第五部:有機化学の基礎 身近のプラスティック

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  ここでは,ガラス繊維強化プラスチックのマトリックスや塗料などで身近な不飽和ポリエステル樹脂に関連し, 【不飽和ポリエステル樹脂とは】, 【主な用途】, 【合成方法】, 【硬化法】 に項目を分けて紹介する。

  不飽和ポリエステル樹脂とは

 不飽和ポリエステル樹脂( UP ,unsaturated polyester resin )
 飲料容器として身近なPET (ポリエチレンテレフタレート)と同じポリエステル樹脂の一種である。
 不飽和の多価カルボン酸とポリアルコール共重縮合 エステル生成反応で得た不飽和ポリエステルプリポリマー(プレポリマー)とし,これを不飽和結合をもつビニルモノマー(スチレンやメタクリル酸メチルなど)に溶解し,加熱硬化(ラジカル共重合)で得た熱硬化性樹脂をいう。

 JIS K 6900「プラスチック―用語: Plastics − Vocabulary 」では,
 不飽和ポリエステル( UP ,unsaturated polyester )を「後で不飽和の単量体又はプリポリマーと架橋反応し得る重合体連鎖中の炭素−炭素不飽和結合をもつことを特徴とするポリエステル。」と定義し,
 ポリエステル( polyester )を「連鎖中の繰返し構造単位がエステルの形のものである重合体。」と定義してる。
 また,プリポリマー( prepolymer )は「単量体又は単量体類とその最終の重合体との中間の重合度の重合体。」と定義されている。

 エステルとは,【アルコールの反応】で紹介したように,有機酸や無機酸のオキソ酸と,アルコールやフェノールのようなヒドロキシ基を含む化合物との脱水縮合反応で得られる化合物である。 例えば,カルボン酸アルコールから成る次式の化合物をカルボン酸エステル( carboxylate ester )という。
      RCOOH + R'OH → RC(O)OR' + H2O
 ここで,特性基( R–C(O)O−R' )をエステル結合( ester bond )と呼ぶ。
 エステルには,一般的なカルボン酸エステルの他に,チオエステル(カルボン酸とチオール:R−C(=O)S−R' ),リン酸エステル(リン酸とアルコール: R–OP(=O)(O–R')O–R" ),硫酸エステル(硫酸とアルコール: R−OS(=O)2O−R ),硝酸エステル(硝酸とアルコール: R–ONO2 ),炭酸エステル(炭酸とアルコール: R–OC(=O)O–R' )などがある。

 なお,塗料や接着剤の分野で用いるポリエステルプラスチックはアルキド樹脂( alkyd resin )と称している。
 JIS K 6900「プラスチック―用語」では,ポリエステルプラスチック( polyester plastic )を「連鎖中の繰返し構造単位が本質的にすべてエステルの形のものである重合体を主成分とするエステルプラスチック。」と定義している。

 【参考】
 ポリエステル( polyester )
 連鎖中の繰返し構造単位がエステルの形のものである重合体( JIS K 6900 「プラスチック―用語」)。
 略号 PEs ,多価カルボン酸(ジカルボン酸)とポリアルコール(ジオール)との重縮合体(脱水縮合)で,非結晶性汎用プラスチックに分類される。最も身近なポリエステルには,PET(ポリエチレンテレフタレート)がある。
 なお,ポリエステル繊維という場合は,テレフタル酸と 2価アルコールとのエステル単位を質量比で 85%以上含む長鎖状合成高分子から成る繊維( JIS L 0204 「繊維用語」)をいう。
 不飽和ポリエステル( unsaturated polyester resin )
 後で不飽和の単量体又はプリポリマーと架橋反応し得る重合体連鎖中の炭素−炭素不飽和結合をもつことを特徴とするポリエステル( JIS K 6900 「プラスチック―用語」)。

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  特性と主な用途

 一般的な特性
 機械的性質に優れるが,可撓性,強靭性は,不飽和多価カルボン酸とポリオールの種類により変化する。
 耐熱性は,通常は長時間耐熱温度 110~140℃程度であるが,モノマーにトリアリルイソシアヌレート系のものを用いた樹脂は耐熱温度 260℃にも達する。
 電気的性質は,熱硬化性樹脂の中では良いほうで,電気部品に広く用いられている。しかし,ガラス繊維強化不飽和ポリエステルは,ガラス繊維と樹脂の界面から吸水し易く,絶縁用材料として使用には注意が必要となる。
 耐薬品性については,エステル結合の加水分解に至るような酸化性酸や塩基などの薬品に対する抵抗性が低い。
 耐候性に優れ,通常の屋外暴露程度の温度,湿度,紫外線ではほとんど加水分解は起こらない。長期の屋外使用を目的にする FRP では,紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール系)を配合することが一般的である。

