第三部:化学反応 酸・塩基反応
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ここでは,酸・塩基反応の理解に資するため, 【酸・塩基反応とは】, 【アレニウスの酸と塩基の反応】, 【電離定数と酸・塩基反応】 に項目を分けて紹介する。
酸・塩基反応とは
数多くある化学反応は,反応機構( reaction mechanism )でいくつかの型に分類される。その中で,酸・塩基反応( acid-base reaction )や酸化還元反応( oxidation-reduction reaction )は,基本的な化学反応の代表に挙げられる。
酸・塩基反応
酸と塩基の反応により塩を形成する反応機構をいう。酸・塩基反応の多くは発熱反応であるが,炭酸水素ナトリウムと酢酸の反応など吸熱反応の例もある。
なお,酸と同じモル当量の塩基との反応を,特に中和反応( neutralizing reaction )という。中和反応の結果として水溶液が中性( pH 7 )になると誤解される場合もあるが,反応の最終的な pH は,反応に関わる物質の特性(酸性度など)や量により決まるものである。
酸・塩基反応で形成する塩塩の範囲は,酸・塩基の定義で異なる。
例えば,アレニウスの定義による酸と塩基の反応では,水と金属塩を生成する。ブレンステッド・ローリーの定義による酸と塩基の反応では,金属塩に限定されず,必ずしも水の生成を伴わない反応で,非水溶液での反応も扱える。
【参考】
酸・塩基の定義
主要な酸,塩基の定義には,アレニウス酸・塩基,ブレンステッド‐ローリー酸・塩基,及びルイス酸・塩基がある。
アレニウス酸・塩基 ( Arrhenius acid,base )
スウェーデンの科学者スヴァンテ・アレニウス( 1859 ~ 1927 ,物理化学の創始者)が 1884年に定義した酸・塩基。
酸:水溶液中においてプロトン ( H+ ) を出す物質。
塩基:水に溶けた時に水酸化物イオン ( OH- ) を出す物質。
ブレンステッド‐ローリー酸・塩基 ( Brönsted acid,base)
デンマークの科学者ヨハンス・ブレンステッド( 1879 ~ 1947)とイギリスの科学者マーチン・ローリー( 1874 ~ 1936 )が同時( 1923年)に定義した酸・塩基。
酸:反応する相手に対しプロトンを与える物質。
塩基:反応する相手からプロトンを受け取る物質。
ルイス酸・塩基( Lewis acid,base )
アメリカの物理化学者ギルバート・ニュートン・ルイス( 1875 ~ 1946 )が 1923年に定義した酸・塩基。
酸:電子対を受け取る物質。
塩基:電子対を供給する物質
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アレニウスの酸と塩基の反応
【酸・塩基とは】で紹介したように,アレニウスの定義では,
アレニウス酸
水溶液中においてプロトン( H+ )を出す物質。現在は,プロトンではなく,ヒドロニウムイオン( H3O+ ;オキソニウムイオン)という。
この定義に当てはまる酸は,塩酸( HCl ),硝酸( HNO3),酢酸( CH3COOH ),硫酸( H2SO4 ),炭酸( H2CO3 )など酸として知られるものの多くが該当する。
アレニウス塩基
水に溶けた時に水酸化物イオン( OH- )を出す物質。
この定義に当てはまる塩基は,分子中に -OH(水酸基,ヒドロキシ基)を含む水酸化ナトリウム( NaOH ),水酸化カリウム( KOH ),水酸化カルシウム( Ca(OH)2 )や水酸化マグネシウム( Mg(OH)2 )などに限定される。よく知られるアンモニア( NH3 )は,定義上では,アレニウス塩基ではなくプロトンを受け取るブレンステッド塩基に分類される。
なお,溶媒として用いる水( H2O )は,自己解離しヒドロニウムイオン( H3O+ )と水酸化物イオン( OH- )を与えるので,アレニウスの酸であり,塩基でもある。
酸と塩基の水溶液中での反応
水溶液中で次に示す電離状態にあるアレニウス酸( HX )の水溶液①と,アレニウス塩基( YOH )を含む水溶液②を混合した場合を考える。
① 酸の電離 : HX + nH2O ⇆ X- (aq) + H3O+
② 塩基の電離: YOH + mH2O ⇆ Y+ (aq) + OH-
なお,( aq ) は水和を意味する。水溶液①と②を混合すると,
HX + YOH + nH2O
⇆ X- (aq) + Y+ (aq) + OH- + H3O+
⇆ X- (aq) + Y+ (aq) + 2H2O
⇆ XY (aq) + 2H2O
のように,溶媒の水を含んだ複数の化学反応の段階に分けられる。
しかし,一般的には,次に示すように,水溶液中の反応であっても,溶媒の水と中間段階を省略し,最初と最後の状態を不可逆反応( irreversible reaction )のように表示される。
HX + YOH → XY (aq) + H2O
実際の水溶液では,【無機塩の水溶解】で紹介したように,生成した塩( XY )は,その温度で決まる溶解度(溶解度積)に至るまでは,安定な陽イオン水和物( Y+ (aq) )と陰イオン水和物( X-(aq) )として存在する。
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電離定数と酸・塩基反応
アレニウスの酸・塩基には,電離定数の大きい強酸,強塩基と電離定数の小さい弱酸,弱塩基がある。
ここでは,これらの組み合わせによる反応の特徴を考える。
強酸と強塩基の反応
電離定数の大きい強酸と強塩基の反応では,酸・塩基の電離を見かけ上は,不可逆反応として扱うことができる。
強 酸 : HX + nH2O → X- (aq) + H3O+
強塩基: YOH + mH2O → Y+ (aq) + OH-
例えば,1 価の塩酸と 1 価の水酸化ナトリウムの反応は,
HCl + NaOH → NaCl + H2O
と表記するが,水溶液中では,水和した Na+ イオン,Cl- イオンとして存在している。
強酸と強塩基の反応では,それぞれの物質量により,水溶液中のイオン濃度,pH が変わる。その変化量を知るためには,【強酸・強塩基の pH 】で紹介したように,水の自己解離,電解質の物質収支,電気的中性原理で導かれる連立方程式を解かなければならない。詳細については,【強酸・強塩基の滴定】で紹介する。
弱酸や弱塩基の関与する反応
弱酸と弱塩基は,水溶液中で,それぞれ次の電離平衡にある。
弱 酸 : HX + H2O ⇆ X- (aq) + H3O+
Ka = [ X- ] [ H3O+ ] /[ HX ]
弱塩基: YOH + H2O ⇆ Y+ (aq) + OH-
Kb = [ Y+ ] [ OH- ] /[ YOH ]
このように,それぞれ単独に存在する水溶液中では,電離定数に応じて,一部の分子しか解離しない。
例えば,電離定数 Ka = 1.75×10-5 の酢酸水溶液( 0.01mol/L )では,電離度 α≒ ( Ka /C0 )1/2 = ( 1.75×10-3 ) 1/2 ≒ 0.041 となるので,溶解した酢酸のうち数%の分子しか電離していないことが分かる。
弱酸と弱塩基を混合した水溶液中では,酸と塩基の組み合わせと,それぞれの量比に応じた複雑な変化が起きる。この詳細については,【弱酸・強塩基の滴定】,【緩衝液】で紹介する。
多価の酸・塩基の関与する反応
硫酸( H2SO4 ),炭酸( H2CO3 )などの多価の強酸・塩基(多段階で電離)が関与する反応では, pH 変化(滴定曲線など)を検討する際に,【電離平衡】で紹介したように,各段階の電離定数が大きく異なるので,これを考慮しなければならない。
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