化 学 (有機化学)
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ここでは,有機酸の一種であるカルボン酸に関連し,【カルボン酸とは】,【カルボン酸の分類】,【飽和脂肪酸】,【不飽和脂肪酸】,【その他カルボン酸】に項目を分けて紹介する。
【カルボン酸とは】
カルボン酸( carboxylic acid )とは,分子中に少なくとも一つのカルボキシ基( –C(=O)OH ,一般には –COOH で表す)を持つ化合物で,一般式 R – COOH で書き表す。
なお,カルボキシル基( carboxy group )は,カルボニル基(>C=O )とヒドロキシ基( –OH )からなる官能基である。
カルボン酸は,ブレンステッド酸に分類される。ヒドロキシ基の水素を遊離することで酸性を示す一般的な有機酸( Organic acid )である。
【カルボン酸の分類】
カルボン酸は,置換するカルボキシル基の数(一価,二価など),カルボキシル基の置換する母体の種類(飽和脂肪族,不飽和脂肪族,芳香族,鎖式,環式)で分類される。
カルボキシル基の数による分類
カルボキシル基が 1 個のカルボン酸を一価カルボン酸(モノカルボン酸),2 個のカルボン酸を二価カルボン酸(ジカルボン酸),3 個のカルボン酸を三価カルボン酸(トリカルボン酸)という。
母体の種類による分類
母体が鎖式炭化水素で一価のカルボン酸を特に脂肪酸( Fatty acid )という。従って,脂肪酸は,多重結合の有無で,飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分けられる。脂肪酸以外は,飽和カルボン酸,不飽和カルボン酸,芳香族カルボン酸に分けられる。
カルボキシル基の他にヒドロキシ基( –OH )を併せ持つカルボン酸は,ヒドロキシ酸( hydroxy acid )という。ヒドロキシ酸は,他にヒドロキシカルボン酸,オキシ酸,アルコール酸などと呼ばれる。
カルボキシル基の他にアミノ基( –NH2 )を持つ化合物をアミノ酸( amino acid )という。アミノ基は塩基性のため,アミノ酸は酸性基と塩基性基の両方を持つので双性イオン(分子内塩などといわれる R( –(NH3)+ COO- )を生じる。
一般にアミノ酸という場合は,タンパク質を構成する単位(一般式 RCH (NH2) COOH の構造を持つα-アミノ酸 20 種)を指す狭義の意味で用いられる。
なお,必須アミノ酸とは,厳密には動物が体内で合成できないアミノ酸を指した用語で,種類は動物種で異なるが,一般には人間を対象とした 9 種のアミノ酸をいう場合が多い。
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【飽和脂肪酸の例】
ここでは,主な飽和の一価のカルボン酸(モノカルボン酸)と主な特徴として質量,融点,沸点,pKa (電離定数の負の常用対数:酸解離定数),水への溶解性を紹介する。なお, pKa 値が 7 より小さいほど酸性が高く,7 より大きいほど塩基性が高い。
表を見て分かるように,飽和脂肪酸は,IUPAC 名より慣用名が一般的に使用されている。
化学式 | IUPAC 名 | 慣用名 | モル質量 g /mol |
融点 ℃ |
沸点 ℃ |
pKa | 備 考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
HCOOH | メタン酸
methanoic acid |
ギ酸
formic acid |
46.925 | 8.4 | 100.75 | 3.75 | 蜂の体内から発見,還元性あり,水と任意に混和 |
CH3COOH | エタン酸
ethanoic acid |
酢酸
acetic acid |
60.05 | 16.7 | 118 | 4.76 | 食酢の主成分,水と任意に混和 |
C2H5COOH | プロパン酸
propanoic acid |
プロピオン酸
propionic acid |
74.03 | -21 | 141 | 4.88 | 食品保存料で利用例,水と任意に混和 |
C3H7COOH | ブタン酸
butanoic acid |
酪酸
butyric acid |
88.11 | -7.9 | 164 | 4.82 | バターやチーズに含まれる。水と任意に混和 |
C4H9COOH | ペンタン酸
pentanoic acid |
吉草酸
valeric acid |
