第四部:無機化学の基礎 生活と無機(環境問題)

  ☆ “ホーム” ⇒ “生活の中の科学“ ⇒ “基礎化学(目次)“ ⇒

  ここでは,環境省の取り組みを参考に,日本の環境問題に関連して, 【生物多様性の保全】, 【循環型社会の形成】, 【低炭素社会の構築】, 【大気・海洋・水・土壌環境の保全】, 【化学物質の環境リスクの管理】 に項目を分けて紹介する。

  生物多様性の保全

 生物多様性(biodiversity)
 多様な生きものは,一つひとつに個性があり,全てが直接に,間接的に支えあっているとの考えから,生態系の多様性,種の多様性,遺伝子の多様性という3つのレベルでの多様性を含む。

 平成 7年( 1995年)に,地球環境保全に関する関係閣僚会議で,日本の「生物多様性国家戦略」 が決定された。その後,日本の生物多様性政策の基本法として,平成 20年( 2008年)に生物多様性基本法が制定され,国による生物多様性国家戦略 策定の義務付け,地方公共団体による生物多様性地域戦略策定の努力義務が規定された。

 生物多様性基本法は,これまでにあった「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」( 1992年),「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」( 2002年),「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」( 2004年)などとは異なり,より包括的に野生生物の種や自然環境保全を目的とする法律である。

 生物多様性基本法(平成二十年法律第五十八号)
 第一章 総則
 第一条(目的)
 この法律は、環境基本法(平成五年法律第九十一号)の基本理念にのっとり、生物の多様性の保全及び持続可能な利用について、基本原則を定め、並びに国、地方公共団体、事業者、国民及び民間の団体の責務を明らかにするとともに、生物多様性国家戦略の策定その他の生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する施策の基本となる事項を定めることにより、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって豊かな生物の多様性を保全し、その恵沢を将来にわたって享受できる自然と共生する社会の実現を図り、あわせて地球環境の保全に寄与することを目的とする。
 第二条(定義)
 この法律において「生物の多様性」とは、様々な生態系が存在すること並びに生物の種間及び種内に様々な差異が存在することをいう。
 2 この法律において「持続可能な利用」とは、現在及び将来の世代の人間が生物の多様性の恵沢を享受するとともに人類の存続の基盤である生物の多様性が将来にわたって維持されるよう、生物その他の生物の多様性の構成要素及び生物の多様性の恵沢の長期的な減少をもたらさない方法(以下「持続可能な方法」という。)により生物の多様性の構成要素を利用することをいう。
 第三条(基本原則)
 生物の多様性の保全は、健全で恵み豊かな自然の維持が生物の多様性の保全に欠くことのできないものであることにかんがみ、野生生物の種の保存等が図られるとともに、多様な自然環境が地域の自然的社会的条件に応じて保全されることを旨として行われなければならない。
 2 生物の多様性の利用は、社会経済活動の変化に伴い生物の多様性が損なわれてきたこと及び自然資源の利用により国内外の生物の多様性に影響を及ぼすおそれがあることを踏まえ、生物の多様性に及ぼす影響が回避され又は最小となるよう、国土及び自然資源を持続可能な方法で利用することを旨として行われなければならない。
 3 生物の多様性の保全及び持続可能な利用は、生物の多様性が微妙な均衡を保つことによって成り立っており、科学的に解明されていない事象が多いこと及び一度損なわれた生物の多様性を再生することが困難であることにかんがみ、科学的知見の充実に努めつつ生物の多様性を保全する予防的な取組方法及び事業等の着手後においても生物の多様性の状況を監視し、その監視の結果に科学的な評価を加え、これを当該事業等に反映させる順応的な取組方法により対応することを旨として行われなければならない。
 4 生物の多様性の保全及び持続可能な利用は、生物の多様性から長期的かつ継続的に多くの利益がもたらされることにかんがみ、長期的な観点から生態系等の保全及び再生に努めることを旨として行われなければならない。
 5 生物の多様性の保全及び持続可能な利用は、地球温暖化が生物の多様性に深刻な影響を及ぼすおそれがあるとともに、生物の多様性の保全及び持続可能な利用は地球温暖化の防止等に資するとの認識の下に行われなければならない。

  ページの先頭へ

  循環型社会の形成

 廃棄物・リサイクルの対策については,1970年(昭和 45年)に制定された「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(廃棄物処理法)によって,個別事案として対処されてきたが,環境保護の観点から対処する必要性が高まってきた。
 すなわち,廃棄物発生量の増大,最終処分場の不足,不法投棄の増大などの問題など,大量生産・大量消費・大量廃棄型の経済社会から脱却し,環境への負荷が少ない「循環型社会」を形成する必要性が高まった。このため,2000 年(平成 12 年)に循環型社会形成推進基本法が制定された。
 循環型社会形成推進基本法は,廃棄物・リサイクル対策に関する従来からある個別法の上位法としての役割をもつ基本法で,法の第 2条第 1項には,循環型社会を「製品等が廃棄物等となることが抑制され,並びに製品等が循環資源となった場合においてはこれについて適正に循環的な利用が行われることが促進され,及び循環的な利用が行われない循環資源については適正な処分(廃棄物として処分)が確保され,もって天然資源の消費を抑制し,環境への負荷ができる限り低減される社会」と定義している。

