化 学 (有機化学)

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 ここでは,接着剤,塗料,半導体封止剤などで身近なエポキシ樹脂に関連し,【エポキシ樹脂とは】【エポキシ樹脂の分類】【エポキシ樹脂の合成】【エポキシ樹脂の硬化】【エポキシ樹脂の特徴】に項目を分けて紹介する。

 【エポキシ樹脂とは】

 エポキシ樹脂( EP ,epoxy resin )とは,分子の末端に 2 個以上のエポキシ基を持ち,エポキシ基の開環反応硬化剤などとの重合で三次元網目構造(架橋ネットワーク)を形成する熱硬化性樹脂をいう。
 架橋ネットワーク後の製品となった樹脂のみならず,硬化剤と混合する前の 2 個以上のエポキシ基を持つプリポリマー(プレポリマー)もエポキシ樹脂と称するのが一般的である。
 
 例えば,鋼構造物などの防食塗装に用いられるエポキシ樹脂塗料は,【防食概論:塗料・塗装】“エポキシ樹脂とは”で紹介したように ,ビスフェノール Aとエピクロルヒドリンとの重合で得られる 2 個のエポキシ基を持つプリポリマー(ピスフェノール A 型エポキシ樹脂プレポリマー)を混合した液状塗料が,塗料製造会社から商品(エポキシ樹脂塗料として供給される。
 この商品を塗装業者(職人)が購入し,適切な硬化剤(ポリアミン類)の添加・混合し,対象物表面に塗付け,架橋反応で不溶不融となった最終商品である塗膜(重合体)を完成させる。
 塗料と同様に,接着剤プリポリマーの状態で供給され,消費者が硬化剤と混ぜることで,最終的な熱硬化性樹脂のエポキシ樹脂を得ている。
 
 なお,プリポリマー( prepolymer )とは,“単量体又は単量体類とその最終の重合体との中間の重合度の重合体。”と定義されている。
 
 主な用途
 塗料(防食用),ガラスや金属などの接着剤,コンクリート接着剤,プリント基板,半導体チップ封止剤,電器絶縁躯体,ケミカルアンカーボルト樹脂,炭素繊維強化プラスチック( CFRP:航空器材,ゴルフクラブ,釣り竿など),道路舗装塩化ビニル樹脂の安定剤などに用いられている。
 
 関連 JIS 規格
 JIS K 6756「液状エポキシ樹脂の結晶化傾向試験方法」,JIS K 6757「エポキシ樹脂の抽出水電気伝導度の求め方」,JIS K 6929-1「プラスチック−エポキシ樹脂用硬化剤及び促進剤−第1部:指定分類」

 

 【エポキシ樹脂の分類】

 プリポリマー(プレポリマー)の分子構造の違いで,グリシジルエーテル型,グリシジルエステル型,グリシジルアミン型,脂環型(オレフィン酸化型)に分けられる。
 この中で,①のグリシジルエーテル型がその大半(市販品の 90 %以上)を占めている。
 
 グリシジルエーテル型は,さらに,塗料や接着剤などで用いられる最も一般的なピスフェノール A 型エポキシ樹脂やビスフェノールF 型エポキシ樹脂など 2 官能繰り返し構造,半導体の封止用途で用いられるとなどクレゾールノボラック型エポキシ樹脂,フェノールノボラック型エポキシ樹脂など多官能繰り返し構造型,及び 2 以上のエポキシ基を持つ単体の多官能単量体型の 3 種類に大別される。

エポキシ樹脂の分類例

エポキシ樹脂の分類例

 分子構造以外の分類には,特性や官能基を表すビスフェノール型エポキシ樹脂,多官能エポキシ樹脂,可撓性エポキシ樹脂,臭素化エポキシ樹脂,高分子型エポキシ樹脂,ビフェニル型エポキシ樹脂など多数ある。

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 【エポキシ樹脂の合成】

 工業的に利用されるエポキシ樹脂は,主としてエピクロロヒドリン( Epichlorohydrin ,C3H5ClO , 2-クロロメチルオキシラン)と多価フェノールや多価アルコールなどとの縮合反応による重合体である。
 エピクロロヒドリンと多価フェノールの反応は,水酸化ナトリウムなどの触媒を用いて 60~120 ℃程度の比較的温和な条件で行われる。樹脂は,配合比,反応条件などを変えることで,平均分子量 350~7000の樹脂(第一次樹脂を任意に得ることができる。
 
 ビスフェノール A 型エポキシ樹脂の製法
 ビスフェノール A 型エポキシ樹脂は,多価フェノールのビスフェノール A( (CH3)2C(C6H4OH)2 ,4,4'-(プロパン-2,2-ジイル)ジフェノール)とエピクロルヒドリンとの縮合反応による重合体である。
 原料となるビスフェノール Aは,フェノール( C6H5OH )とアセトン( CH3COCH3 )を酸触媒(塩酸などの無機酸,スルホン酸型の陽イオン交換樹脂などの固体酸)の下での脱水縮合反応で得られる。

ビスフェノール A 型エポキシ樹脂の合成

ビスフェノール A 型エポキシ樹脂の合成

 エピクロルヒドリンは,次の手順で得られる。
 はじめに,プロピレン( CH2=CH–CH3 )と塩素( Cl2 とのラジカル反応で塩素化し塩化アリル( CH2=CH–CH2Clを得る。
 次いで,次亜塩素酸( HClO )との反応でジクロロプロパノール類( CH2Cl–CHOH–CH2Cl ,CH2OH–CHCl–CH2Cl )を得る。
 最後に,ジクロロプロパノールに強塩基で脱塩酸することでエピクロルヒドリンが得られる。

