第五部:有機化学の基礎 アルコール・カルボン酸
☆ “ホーム” ⇒ “生活の中の科学“ ⇒ “基礎化学(目次)“ ⇒
ここでは,有機酸の一種であるカルボン酸に関連し, 【カルボン酸とは】, 【カルボン酸の分類】, 【飽和脂肪酸】, 【不飽和脂肪酸】, 【その他カルボン酸】 に項目を分けて紹介する。
カルボン酸とは
カルボン酸( carboxylic acid )
分子中に少なくとも一つのカルボキシ基( –C(=O)OH ,一般には –COOH で表す)を持つ化合物で,一般式 R – COOH で書き表す。
カルボキシル基( carboxy group )
カルボニル基(>C=O )とヒドロキシ基( –OH )からなる官能基である。
カルボン酸は,ブレンステッド酸に分類される。ヒドロキシ基の水素を遊離することで酸性を示す一般的な有機酸( Organic acid )である。
ページの先頭へ
カルボン酸の分類
カルボン酸は,置換するカルボキシル基の数(一価,二価など),カルボキシル基の置換する主鎖の種類(飽和脂肪族,不飽和脂肪族,芳香族,鎖式,環式)で分類される。
カルボキシル基の数による分類
一価カルボン酸(モノカルボン酸): 1個のカルボキシル基を持つカルボン酸。
二価カルボン酸(ジカルボン酸): 2個のカルボキシル基を持つカルボン酸。
三価カルボン酸(トリカルボン酸): 3個のカルボキシル基を持つカルボン酸。
主鎖の種類による分類
脂肪酸( Fatty acid )
鎖式炭化水素のモノカルボン酸に対していわれる。脂肪酸は,多重結合の有無で,飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分けられる。
脂肪酸以外のカルボン酸
脂肪酸(鎖式炭化水素のモノカルボン酸)以外のカルボン酸に対し,主鎖の構造により,飽和カルボン酸,不飽和カルボン酸,芳香族カルボン酸と称される。
ヒドロキシ酸( hydroxy acid )
カルボキシル基の他にヒドロキシ基( –OH )を併せ持つカルボン酸をいう。ヒドロキシ酸は,他にヒドロキシカルボン酸,オキシ酸,アルコール酸などと呼ばれる。
アミノ酸( amino acid )
カルボキシル基の他にアミノ基( –NH2 )を持つ化合物をいう。アミノ基は塩基性のため,アミノ酸は酸性基と塩基性基の両方を持つので双性イオン(分子内塩などといわれる R( –(NH3)+ COO- )を生じる。
以上は,広義のアミノ酸である。一般にアミノ酸という場合は,タンパク質を構成する単位(一般式 RCH (NH2) COOH の構造を持つα-アミノ酸 20 種)を指す狭義の意味で用いられる。詳細は次節で紹介する。
なお,必須アミノ酸とは,厳密には動物が体内で合成できないアミノ酸を指した用語で,種類は動物種で異なるが,一般には人間を対象とした 9 種のアミノ酸をいう場合が多い。
ページの先頭へ
飽和脂肪酸の例
ここでは,主な飽和の一価のカルボン酸(モノカルボン酸)と主な特徴として質量,融点,沸点,pKa (電離定数の負の常用対数:酸解離定数),水への溶解性を紹介する。なお, pKa 値が 7 より小さいほど酸性が高く,7 より大きいほど塩基性が高い。
表を見て分かるように,飽和脂肪酸は,IUPAC 名より慣用名が一般的に使用されている。
化学式 | IUPAC 名 | 慣用名 | モル質量 g/mol |
融点 ℃ |
沸点 ℃ |
pKa | 備 考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
HCOOH | メタン酸 methanoic acid |
ギ酸 formic acid |
46.925 | 8.4 | 100.75 | 3.75 | 蜂の体内から発見,還元性あり,水と任意に混和 |
CH3 COOH | エタン酸 ethanoic acid |
酢酸 acetic acid |
60.05 | 16.7 | 118 | 4.76 | 食酢の主成分,水と任意に混和 |
C2H5 COOH | プロパン酸 propanoic acid |
プロピオン酸 propionic acid |
74.03 | -21 | 141 | 4.88 | 食品保存料で利用例,水と任意に混和 |
C3H7 COOH | ブタン酸
butanoic acid |
酪酸 butyric acid |
88.11 | -7.9 | 164 | 4.82 | バターやチーズに含まれる。水と任意に混和 |
C4H9 COOH | ペンタン酸 pentanoic acid |
