防食概論:防食の基礎
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環境遮断(金属被覆)
溶融めっきとは
溶融めっき(hot dipping , hot dip metal coating)とは,溶融した液状金属に構造体や部材を浸漬し,溶融金属と構造体の温度差を利用し,構造体表面に溶融金属を凝固させる方法である。この方法では,構造体に用いる母材が熱影響を受ける温度より低い融点(melting point)の金属が採用される。
鉄鋼に適用可能な低融点金属(low melting metal)を用いた溶融めっきには,浴温度 430℃以上の溶融亜鉛めっき(hot-dip zinc-coating),浴温度 570℃以上の溶融 55%アルミニウム-亜鉛合金めっき(hot-dip 55% aluminyum-zinc alloy-coating),浴温度 700℃以上の溶融アルミニウムめっき(hot-dip aluminium-coating)などがある。
低融点とは言え 400℃を超える温度に素材が曝されることになる。従って,めっき温度付近で熱影響(金属組織や強度が変質するなど)を強く受ける材料に適用できない方法でもある。
例えば,鋼は 723℃で結晶構造の変化(72相変態)を受けるので,これに近い温度の溶融アルミニウムめっきの適用には注意が必要である。例えば,部材に熱処理された高張力鋼(high tensile strength steels)を含む構造物への適用は困難である。
さらには,室温から溶融めっき温度まで,短時間で大きい温度変化を受けるので,部材別の熱膨張(thermal expansion)の影響で変形するのが通例である。従って,部材設計時に,熱変形を考慮した形状の工夫が必要になる。
亜鉛,アルミニウム,アルミニウム亜鉛合金を用いためっき(金属被覆)による鋼の防食は,何れも犠牲アノード型被覆と呼ばれ,陰極防食(cathodic protection)の一種で,犠牲防食作用による。
一般的な大気環境での,めっき傷部の犠牲防食作用は,亜鉛>アルミニウム-亜鉛合金>アルミニウムの順とされている。
めっき材そのものの耐食性は,素材の屋外暴露試験結果などを参考にすると,アルミニウム>アルミニウム-亜鉛合金>亜鉛の順である。しかし,塩化物イオン(chloride ion)の影響を強く受ける状況では,アルミニウムは,公表される屋外暴露試験データとは異なり異常な局部腐食(local corrosion),激しい孔食(pitting corrosion)による損傷を受ける事例もある。従って,めっき種を検討する場合には,当該環境に類似する環境下での実構造物における事例を収集・検討するのが望ましい。
【溶融めっき関連の JIS規格】
JIS H 8502 「めっきの耐食性試験方法」
JIS H 0401 「溶融亜鉛めっき試験方法」
JIS H 8641 「溶融亜鉛めっき」
JIS G 3302 「溶融亜鉛めっき鋼板及び鋼帯」
JIS G 3312 「塗装溶融亜鉛めっき鋼板及び鋼帯」
JIS G 3317 「溶融亜鉛−5%アルミニウム合金めっき鋼板及び鋼帯」
JIS G 3318 「塗装溶融亜鉛−5%アルミニウム合金めっき鋼板及び鋼帯」
JIS H 8642 「溶融アルミニウムめっき」
JIS H 8672 「溶融アルミニウムめっき試験方法」
JIS G 3314 「溶融アルミニウムめっき鋼板及び鋼帯」
JIS G 3321 「溶融55%アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板及び鋼帯」
JIS G 3322 「塗装溶融55%アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板及び鋼帯」
【参考】
めっき(plating)
鍍金(ときん)とも言われ,金属を中心とする材料に対し,材料の装飾,耐食性向上,耐摩耗性向上,表面硬さなどの表面機能付与を目的に,異種金属の薄膜被覆による表面処理やその方法を指す。なお,めっきは,日本語なのでひらがな表記とする。
めっきは,処理工程の違いで電解めっき(電気めっき),無電解めっき(化学めっき),溶融めっき,化成処理に分けられる。
アルミニウムめっき(aluminum plating)
アルミニウムの被膜を形成するめっき法には,電解アルミニウムめっき(electrolytic aluminum plating),還元剤を用いた無電解アルミニウムめっき(electroless aluminum plating),アルミニウムの融点( 660℃)以上のアルミニウム溶融液に鋼材等を漬け込む溶融アルミニウムめっき(hot dip aluminizing, hot-dip aluminium-coating)がある。
高張力鋼(high tensile strength steels)
建築,橋,船舶,車両,自動車その他の構造物用及び圧力容器用として,通常,引張強さ 490 N/mm2以上で溶接性,切欠きじん性及び加工性も重視して製造された鋼材。冷延鋼板では引張強さ 340 N/mm2以上を高張力鋼という。【JIS G 0203「鉄鋼用語(製品及び品質)」】
犠牲アノード(犠牲陽極)(sacrificial anode)
流電陽極(galvanic anode)ともいい,外部電源を用いない陰極防食(カソード防食)の流電陽極方式で用いられる防食対象の金属より電位が卑な金属をいう。
鋼などの母材を,使用環境で母材より腐食電位が卑な金属で被覆したもの。この場合には,ピンホールや傷つきなどの素地に達する損傷があっても,露出した素地金属がカソードとなり,被覆金属が広いアノード(陽極)として作用するため,被覆金属が犠牲的に腐食し,素地金属の腐食を抑制できる。これを犠牲陽極作用,犠牲的保護作用や犠牲防食作用などともいう。
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