防食概論塗装・塗料

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 ここでは,鋼構造物新設時の塗装における素地調整作業の 【塗装管理】について, 【素地調整時】, 【素地調整後】 に分けて紹介する。

 塗装概論(新設塗装管理)

 新設時塗装管理(素地調整)

 新設時の塗装は,橋梁製作工場の敷地内で実施される。多くのケースでは,素地調整作業を建屋内で実施し,塗装は屋外の塗装ヤードで行われる。
 小規模の橋梁製作の場合に,屋内や雨よけの簡易テント内で塗装されることもあるが,大型橋梁の製作では橋梁ブロックの数も多く,屋外での塗装が主流である。このため,塗装作業は,気象条件(meteorological conditions)に直接影響を受ける。

鋼橋新設時の塗装例

鋼橋新設時の塗装例
写真出典:片山ストラテック(株)ホームページ

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 施工管理(素地調整時)

 素地調整の施工管理では,次の項目の確認,検査,記録が必要となる。
 素地調整前の状態観察と施工計画
 ブラスト処理など機械的処理で除去困難な油分などの汚れ状況,腐食の程度など表面状態を観察し,計画した素地調整方法が表面状態に応じた適切な方法・手順であることを確認する。
 
 素地調整作業時の気象の確認と記録
 ブラスト処理開始から第 1層目の塗装作業完了時までの気象予測と温度・湿度の記録,第 1層目の塗装を屋外で実施する場合は,塗装終了時間から少なくとも半日先までの気象予測が必要である。
 【腐食概論:鋼の腐食】の【大気環境の腐食】で解説したように,大気,及び鋼表面とも清浄であっても,相対湿度 80%を超える環境では,鋼表面に水膜が形成される。
 従って,ブラスト作業中,及び第 1層目塗装までの間は,相対湿度 80%以下の気象条件で行う必要がある。  
 一方で,腐食が進む前に第 1層目を塗装する必要がある。このため,後に示す清掃作業,表面粗さの確認などの実作業行程を考慮した規定が発注機関ごとに定められている。例えば,鋼橋の施工では,ブラスト処理後直ちに(鉄道橋では 3時間以内,道路橋では 4時間以内)第 1層目を塗装しなければならないと定めている。
 施工管理においては,施工期間中の気象予報を確認するとともに,気温,相対湿度を記録しておく。
 
 【参考】
 さび度(rust grade)
 清浄作業前の鋼材表面に形成されているさびの程度を説明する分類。さびの程度は,5段階に分けた写真によって評価する(JIS K5600-8-3「塗料一般試験方法− 第8部:塗膜劣化の評価− 第3節:さびの等級」,JIS Z0310「素地調整用ブラスト処理方法通則」参照)。【JIS K5500「塗料用語」】
 鋼材表面を処理する前のミルスケールの付着程度又はさびの発生程度。【 JIS Z0310「素地調整用ブラスト処理方法通則」】
 鋼橋用鋼板表面の清浄度は,ミルスケール付着程度又はさびの発生程度を示す「さび度」と除去程度を示す「除せい度」を組み合わせた等級で表される。

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 施工管理(素地調整後)

 清浄度(除せい度)の検査
 ブラスト処理後に,発注者が定める清浄度(cleanliness, preparation grade)を満足しているかを検査する。特に,橋梁製作中に発生したさびに関しては,除せい度(preparation grade) Sa2 1/2以上が求められる。除せい度は,ISO 8501-1に定める見本写真との対比で検査される。
 なお,除せい度 Sa2 1/2とは,拡大鏡なしで,表面には,目に見えるミルスケール,さび,塗膜,異物,油,グリース及び泥土がない。残存するすべての汚れは,そのこん跡が斑点又はすじ状のわずかな染みだけとなって認められる程度である。
 
 表面粗さの検査
 素地調整後の表面粗さ(surface roughness, surface profile)に関する規定は,製品毎の求められる特性により異なるが,鋼橋の原板ブラスト(blasting for rolled sheet)では 10点平均粗さ 80μmRZJIS以下製品ブラスト(blasting after make-up) 50μmRZJIS以下と規定している。

