗装に用いられるJIS K 5516「合成樹脂調合ペイント;ready mixed paints (synthetic resin type)」は,乾性油を多く用いた酸化形長油アルキド樹脂が用いられている。
 
 【参考】
 変性(modification)
 合成樹脂の骨格の一部を重縮合に際して添加剤で置き換えて,その性質を変えることをいう。変性樹脂塗料とは,変性樹脂を加えたり樹脂骨格を変えたりした樹脂を用いた塗料をいう。
 なお,デンプンを化学薬品,酵素などで処理するのも変性(modification)といい,タンパク質の立体構造変化,エチルアルコールに容易に分離できない不快な味や悪臭を与えて工業アルコールにすることも日本語で同じ変性(denaturation)という。
 展色材(vehicle)
 塗膜形成(構成)要素の一つで,塗膜の主体となる樹脂で,バインダー(binder)ともいう。また,液相の構成成分についてはビヒクル(vehicle, medium)ともいう。由来により油類,天然油脂,合成樹脂,繊維素誘導体,架橋剤・硬化剤などに分類される。
 天然油脂(natural oil)
 天然物から採取した脂肪油。主成分は脂肪酸のグリセリンエステル。乾燥性の程度によって,乾性油・半乾性油・不乾性油に分ける。乾燥性の目安として,よう素価が用いられる。
 よう素価 130以上を乾性油,130~100を半乾性油,100以下を不乾性油ということがあるが,明確な区分の定義はない。(ASTM では,区分の定義はないとしている。【JIS K5500「塗料用語」】
 乾性油(drying oil)
 薄膜にし空気中に置くと,酸素を吸収して酸化し,これに伴って重合が起こって固化し,塗膜を形成する脂肪油。高度不飽和脂肪酸を含む。【JIS K5500「塗料用語」】
 半乾性油(semidrying oil)
 乾性油ほど早くはないが,空気中で乾燥する性質のある脂肪油。一般によう素価 100~130のもの。【JIS K5500「塗料用語」】
 不乾性油(nondrying oil)
 液状の脂肪油で,空気中で乾燥しないもの。よう素価100以下の脂肪油。【JIS K5500「塗料用語」】

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 変性アルキド樹脂塗料

 アルキドは,アルキッドとも呼ばれ,ポリエステルに属する樹脂である。すなわち,基本となるアルキドは,多塩基酸(polybasic acid)と多価アルコール(polyhydric alcohol)との共重縮合(copolycondensation)によるエステル化合物である。
 塗料に用いる場合には,着色剤との適合性,施工性や耐久性の向上を目的に,脂肪酸(fatty acid)で変性した油変性アルキド樹脂として用いられることが多い。
 例えば,多塩基酸として塩基度 2の無水フタル酸多価アルコールとして 3つのヒドロキシ基(OH基)を持つグリセリンを用い,グリセリンの一部をあまに油などの不飽和脂肪酸(オレイン酸,リノール酸,リノレン酸など)を多く含む乾性油変性した長油性フタル酸樹脂塗料が鋼構造物などで用いられる。
 
 主な変性アルキド樹脂
 アルキド樹脂は,用途の広い材料で,油変性アルキド樹脂の他にも各種変性剤を用いて特性の異なる変性アルキド樹脂が実用されている。例えば,玩具や木工には,光沢性に優れるロジン変性アルキド樹脂が用いられる。
 車両や機械には,付着性や耐食性に優れるフェノール変性アルキド樹脂が用いられ,大形機械には,耐水性に優れるウレタン変性アルキド樹脂が用いられる。
 高い耐候性を求める電車などには,耐候性に優れるシリコン(シリコーン)変性アルキド樹脂が用いられている。
 このように,変性により多種の特性を有するアルキド樹脂が製造されている。次には,主な変性アルキド樹脂を用いた塗料の例を示す。なお,( )内は特性向上項目(長所)を示す。
 硬質樹脂変性アルキド樹脂塗料
 ロジン変性アルキド樹脂塗料(耐食性,光沢),マレイン酸樹脂変性アルキド樹脂塗料,フェノール樹脂変性アルキド樹脂塗料(耐食性,付着性),エポキシ樹脂変性アルキド樹脂塗料(耐薬品性,付着性,耐食性)
 他の樹脂との混合アルキド樹脂塗料
 繊維素誘導体塗料,アミノアルキド樹脂塗料(乾燥性,硬度),ウレタン変性アルキド樹脂塗料(乾燥性,耐水性),シリコン(シリコーン)変性アルキド樹脂塗料(耐候性,耐熱性),塩化ゴム混合アルキド樹脂塗料
 不飽和モノマー変性アルキド樹脂塗料
 スチレン化アルキド樹脂塗料(硬度),ビニルトルエン化アルキド樹脂塗料,アクリル化アルキド樹脂塗料(耐候性,可とう性)
 
