防食概論:塗装・塗料
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塗装概論(塗装工程と素地調整)
素地調整(動力工具)
塗装時の素地調整(surface preparation)は,古くから人力による手工具(hand tool)による方法にのみ頼っていた。電動機などの進歩により,機械処理が可能なサンドブラスト(sand blasting)が開発され,新設時塗装で利用されるようになったが,現場施工で制約の多い塗替え塗装で利用されるには至らなかった。
その後,小型で強力な電動機などが開発されたことで,電気,空気圧,油圧を動力として用いる手工具,すなわち動力工具(power tool)が開発された。
動力工具の導入により,手工具を用いた作業の効率向上が可能となった。なお,電気を動力とするものを電動工具(electric power tool, motor-operated electric tool),空気圧を動力とするものを空圧工具(pneumatic tool, air tool)やエアーツールといい,油圧を動力とするものを油圧工具(hydraulic tool)という。
手工具を用いた作業のうち,平面部の塗膜剥離や凹凸の少ない腐食個所のさび落としなど,技能をさほど必要としない単純作業については,動力工具で効率よく作業できるようになった。
しかし,狭あい部,リベット,ボルト・ナット部や凹凸の激しい腐食個所など丁寧な処理が求められる個所では,いまだに動力工具のみでは素地調整の高い品質が得られず,現在でも手工具との併用が必要である。
次には,実作業で用いられる主な動力工具の特徴を紹介する。
ディスクグラインダ(劣化塗膜,平たん部の錆び除去)
工具が比較的大きいため,狭あい部の施工は困難で,もっぱら比較的大きな平面の施工に用いられる。 研磨布を用いる場合をディスクサンダー(disk-type sander)ともいうが,塗膜に大きなせん断力を与えないので劣化塗膜を除去し損ね易い。
一般的には,さび除去に# 16(粒子径 710μm~1,000μm)~# 24(粒子径 500μm~600μm)の粗い研磨布が,旧塗膜の除去や目粗しには# 60(150μm~212μm)~# 80(125μm~150μm)の中程度の研磨布が用いられる。なお,研磨布の粒度は,JIS R 6010「研磨布紙用研磨材の粒度」で規定されている。
平たん部の旧塗膜除去に特化したディスクとして,金属性の円盤の周囲に特殊な刃を取り付けたダイヤモンドホイールも市販されている。
ボルト周辺やリベット周辺の素地調整用として,カップワイヤブラシが古くから用いられているが,厚いさびの除去や硬く厚い旧塗膜の除去には能力が不足しているので,手工具との併用が必要である。
ジェットたがね(凹凸部の塗膜,錆び除去)
ジェットたがね(needlegun scaler)とは,手工具のケレンハンマーでの作業を動力化したもので,直径数mmの鋼製の針(ニードル)を複数保持し,それぞれを前後(ストローク10~20mm)することで,小面積に大きな打撃力を与えることができる。凹凸の多い深いさびの除去,ボルト・ナット部の側面の処理が可能である。
工具が大きいので,狭あい部など複雑な構造部位では,一方向からの作業となり,影となる部位の施工は出来ないので,手工具との併用が必要である。
縦回転式ブラシ(凹凸部の塗膜,錆び除去)
縦回転式ブラシとは,手工具のケレンハンマーでの作業を動力化したもので,細いワイヤを縦回転にすることで,素地に叩きつけるようにした工具である。いわば,ジェットたがねのニードルを細くし短時間に多数回打撃できるようにしたものである。
ジェットたがねに比較して打撃力が劣るため,作業性は劣るが比較的凹凸の多い個所の旧塗膜やさびの除去で高い品質が期待できる。この工具も比較的大きいため,狭あい部やボルト部での作業性に劣る。
スケーリングマシン(狭隘部の塗膜,錆び除去)
スケーリングマシン(scaling machine)とは,手工具の細のみや鋲かきでの作業を動力化したもので,動力源のモーターから工具までをフレキシブルシャフトで連絡した回転工具である。同様の工具は,歯科治療などの微細な工作が必要な分野で用いられている。
先端に取り付けた工具により,狭い個所での施工が可能である。取り付けられ工具には,砥石,サンドペーパー,ワイヤブラシ,研削用歯車,小型ハンマーなどが用意され,狭あい部や凹凸の大きい部位での作業に用いられる。一方で,取り付ける工具が小さく,大面積の施工性には不向きである。
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