第四部:無機化学の基礎 無機化学とは(基本)

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  ここでは,無機化学の基本に関連し, 【色とは】, 【物体の色の評価】, 【色関連の基礎用語】 に項目を分けて紹介する。

  色とは

 JIS Z 8105 「色に関する用語: Glossary of colour terms 」JIS Z 8120 「光学用語: Glossary of optical terms 」から抜粋した色を理解するため基礎用語と定義を紹介する。

 物体色,物体知覚色( object-colour ) JIS Z 8105
 対象物体に属しているように知覚される色。
 色,色彩 JIS Z 8105,JIS Z 8120
  1. 知覚色,色感覚,色( perceived colour )
 有彩色成分と無彩色成分との組合せからなる視知覚の属性。この属性は,黄,オレンジ,赤,ピンク,緑,青,紫などの有彩色名,若しくは白,灰,黒などの無彩色名を,明るい,暗いなどで修飾したもの,又はこれらの色名の組合せで記述される。
 備考 1. 知覚色は,色刺激の分光分布,刺激面の寸法,形,構成,及び周囲条件,観測者の視覚系の順応状態,並びに観測者がなじんでいる類似の状況での経験に依存する。
 備考 2. 知覚色は,幾つかの色の見えのモードで見える。種々の色の見えのモードの名称は,色知覚の質的及び形状,観察条件などの幾何的な差を区別するためにある。幾つかの比較的重要な色の見えのモードの用語には,物体色(物体知覚色),表面色,開口色,発光(知覚)色,非発光(知覚)色(非発光物体色),関連(知覚)色,無関連(知覚)色がある。
  2. 心理物理色,色刺激値,色( psychophysical colour )
 三刺激値のように,算出手法が規定された 3 個の数値による色刺激の表示。
 備考 知覚色,心理物理色とも,文脈から意味が明確な場合に限って,用語“色”又は“色彩”だけを用いてよい。
 色の表示,表色( specification of colour ) JIS Z 8105
 色を,その心理的特性又は心理物理的特性によって主として定量的に,場合によっては定性的に表示すること。
 備考 一般に,心理物理的特性は三色表色系の色刺激値によって,心理的特性はカラーオーダシステムによって表す。
 三刺激値( tristimulus values ) JIS Z 8105,JIS Z 8120
 与えられた三色表色系において,試料の色刺激と等色するための 3 個の原刺激の量。
 備考 2 種類の CIE 表色系では,三刺激値は記号 X,Y,Z 及び X10,Y10,Z10で表す。
 三色表色系( trichromatic system ) JIS Z 8105,JIS Z 8120
 適切に選ばれた 3 個の原刺激の加法混色による等色に基づいて,色刺激を三刺激値によって記述する体系。
 参考 特定の (R), (G), (B) の原刺激を用いた三色表色系を変換して,CIE の XYZ 表色系及び X10Y10Z10 表色系が定められている。
 XYZ 表色系,CIE 1931 (標準)表色系 ( CIE 1931 standard colorimetric system (XYZ) ) JIS Z 8105
 CIE が 1931 年に採択した原刺激 [X], [Y], [Z] 及び CIE 等色関数x (λ) ,y (λ) ,z (λ) を用いて,任意の分光分布の三刺激値を決定する表色の体系。
 X10Y10Z10 表色系,CIE 1964(補助標準)表色系( CIE1964 supplementary standard colorimetric system ( X10 Y10 Z10 ) )JIS Z 8105
 CIE が 1964 年に採択した一組の原刺激 [X10], [Y10],[Z10] 及び CIE 等色関数 x10 (λ) ,y10 (λ) ,z10 (λ) を用いて,分光分布が任意の色刺激の三刺激値を決定する色表示の体系(CIE 出版物 No.15.2 参照)。
 備考 1. この表色系は,視角が4°( 0.07 rad ) を超える中心視の視野に適用される。
 備考 2. この表色系を用いる場合は,色刺激値を表す量記号のすべてに添字 10 を付けて( CIE1931 表色系の量記号と)区別する。
 備考 3. 三刺激値 Y10 は,輝度に比例しない。
 マンセル表色系( Munsell color system )JIS Z 8105
 マンセル (A. H. Munsell) の考案による色票集に基づき,1943 年に米国光学会 ( Optical Society of America ) の測色委員会で尺度を修正した表色系。マンセルヒュー,マンセルバリュー,マンセルクロマによって表面色を表す。
 マンセルヒューは色相を,マンセルバリューは明度を,マンセルクロマは彩度を表す。
 オストワルト表色系( Ostwald system )JIS Z 8105
 オストワルト (W. Ostwald) が考案した表色系。色相,白色量 (W),黒色量 (S) によって表面色を表す。白色量,黒色量,純色量 (V) は次の関係にある。
      W+S+V=100
 白色量,黒色量が 0 の色をオストワルト純色と呼ぶ。

