腐食概論:鋼の腐食
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大気腐食(実環境因子の影響)
腐食環境分類 ISO 9223とは
ISO 9223“Corrosion of metals and alloys -- Corrosivity of atmospheres -- Classification, determination and estimation”は,1992年に初めて規格化され,2012年に第二版として大幅に改訂された。
この規格の目的は,概略で次のように考えられる。
金属被覆を含む金属材料は,表面が濡れ状態のとき腐食が進み,その腐食は,金属表面に形成した水膜(電解質溶液)の特性,すなわち水膜の厚み,電解質成分,水膜の継続時間などの影響を受ける。
水膜の特性は,気温,相対湿度,降雨,日射,風向・風速などの気象因子(meteorological factors),硫黄酸化物,海塩粒子などの大気汚染(aerial environment pollution)などの環境因子(environmental factor)に依存する。
当該地域に関して,環境の腐食性を的確に把握することは,構造物等の適切な設計,防せい・防食対策の適切な選定に必要な情報を与える。これにより,適切な維持管理による安全性・経済性向上に寄与できる。
【環境の腐食性評価手順】
ISO 9223 に定める環境の腐食性(腐食カテゴリー:corrosivity categories)の評価法には,次の 2種がある。
① 標準金属の暴露試験を行い,1年目の腐食度(初年度腐食度)から決定する方法
② 主要な環境因子を測定し,測定結果を用いて標準金属別の腐食度予測式で求めた初年度腐食度から推定する方法,又は典型的環境の因子強度との比較から推定する方法
【手順】
標準金属の暴露試験結果を用いて腐食カテゴリを決定できるか否かを検討し,暴露試験ができない場合には,環境因子から推定する方法を採用する。
“暴露試験を採用できる場合”
ISO 9226に定める標準金属(炭素鋼,亜鉛,銅,アルミニウム)を暴露し,得られた初年度の腐食度とISO 9223の腐食度対照表とから腐食カテゴリーを決定する。
なお,この結果を用いて,長期暴露時の腐食度を予測してはならない。長期暴露の影響については,ISO 9224に従い評価するのが望ましい。
“暴露試験を採用できない場合”
ISO 9225に従い主な環境因子を計測し,この結果を用いて,次に示す方法の何れか,または両方を用いて腐食カテゴリーを決定する。
① 腐食度の推定
ISO 9223に規定する標準金属別の腐食度推定式を用いて,暴露初年度の腐食度を計算し,ISO 9223の腐食度対照表とから腐食カテゴリーを決定する。
② 環境因子の強度比較
測定された主な環境因子の強度とISO 9223に示すカテゴリー別典型的環境例との比較で腐食カテゴリーを決定する。
【腐食カテゴリー】
1992年の規格では,腐食カテゴリーを C1~ C5の 5つに区分していたが,2012年の改訂でカテゴリーCX を追加し 6区分になっている。下表に2012年版の腐食カテゴリーを示す。
カテゴリー※ | 腐 食 性 |
---|---|
C 1 | Very low |
C 2 | Low |
C 3 | Medium |
C 4 | High |
C 5 | Very high |
C X | Extreme |
【参考】
ISO 規格名称
ISO 9223:2012
“Corrosion of metals and alloys - Corrosivity of atmospheres - Classification, determination and estimation”
ISO 9224:2012
“Corrosion of metals and alloys — Corrosivity of atmospheres — Guiding values for the corrosivity categories”
ISO 9225:2012
“Corrosion of metals and alloys - Corrosivity of atmospheres - Measurement of environmental parameters affecting corrosivity of atmospheres”
ISO 9226:2012
“Corrosion of metals and alloys — Corrosivity of atmospheres — Determination of corrosion rate of standard specimens for the evaluation of corrosivity”
