防食概論:防食の基礎
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材料対策
耐候性鋼材
陸上鋼構造物に通常用いる鋼材には,一般構造用圧延鋼材(SS材),溶接構造用圧延鋼材(SM材),建築構造物には建築構造用圧延鋼材(SN材)がある。
屋外で用いる鋼構造物は,防食を目的に塗装,めっき,溶射などを用い,維持管理計画に基づき管理されている。塗装,めっき,溶射の何れも構造物の期待耐用年数である 50~100年間の耐久は期待できない。このため,複数回の補修(塗替え塗装など)が求められる。
そこで,維持管理経費節減を目的に,1980年代にメンテナンスフリーの材料として,大気中の水と酸素の影響で生成した腐食生成物が鋼材表面に付着し,その後の腐食を抑制する鋼材として知られる耐候性鋼(atmospheric corrosion resisting steel, weathering steel, weatherproof steel)の裸仕様が注目された。
耐候性(weathering resistance))
低合金鋼などが自然環境の大気中での腐食に耐える性質。塗装鋼板及び塩化ビニル被覆鋼板では樹脂の劣化に耐える性質も含む。【JIS G 0203「鉄鋼用語(製品及び品質)」】
耐候性圧延鋼材 (rolled steels with improved atmospheric corrosion resistance)
大気中において通常の鋼に比べてちみつなさびを形成しやすく,腐食速度を低減することができる圧延鋼材。【JIS G 0203「鉄鋼用語(製品及び品質)」】,耐候性鋼に関する JIS 品質規格には,橋梁,建築,その他の構造物に用いる SMA 材に関する JIS G 3114「溶接構造用耐候性熱間圧延鋼材:Hot-rolled atmospheric corrosion resisting steels for welded structure 」,車両,建築,鉄塔及びその他の構造物に用いる SPA 材に関する JIS G 3125「高耐候性圧延鋼材:Superior atmospheric corrosion resisting rolled steels」がある。
しかし,長期暴露試験結果や実構造物の追跡調査などから,塩の影響を受ける環境では裸仕様で問題が起きることなどが明らかにされてきた。そこで,適用範囲を明確にするため,参考資料1)に示す 3者共同研究において,耐候性鋼の腐食度と飛来塩分(flying salinity)との関係が検討された。この結果を元に,道路橋の設計では,参考資料2)に従い,裸仕様での適用可能地域は,飛来塩分量 0.05mdd( mg・100cm-2・day-1)以下の地域としている。
これらの指針があるため,一般的に,飛来塩分量 0.05mdd以下の地域なら裸仕様でもメンテナンスフリーで 60年以上維持できると考えがちである。しかし,これに異議を呈する研究者も少なくない。
彼らに言わせると,後述する二つの懸念により,“飛来塩分量は,裸使用が可能な地域の目安であり,他の防せい・防食手法と同様に,適切な周期での点検と補修が必要な手法の一つと認識するべきで,ライフサイクルコストも補修が必要になった場合を推定して考慮する必要がある”と認識して比較検討すべきであると警告している。
なお,指針で提示した飛来塩分量の根拠として,下図の暴露試験結果を引用している。鋼板の暴露試験では,全国各地の実橋の桁内部(雨洗を受けない条件)に,小型試験板を水平に 9年間暴露し,回収試験片の板厚減少量を計測している。
一方,飛来塩分量は,当該橋梁の適当な場所(回収容易な場所を選定)に架設した特殊な塩分回収箱(土研式と呼ばれ,ISOや JIS規定の方法とは異なる)で得られた日平均の単位面積当たりの回収塩分量(報告書では飛来塩分量と称している)として求めたものである。
図では,試験片表面に層状はく離さびが観察された試験片の最小飛来塩分量が 0.05mddとなっている。
飛来塩分量は,土研式と呼ばれる塩分回収箱に開けられた窓を通過し,内部に設置したステンレス板表面に付着した塩分量を回収して求めた値である。JISに規格されるドライガーゼ法やウェットキャンドル法とは原理の異なる装置を用いている。土研式は,窓が一方向のみであるため,箱の設置箇所の地形,風向の影響を強く受ける方法である。
塩分回収箱の設置条件が規定されていないため,設置方向や位置を僅か変更するだけで得られる値が変化する可能性があり,その地域の平均的な状況を反映した値になっているのか,絶対値に意味があるのかなどの疑問が残る。
腐食量に関する懸念
試験片の寸法が小さいため,構造物とは異なる熱履歴を受ける。すなわち,鋼板表面の濡れ状況が異なる。また,桁内部に水平に設置された試験片と桁の鋼板では,表面を通過する風の影響が異なる。このことは,表面の付着塩分量も異なると考えられる。
以上のように,飛来塩分量 0.05mddという数値に固執することに対し懸念されている。
提言
例えば,資料 3)に示す “落橋” で話題となった無塗装桁も,外側面の腐食程度は低い。内側面からの腐食のみが進むことで鋼板厚みが減少し,落橋に至っている。すなわち,内側面のみに適切な防食対策を施すことで,健全な状態を保つことができた事例と考えることもできる。
残念ながら,現状ではこのような観点からの検討事例は少ない。
1)建設省土木研究所,(社)鋼材倶楽部,(社)日本橋梁建設協会:耐候性鋼材の橋梁への適用に関する共同研究報告書(XX)一無塗装耐候性橋梁の設計・施工要領(改訂案)-,平成5年3月
2)日本道路協会:道路橋示方書・同解説Ⅱ鋼橋編,平成14年3月
3)下里哲弘「腐食により崩落に至った鋼橋の変状モニタリングと崩落過程について」第2回CAESAR講演会(2009.8.26)(http://www.pwri.go.jp/caesar/lecture/lecture01.html)
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