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  物体の色の評価

 人間の目では,物体から反射する光成分のうち,概ねで波長 400 nm ~ 750 nm の範囲の光(可視光)のスペクトル(波長ごとの強度分布)が太陽光のそれと類似している場合に白(又は無色)と認識する。すなわち,反射光のスペクトルが太陽光と違うことで,人は色を認識する。
 一般的には,物質に標準光源の光(白色光を照射すると,白色光の中のある波長範囲の光が吸収され,吸収された光の補色として物体の色が観察される。
 白色光とは,色彩の感覚を与えない光をいい,白色光のスペクトルは,可視領域全体に一様に分布している。普通,太陽の光は白色光とみなされる。実験的にこれに近い色を与える光源として,数種の標準光源が国際的に定められている。平均昼光の色として定義することもある。
 標準光源( standard light source )
 標準光源については,JIS Z 8105 ,及びJIS Z 8120 に,“特定の分光分布,光度,光束などをもち,測光,測色の標準として用いられる光源。”,“仕様が CIE によって規定され,その相対分光分布が標準イルミナントに近似する人工光源。”と定義されている。
 従って,光(電磁波)の波長ごとの目の感度特性等色関数という)を定量的に表現,すなわち,光源と感覚特性を規定することで,色の測定が可能となる。これに関しては,国際照明委員会( Commission internationale de l'éclairage ,略称:CIE)において,1964 年に色空間を表すために広く使用されている 10 度視野の CIE標準表色系である X10Y10Z10 表色系を規定している。

標準イルミナント D65 の相対分光分布

標準イルミナント D65 の相対分光分布
データ出典:JIS Z 8720 測色用の標準イルミナント(標準の光)及び標準光源


 等色関数( color-matching function )
 人間の眼で観察したとき, 光の可視光領域( 380 ~ 780μm )の各波長の色と 原色を混合した色(混合色)が同じ色(等色)に見えるときの原色の混合比率を示す数値関数である。10 度視野の等色関数,x10(λ) , y10(λ) , z10(λ) は,波長に対し図のような分布を持つ。
 標準光源を用いて,物体からの反射光を分光することで,標準光の分光分布,等色関数と反射率から三刺激値 X10,Y10,Z10 を求めることができる。
 三刺激値が求まることで,例えば,JIS K 5600-4-4 「測色(原理)」JIS K 5600-4-5 「測色(測定)」JIS K 5600-4-6「測色(色差の計算)」に従い,L*a*b* 色空間の色座標や色の差(色差)を計算できる。

等色関数と三刺激値

等色関数と三刺激値の計算>
図出典:コニカミノルタ(株)「色色雑学」 


【参考】
 色の演出
 ディスプレイなどの有色の光を用いて色を表現(演出)する場合は,赤( R :波長 625 ~ 740 nm ),緑( G :波長 500 ~ 565 nm ),青( B :波長 450 ~ 485 nm )の 3 色(光の三原色)を混合することで実現(RGB表色系)できる。
 カラープリンターなど物体の反射色を表現(演出)する場合は,白色の素材に対し,シアン(藍色),マゼンダ(赤紫色),イエロー(黄色)の 3 色(色の三原色)を混合することで実現できる。
 色の測定方法
 分光測色方法( spectrophotometric colorimetry , spectroradiometric colorimetry )JIS Z 8105
 分光測定及び三刺激値積分計算によって行う測色の方法。
 刺激値直読方法( photoelectric tristimulus colorimetry )JIS Z 8105
 等色関数に近似した分光応答度をもつ受光器・フィルタの複数の組合せを用いて,三刺激値又はその一次結合の値を直読する測色の方法。
 色彩計,測色計( colorimeter )JIS Z 8105
 三刺激値のような測色に関する量(色刺激値)を測定する計測器。
 光電色彩計( photo-electric colorimeter )JIS Z 8105
 光電変換素子で構成される受光器を用いて,総合分光特性を適正に調整した色彩計。
 注 (1) 物体色用の光電色彩計の場合は,受光器系の分光応答度と照明系の相対分光分布との積,発光色用の光電色彩計の場合は,受光器系全体の分光応答度。