腐食環境(corrosive environment)
用語「腐食環境」の明確な定義はないが,一般的には,金属やコンクリートなどの材料が,腐食現象により期待耐用期間より早い時期に,実用に耐えない状態になるほど腐食性の高い環境を意味して用いることが多い。
JIS Z 2381「大気暴露試験方法通則:General requirements for atmospheric exposure test」では,暴露試験場の環境区分を明確にするため,地域的な気象の特徴による気候区分,大気の汚染状況による大気汚染区分,海塩粒子の飛来量による海塩区分の考え方を附属書(参考)として紹介している。
大気環境の腐食性を評価する方法として,実用金属の腐食に影響する環境汚染因子の二酸化硫黄(硫黄酸化物),大気浮遊塩分(海塩粒子)の付着度を測定に関し JIS Z 2382「大気環境の腐食性を評価するための環境汚染因子の測定:Determination of pollution for evaluation of corrosivity of atmospheres」が,環境の腐食性を金属の腐食度から評価できるように JIS Z 2383「大気環境の腐食性を評価するための標準金属試験片及びその腐食度の測定方法:Standard specimens of metals and alloys, Determination of corrosion rate ofstandard specimens for the evaluation of corrosivity of atmospheres」が規定されている。
環境因子(environmental factor)
一般的には,生物の生存,生活に影響する環境の条件をいう。腐食工学では,鋼などの金属の腐食に影響する環境条件(environmental conditions)をいう。例えば,大気腐食(屋外)では,気温,湿度,降水,海塩粒子,二酸化硫黄などが環境因子として取り上げられる。
JIS Z 2381 「大気暴露試験方法通則:General requirements for atmospheric exposure test」では,環境因子を“暴露試験場における気象因子及び大気汚染因子の総称。”,気象因子を“気象観測の対象となる気温,湿度,太陽放射エネルギー量,降水量,風向,風速などの因子。”,大気汚染因子を“人為的・自然的に発生する硫黄酸化物,窒素酸化物,硫化水素,海塩粒子などの暴露試験に影響を及ぼす因子。”と定義している。
腐食度(corrosion rate)
ある期間に生じた単位面積当たりの腐食量をその期間で除して求められる値。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
この値は,暴露期間中に時々刻々変化する腐食速度(金属の腐食反応速度)とは異なる。また,同じ条件の試験であっても,暴露期間が異なると腐食度も異なる。単位は,単位面積当たり,1年(平均太陽年)当たりのグラム数(g・m-2・a-1)で表わす。
大気暴露試験で得られる腐食度は,暴露開始時期の違い(例えば春開始と秋開始など)の影響も受ける。このため,腐食度で腐食性評価を行う場合には,暴露環境条件に加えて,暴露開始時期,暴露期間(暴露1年目や暴露X-Y年など)などの情報を併記するのが望ましい。
暴露試験(weathering test)
環境との相互作用などを検討するため実際の環境,又は人工的に作られた環境に物体などを曝す試験方法をいう。
大気暴露試験(atmospheric corrosion test , atmospheric exposure test)
屋外暴露試験(outdoor exposure test),耐候性試験などともいう。
大気暴露試験とは,屋外又は屋内の大気中に試験片を暴露し,日光,風雨,大気汚染などによる腐食状況を調べる試験。【JIS G 0202「鉄鋼用語」】
関連規格に,JIS K 5600-7-6「塗料一般試験方法-第7部:塗膜の長期耐久性-第6節:屋外暴露耐候性」,JIS Z 2381「大気暴露試験方法通則」がある。
屋外暴露試験とは,試験片を一定期間屋外にさらして,自然環境での腐食,さび,劣化などの状態を調べる試験。大気暴露試験,耐候性試験ともいう。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
溶射を施した試料を屋外に暴露して,自然環境における皮膜のさび,膨れ,はく離などの状態を調べる試験。屋外暴露試験又は耐候試験ともいう。【JIS H8200「溶射用語」】
試料を屋外の自然環境に暴露して,化学的・物理的性質の経時変化を調べる試験。【JIS H 0201「アルミニウム表面処理用語」】
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