 循環資源については,いわゆる 3R といわれる取り組み,すなわち「発生抑制」(リデュース)>「再使用」(リユース)>「再生利用」(マテリアルリサイクル)>「熱回収」(サーマルリサイクル)>「適正処分」の順に処理の優先順位を定めている。
 法では,原則的にリサイクルより優先順位の高い 2R (リデュース,リユース)の取組がより進む社会経済システムの構築を目指している。

 循環型社会形成推進基本法(平成十二年法律第百十号)
 第一章 総則
 第一条(目的)
 この法律は、環境基本法(平成五年法律第九十一号)の基本理念にのっとり、循環型社会の形成について、基本原則を定め、並びに国、地方公共団体、事業者及び国民の責務を明らかにするとともに、循環型社会形成推進基本計画の策定その他循環型社会の形成に関する施策の基本となる事項を定めることにより、循環型社会の形成に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与することを目的とする。
 第二条(定義)
 この法律において「循環型社会」とは、製品等が廃棄物等となることが抑制され、並びに製品等が循環資源となった場合においてはこれについて適正に循環的な利用が行われることが促進され、及び循環的な利用が行われない循環資源については適正な処分(廃棄物(ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であって、固形状又は液状のものをいう。以下同じ。)としての処分をいう。以下同じ。)が確保され、もって天然資源の消費を抑制し、環境への負荷ができる限り低減される社会をいう。
 2 この法律において「廃棄物等」とは、次に掲げる物をいう。
   一 廃棄物
   二 一度使用され、若しくは使用されずに収集され、若しくは廃棄された物品(現に使用されているものを除く。)又は製品の製造、加工、修理若しくは販売、エネルギーの供給、土木建築に関する工事、農畜産物の生産その他の人の活動に伴い副次的に得られた物品(前号に掲げる物を除く。)
 3 この法律において「循環資源」とは、廃棄物等のうち有用なものをいう。
 4 この法律において「循環的な利用」とは、再使用、再生利用及び熱回収をいう。
 5 この法律において「再使用」とは、次に掲げる行為をいう。
   一 循環資源を製品としてそのまま使用すること(修理を行ってこれを使用することを含む。)。
   二 循環資源の全部又は一部を部品その他製品の一部として使用すること。
 6 この法律において「再生利用」とは、循環資源の全部又は一部を原材料として利用することをいう。
 7 この法律において「熱回収」とは、循環資源の全部又は一部であって、燃焼の用に供することができるもの又はその可能性のあるものを熱を得ることに利用することをいう。
 8 この法律において「環境への負荷」とは、環境基本法第二条第一項に規定する環境への負荷をいう。
 第三条(循環型社会の形成)
 循環型社会の形成は、これに関する行動がその技術的及び経済的な可能性を踏まえつつ自主的かつ積極的に行われるようになることによって、環境への負荷の少ない健全な経済の発展を図りながら持続的に発展することができる社会の実現が推進されることを旨として、行われなければならない。

  ページの先頭へ

  低炭素社会の構築

 地球温暖化防止
 人間活動の拡大に伴い大気に排出される二酸化炭素( CO2 ),メタン( CH4等の温室効果ガスにより地球の大気が温暖化している。
 温室効果ガスとされるものには複数の化学物質が含まれる,日本での調査結果による主要な温室効果ガスの量と種類を下図に示す。

 1997年(平成 9年)に,温室効果ガス排出量削減を約束した京都議定書を受け,日本政府は緊急に推進すべき地球温暖化対策を「地球温暖化対策推進大綱」としてまとめ,1998年(平成 10年)には,温暖化対策推進法温対法などとも呼ばれる地球温暖化対策の推進に関する法律が制定された。
 同法の 2013年(平成 25年)改正で,対象とする「温室効果ガス」は,二酸化炭素( CO2 ),メタン( CH4 ),一酸化二窒素亜酸化窒素: N2O ),ハイドロフルオロカーボン( HFCs )のうち政令で定めるもの,パーフルオロカーボン( PFCs )のうち政令で定めるもの,六ふっ化硫黄( SF6 ),三ふっ化窒素( NF3 )が指定されている。
 2015年(平成 27年)改正の地球温暖化対策の推進に関する法律施行令では,19種のハイドロフルオロカーボン,9種のパーフルオロカーボンが温室効果ガスとして定められている。

日本の温室効果ガス排出( 2013 年度)

日本の温室効果ガス排出( 2013 年度)
出典:環境省 平成27年度「環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書」

 オゾン層破壊の防止策
 モントリオール議定書の採択を受け,1988 年(昭和 63 年)に特定物質の規制などによるオゾン層の保護に関する法律(オゾン保護法)が制定された。
 1993年末にハロン,1995年末にはクロロフルオロカーボン ( CFC ),1,1,1 -トリクロロエタンなどの生産が全廃された。
 なお,モントリオール議定書には,規制対象物質としてフロン 11,フロン 12,フロン 113,フロン 114,およびフロン 115 の 5種類のフロン特定フロンとよぶ)およびハロン 1211,ハロン 1301,ハロン 2402 の 3種類のハロン(臭素(Br)の入っているフロン)を示している。