 主な用途
 不飽和ポリエステル樹脂の常用の耐熱温度が高く,電気絶縁性,耐薬品性,引張強さ,曲げ強さ,耐衝撃性などに優れる。このため,強化プラスチック(FRP)用に使用されることの多い樹脂である。
 特にガラス繊維で補強したガラス繊維強化プラスチック(GFRP)は,強度が高く,耐腐食性,難燃性に優れた材料として,家庭用品(浴槽,ユニットバス,浄化槽,防水パンなど),施設・設備(プール,仮設トイレ,椅子,ベンチ,ポール,飼料タンク,水タンクなど),電気製品(プリント基板,絶縁版,スイッチボックスなど),自動車部品(ランプ,スポイラー,貨物パネル,コンテナ,モーターなど),船舶(漁船,ヨット,カヌーなど),スポーツ用品(スキー板,スノーボード,サーフボード,ジェットスキーなど)など多彩な分野で使用されている。

 強化プラスチック以外の用途として,寸法精度,電気特性,難燃性,意匠性を生かして,塗料,パテ,化粧板,防水ライニング,人造大理石などにも使用されている。

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  合成方法

 不飽和ポリエステル樹脂の製造は,不飽和ポリエステルの製造と,架橋剤となるビニルモノマーとの混合(硬化)の 2 工程からなる。
 不飽和ポリエステルの合成
 一般的な不飽和ポリエステルは,無水マレイン酸や無水フタル酸などの二塩基酸とエチレングリコールやプロピレングリコールなどの二価アルコールを反応釜に仕込み,170~180 ℃で 2 時間程度,次いで 200 ℃で数時間反応(脱水縮合)で製造される。
 下図には,無水マレイン酸とエチレングリコールの反応例を示す。無水マレイン酸は,200 ℃前後でフマル酸に転位し,エチレングリコールとの脱水縮合不飽和ポリエステルが生成する。
 不飽和ポリエステル酸価が適切な状態になった時点で,温度を下げ,ハイドロキノンなどの重合禁止剤を加えて反応を終了させる。

無水マレイン酸とエチレングリコールの反応例

無水マレイン酸とエチレングリコールの反応例

 架橋剤との混合(硬化)
 合成した不飽和ポリエステルに,架橋剤のビニルモノマー(一般には反応希釈剤などともいわれる)を加えて適度の粘度に調整した不飽和ポリエステル製品に仕上げ,次に紹介する硬化法を経て最終製品にする。
 架橋用のビニルモノマーは,製品の硬化性,粘度の制御,硬化樹脂の諸物性に影響する。一般的な不飽和ポリエステル製品には,低価格で特性の優れるスチレンが用いられる。

 関連 JIS 規格
 JIS K 6901「液状不飽和ポリエステル樹脂試験方法」,JIS K 6904「プラスチック−不飽和ポリエステル樹脂−ガスクロマトグラフィーによる残存スチレンモノマー及びその他の揮発性芳香族炭化水素類の定量方法」
 JIS K 6919「繊維強化プラスチック用液状不飽和ポリエステル樹脂」

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  硬化法

 不飽和ポリエステル製品は,加熱又は紫外線照射で,不飽和ポリエステルとスチレンの付加反応により,下図のように架橋が進み,三次元網目構造の熱硬化性樹脂が得られる。

不飽和ポリエステルの硬化反応例

不飽和ポリエステルの硬化反応例

 硬化(架橋反応の条件は,触媒や促進剤を用いることで制御される。
 常温硬化
 過酸化物触媒と促進剤の併用で,常温での硬化が可能になる。触媒としてメチルエチルケトンパーオキサイド(MEKPO),促進剤としてナフテン酸コバルトを併用する方法がよく用いられる。
 加熱硬化
 加熱硬化には,60~80 ℃で硬化させる中温硬化系,100 ℃以上で硬化させる高温硬化系に分けることができる。
 中温硬化系は,黄変するナフテン酸コバルトなどの代わりに,黄変せずに完全硬化が期待できる促進剤(t-ブチルパーオキシ‐2‐エチルヘキサノエートなど)を用いたもので,外観が問題となる用途(人工大理石,化粧板,テーブルトップなど)に用いられる。
 高温硬化系は,100℃以上の高温,加圧下で成形する機械や金型などを用いた製品に適した材料で,用途による種々の触媒(ベンゾイルパーオキサイドなど)が選択される。

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