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  色関連の基礎用語

 ここでは,色に関する基礎用語として,JIS Z 8105 「色に関する用語: Glossary of colour terms 」JIS Z 8120 「光学用語: Glossary of optical terms 」における定義を抜粋して紹介する。

 イルミナント,測色用の光( illuminant )JIS Z 8105,JIS Z 8120
 それで照明された物体の色知覚に影響を及ぼす波長域全体の相対分光分布が規定されている放射。
 参考1. この用語は,以前は“標準”,“基準”等の語と組み合わせて“…の光”と呼び,単独の場合には“測色用の光”としたが,場合によっては紫外波長域も含む分光分布を表すので,IEC 60050-845の01-06[light(光)]の定義1.及び2.と矛盾しないように,イルミナントと呼ぶ。
 参考2. この用語の対応英語 illiuminant は日常英語では,このような意味に限らず,物又は場面を照明するどんな光に対しても用いる。
 標準イルミナント,標準の光( CIE standard illuminants )JIS Z 8105,JIS Z 8120
 ISO/CIE 10526 によって相対分光分布が規定されたイルミナント A,及び D65。
 備考 これらのイルミナントは,次のことを意図している。
      A :温度(≒ 2856 K )の黒体の放射
      D65 :相関色温度(≒ 6504 K )のの昼光イルミナントで,紫外部を含む平均昼光に相当する。
 測光標準電球( photometric standard )JIS Z 8120
 安定性,再現性が優れ,測光量が表示されている測光用の白熱電球。
 常用光源(色比較用の)( daylight simulator )JIS Z 8105
 物体色の色比較を行う場合に,実用的に標準イルミナント D65 並びに補助標準イルミナント D50 ,D55 及び D75 の代用として用いられる相対分光分布をもつ人工光源。
 備考 その特性評価方法及びそれによる等級 A ~ D の区分は,JIS Z 8720 「測色用の標準イルミナント(標準の光)及び標準光源」附属書に定められている。
 色温度( colour temperature )JIS Z 8105,JIS Z 8120
 光の状態を表す一つの指標で,その光と同じ色度の放射を発する黒体の温度。量記号:TC ,単位:ケルビン ( K )
 備考 単位を K-1 とする逆数色温度も使われる。
 等色,色合わせ( colour matching )JIS Z 8105,JIS Z 8120
 与えられた色刺激と,色が等しく見える別の色刺激を作る行為。
 備考 この用語は,視感色彩計で二つの視野の色が等しくなるように調整すること,及びあるイルミナントの下で基準の物体と等しい知覚色をもつ別の物体を調合又は選出することに同じように用いられる。日本語では,前者の意味には主に等色を,後者の意味には主に色合わせを用いる。
 原刺激( reference colour stimuli )JIS Z 8105,JIS Z 8120
 三色表色系が基礎とする 3 個の色刺激のセット。
 備考1. 原刺激は,実在する色刺激か,又はその線形結合で定義される理論的刺激である。この原刺激の単位は,測光量若しくは放射量の単位で表すか,又はより一般的にそれらの量の比だけを記述するか,若しくは特定の無彩色刺激に等色することによって定められる単位で表す。
 備考2. 2種類の CIE 表色系の原刺激は記号 [X],[Y], [Z] 及び [X10], [Y10], [Z10]で表す。
 色空間( colour space )JIS Z 8105
 色の幾何学的表示に用いる,通常 3 次元の空間。
 色立体( colour solid )JIS Z 8105
 ある表色の体系において,表面色が占有する色空間の領域。
 色票集( colour atlas )JIS Z 8105
 一定の規則に従って配列し,それぞれ記号を付けた色票の系統的集合。
 色票( colour chip )JIS Z 8105
