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 亜鉛めっき鋼

 溶融亜鉛めっき層の構造

 前項では,浸漬時間を長くとると,亜鉛付着量が増加することを示した。すなわち,亜鉛の付着量が多いほど鋼素地が露出するまでの期間(耐久性)が延びるので,浸漬時間は長いほど防食性に有利と考えるのが一般的である。
 しかし,JIS規格では,鋼板の厚み別に推奨する亜鉛付着量を規定している。これは,浸漬時間が長すぎると亜鉛めっき層の品質低下に至るためである。このことを理解するため,溶融亜鉛めっき層の構造について解説する。
 
 溶融亜鉛めっきでは,440~460℃の液体亜鉛(融点;419.5℃)に鋼(例えば融点;1150℃以上)を浸漬する。浸漬開始時には,冷えた鋼表面に亜鉛が凝固(freezing , solidification)する。
 浸漬時間が長くなると,鋼表面も加熱され,その結果として原子の熱振動(thermal vibration)が激しくなり,鉄原子が鋼表面から亜鉛層に,亜鉛原子が鋼に拡散(diffusion)してゆく。このため,鋼とめっき層の界面からめっき層表面に向かって鉄の濃度勾配が生じる。すなわち,鉄濃度の異なる亜鉛・鉄合金層を形成することになる。

 めっき層の断面構造

 一般的な溶融亜鉛めっき皮膜の組織は,下図に示すように,外表面から素地に向かって,溶融亜鉛浴と同じ組成のη(イータ)層,鉄含有量 6%程度のζ(ツェータ)層,鉄含有量は 7~11%のδ1(デルタ・ワン)層で形成されている。
 なお,鋼材の種類やめっき条件によっては,素地とδ1層の間に鉄含有量が多いγ(ガンマ)層を確認できる場合もあるが,通常は,容易に確認できないほど薄い層である。

溶融亜鉛めっき層の断面構造

溶融亜鉛めっき層の断面構造
出典:一般社団法人 日本溶融亜鉛めっき協会HP「 6.亜鉛めっきの皮膜組織は?」

  • η(イータ)層
     この層は六方晶系に属し,亜鉛浴と同一成分の純亜鉛である。初期の表面は光沢があり,製品肉厚などの関係で結晶模様(表面に島状の模様:スパングル)が出ることがある。硬度は,ビッカース硬度で 70程度と軟らかい金属亜鉛層である。
  • ζ(ツェータ)層
     この層は単斜晶系に属する柱状組織を持つ鉄と亜鉛の合金層である。この結晶は他の層と比べると対称性が低く,互いに強固に結合していないので結晶間に亀裂を生じることがある。合金層の組成は FeZn13と考えられ,合金中の鉄含有量は 6%程度で,ビッカース硬度で 150程度と比較的硬い層である。
     この層まで腐食が進むと,鉄酸化物の色が混じり,斑点状に赤褐色を呈する。しかし,この層は比較的厚いので,η層が消失しても耐食性は十分に確保されている。
  • ∂1(デルタワン)層
     緻密で複雑な六方晶系の構造をもち,柵状層とも呼ばれる。この層は靭性・延性に富む。合金層の組成は FeZn7と考えられ,鉄の含有量は 7~11%で,ビッカース硬度 200以上と硬く,ヤスリを当てると鉄に近い感触がある。
  • γ(ガンマ)層
     通常観察されることは少ないが,鉄素地に接した非常に薄い層である。その結晶構造は,立方晶系で,Fe3Zn10と考えられている。
 このように溶融亜鉛めっきは,鉄と亜鉛の合金反応によって形成された複数の層が密着した構造になっている。長い浸漬時間で無理な高付着量を得ようとすると,結晶間の割れが発生し易いζ(ツェータ)層が異常に発達してしまう。ζ層は他の層と比べて結晶の対称性が低く,結合が弱いため,脆く,加工などで亀裂を生じやすい溶融亜鉛めっき層となる。
 
 亜鉛の付着量の設計では,鋼材の厚さに応じて,適切な値を選択することが重要になる。薄い鋼板で高い耐久性を求める場合には,無理な亜鉛付着量の設定を行うより,適切な付着量の溶融亜鉛めっき鋼に塗装などの他の防食対策を組み合わせるのが望ましい。
 さらに,鋼種の影響も無視できない。一般的には,リムド鋼系(Si含有量0.02%以下)に比較して,Si含有量の高いキルド鋼系材料(最近主流となってきた)では,鋼材のSiが亜鉛と鉄との合金反応に大きな影響を及ぼし,浸漬時間に対応して付着量が直線的に増加する。このため,合金層,特にζ層が厚くなり,η層は薄くなり,外観的には亜鉛光沢のない仕上がりとなる。

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