第三部:化学反応 化学反応とエネルギー
☆ “ホーム” ⇒ “生活の中の科学“ ⇒ “基礎化学(目次)“ ⇒
ここでは,化学反応とエネルギーに関連し, 【化学反応とは】, 【化学反応式とは】, 【化学反応式の表示法(原則)】, 【熱化学方程式とは】 に項目を分けて紹介する。
化学反応とは
物質の変化には,相変位のように物質を構成する粒子(原子,イオン,分子)の種類が変わらない物理変化( physical change ),酸化還元や有機合成などの物質を構成する粒子(分子,イオン)の種類が変わる化学変化( chemical change ),放射性崩壊などの粒子を構成する原子(元素)そのものが変化する原子核反応( nuclear reaction )に分けられる。
物理変化には,固体物体の変形(伸縮,切断,接合など),気体や液体の状態変化(相変位)などが例として挙げられる。
物質の溶解現象は,分子の変化を伴わずに,そのまま液体に分散する場合は物理変化に分類され,分子(電解質)がイオンに解離するなどの変化を伴って溶ける場合は化学変化に分類される。
化学変化及びその変化過程を化学反応( chemical reaction )という。化学反応では,反応する出発物質を反応物( reactant ),基質( substrate ),又は始原系,原料などと呼び,反応で生成ずる物質は生成物( product )と呼ぶ。
【化学結合とは】で紹介したように,分子は,電子対の共有,又は電子の授受による結合で構成されている。
従って,化学反応は,電子の授受を伴う変化と考えられる。
ページの先頭へ
化学反応式とは
化学反応を原子記号を用いて表示したものを化学反応式( chemical equation )という。ここでは,化学反応式を書く場合の原則を次に紹介する。
化学反応式では,反応形式が,不可逆反応( irreversible reaction )か,可逆反応( reversible reaction )かを明示するため表示方法が異なる。
さらに,化学反応による熱収支を明示する場合には,別に紹介する熱化学方程式( thermochemical equation )を用いる。これは,化学反応式に似ているが,考え方が異なるので別に解説する。
不可逆反応( irreversible reaction )の表示
反応物と生成物を右向き矢印(→)で結ぶ。
反応物 → 生成物
不可逆反応とは,反応物から生成物へ(正反応という)の一方向のみに進む反応,または逆方向の反応が無視できるほどしか起こらない場合をいう。
多くの場合は,この反応の生成物が他の化学反応で消費されるようなケース,反応生成物が系外に除去(気体となり飛散する,固体の沈殿物として除去されるなど)され逆反応が起きない場合で,「反応が不可逆的に進行する」などと表現する。
可逆反応( reversible reaction )の表示
原則は,反応物と生成物を両向きの矢印(⇆)で結ぶ。可逆反応であっても,正反応のみに注目した論旨では,不可逆反応と同じ(→)で表記する場合も少なくない。
反応物 ⇆ 生成物
可逆反応とは,反応物から生成物への反応(正反応)と生成物から反応物への反応(逆反応)が同時に起こる反応である。この系は,最終的に一定量の反応物と生成物を含む平衡状態に落ち着く。
ページの先頭へ
化学反応式の表示法(原則)
化学反応式の左辺には反応物を,右辺には生成物を置くことを原則とする。
当然のことながら,反応物,生成物の分子式を用い,質量保存の法則,倍数比例の法則など【化学の基本則】に反しないように細心の注意が必要である。
例えば,水素分子( H2 )と酸素分子( O2 )が反応して水分子( H2O )が生成する化学反応式を考える。
この反応の反応物は気体状態の水素分子と酸素分子である。生成物は水分子となる。常温常圧では,ほぼ不可逆反応と見なせるので,次の( 2 )で紹介すように化学式では 右矢印で結ぶことになる。
そこで,
H2 + O2 → H2O
と書いてみた。
式には,反応に関わる分子種は全て表記され,水素原子の数が左辺と右辺で 2 個と一致している。しかし,酸素原子に関しては,左辺 2 個に対し,右辺では 1 固となり,質量保存の法則,及び倍数比例の法則に反するので,上記の式は間違った表示となる。
従って正しくは,左辺と右辺の原子数を合うように,
2H2 + O2 → 2H2O
と表示しなければならない。
化学反応式を一般化して記述すると,次のようになる。
αA +βB +γC +・・・ → α’A’ +β’B’ +γ’C’ +・・・
α,β,γ,α’ ,β’ ,γ’は,化学量論係数(又は量論係数: stoichiometric coefficient )と呼ばれ,倍数比例の法則に適合する分子式の反応物と生成物について,質量保存の法則に適合するように決められる。複雑な化学反応では,係数を求めるために行列式を用いた計算が必要になる。
【参考】
倍数比例の法則( law of multiple proportion :ドルトン 1803年)
成分元素 A,B からなる複数の化合物において,一定質量の元素 A に対する各化合物の元素 B の質量は,簡単な整数比になる。
例えば,成分元素が炭素( C )と酸素( O )からなる化合物には,一酸化炭素( CO ),二酸化炭素( CO2 )がある。炭素を元素 A とすると元素 B である酸素の質量比は,一酸化炭素:二酸化炭素= 1: 2となる。すなわち,分子式における元素の数は,( CO2 )など整数で記述できることを示す。
質量保存の法則( law of conservation of mass :ラボアジェ 1774年)
物質が化学変化(化学反応)するとき,反応前後の物質の質量の和は等しい。
ページの先頭へ
熱化学方程式とは
ここでは,表記法の概要を紹介し,詳細については,【熱化学方程式】の項で紹介する。
化学反応式との大きな違いは,熱量の計算ができるように,化合物の状態をを表す記号,すなわち気体( g ),液体( l ),固体( s )を化合物の後に付け,化学反応の反応熱を付記することである。
熱化学方程式の表記法には,次の 2 種がある。表記法により符号が反転することに注意。
● 化学化反応式と反応熱(モルエンタルピー: kJ / mol )を併記する方式
この場合の水素と酸素から水が生成する反応( 25 ℃,1 気圧)の熱化学方程式は,
2H2 ( g ) + O2 ( g ) → 2H2O ( l ) ; ⊿ H = ‐285.83 kJ / mol
となる。なお,負の⊿ H は発熱を,正の⊿ H は吸熱を意味する。
● 化学反応式の右辺に生成熱を加えて表す方式
この場合は,左辺と右辺を(=)で結び,記述する熱量は,反応熱ではなく,示した化学式の熱量となるので,単位は kJ となる。
先の反応熱を併記する表記法と異なり,プラスが発熱を意味する。
例えば,水の生成反応は,次のように表記できる。
2H2 ( g ) + O2 ( g ) = 2H2O ( l ) + 571.66 kJ
反応熱と数値を合わせる場合は,生成物の係数を 1 とする。このため,他の物質の係数は分数となる。この表記は熱化学方程式に固有のもので,広く用いられている。
H2 ( g ) + 1/2O2 ( g ) = H2O ( l ) + 285.83 kJ
ページの先頭へ