 【参考】
 共重縮合(copolycondensation)
 それぞれ 2個の同一の反応基を含む 2種類の成分(又は“単量体”)の縮合重合によって製造される重合体は容易に 1:1 の比で反応して“暗黙の単量体”を作り,その単独重合で現実の製品ができるとみなすことができる。
 このような重合体は単一の構成繰返し単位をもつものとして示すことができ,したがって単独重合体と命名できる。この規則は最初の成分の比が 1:1 の場合にだけ適用できることに注意すべきである。ポリエチレンテレフタラート(ペット)及びポリアミド 66 (ナイロン)がこのような重合体の例である。【JIS K6900「プラスチック―用語」】
 すなわち,2種類以上の単量体が同比で縮合重合することを共重縮合という。
 縮合重合(polycondensation, condensation polymerization)
 縮合過程(すなわち,簡単な分子の脱離を伴う)の繰返しによる重合。【JIS K6900「プラスチック―用語」】
 縮重合,重縮合ともいう。なお,2つの官能基からそれぞれ一部分の分離で小さな分子を形成して脱離し,新しい官能基が生成する形式の反応を縮合反応(condensation reaction)という。
 すなわち,複数の化合物(特に有機化合物)が,互いの分子内から水 (H2O) 分子などを取り外しながら結合(縮合)するとともに,連鎖的に結合し高分子が生成(重合)すること。
 無水フタル酸(phthalic anhydride)
 芳香族カルボン酸の一種のフタル酸を硫酸で分子内脱水して得られる無水物(示性式 C6H4(CO)2O )。
 グリセリン(glycerin, glycerine)
 学術的にはグリセロール(glycerol)と呼ばれる 3価のアルコール(プロパン-1,2,3-トリオール:propane-1,2,3-triol )であるが,一般的にはグリセリンの呼称が広く用いられている。

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 油長とアルキド樹脂塗料の特性

 多塩基酸多価アルコール(ポリアルコール)類に脂肪酸を加えて反応させると,用いる原料の選択で硬さ,強靭さ,耐薬品性,電気抵抗などの性質を調節したアルキド樹脂が作れる。用いる多塩基酸と多価アルコールの特性への影響は前節で紹介した。
 塗装作業性(塗料粘度,溶解性など),耐水性,耐候性,耐食性などの塗膜特性は,脂肪酸の量,すなわち油長(樹脂分に対する脂肪酸の比率)の影響を受ける。

 油長(oil length)
 油変性樹脂,又は油性系ワニスにおいて,含有脂肪酸量をトリグリセリドに換算した値を百分率(%)で表したもの。油長 45%以下を短油,油長 45~58%を中油,58%以上を長油ということがある。油ワニスでは,短油,中油,長油をそれぞれ短油ワニス,中油ワニス,長油ワニスという。【JIS K5500「塗料用語」】
 油長の塗料・塗膜の性質に与える一般的な影響は,油長大きいほど粘度が低く,溶解性が高くなるので作業性顔料混和性たわみ性,及び耐水性が良い。
 一方,付着性中油性が最も良く,塗膜の光沢硬度耐油性耐候性,及び耐食性は,油長小さいものほど良い。
 
 塗料業界では,アルキド樹脂の油長 25%以下を超短油性,26~44%を短油性,45~57%を中油性,58~75%を長油性,76%以上を超長油性に分類している。
 超短油性,短油性
 極性が高く脂肪族系溶剤に溶解せず,芳香族系溶剤を用いる必要がある。超短油性は,芳香族系溶剤単独では溶解困難で,アルコール系溶剤との併用が必要になる。
 そのままでは,不飽和脂肪酸量が少なく,大気中の酸素による酸化重合(oxidation polymerization)が期待できないので,硬化剤(イソシアネート化合物)を用いたウレタン硬化型や架橋剤(アミノ樹脂)を用いたメラミン焼付型として用いる。これらの塗料は,自動車外板,鋼製家具に用いられている。
 
 中油性~超長油性
 各種溶剤に良く溶解し,触媒としてドライヤー(金属石鹸)を添加することで,常温でも大気中の酸素による酸化重合が実用時間内に進む常温乾燥形塗料として用いることができる。長油性は,鋼構造物や建築物で利用されている。
 
 【参考】
 ドライヤー(drier, siccative)
 塗料の添加剤として用いられるものは,通常,有機金属化合物で有機溶剤及びバインダーに可溶,酸化乾燥する塗料の乾燥過程を促進するために添加する化合物。主成分は鉛,マンガン,コバルトなどの金属石けん。液状ドライヤー,のり状ドライヤーなどがある。備考 水可溶性の乾燥剤も存在する。【JIS K5500「塗料用語」】
 金属石けん(鹸)(metallic soap)
 アルカリ塩(ナトリウム,カリウム)以外の金属塩と脂肪酸から成る石鹸をいう。代表的脂肪酸には,ステアリン酸(CH3(CH2)16CO2H),ラウリン酸(CH3(CH2)10CO2H),リシノール酸(CH3(CH2)5CH(OH)CH2CH=CH(CH2)7CO2H),オクチル酸(CH3(CH2)3CH(CH2CH3)CO2H)などが,代表的な金属塩には,鉛(Pb),カルシウム(Ca),アルミニウム(Al),亜鉛(Zn),マグネシウム(Mg),バリウム(Ba)などがある。

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