102.13 | -34.5 | 186 | 4.82 | 吉草(きっそう)から発見,不快臭,水への溶解度 49.7g /L。 |
C11H23COOH | ドデカン酸
dodecanoic acid |
ラウリン酸
lauric acid |
200.32 | 43.8 | 225.1
(100 mmHg) |
5.3 | ココナッツオイル,パーム油に含まれ,界面活性剤として利用,水への溶解度 55 mg /L。 |
C12H25COOH | トリデカノン酸
tridecanoic acid |
トリデシル酸
tridecylic acid |
214.34 | 41.5 | 236
(100 mmHg) |
― | 乳製品中に一般的に見られる。水への溶解度 33 mg /L。 |
C15H31COOH | ヘキサデカン酸
hexadecanoic acid |
パルミチン酸
palmitic acid |
256.42 | 62.9 | 271.5
(100 mmHg) |
4.78 | 脂肪に多く含まれ,化粧品や界面活性剤に利用,水への溶解度 7.19 mg /L。 |
C17H35COOH | オクタデカン酸
octadecanoic acid |
ステアリン酸
stearic acid |
284.48 | 69.3 | 383 | ― | 脂肪に最も多く含まれ,食品添加物,滑剤,離型剤,増粘安定剤,固結防止剤や界面活性剤の原料,水への溶解度 3 mg /L。 |
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【不飽和脂肪酸の例】
ここでは,不飽和の一価のカルボン酸(モノカルボン酸)と主な特徴として質量,融点,沸点,pKa (電離定数の負の常用対数:酸解離定数),水への溶解性を紹介する。なお, pKa 値が 7 より小さいほど酸性が高く,7 より大きいほど塩基性が高い。
表を見て分かるように,飽和脂肪酸は,IUPAC 名より慣用名が一般的に使用されている。
化学式 | IUPAC 名 | 慣用名 | モル質量 g /mol |
融点 ℃ |
沸点 ℃ |
pKa | 備 考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
C2H3COOH | 2-プロペン酸
2-propenoic acid |
アクリル酸
acrylic acid |
72.06 | 14 | 141 | 4.35 | 二重結合 1 つ,付加重合しやすい。合成樹脂の原料,水と任意に混和。 |
C3H5COOH | 2-メチルプロペン酸
2-methylpropenoic acid |
メタクリル酸
methacrylic acid |
86.09 | 16 | 161 | ― | 二重結合 1 つ,付加重合しやすい。合成樹脂の原料,水への溶解 9% |
C17H33COOH | cis-9-オクタデセン酸
(9Z)-Octadec-9-enoic acid |
オレイン酸
oleic acid |
282.46 | 13.4 | 360 | ― | 二重結合 1 つ,脂肪の構成成分,水に不溶。 |
C17H31COOH | cis,cis-9,12-オクタデカジエン酸
(9Z,12Z)-9,12-Octadecadienoic acid |
リノール酸
linoleic acid |
280.45 | -5 | 229 | ― | 二重結合 2 つ,脂肪の構成成分,必須脂肪酸の一つ,水への溶解度 0.139 mg /L。 |
C17H29COOH | all-cis-9,12,15-オクタデカトリエン酸
(9Z,12Z,15Z)-9,12,15-Octadecatrienoic acid |
α-リノレン酸
Alpha-linolenic acid |
278.43 | -11 | ― | ― | 二重結合 3 つ,脂肪の構成成分,必須脂肪酸の一つ。 |
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【その他カルボン酸の例】
その他カルボン酸として,モノカルボン酸以外に,二価のジカルボン酸,三価のトリカルボン酸,及び芳香族カルボン酸の例を紹介する。主な特徴として質量,融点,沸点,pKa (電離定数の負の常用対数:酸解離定数),水への溶解性を紹介する。なお, pKa 値が 7 より小さいほど酸性が高く,7 より大きいほど塩基性が高い。
表を見て分かるように,飽和脂肪酸は,IUPAC 名より慣用名が一般的に使用されている。
化学式 | IUPAC 名 | 慣用名 | モル質量 g /mol |