吉草酸 valeric acid |
102.13 | -34.5 | 186 | 4.82 | 吉草(きっそう)から発見,不快臭,水への溶解度 49.7g /L。 |
C11H23 COOH | ドデカン酸 do decanoic acid |
ラウリン酸 lauric acid |
200.32 | 43.8 | 225.1
(100 mmHg) |
5.3 | ココナッツオイル,パーム油に含まれ,界面活性剤として利用, 水への溶解度 55 mg /L。 |
C12H25 COOH | トリデカノン酸 tri decanoic acid |
トリデシル酸 tridecylic acid |
214.34 | 41.5 | 236
(100 mmHg) |
― | 乳製品中に一般的に見られる。水への溶解度 33mg /L。 |
C15H31 COOH | ヘキサデカン酸 hexa decanoic acid |
パルミチン酸 palmitic acid |
256.42 | 62.9 | 271.5 (100 mmHg) |
4.78 | 脂肪に多く含まれ,化粧品や界面活性剤に利用, 水への溶解度 7.19 mg /L。 |
C17H35 COOH | オクタデカン酸 octa decanoic acid |
ステアリン酸 stearic acid |
284.48 | 69.3 | 383 | ― | 脂肪に最も多く含まれ,食品添加物,滑剤,離型剤,増粘安定剤, 固結防止剤や界面活性剤の原料,水への溶解度 3 mg /L。 |
ページの先頭へ
不飽和脂肪酸の例
ここでは,不飽和の一価のカルボン酸(モノカルボン酸)と主な特徴として質量,融点,沸点,pKa (電離定数の負の常用対数:酸解離定数),水への溶解性を紹介する。なお, pKa 値が 7 より小さいほど酸性が高く,7 より大きいほど塩基性が高い。
表を見て分かるように,飽和脂肪酸は,IUPAC 名より慣用名が一般的に使用されている。
化学式 | IUPAC 名 | 慣用名 | モル質量 g/mol |
融点 ℃ |
沸点 ℃ |
pKa | 備 考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
C2H3 COOH | 2-プロペン酸 2-propenoic acid |
アクリル酸 acrylic acid |
72.06 | 14 | 141 | 4.35 | 二重結合 1 つ,付加重合しやすい。 合成樹脂の原料,水と任意に混和。 |
C3H5 COOH | 2-メチルプロペン酸 2-methyl propenoic acid |
メタクリル酸 meth acrylic acid |
86.09 | 16 | 161 | ― | 二重結合 1 つ,付加重合しやすい。 合成樹脂の原料,水への溶解 9% |
C17H33 COOH | cis-9-オクタデセン酸 (9Z) -Octadec -9-enoic acid |
オレイン酸 oleic acid |
282.46 | 13.4 | 360 | ― | 二重結合 1 つ,脂肪の構成成分, 水に不溶。 |
C17H31 COOH | cis,cis-9,12-オクタデカジエン酸 (9Z,12Z) -9,12-Octadeca dienoic acid |
リノール酸 linoleic acid |
280.45 | -5 | 229 | ― | 二重結合 2 つ,脂肪の構成成分, 必須脂肪酸の一つ,水への溶解度 0.139 mg /L。 |
C17H29 COOH | all-cis-9,12,15-オクタデカトリエン酸 (9Z,12Z,15Z) -9,12,15-Octadeca trienoic acid |
α-リノレン酸 Alpha-linolenic acid |
278.43 | -11 | ― | ― | 二重結合 3 つ,脂肪の構成成分, 必須脂肪酸の一つ。 |
ページの先頭へ
その他カルボン酸の例
その他カルボン酸として,モノカルボン酸以外に,二価のジカルボン酸,三価のトリカルボン酸,及び芳香族カルボン酸の例を紹介する。主な特徴として質量,融点,沸点,pKa (電離定数の負の常用対数:酸解離定数),水への溶解性を紹介する。なお, pKa 値が 7 より小さいほど酸性が高く,7 より大きいほど塩基性が高い。
表を見て分かるように,飽和脂肪酸は,IUPAC 名より慣用名が一般的に使用されている。
化学式 | IUPAC 名 | 慣用名 | モル質量 g/mol |