 色の表示などを目的とする色紙又は類似の材料による表面色の標準試料。特定の基準,例えば,JIS Z 8721 「 JIS 標準色票」に基づいて作成した色票を標準色票という。
 備考 特定の色の属性が一定である色票を平面上に配列 した ものを カラ ーチ ャート colour chart といい,色票集は,カラーチャートを編集して作られる。
 光沢( gloss )JIS Z 8105,JIS Z 8120
 表面の方向選択特性のために,諸物体の反射ハイライトが,その表面に写り込んで見えるような見えのモード。
 光沢度( glossiness )JIS Z 8105
 正反射光の割合や,拡散反射光の方向分布などに注目して,物体表面の光沢の程度を一次元的に表す指標。
 明るさ( brightness )JIS Z 8105,JIS Z 8120
 ある面から発している光の強弱の見え方の基になる視感覚の属性。
 参考1. 明るさは,発光面についても非発光面についても用いる。
 参考2. 主として関連する測光量は輝度である。
 輝度( luminance ( at a given point of a real or imaginary surface) )JIS Z 8105
 発光面上,受光面上又は放射の伝ぱん路の断面上において,次式によって定義される量。
      L=dΦV /dA・cosθ・Ω
 ここで,dΦV:与えられた方向を含む立体角 dΩ内を伝ぱんする要素ビームによって伝達される光束,dA:与えられた点を含むそのビームの断面の面積,θ:その断面の法線とそのビームとがなす角
 量記号:LV,L ,単位:カンデラ毎平方メートル [ cd・m-2 ] ,ルーメン毎平方メートル毎ステラジアン [ lm・m-2・sr-1 ]
 色相( hue )JIS Z 8105,JIS Z 8120
 ある面が,純粋な赤,黄,緑,青,若しくはそれらの隣り合った二つの間の知覚色と同類に見えるという視感覚の属性又はそれを尺度化した値。
 明度( lightness (of a related colour) )JIS Z 8105,JIS Z 8120
 同様に照明されている白又は透過率が高い面の明るさと比較して,相対的に判断される対象面の明るさ。備考 関連色だけが明度をもつ。
 参考1. 明度は,上記の明るさ知覚だけでなく,それを数量化した値も表す。数量化した値であることを明確にする場合は,明度関数の語を用いる。
 参考2. 主として関連する測光量は輝度率である。
 彩度,クロマ( chroma )JIS Z 8105,JIS Z 8120
 ある面について,それと同様に照明された,完全な白又は高い透過率に見える面の明るさと比較して表した色み。
 備考 与えられた観測条件及び明所視の範囲内の輝度レベルに対して,与えられた色度で,与えられた輝度率の(反射物体の)色刺激は,非常に明るい場合を除いて,あらゆる照度レベルに対してほぼ一定の彩度を示す。同じ環境で,一定の照度レベルでは,(物体の)輝度率を増加すれば,通常,彩度は増加する。
 表面色( surface colour )JIS Z 8105
 対象物の表面から拡散的に反射又は放射しているように知覚される色。
 無彩色( achromatic (perceived) colour )JIS Z 8105,JIS Z 8120
 1. 知覚的意味では,色相をもたない知覚色。白,灰,及び黒の色名が普通に用いられ,透過物体には,無色及び中性が用いられる。
 2. 心理的意味では,一般的な条件の下で,無彩(知覚)色を生じさせる色刺激。
 有彩色( chromatic (perceived) colour )JIS Z 8105,JIS Z 8120
 1. 知覚的意味では,色相をもつ知覚色。日常会話では,多くの場合“色”はこの意味で,白,灰又は黒と対比して用いられる。修飾語“着色 coloured”は,普通,有彩色を意味する。
 2. 心理物理的意味では,最も普通な条件の下で,有彩(知覚)色を生じさせる(色)刺激。
 白色度( whiteness )JIS Z 8105
 表面色の知覚される白さの程度。CIE が 1986 に推奨した方法による数値を白色度指数という。

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