化 学 第三部:化学反応

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 ここでは,酸と塩基の理解に資するため, 【酸・塩基の定義について】, 【アレニウスの定義】, 【ブレンステッド・ローリーの定義】, 【ルイスの定義】 に項目を分けて紹介する。

  酸・塩基の定義について

 酸性・塩基性・中性とは
 酸性( acidacidic,acid )
 としての性質を示すこと。塩基と反応して塩をつくる性質を示すこと。標準状態の水溶液中では水素イオン濃度指数 pH 7 より小さい場合,すなわち水素イオン( H ),厳密にはヒドロニウムイオン( H3Oの量が水酸化物イオン( OH )の量より多い場合をいう。
 
 塩基性( basicity,basic )
 塩基としての性質を示すこと。標準状態の水溶液中では水素イオン濃度指数 pH 7 より大きい場合,すなわち水素イオン( H )の量が水酸化物イオン( OH )の量より少ない場合をいう。
 水溶液の場合には,塩基性アルカリ性( alkaline )ともいわれる。
 
 中性( neutrality )
 酸性でも塩基性でもないない性質を示すこと。標準状態の水溶液中では水素イオン濃度指数が概ね pH 7 の場合,すなわち水素イオン( H )の量が水酸化物イオン( OH )の量とほぼ同等の場合をいう。
 
 酸・塩基の定義
 酸・塩基に関する研究の歴史で,次の 3種の定義が定着している。
 1884年にスウェーデンの化学者アレニウスが酸と塩基を定義(アレニウスの定義)した。アレニウスの定義では,水溶液中の中和反応を説明できるが,一般的な酸塩基反応の説明には不都合であった。
 1923年には,アレニウスの定義より広義の定義がデンマークの物理化学者ブレンステッドとイギリスの化学者ローリーによって同時に発表(ブレンステッド・ローリーの定義)された。これにより,水溶液以外でもプロトンを持つ物質の酸塩基反応の説明が容易になった。
 同じ 1923年には,アメリカの物理化学者ルイスによって,プロトンを持たない物質( BF3 ,AlCl3 など)にまで拡大した【配位結合】の考え方を発表(ルイスの定義 )している。
 
 【参考】
 ヒドロニウムイオン( hydronium ion )
 H3O をいう。ヒドロニウムはオキソニウムイオンの一種,且つオニウムイオンの一種でもあり,その中で最も単純な構造である。
 高等学校教育では,ヒドロニウムイオンをオキソニウムイオンと記述している。
 厳密には,オキソニウムイオンは,3つの化学結合を持つ酸素の陽イオンの総称(一般イオン式 R R'R"O )であり,その中で R ,R’,R”を水素に置き換えた最も単純なものをヒドロニウムイオンという。
 アルカリ( alkali )
 アルカリは,中世ヨーロッパの錬金術に大きな影響を与えたアラビアの哲学者,科学者アブー・ムーサー・ジャービル・イブン・ハイヤーン(西暦 700 年代)の創設した概念(元来は植物の灰を水に溶かした時の性質)である。
 アルカリとは,水に溶解して塩基性( pH > 7 )を示し,酸と中和する物質の総称をいい,典型的なものにはアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物がある。これらは,水に溶解すると水酸化物イオンを生じるアレニウス塩基に相当する。
 他に,アンモニア,アミン,アルカリ性の水溶液やアルカリ金属を単にアルカリと呼ぶこともある。

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  アレニウスの定義

 水溶液中における定義のため,本来は水和物として化学式を書くべきであるが,簡単のため,水和水を省略している。
 アレニウス酸 ( Arrhenius acid )
 水溶液中においてプロトン( Hを出す物質。
 例えば,次式の塩酸( HCl )がアレニウス酸になる。
     HCl → H + Cl
 この定義は,厳密にいうと,水溶液中ではプロトンとして存在できないので,ヒドロニウムイオン( H3Oを用いた次の表記が多くなっている。
     HCl + H2O → H3O + Cl
 アレニウス塩基 ( Arrhenius base )
 水に溶けた時に水酸化物イオン( OHを出す物質。
 例えば,次式の水酸化ナトリウム( NaOH )がアレニウス塩基になる。
     NaOH → Na + OH
 
 【参考】
 スヴァンテ・アウグスト・アレニウス( Svante August Arrhenius )
 スウェーデンの化学者アレニウス( 1859年~1927年)は,物理学・化学の領域で活動し,電解質の解離に関連するアレニウスの酸・塩基の定義,化学反応速度定数の関係式であるアレニウスの式,活性化エネルギーを求めるアレニウスプロットなどで知られ,新しい学問分野(物理化学)の創始者の一人といわれている。

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  ブレンステッド・ローリーの定義

 ブレンステッド酸 ( Brönsted acid )
 反応する相手に対しプロトンを与える物質。
 ブレンステッド塩基 ( Brönsted base )
 反応する相手からプロトンを受け取る物質。
 
 例えば,
     HCl + H2O → H3O + Cl
では,塩酸( HCl )がブレンステッド酸になり,水( H2O )がブレンステッド塩基になる。

 次のアンモニア( NH3 )を水に溶解した時の平衡反応
      NH3 + H2O ⇆ NH4 + OH
では,正反応(右方向の反応)では NH3ブレンステッド塩基で,水( H2O )がブレンステッド酸になる。
 逆反応(左向きの反応)では,アンモニウムイオン( NH4 )がプロトンを放出するのでブレンステッド酸で,プロトンを受け取る水酸化物イオン( OH )がブレンステッド塩基になる。
 
 【参考】
 ヨハンス・ブレンステッド( Johannes Nicolaus Brønsted )
 デンマークの物理化学者ブレンステッド( 1879年~1947年)は,電池の起電力測定による化学的親和力の研究,溶解度やイオンの相互作用などを研究し,1923年にブレンステッドの酸塩基理論(プロトンの供与・受容による酸・塩基)を提出した。他に,化学反応速度に関するブレンステッド-ビエラムの式,活量係数を用いた液相イオン反応,触媒や同位体分離の研究などで業績を残している。
 トマス・マーティン・ローリー( Thomas Martin Lowry )
 イギリスの物理化学者ローリー( 1874年~1936年)は,旋光性が時間とともに変化する現象を変旋光 (mutarotation) ,樟脳の誘導体の旋光性に対する酸と塩基の影響の研究から,1923年にプロトンの供与・受容による酸・塩基の定義を提出した。

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  ルイスの定義

 ルイス酸 ( Lewis acid )
 電子対を受け取る物質。
 ルイス塩基 ( Lewis base )
 電子対を供給する物質。
 
 例えば,次式の水素イオン( H )がルイス酸になり,水酸化物イオン( OH )がルイス塩基になる。
      H + :OH → H2O
 次式では,三フッ化臭素( BF3 )がルイス酸になり,ジメチルエーテル( CH3OCH3 )がルイス塩基である。
      BF3 + :O (CH3)2 → (CH3)2O BF3
 なお,生成物の三フッ化ホウ素メチルエーテル( (CH3)2O BF3 )は有機合成の触媒として用いられる。
 
 【参考】
 ギルバート・ニュートン・ルイス( Gilbert Newton Lewis )
 アメリカ合衆国の物理化学者( 1875 ~ 1946年)で,共有結合の発見(ルイスの電子式),ラジカル(不対電子対)の定義,酸・塩基の定義(ルイス酸・塩基),熱力学の再構築による化学熱力学の提唱,光化学実験,光子( photon )の命名などで知られる。

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