融点 ℃ |
沸点 ℃ |
pKa | 備 考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
(COOH)2 | エタン二酸
ethanedioic acid |
シュウ酸
oxalic acid |
90.03 | 102 | ― | 1.27
4.27 |
融点は二水和物,無水物は182℃で分解,還元性があり,滴定,染料,漂白剤に利用,水への溶解度 143 g /L。 |
CH2(COOH)2 | プロパン二酸
propanedioic acid |
マロン酸
malonic acid |
104.1 | 135 | ― | 2.83
5.29 |
水への溶解度 1390 g /L。 |
HOOC(CH2)2COOH | ブタン二酸
butanedioic acid |
コハク酸
succinic acid |
108.09 | 184 | 235 | 4.2
5.6 |
生体のクエン酸回路を構成する物質,水への溶解度 58 g /L。 |
HOOC(CH2)3COOH | 1,5-ペンタン二酸
1,5-pentanedioic |
グルタル酸
glutaric acid |
132.12 | 95 | ― | ― | 生体のクエン酸回路に関与,水可溶 |
HOOC(CH2)4COOH | ヘキサン二酸
hexanedioic acid |
アジピン酸
adipic acid |
146.14 | 152 | 338 | 4.43
5.41 |
ナイロン 66 の原料,水への溶解度 24 g /L。 |
化学式 | IUPAC 名 | 慣用名 | モル質量 g /mol |
融点 ℃ |
沸点 ℃ |
pKa | 備 考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
C2H2(COOH)2 | Z-ブテン二酸
(Z)-butenedioic acid |
マレイン酸
maleic acid |
116.1 | 131 | ― | 1.9
6.07 |
シス体,抗ヒスタミン剤など医薬品の原料,水への溶解度 478 g /L。 |
C2H2(COOH)2 | E-ブテン二酸
(E)-butenedioic acid |
フマル酸
fumaric acid |
116.1 | 287(decomp) | ― | 3.03
4.44 |
トランス体,食品の pH 調整剤など,水への溶解度 4.3 g /L。 |
化学式 | IUPAC 名 | 慣用名 | モル質量 g /mol |
融点 ℃ |
沸点 ℃ |
pKa | 備 考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
HOOC CH2C(COOH)=CH COOH | 1-プロペン-1,2,3-トリカルボン酸
Prop-1-ene-1,2,3-tricarboxylic acid |
アコニット酸
aconitic acid |
174.11 | cis 125
trans 194 |
― | ― | シス体とトランス体がある。トランス体はサトウキビ,テンサイなどに含まれる。 |
化学式 | IUPAC 名 | 慣用名 | モル質量 g /mol |
融点 ℃ |
沸点 ℃ |
pKa | 備 考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
C6H5COOH | ベンゼンカルボン酸
benzenecarboxylic acid |
安息香酸
benzoic acid |
122.12 | 122.35 | 249 | 4.21 | 食品保存料などに利用,水への溶解度 3.4 g /L。 |
C6H4(OH)COOH | 2–ヒドロキシベンゼンジカルボン酸
2-Hydroxybenzoic acid |
サリチル酸
salicylic acid |
138.12 | 159 | 211 | 2.97 | 水への溶解度 2.48 g /L。 |
C6H4(COOH)2 | 1,2 - ベンゼンジカルボン酸
benzene-1,2-dicarboxylic acid |
フタル酸
phthalic acid |
166.14 | 207 | ― | 2.89
5.51 |
オルト位:フタル酸,メタ位:イソフタル酸,パラ位:メタフタル酸,合成樹脂,染料,医薬品の原料,水への溶解度 6 g /L。 |
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