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 【エポキシ樹脂の硬化】

 プリポリマー(プレポリマー)としてのエポキシ樹脂は,硬化剤と反応することで,機械的強度や耐薬品性の優れた熱硬化性のエポキシ樹脂製品として得られる。
 エポキシ樹脂製品の性質は,硬化剤の種類,配合比,硬化条件などで大きく変わる。一般的な硬化剤の種類には,アミン系,酸無水物系,ポリアミド系などがある。
 
 アミン系硬化剤
 常温硬化剤としては,ジエチレントリアミン( DETA ,NH2CH2CH2NHCH2CH2NH2 ),トリエチレンテトラミン( TETA ,(NH2CH2CH2NHCH2)2 )などの脂肪族ポリアミンが用いられている。
 このままでは毒性(皮膚炎や呼吸器障害)が強いので,変性アミンと称されるエポキシ樹脂,アクリロニトリル,酸化エチレンなどとの付加化合物が硬化剤として用いられる。

エポキシ樹脂のアミンとの硬化反応(模式図)

エポキシ樹脂のアミンとの硬化反応(模式図)

 脂肪族ポリアミンをケトンと反応させて得られるケチミン(ケトイミン)は,空気中の水分で加水分解しポリアミンを生成する。この特性を利用して,エポキシ樹脂プリポリマーと予め混合しておき,一液型エポキシ樹脂塗料の硬化剤として用いられる。
 
 硬化剤として利用される芳香族ポリアミンには,メタフェニレンジアミン,ジアミノジフェニルメタン,ジアミノジフェニルスルホンなどがある。
 芳香族ポリアミンを用いた場合は,高温での硬化反応(いわゆる焼付け)となるが,機械的性質や電気的性質の優れた硬化物が得られる。
 
 酸無水物系硬化剤
 酸無水物系硬化剤は,硬化に高温と長時間を要するが,ポットライフ(可使時間)が長く,低い毒性,各種性能の優れた硬化樹脂が得られること,硬化ひずみが小さく大型の成形物を得易いなどの特徴がある。
 一般的には,無水フタル酸,テトラおよびヘキサヒドロ無水フタル酸,メチルテトラヒドロ無水フタル酸,無水メチルナジック酸,無水ピロメリット酸,無水ヘット酸,ドデセニル無水コハク酸などが用いられる。
 
 ポリアミド系硬化剤
 液状のポリアミド樹脂は,エポキシ樹脂塗料や接着剤に用いる硬化剤として有用である。塗料や接着剤の分野では,アミン系硬化剤より一般的に用いられている。
 硬化剤として用いる液状のポリアミド樹脂は,リノール酸やオレイン酸などを含む不飽和脂肪酸の加熱重合で得られる二量体化したダイマー酸( dimer acid )と俗称される化合物に,アミン系硬化剤で用いるジエチレントリアミントリエチレンテトラミンなどを反応させて合成される。
 
 その他の硬化剤など
 他には,積層板,塗料や接着剤に用いられる硬化剤の促進剤としてイミダゾール類,耐熱性付与や半導体封止用に多官能型硬化剤としてフェノール樹脂(ノボラック),電気用材料の難燃性付与目的のアミノ樹脂,塗料や接着剤などの低温硬化用に用いるジシアンジアミド,ポリメルカプタンなどがある。

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 【エポキシ樹脂の特徴】

 一般的な特性
 常温,常圧で成形でき,硬化時の収縮が非常に小さい。接着力(特に金属やコンクリートなど)が大きく,耐熱性が高い。
 さらに,電気的特性,機械的性質,耐溶剤性,耐酸性,耐アルカリ性,耐水性に優れている。
 エポキシ樹脂は,各種変性剤(充填剤,可撓性付与剤,希釈剤など)を用いることで,材料設計の自由度が高く,応じられる要求性能の範囲が広い。
 
 エポキシ種類別の特性
 ビスフェノール A 型エポキシ樹脂
 グリシジルエーテル型で,広く用いられる汎用タイプのエポキシ樹脂である。
 エポキシ樹脂の硬化の際に水その他の揮発物を副生せず,体積収縮が少なく(寸法安定性が良い),電気関係や機械関係の注型品や成形品に用いられる。
 多くの物質表面への接着性に優れ,接着剤,塗料,ガラス繊維強化プラスチック( GFRP )の積層用材料として広く用いられている。
 グリシジルエステル型エポキシ樹脂
 反応性はグリシジルエーテル型より高く,酸無水物系硬化剤を用いる。ビスフェノールA型エポキシ樹脂に比べ低粘度で,硬化物の対アーク性,耐トラキング性,耐候性に優れ,電機絶縁材料として広く用いられている。
 グリシジルアミン型エポキシ樹脂
 分子量が小さく,多官能性のため,硬化物の耐熱性に優れ,耐熱性の複合材料用の樹脂として用いられている。
 ノボラック型エポキシ樹脂
 クレゾールノボラック型,フェノールノボラック型とも官能基数が多く,耐熱性,耐薬品性,電気特性に優れ,粉体塗料,成形材料,積層板などに使用される。特に半導体封止材料用としての需要が大きい。
 環状脂肪族型エポキシ樹脂
 芳香環を含まないため,耐候性,耐アーク性,耐トラッキング性に優れ,電気絶縁材料として使用される。
 長鎖脂肪族型エポキシ樹脂
  可撓性に優れ,低粘度のため,主に希釈剤として用いられる。

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