表面粗さの評価

表面粗さの評価
写真出典:片山ストラテック(株)ホームページ

 一般的に,第一層目に塗装される無機ジンクリッチペイントなどの塗料の付着性は,鋼の表面粗さが粗いほど向上する。しかし,鋼材の金属疲労(metal fatigue),すなわち,表面粗さが大きいと疲労き裂(fatigue crack)が発生し易くなるとことを考慮するとともに,製品ブラストでは,第 2層目以後の塗装の仕上がりに与える影響なども考慮して粗さの上限が定められている。
 
 表面粗さの評価は,第一層目塗装までの短時間での実施が求められるので,比較板(JIS Z 0313)との対比や,携帯式の表面粗さ計(触針式 JIS B 0651,光波干渉式 JIS B 0652)を用いた検査が一般的である。
 JIS Z0313「素地調整用ブラスト処理面の試験及び評価方法」,JIS B0651「製品の幾何特性仕様(GPS)−表面性状:輪郭曲線方式−触針式表面粗さ測定機の特性」,JIS B0652「製品の幾何特性仕様(GPS)−表面性状:輪郭曲線方式−光波干渉式表面粗さ測定機の特性」

 粗さの表示について
 10点平均粗さは,日本独特の粗さ表記である。このため,JIS B 0601「製品の幾何特性仕様 (GPS) -表面性状:輪郭曲線方式-用語,定義及び表面性状パラメータ」の ISO規格との整合化を図った 2001年の改訂で,この表記が規格から削除された。しかし,日本では広く普及しているので,JIS規格の附属書 1(参考)として残されている。
 JISの 2001年改訂まで用いられていた10点平均粗さの記号“ Rz”には, JIS改訂に伴い異なる意味(最大高さ粗さ)が与えられた。そこで,10点平均粗さの記号は RZJISに変更された。また,それ以前の JIS規格(1982年版,1994年版)に従うことを厳密に表記したい場合は,例えば,RZJIS 82や RZJIS 94と年号を入れることが求められている。
 
 【参考】
 清浄度(cleanliness, preparation grade)
 鋼材表面を処理した後の,被覆の付着を阻害するミルスケール及びさび,塩類,油分などの汚れの除去程度。【 JIS Z 0310「素地調整用ブラスト処理方法通則」】
 ある(素地調整)方法によって得られる清浄仕上げの品質水準を説明する分類(JIS Z 0310「素地調整用ブラスト処理方法通則」,ISO 8501/1参照)。【JIS K5500「塗料用語」】
 除せい(錆)度(preparation grade)
 清浄度の中で,ミルスケール及びさびの除去程度。【 JIS Z 0310「素地調整用ブラスト処理方法通則」】
 JIS Z 0313-1998「素地調整用ブラスト処理面の試験及び評価方法」では,除せい度とそれに対する鋼材表面の状態を次のように定義している。
 Sa1  拡大鏡なしで,表面には,弱く付着したミルスケール,さび,塗膜,異物及び目に見える油,グリース,泥土がない。
 Sa2  拡大鏡なしで,表面には,ほとんどのミルスケール,さび,塗膜,異物及び目に見える油,グリース,泥土がない。残存する汚れのすべては,固着している。
 Sa2 1/2  拡大鏡なしで,表面には,目に見えるミルスケール,さび,塗膜,異物,油,グリース及び泥土がない。残存するすべての汚れは,そのこん跡が斑点又はすじ状のわずかな染みだけとなって認められる程度である。
 Sa3  拡大鏡なしで,表面には,目に見えるミルスケール,さび,塗膜,異物,油,グリース及び泥土がなく,均一な金属色を呈している。ブラストに先立って,厚いさび層,油,グリースや泥土は除去する。
 原板ブラスト(blasting for rolled sheet)
 一次素地調整(temporary surface preparation, temporary cleaning)ともいう。製鉄工場で熱間圧延で生成したミルスケール(黒皮),付着物やその後に発生した赤さびなどを除去することを目的として行われ,次の加工工程までの一時的な意味合いで行われることが多い。
 製品ブラスト(blasting after make-up)
 二次素地調整(secondary surface preparation)ともいう。鉄鋼メーカ等で一次素地調整された鋼板を橋梁製作工場に搬入し,防食塗装前に実施される塗装に適した素地に仕上げることを目的とに行われる素地調整。

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