腐食概論鋼の腐食

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 ここでは,実際の大気環境に長期間晒された鋼の腐食を理解するため, 大気の環境区分の推定方法として,【 ISO 9223での現行の環境区分】, 【1992年版の腐食環境評価】 を紹介する。

 大気腐食(実環境因子の影響)

 ISO 9223での環境区分

   ISO 92232012に規定される環境の腐食性カテゴリー(corrosivity categories)の評価法を紹介する。

 暴露試験が実施できる場合の環境区分

 当該環境の腐食性は,ISO 9224に規定する4種(炭素鋼亜鉛アルミニウム)の標準試験片を暴露し,計測された暴露 1年後の腐食減量(mass loss)と下表から評価する。なお,暴露試験の開始時期は,春又は秋とする。
 注:短期間暴露試験結果の単純な外挿から長期間の腐食挙動を評価してはいけない。長期間の腐食挙動の評価については,ISO 9224を参照すること。

暴露試験結果に基づく腐食カテゴリー評価
暴露 1年後の腐食度(g・m-2・a-1)範囲:( )内は侵食度(μm・a-1
  カテゴリー    炭素鋼    亜鉛    銅    アルミニウム 
  C 1    rcorr≦10 (1.3)    rcorr≦0.7 (0.1)    rcorr≦0.9 (0.1)    negligible  
  C 2    10 (1.3)<rcorr≦200 (25)    0.7 (0.1)<rcorr≦5 (0.7)    0.9 (0.1)<rcorr≦5 (0.6)    0.1<rcorr≦0.6 
  C 3    200(25)<rcorr≦400(50)    5(0.7)<rcorr≦15(2.1)    5(0.6)<rcorr≦12(1.3)    0.6<rcorr≦2 
  C 4    400(50)<rcorr≦650(80)    15(2.1)<rcorr≦30(4.2)    12(1.3)<rcorr≦25(2.8)    2<rcorr≦5 
  C 5    650(80)<rcorr≦1,500(200)    30(4.2)<rcorr≦60(8.4)    25(2.8)<rcorr≦50(5.6)    5<rcorr≦10 
  C X    1,500(200)<rcorr≦5,500(700)    60(8.4)<rcorr≦180(25)    50(5.6)<rcorr≦90(10)    10 <rcorr 
注1:標準試験片及び腐食減量の求め方は,ISO 9226による。
注2:アルミニウムは,腐食形態が局部腐食となるため侵食度は規定しない。

 腐食減量(mass loss)
 腐食試験後,表面に付着した腐食生成物を取り除いた試験片の質量減,又は単位表面積当たりの質量減。【JIS G 0202「鉄鋼用語(試験)」】
 腐食度(corrosion rate)
 ある期間に生じた単位面積当たりの腐食量をその期間で除して求められる値。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 この値は,暴露期間中に時々刻々変化する腐食速度(金属の腐食反応速度)とは異なる。また,同じ条件の試験であっても,暴露期間が異なると腐食度も異なる。単位は,単位面積当たり,1年(平均太陽年)当たりのグラム数(g・m-2・a-1)で表わす。
 大気暴露試験で得られる腐食度は,暴露開始時期の違い(例えば春開始と秋開始など)の影響も受ける。このため,腐食度で腐食性評価を行う場合には,暴露環境条件に加えて,暴露開始時期,暴露期間(暴露1年目や暴露X-Y年など)などの情報を併記するのが望ましい。
 侵食度(penetration rate)
 侵食度は,求めた腐食度から単位時間当たりの厚み減少量μm・a-1)に換算した値で,金属の厚み方向への影響を直感的に理解し易いため広く用いられている。
 一般には,腐食度を金属の密度で除して得られる厚みの平均減少量である。腐食度と同様に,暴露期間で値が変わるので注意が必要である。
 侵食度は算術平均値であり,全面の均一な腐食の場合は実態と整合するが,局部腐食では的確な評価ができない。従って,不均一な腐食が観察される場合は,侵食度を用いるべきではない。
 なお,過去の文献等では,侵食度というべきところを腐食度と記すものも少なくないので,使用する単位で判断する必要がある。

 暴露試験が実施できない場合の環境区分

 ISO 9225に従い,金属腐食に影響する主な環境因子を計測する。この値を基に,次の2種の方法の何れかで腐食カテゴリーを推定することができる。
  環境因子の強度を用いて,標準金属別の腐食度推定式を用いて,暴露初年度の腐食度を計算し,腐食カテゴリーを決定する。
  当該地区の環境条件と環境因子の強度とから,環境の腐食カテゴリー別に記述する典型的環境の例と比較して腐食カテゴリーを決定する。

