腐食概論:金属概論
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ここでは, 【亜鉛について】, 【主な基礎用語】 を紹介する。
亜鉛めっき鋼
亜鉛について
亜鉛(zinc)は,原子番号 30,元素記号 Znの金属元素で単体(金属)の安定な結晶構造は,六方最密充填構造 (HCP)である。単体(金属)は,青味を帯びた銀白色の金属で,湿度の高い空気中で腐食し,灰白色の腐食生成物(塩基性炭酸亜鉛)で表面が覆われる。
亜鉛は,原子量 65.38g・mol-1,密度 7.14Mg・m-3,融点 419.5℃,25℃でのモル熱容量 25.47J・mol-1・K-1,電気抵抗率 20℃で 59.0nΩ・m,熱伝導率 27℃で 116W・m-1・K-1,熱膨張率 25℃で 30.2μm・m-1・K-1の元素である。
ちなみに,鉄は原子量 55.845g・mol-1,密度 7.874Mg・m-3,融点 1538℃,25℃でのモル熱容量 25.10J・mol-1・K-1,電気抵抗率 20℃で 96.1nΩ・m,熱伝導率 27℃で 80.4W・m-1・K-1,熱膨張率 25℃で 11.8μm・m-1・K-1である。
このように,亜鉛は鉄に比較して,非常に低い温度で溶け,熱膨張率が大きい。しかし,密度や熱,電気特性については,概ね鉄と同等の材料である。
金属亜鉛に特徴的な性質として,常温では脆いが約 110~150℃で展性,延性に富むこと,結晶構造が理想的な六方最密充填構造(「金属の結晶構造」参照)から,やや c軸方向に伸びた構造をとるため,c 軸方向の線膨張率 53.0μm・m-1・K-1で a 軸方向の線膨張率 15.0μm・m-1・K-1の約 3.5倍と異方性が強く現れることが挙げられる。
亜鉛の一般的な腐食の特徴を次に示す。
亜鉛を空気中で加熱すると,次式により容易に酸化する。
2Zn + O2 → 2ZnO
常温で,水の関与する環境では,接触する水のpHに従い,右図の腐食特性を示す。
図に示すように,亜鉛は酸性領域のみならず,高塩基性(アルカリ性)領域でも腐食するため,アルミニウムと同様に両性物質( amphoteric substance ) と呼ばれている。
pH6以下の酸性水溶液では,亜鉛は次式のように水素を発生しながら腐食する。
Zn + 2H+ → Zn2++ H2
中性からpH12程度までの水溶液中では,亜鉛表面を覆う腐食生成物(酸化被膜;scaling)が安定的に存在できるため,腐食が抑制される。
pH13以上の塩基性水溶液では,次式により速やかに腐食が進む。
Zn + 2OH- + 2H2O →{Zn(OH)4}2- + H2
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主な基本用語
- 塩基性炭酸亜鉛(basic zinc carbonate)
塩基性炭酸亜鉛は,炭酸・水酸化亜鉛ともいわれ,代表的な化学式 2ZnCO3・3Zn(OH)2・mH2O で表される。化学式(ZnCO3 )で表される炭酸亜鉛(zinc carbonate)は,水を含む大気中で組成が安定せず,塩基性炭酸亜鉛となるため,一般的には塩基性炭酸亜鉛を炭酸亜鉛と称していることが多い。
実際に,亜鉛華(zinc flower)とも呼ばれる酸化亜鉛(zinc oxide ,ZnO)を水に懸濁させ泥状(スラリー)にし,二酸化炭素(CO2)を吹き込むことで得られる塩基性炭酸亜鉛が炭酸亜鉛として市販されている。 - 六方最密充填構造 (HCP)(face-centered cubic)
結晶構造の一種で,「金属の基礎:金属の結晶構造」に示すように,六方最密充填では,外部の応力に対して,ずれる面が一方向のみであるため,外力に対するずれの抵抗が大きい。すなわち,硬くて脆い金属といえる。 - 密度(density)
物質の単位体積の質量を意味する。単位はMg・m-3またはg・cm-3である。
水の密度との比を意味する比重と似た数値のため混同されがちであるが,比重には単位がなく,密度とは異なるので注意が必要である。 - 電気抵抗率(electrical resistivity)
物質の電気の通しにくさを表ために用いられる物性値で,単位はΩ・m(オームメートル)である。
絶縁性の高い樹脂などでは,表面を流れる電流の寄与を考慮した表面抵抗率(シート抵抗;sheet resistance)と内部を流れる電流に対する体積抵抗率(volume resistivity)とを区別して扱われる。 - 熱膨張率(coefficient of thermal expansion)
温度の上昇による長さや体積の膨張する割合を1K(ケルビン)当たりで示したもの。単位はK-1である。熱膨張係数ともいう。
長さの変化割合を線膨張率,体積の変化割合を体積膨張率ということもある。 - 溶融亜鉛めっき(hot dip galvanizing)
溶融亜鉛めっきとは,溶融した亜鉛の浴槽に鋼材を浸漬し,鋼表面に亜鉛の皮膜を形成する防錆処理の一種である。めっき槽に浸ける様子から,俗にドブづけとかテンプラなどとも呼ばれる。 - ガルバリウム(galvalume)鋼板
1972年にアメリカ合衆国のベスレヘム・スチールが開発したアルミニウム・亜鉛合金めっき鋼板の名称である。日本国内ではガルバやガリバリウムとも呼称され,JIS G3321「溶融55%アルミニウム-亜鉛合金めっき鋼板」として規定されている。 - 溶融めっき面の典型的な不具合
JIS H8641「溶融亜鉛めっき;Hot dip galvanized coatings」には,次のように定義されている。
不めっき:局部的にめっき皮膜がなく,素材面の露出しているもの。
やけ:金属亜鉛の光沢がなく,表面がつや消し又は灰色を呈したもの。甚だしい場合には暗灰色となる。
たれ:端部又は部分的に,亜鉛が多量に付着しているもの。
シーム:素材にきずがあると,めっきしたときに,めっき表面に特徴ある線状の凹凸になるめっき。
かすびき:表面に亜鉛酸化物又はフラックス残さが著しく付着しているもの。
ざらつき:微粒状の突起があり,懸濁浮遊物質(ドロス)が付着しているもの。
きず:めっき作業中,めっき用具とめっき表面とが接触したこん(痕)。
変色:保管中の薬品なのど付着及びめっき欲からの引上げ時に,めっき表面が変色したもの。
白さび:保管中に雨水の付着,結露などによって生じた塩基性炭酸亜鉛などの腐食生成物。
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