社会資本鋼橋の維持管理(鉄道

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  検査(全般検査)の要領

 国土交通省の“鉄道に関する技術上の基準を定める省令”に対応する維持管理関連の解釈基準「鉄道構造物等維持管理標準・同解説(構造物編)鋼・合成構造物」(以下「維持管理標準」という)を参考に,全般検査,健全度の判定,措置の考え方などを解説する。
 参考資料
 1)「鉄道構造物等維持管理標準・同解説(構造物編)鋼・合成構造物」,国土交通省鉄道局監修,(財)鉄道総合技術研究所編集 丸善出版

 (1) 全般検査の目的

 全般検査は,構造物の健全度を判定するために,構造物の状態を把握することを目的とする。

 (2) 調査項目
 通常全般検査における調査項目は,一律ではなく,構造物の特性と周辺の状況に応じて,当該構造物に最適な条件を設定して行う。次に示すのは,一般的な調査項目とその内容を述べる。なお,コンクリートに関する項目は省略した。
 1) 塗膜の劣化および腐食の状態
 塗膜劣化そのものは,構造物本体にとって変状とはいえない面もあるが,防食性能低下による鋼腐食は,構造物の健全性に影響する変状に至る可能性がある。このため,通常全般検査では塗膜劣化の中で光沢や色変化などの評価は低く,塗膜割れ,はがれやさび発生など塗膜の防食性能低下に関連する変化を高く評価する調査項目としている。
 腐食の状態を調査する場合,鋼の腐食が一律に進むことは少なく,部位ごと(上・下フランジ,腹板等)でその進行程度が異なるので,調査ではこのことに注意して評価しなければならない。目視による腐食関連の調査で注目する項目は,a) さび,b) 滞水,c) 付着物,d) 堆積物,e) 排水装置からの漏水である。
 2) 耐候性鋼材の保護性さびの生成状態
 既往の研究では,耐候性鋼材の暴露後3年程度で“層状のはく離さび”や“うろこ状のはく離さび”に至る場合は,保護性さびの形成が期待できないことを示している。このため,架設後 3~5年間程度の調査結果が重要となる。
 調査方法には,目視による外観観察法と電磁膜厚計によるさび厚み測定法がある。目視による調査項目は,
 a) 層状はく離さび,うろこ状はく離さびの有無(うろこ状はく離さびが発見された場合には,監視により進行度合いを把握するが,層状はく離さびが発見された場合には補修の計画が必要)
 b) 補修塗装部や部分塗装部のさびの有無(塗装面のさびや塗膜はがれの有無)
 c) 漏水・滞水の有無(漏水は,桁端部,排水管近傍,床版ドレインパイプ近傍,床版ひび割れ部,高欄付近に着目し,濡れおよびさびの変色状況を調査。滞水については,縦断勾配,横断勾配の低い個所,水平上面,格点部等を調査)
 d) 構造・施工上の不備,劣化,損傷の有無
 e) 周辺環境における腐食因子の有無(構造物の周辺環境で,例えば道路等の凍結防止剤飛散などの腐食促進因子の有無を調査)などがある。
 3) 建築限界支障の有無
 部材の変状やボルト緩み,付帯設備の変状等によって,建築限界(列車走行に支障をきたさない寸法範囲)に抵触していないかどうか調査する。
 4) 列車通過時の橋桁の振動状態
 横構,対傾材,支材およびこれらを主桁に連結するガセットプレート等が,腐食で切断したり,疲労亀裂が生じたり,ピン結合部が緩んだりすることで,左右主桁のバランスがくずれて横振動が大きくなることがあるので,列車通過時に橋桁に異常な振動があるかどうかを調査する。
 5) 支承部の変状

支承部の例(ローラー支承)

支承部の例(ローラ支承)


