腐食概論:鋼の腐食

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           【大気汚染物質の影響】

 鋼の大気腐食では,硫黄酸化物や硫化水素などの硫黄化合物(sulfide)飛来海塩粒子や道路凍結防止塩などの塩化物(chloride)が,腐食促進に影響する環境因子(environmental factor)として知られている。
 大気汚染(aerial environment pollution)の結果として,鋼表面に付着する物質が,鋼表面に形成される水膜の厚み電気伝導率(electric conductivity)に影響する。すなわち,塩類の付着で,鋼表面に形成される水膜の厚みが増えること,水膜の電気伝導率の増加が腐食の促進に影響していると考えられる。
 ここでは,鋼表面に大気汚染物質・浮遊物質が付着したときの影響について解説する。
 下図は,清浄空気中の鋼と汚染環境におかれた鋼の相対湿度と腐食度(corrosion rate)の関係を示す模式図である。

相対湿度と腐食度に影響する大気汚染(模式図)

相対湿度と腐食度に影響する大気汚染(模式図)

 清浄空気の場合は,【清浄表面への水分子吸着】の項で解説したように,鋼表面に水分子が吸着し,液相として作用する水膜の形成が起きる相対湿度 80%以上腐食度の増加が見られる。
 
 大気が塵埃等で汚染されている場合は,大気中の水分子が鋼表面に付着した塵埃との間のすき間にも吸着し,清浄な鋼表面に比較し,同じ相対湿度でも多くの水分子が吸着する。このため,相対湿度 70%程度から腐食度が増加し始めている。
 
 腐食促進因子の腐食性ガス(硫黄酸化物,硫化水素など)や塩類(海塩など)で汚染された大気中で,これらが付着した鋼表面では,【汚染表面の濡れ】で紹介したように,付着した物質によっては,低い相対湿度から水分子の吸着量が増え厚い水膜が形成されると共に,高い電気伝導率により腐食度が増加する。汚染程度が激しい場合には,相対湿度 50~60%でも腐食度の増加が観察される。
 なお,海塩粒子(sea-salt particle)が付着した場合については,【海塩粒子の影響】で紹介する。
 
 腐食度が急激に増加する湿度を,臨界湿度(critical humidity)という。臨界湿度は,金属種,金属表面の状態,大気の汚染状態などにより異なるが,一般的には 50~70%の範囲にある。
 言い換えると,特殊な環境を除き,相対湿度 50%以下の環境では,鋼腐食が著しく小さくなるともいえる。
 
 【参考】
 環境因子(environmental factor)
 一般的には,生物の生存,生活に影響する環境の条件をいう。腐食工学では,鋼などの金属の腐食に影響する環境条件(environmental conditions)をいう。例えば,大気腐食(屋外)では,気温,湿度,降水,海塩粒子,二酸化硫黄などが環境因子として取り上げられる。
 JIS Z 2381 「大気暴露試験方法通則」では,環境因子を“暴露試験場における気象因子及び大気汚染因子の総称。”,気象因子を“気象観測の対象となる気温,湿度,太陽放射エネルギー量,降水量,風向,風速などの因子。”,大気汚染因子を“人為的・自然的に発生する硫黄酸化物,窒素酸化物,硫化水素,海塩粒子などの暴露試験に影響を及ぼす因子。”と定義している。
 飛来海塩粒子(airborne sea salt particles)
 大気中に含まれるエアロゾル粒子の中の海塩粒子を指す。
 海塩粒子(sea salt particle)とは,海岸の波打ち際及び/又は海上で波頭が砕けたときに発生する海水ミストが,風で運ばれて飛来した粒子。海塩粒子の大きさは,約 0.01μm~20μm である。【JIS Z 2381「大気暴露試験方法通則」】
 電気伝導率(electric conductivity)
 溶液がもつ電気抵抗率(Ω・m)の逆数。単位は S/m溶液がもつ抵抗率の逆数で,電極間距離を電極表面積と電気抵抗との積で除した値。SI 単位は S/m(ジーメンス/メートル)。 【JIS K 0213 「分析化学用語(電気化学部門)」】
 注記 電気伝導率,電気伝導度及び測定セルのセル定数は,次の式で示す関係にある。
      L=J×LX
 ここに,L:測定試料の電気伝導率(S/m),J:セル定数( m-1 ),LX:測定した電気伝導度(S)
 腐食速度(corrosion velocity)
 腐食速度(corrosion velocity)とは,金属腐食に関わる化学反応の反応速度(reaction velocity)をいう。反応速度とは,化学反応において,反応物(又は生成物)の量の時間変化率を表す物理量と定義される。
 一般的に,金属の腐食過程では,腐食速度は時々刻々変化するので,暴露試験など比較的長い時間に計測した腐食反応物や生成物の変化量を示す場合は,腐食速度(corrosion velocity)ではなく,腐食度(corrosion rate)や侵食度(penetration rate)を用いるのが良い。
 日本語の腐食速度という用語は,反応速度と同様に,厳密に使い分けられているわけではない。例えば,JIS G 0202「鉄鋼用語(試験)」では,腐食速度(corrosion rate)として“腐食減量を単位時間,単位面積当たりで表わした値”,侵食速度(penetration rate)として“腐食減量から計算される単位時間当たりの平均腐食深さ。”と定義している。
 なお,同 JIS では,腐食減量(mass loss , corrosion loss)を“腐食試験後,表面に付着した腐食生成物を取り除いた試験片の質量減,又は単位表面積当たりの質量減。”と定義している。
 腐食度(corrosion rate)
 ある期間に生じた単位面積当たりの腐食量をその期間で除して求められる値。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 この値は,暴露期間中に時々刻々変化する腐食速度(金属の腐食反応速度)とは異なる。また,同じ条件の試験であっても,暴露期間が異なると腐食度も異なる。単位は,単位面積当たり,1年(平均太陽年)当たりのグラム数(g・m-2・a-1)で表わす。
 大気暴露試験で得られる腐食度は,暴露開始時期の違い(例えば春開始と秋開始など)の影響も受ける。このため,腐食度で腐食性評価を行う場合には,暴露環境条件に加えて,暴露開始時期,暴露期間(暴露1年目や暴露X-Y年など)などの情報を併記するのが望ましい。
 侵食度(penetration rate)
 侵食度は,求めた腐食度から単位時間当たりの厚み減少量μm・a-1)に換算した値で,金属の厚み方向への影響を直感的に理解し易いため広く用いられている。
 一般には,腐食度を金属の密度で除して得られる厚みの平均減少量である。腐食度と同様に,暴露期間で値が変わるので注意が必要である。
 侵食度は算術平均値であり,全面の均一な腐食の場合は実態と整合するが,局部腐食では的確な評価ができない。従って,不均一な腐食が観察される場合は,侵食度を用いるべきではない。
 なお,過去の文献等では,侵食度というべきところを腐食度と記すものも少なくないので,使用する単位で判断する必要がある。

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