融点 ℃ |
沸点 ℃ |
pKa | 備 考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
(COOH)2 | エタン二酸 ethanedioic acid |
シュウ酸 oxalic acid |
90.03 | 102 | ― | 1.27 4.27 |
融点は二水和物,無水物は182℃で分解,還元性があり, 滴定,染料,漂白剤に利用,水への溶解度 143 g /L。 |
CH2 (COOH)2 | プロパン二酸 propane dioic acid |
マロン酸 malonic acid |
104.1 | 135 | ― | 2.83 5.29 |
水への溶解度 1390 g /L。 |
HOOC (CH2)2 COOH | ブタン二酸 butane dioic acid |
コハク酸 succinic acid |
108.09 | 184 | 235 | 4.2 5.6 |
生体のクエン酸回路を構成する物質,水への溶解度 58 g /L。 |
HOOC (CH2)3 COOH | 1,5-ペンタン二酸 1,5-pentane dioic |
グルタル酸 glutaric acid |
132.12 | 95 | ― | ― | 生体のクエン酸回路に関与,水可溶 |
HOOC (CH2)4 COOH | ヘキサン二酸 hexane dioic acid |
アジピン酸 adipic acid |
146.14 | 152 | 338 | 4.43 5.41 |
ナイロン 66 の原料,水への溶解度 24 g /L。 |
化学式 | IUPAC 名 | 慣用名 | モル質量 g/mol |
融点 ℃ |
沸点 ℃ |
pKa | 備 考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
C2H2 (COOH)2 | Z-ブテン二酸 (Z)-butene dioic acid |
マレイン酸 maleic acid |
116.1 | 131 | ― | 1.9 6.07 |
シス体,抗ヒスタミン剤など医薬品の原料,水への溶解度 478 g /L。 |
C2H2 (COOH)2 | E-ブテン二酸 (E)-butene dioic acid |
フマル酸 fumaric acid |
116.1 | 287 (decomp) | ― | 3.03 4.44 |
トランス体,食品の pH 調整剤など,水への溶解度 4.3 g /L。 |
化学式 | IUPAC 名 | 慣用名 | モル質量 g/mol |
融点 ℃ |
沸点 ℃ |
pKa | 備 考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
HOOC CH2 C(COOH) =CH COOH | 1-プロペン-1,2,3-トリカルボン酸 Prop-1-ene-1,2,3-tri carboxylic acid |
アコニット酸 aconitic acid |
174.11 | cis 125 trans 194 |
― | ― | シス体とトランス体がある。 トランス体はサトウキビ, テンサイなどに含まれる。 |
化学式 | IUPAC 名 | 慣用名 | モル質量 g/mol |
融点 ℃ |
沸点 ℃ |
pKa | 備 考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
C6H5 COOH | ベンゼンカルボン酸 benzene carboxylic acid |
安息香酸 benzoic acid |
122.12 | 122.35 | 249 | 4.21 | 食品保存料などに利用,水への溶解度 3.4 g /L。 |
C6H4 (OH) COOH | 2–ヒドロキシベンゼンジカルボン酸 2-Hydroxy benzoic acid |
サリチル酸 salicylic acid |
138.12 | 159 | 211 | 2.97 | 水への溶解度 2.48 g /L。 |
C6H4 (COOH)2 | 1,2 - ベンゼンジカルボン酸 benzene-1,2-di carboxylic acid |
フタル酸 phthalic acid |
166.14 | 207 | ― | 2.89 5.51 |
オルト位:フタル酸, メタ位:イソフタル酸, パラ位:メタフタル酸, 合成樹脂,染料,医薬品の原料,水への溶解度 6 g /L。 |
ページの先頭へ