 環境汚染因子(environmental pollution factors)の測定
 硫黄酸化物量(sulfate deposition)
 IOS 9225に規定する二酸化鉛プレート法,又はアルカリろ紙プレート法を用いて計測する。同方法はJIS Z 2382にも規定されている。
 測定器具は1カ月毎に交換・分析し,1年以上継続して得られた結果から,年間の二酸化硫黄としての平均値(mgSO2・m-2・day-1)を求める。
 塩化物量(chloride deposition)
 IOS 9225に規定するウェットキャンドル法を用いて計測する。同方法はJIS Z 2382にも規定されている。
 測定器具は1カ月毎に交換・分析し,1年以上継続して得られた結果から,年間の塩化物イオン量の平均値(mgCl-・m-2・day-1)を求める。日本では塩化ナトリウム量(海塩粒子量:airborn salinity,mgNaCl・m-2・day-1)が一般的である。塩化物イオン量から塩化ナトリウム量への換算は,1.649倍(58.44/35.45)すればよい。
 
【 ① 腐食度推定式による評価】
 4種の標準金属(炭素鋼,亜鉛,銅,アルミニウム)の暴露1年後の腐食度を,環境因子二酸化硫黄付着量(SO2 dry deposition),塩化物付着量(chloride dry deposition),気温(temperature),及び相対湿度(relative humidity)の関数として求める。この値と先に示した表から当該環境の腐食カテゴリーを評価する。
 次に示す関数は,世界各国で実施した屋外暴露試験結果に基づき求められたものである。
 (1) 炭素鋼
   rcorr= 1.77・Pd0.52・exp(0.020・RH+fSt)+0.102・Sd0.62・exp(0.033・RH+0.040・T)
   気温 T≦10 ℃のとき,fSt = 0.150・(T-10),それ以外の気温 fSt = -0.054・(T-10)
   データ数 N = 128,相関係数 R2 = 0.85
 (2) 亜鉛
   rcorr= 0.0129・Pd0.44・exp(0.046・RH+fZn)+0.0175・Sd0.57・exp(0.008・RH+0.085・T)
   気温 T≦10 ℃のとき,fZn = 0.038・(T-10),それ以外の気温 fZn = -0.071・(T-10)
   データ数 N = 114,相関係数 R2 = 0.78
 (3) 銅
   rcorr= 0.0053・Pd0.26・exp(0.059・RH+fCu)+0.01025・Sd0.27・exp(0.036・RH+0.049・T)
   気温 T≦10 ℃のとき,fCu = 0.126・(T-10),それ以外の気温 fCu = -0.080・(T-10)
   データ数 N = 121,相関係数 R2 = 0.88
 (4) アルミニウム
   rcorr= 0.0042・Pd0.73・exp(0.025・RH+fAl)+0.0018・Sd0.60・exp(0.020・RH+0.094・T)
   気温 T≦10 ℃のとき,fAl = 0.009・(T-10),それ以外の気温 fAl = -0.043・(T-10)
   データ数 N = 113,相関係数 R2 = 0.65

 ここで,T :年平均気温(℃)
     RH :年平均相対湿度(%)
     Pd :年平均の二酸化硫黄付着量(SO2 deposition)[mg/(m2・d)]
     Sd :年平均の塩化物イオン付着量(Cldeposition)[mg/(m2・d)]
 
【 ② 腐食カテゴリー別の典型的環境例】
 腐食カテゴリー C1
  屋内環境
 事務所,学校,博物館など,低い相対湿度で,汚染物質の少ない暖房の効いた部屋。
  屋外環境
 特定の砂漠,北極や南極大陸の中央部など,汚染物質が著しく少なく,濡れ時間も大変短い乾燥地,又は寒冷地。
 
 腐食カテゴリー C2
  屋内環境
 倉庫や体育館など,温度や相対湿度変化を伴うが,汚染物質が低く,結露の頻度が低い暖房していない空間。
  屋外環境
 田園環境や小規模地方都市など,低い大気汚染(SO2< 5μg/m3の温帯地区。
 砂漠や北極周辺など,濡れ時間の短い,乾燥地帯,又は寒冷地。
 
 腐食カテゴリー C3
  屋内環境
 食品加工場,洗濯場,醸造所,搾乳場など,作業工程から中程度の大気汚染を受け,時々結露するような空間。
  屋外環境
 都市環境や海塩粒子量の少ない沿岸地区など,中程度の大気汚染(SO2: 5μg/m3~ 30μg/m3又は同程度の塩化物量の温帯地区。
 低い大気汚染程度の熱帯地区,又は亜熱帯地区。
 
 腐食カテゴリー C4
  屋内環境
 工場,スイミングプールなど,工程で大気汚染を受け,度々結露する空間。
  屋外環境
 大気汚染のある都市環境,工業地帯,海水を直接浴びない海岸地区,凍結防止剤の影響を強く受ける地区など,高い大気汚染(SO2: 30μg/m3~ 90μg/m3,又は明らかに塩化物の影響を受ける温帯地区。
 大気汚染程度が中程度の熱帯地区,又は亜熱帯地区。
 
 腐食カテゴリー C5
  屋内環境
 坑道,工業用洞窟,熱帯・亜熱帯地区の換気されていない小屋(格納庫)など,工程の中で高い大気汚染を受け,頻繁に結露する空間。
  屋外環境
 工業地帯,海岸地区,護岸壁などで覆われた海岸地区など,非常に高い大気汚染(SO2: 90μg/m3~ 250μg/m3,及び/又は明らかに塩化物の影響を受ける温帯地区や亜熱帯地区。
 