 支承部(下図)の変状調査では,次の項目に注目して観察する。
 a) 沓座の破損
 b) 沓座前面のコンクリートのはく離
 c) アンカーボルトの抜けおよび破断
 d) 支承本体の破損
 e) 支承の可動不良
 f) 支承位置のずれおよび傾斜
 g) 桁端部の離れ
 h) ソールプレート取り付け溶接や取り付けリベットの変状
 i) 端補剛材下端の亀裂
 j) 下フランジの亀裂
 6) リベットおよびボルトの変状
 リベットおよびボルトの主な変状は,腐食,欠食,ゆるみ,脱落が挙げられる。ゆるみや脱落が生じやすい個所は次のとおりである。
 a) 腐食部
 b) 上横構の連結部
 c) 縦桁に取り付く下横構の連結部
 d) 縦桁と横桁の連結部
 e) 支承に異常のある桁端部
 f) 振動を伴う付帯物の連結部
 g) F11T 以上の高力ボルト使用部
 h) 桁の連結部材
 なお,リベット・ボルトには,力を伝達する「力リベット・ボルト」のほかに,トラス弦材の形状を維持するためなどの力伝達や強度に影響しない「綴りリベット」がある。綴りリベットの重要度は低い。
 7) 溶接部および母材の変状
 溶接部等の疲労亀裂の調査に際し,注目すべき項目は次のとおりである。
 a) 端補剛材下端の溶接止端部の亀裂
 b) 補剛材上下端溶接部の亀裂
 c) 縦桁と横桁の切欠部の亀裂
 d) 縦リブと横リブの交差部の亀裂
 e) 縦桁と横桁連結部の補剛材上端溶接部の亀裂
 f) 水平補剛材端部の亀裂
 g) ダイヤフラムの亀裂
 h) 横桁の補剛材下端部の亀裂
 i) 縦桁の貫通溶接部の亀裂
 j) 連結部材の亀裂
 疲労亀裂は,一般的に溶接部から発生するケースが多い。しかし,母材やリベット孔等にも注意が必要である。
 8) 補修・補強個所の再変状
 架設年代の古い橋梁では,錬鉄,ベッセマー鋼,一般構造用炭素鋼(SS材)等の溶接に適さない鋼材が用いられている。また,溶接構造用炭素鋼(SM材)が用いられている場合でも,現場での溶接は,温度・湿度や,溶接のための素地調整に対する管理が容易でないため,無理な施工を行うと低い溶接品質のため疲労強度が著しく低下する場合がある。
 これらに起因した再変状(亀裂)の有無が調査対象となる。再変状の発生しやすい個所には次のものがある。
 a) 上下フランジの溶接補強材の亀裂
 b) 補修溶接部の亀裂
 c) 沓座の補修部の亀裂
 d) 改造桁の新旧材連結部の亀裂
 e) リベットおよびボルトの併用継手部の亀裂
 f) 錬鉄製桁への溶接補修・補強部の亀裂
 g) ストップホール施工個所の亀裂
 9) 衝撃によって疲労亀裂が生じやすい個所
 レール継目がある個所では,列車通過時の衝撃力が大きく,その周辺個所で疲労亀裂が生じやすい。また,フランジ天端とまくらぎが接触する個所でも,衝撃による疲労亀裂が発生しやすい。
 10) 排水設備の状態
 道床式桁の防水工,排水工(桶,弁,水抜き),張板(下面遮音板を含む)等において,着目する変状には次のものがある。
 a) 排水パイプ,弁のつまりおよび破損
 b) 張板,下面遮音板の排水不良
 c) 鋼床版添接部の腐食
 d) 道床式桁の防水工の破損
 11) 歩道および防音工等付帯物の変状
 歩道や防音工等の付帯物では,次の変状に着目して調査する。
 a) 歩道および防音工等付帯物の取付部の変状
 b) 歩道高欄の連結部の変状
 c) 防音工の留め金具の脱落
 d) 腕材および支柱の破損
 e) 遮音板の腐食,破損
 12) 周辺環境に与える影響
 地域住民に与える景観上の影響や落下等で第三者被害に結び付く変状には次のものがある。
 a) 塗膜の劣化
 b) コンクリートのひび割れ
 c) 構造物の汚れ,清掃不良
 d) コンクリートのはく落
 e) リベットおよびボルトの落下
 f) さびの発生,さび汁の垂れ
 13) 主な目視個所の例
 架設年の古い橋梁はリベット構造で,架設年の新しい橋梁は溶接・ボルト構造である。この構造の違いによっても,それぞれ着目個所が異なるので注意が必要である。
 下路プレートガーダーを例に,外観観察で注目すべき一般的な個所と変状の例を次に示す。
 ・ 支承部付近の変状
 ・ 横桁腹板の切欠き部の亀裂