 腐食カテゴリー Cx
  屋内環境
 高湿度となる熱帯地区で,海塩粒子や腐食促進物質を含み大気汚染物質が侵入し,換気のない小屋(格納庫)のように,工程の中で高い大気汚染を受け,恒常的に結露しているか,高湿度状態に長期間さらされる空間。
  屋外環境
 汚染度の高い工業地帯,海岸・海洋地区,塩水噴霧と時折接触する場合など,濡れ時間が非常に長く,極めて高い SO2汚染( 250μg/m3以上),及び/又は塩化物の激しい影響を受ける亜熱帯・熱帯地区。
 
 【参考資料】
 1)ISO 9223:2012 “Corrosion of metals and alloys - Corrosivity of atmospheres - Classification, determination and estimation”
 2) ISO 9224:2012 “Corrosion of metals and alloys — Corrosivity of atmospheres — Guiding values for the corrosivity categories”
 3)ISO 9225:2012 “Corrosion of metals and alloys - Corrosivity of atmospheres - Measurement of environmental parameters affecting corrosivity of atmospheres”
 4)ISO 9226:2012 “Corrosion of metals and alloys — Corrosivity of atmospheres — Determination of corrosion rate of standard specimens for the evaluation of corrosivity”
 5)JIS Z 2382“大気環境の腐食性を評価するための. 環境汚染因子の測定”

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1992年版の腐食環境評価参考


腐食カテゴリー分類
短期間(暴露後1年)の腐食度(g・m-2・a-1)範囲:( )内は侵食度(μm・a-1
  カテゴリー    炭素鋼    亜鉛    銅    アルミニウム 
  C1    CR≦10 (1.3)    CR≦0.7 (0.1)    CR≦0.9 (0.1)    negligible  
  C2    10 (1.3)<CR≦200 (25)    0.7 (0.1)<CR≦5 (0.7)    0.9 (0.1)<CR≦5 (0.6)    0.1<CR≦0.6 
  C3    200(25)<CR≦400 (50)    5(0.7)<CR≦15 (2.1)    5(0.6)<CR≦12 (1.3)    0.6<CR≦2 
  C4    400 (50)<CR≦650 (80)    15 (2.1)<CR≦30 (4.2)    12(1.3)<CR≦25 (2.8)    2<CR≦5 
  C5    650 (80)<CR    30 (4.2)<CR    25 (2.8)<CR    5<CR 
注:アルミニウムは,腐食形態が局部腐食となるため侵食度の表記はない。

 下表は,ISOの解説に示された,暴露開始後1年で得た結果に比較して,12年暴露した場合の結果の例である。環境の腐食性が低いほど,短期暴露と長期暴露の差が大きくなることが示されている。

炭素鋼の腐食カテゴリー別の
平均侵食度(μm・a-1)比較
   カテゴリー      短期間侵食度      長期間侵食度  
  C1    CR≦1.3    CR≦0.1 
  C2    1.3<CR≦25    0.1<CR≦1.5 
  C3    25<CR≦50    1.5<CR≦6.0 
  C4    50<CR≦80    6.0<CR≦20 
  C5    80<CR    20<CR 
短期間侵食度:暴露後1年間,長期間侵食度:暴露12年間の平均

【環境因子のカテゴリー分類】

環境因子のカテゴリー分類
 濡れ時間 
  (h・a-1
 硫黄酸化物量 
  (mgSO2・m-2・day-1
 海塩粒子量 
  (mgCl-・m-2・day-1
  τ1:TOW≦10    P0:SD≦10    S0:CD≦3 (5) 
  τ2:10<TOW≦250    P1:10<SD≦35    S1: 3<CD≦60 (99) 
  τ3:250<TOW≦2,500    P2:35<SD≦80    S2:60<CD≦300 (495) 
  τ4:2,500<TOW≦5,500    P3:80<SD≦200    S2:300<CD≦1,500 (2,473) 
  τ5:5,500<TOW         
注:海塩粒子量のカッコ内は,塩化ナトリウム量(mgNaCl・m-2・day-1)

【腐食カテゴリーの判定】
 環境の腐食カテゴリーは,濡れ時間のカテゴリー別に対照表から決める。例えば,濡れ時間のカテゴリーτ4表を次に示す。表中の海塩粒子カテゴリーSと硫黄酸化物カテゴリーPの組合せで,環境の腐食カテゴリーを決める。

濡れ時間カテゴリーτ4のときの腐食カテゴリー判定表
 海 塩 粒 子   硫 黄 酸 化 物    炭 素 鋼     亜鉛, 銅     アルミニウム  
  S0 or S1    P1    C3    C3    C3 
  S0 or S1    P2    C4    C3-4    C3-4 
  S0 or S1    P3    C5    C4-5    C4-5 
  S2    P1    C4    C4    C3-4 
  S2    P2    C4    C4    C4 
  S2    P3    C5    C5    C5 
  S3    P1, P2, P3    C5    C5    C5 

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