鉄道橋の構造:下路プレートガーダー

鉄道橋の構造:下路プレートガーダー


 ・ 縦桁端部の腹板の亀裂
 ・ 補剛材の上下端部溶接部の亀裂
 ・ 横桁ニーブレスコーナーの亀裂 
 ・ 縦桁と横桁連結部でのリベットおよびボルトの変状
 ・ 下横構と縦桁連結部の変状
 ・ 防水工の破損
 ・ 耐震連結装置
 ・ 軌道用品締結部
 ・ 主桁添接部の母材及びリベットの欠食
 ・ 縦桁上フランジの欠食
 ・ 主桁腹板下端の欠食
 (3) 調査方法
 「通常全般検査」は,目視による外観調査を基本とし,「特別全般検査」では,足場等を活用して,入念な目視のほかに,必要に応じて機器を用いた調査方法を採用することがある。「全般検査」で変状が確認された場合には,より詳細な調査を行う「個別検査」が実施される。
 「特別全般検査」及び「個別検査」で採用される入念な調査法の例を次に示す。調査法 1)~6)は現地で実施される非破壊での調査である。調査法 7)は,橋梁から試験用の材料が入手できた場合に,試験室で調査される方法,すなわち破壊検査になる。
 1) 入念な目視
 一般的には塗装用足場を活用し,近接しての目視観察,拡大鏡を用いた目視観察が行われる。
 2) 腐食断面や亀裂長さの計測
 ノギス,キャリパー,超音波厚さ計等の長さ計測器を用いて,腐食個所の鋼材断面の厚さ(残存板厚み)を計測する。これらの機器を用いた計測では,表面に付着する塗膜や腐食生成物を除去する必要がある。
 亀裂の長さ計測において,目視判定で亀裂と確認できる長さは,ノギス等を用いて計測できる。この値は,最小値と考えた方が良い。
 一般には,目視で確認困難な亀裂が目視確認できる亀裂の先に進展していることが多い。また,溶接個所では,表面に現れない内部の亀裂進展もある。
 これらの亀裂を正確・的確に計測するためには調査法4)の手法を併用して行うのがよい。
 3) 応力や変位測定等
 列車通過時の構造物の挙動を定量的に把握するため,ひずみゲージ,光学式変位計,リング式変位計等を橋梁の適当な部位に取り付けて計測する。計測では,計測目的に適した計器の選択,貼り付け位置の決定,計測タイミングなど事前に十分な検討が必要である。
 4) 非破壊検査
 構造物に発生する亀裂で,目視困難なもの,溶接ビード内部に発生するものなどは,非破壊検査法を用いて調査する。
 非破壊検査法には UT(超音波探傷試験),MT(磁粉探傷試験),ET(渦流探傷試験),PT(浸透探傷試験)などがある。これらの中から,現地状況と試験法の特徴とを考慮して適切に選択する。各試験法の特徴は,【構造物検査の概要】に示す。
 5) 無塗装橋梁に対する調査
 耐候性鋼を用いた無塗装橋梁では,表面が保護性のさびで覆われているか否かの判定が必要になる。
 層状の“はく離さび”発生が認められた場合には,当該環境で保護性さびの形成は期待できないと判定する。
 一方で,架設後3年程度で“うろこ状さび”が観察された場合などは,将来に保護性さびの形成が期待できるか否かを把握するため,環境や飛来塩分量の調査,原因の特定,さび厚の計測などを行うのがよい。
 6) 塗装桁に対する調査
 塗装桁の塗膜調査は,補修措置の一つである塗替え塗装の要否と塗装時期を判定するための適切な調査が求められる。塗膜調査は,(財)鉄道総合技術研究所編集「鋼構造物塗装設計施工指針」(研友社)に基づき,外観観察や塗膜付着性試験などを行うのがよい。
 7) 破壊検査
 材質に疑義のある場合,変状原因を学術的に解明したい場合などは,当該構造物から試験体を採取して材料試験(引張試験,衝撃試験等),断面調査(電子顕微鏡による断面観察等),化学分析(元素分析,組成分析等)などの試験室試験を実施するのがよい。
 試験体採取に際しては,採取行為が構造物の健全性に与える影響を十分に考慮したうえで行わなければならない。

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