 すでに使用されているフロン類に対しては,回収や排気に関し,2001年(平成 13年)に制定された特定製品に係るフロン類の回収及び破壊の実施の確保等に関する法律で規制されている。この法は,2013年(平成 25年)に改正され,法律名フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律(フロン回収・破壊法)となった。

  ページの先頭へ

  大気・水・土壌環境の保全

 自然保護に関しては,明治時代から自然保護のための法律が整備されていた。野生鳥獣保護を目的とする狩猟法は 1895年(明治 28年)に,森林保護を目的とする森林法が, 1897年(明治 30年)に,天然記念物や景勝地の保護を目的に,1919年(大正 8年)に史蹟名勝天然記念物保存法,1931年(昭和 6年)には国立公園法が整備されている。
 その後,経済の高度成長に伴い国土開発の広域化・大規模化により,これまでの個別の法律での対応が困難になり,1972年(昭和 47年)に自然環境保全法が制定された。

 また,産業活動により引き起こされた公害問題が顕在化し,日本の四大公害病と呼ばれる水俣病,第二水俣病,四日市ぜんそく,イタイイタイ病の発生を受け,1967年(昭和 42年)に公害対策基本法が公布・施行された。
 なお,この法律では,大気汚染,水質汚濁,土壌汚染,騒音,振動,地盤沈下,悪臭の7つを公害と規定していた。
 四大公害病
 水俣病:熊本県チッソ水俣工場,1956年熊本県水俣湾,有機水銀による水質汚染や底質汚染
 第二水俣病(新潟水俣病):新潟県昭和電工鹿瀬工場,1964年新潟県阿賀野川流域,有機水銀による水質汚染や底質汚染
 四日市ぜんそく:三重県四日市コンビナート,1960年から1972年三重県四日市市,亜硫酸ガスによる大気汚染
 イタイイタイ病:岐阜県三井金属鉱業神岡事業所(神岡鉱山),1910年代から1970年代前半に富山県神通川流域,カドミウムによる水質汚染

 公害対策基本法で公害対策を,自然環境保全法で自然環境対策を行っていたが,複雑化・地球規模化する環境問題に対応できず,1993年(平成 5年)に公害対策基本法を廃止し, 環境基本法が制定され,これとの整合性を確保するため,自然環境保全法も改訂された。
 環境基本法は,日本の環境政策の根幹を定める基本法で,具体的施策は規定の趣旨に基づく個別の法制上および財政上の措置により実施される。なお,上述した循環型社会形成推進基本法および生物多様性基本法は,環境基本法の基本理念に基づき制定される下位法として位置付けられる。

 現在制定されている環境関連の主な法規制を大気環境,海洋・湖沼・河川などの水環境,土壌環境,その他に分けて紹介する。
 大気環境を規制する法律には,1968年(昭和 43年)制定の 大気汚染防止法,1992年(平成 4年)制定の自動車から排出される窒素酸化物及び粒子状物質の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法,1990年(平成 2年)制定のスパイクタイヤ粉じん防止法,1971年(昭和 46年)制定の悪臭防止法,1968年(昭和 43年)制定の騒音規制法,1976年(昭和 51年)制定の振動規制法,1999年(平成 11年)制定のダイオキシン類対策特別措置法,2001年(平成 13年)制定のポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法などがある。

 水環境を規制する法律には,1970年(昭和 45年)制定の 水質汚濁防止法,1970年(昭和 45年)制定の海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律,1973年(昭和 48年)制定の瀬戸内海環境保全特別措置法,1984年(昭和 59年)制定の湖沼水質保全特別措置法などがある。

 土壌環境を規制する法律には,2002年(平成 14年)制定の 土壌汚染対策法,1970年(昭和 45年)制定の農用地の土壌の汚染防止等に関する法律,1948年(昭和 23年)制定の農薬取締法などがある。

  ページの先頭へ

  化学物質の環境リスクの管理

 新たな化学物質が数多く開発され続けている。これらの化学物質が環境に与えるリスクを管理するために,次に示すようなの法規制がある。
 1973年(昭和 48年)制定の化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化学物質審査規制法),1999年(平成 11年)制定の特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(化管法/PRTR法)などがある。

 化学物質審査規制法
 PCBによる環境汚染問題を契機として,1973年に制定された法律で,新たに製造・輸入される化学物質について事前に人への有害性などについて審査するとともに,環境を経由して人の健康を損なうおそれがある化学物質の製造,輸入及び使用を規制する仕組みである。
 2004年からは,化学物質の動植物への影響に着目した審査・規制制度,環境中への放出可能性を考慮した措置等を導入している。2010 年からは,化学物質の包括的な管理の実施で,有害化学物質による人や動植物への悪影響を防止するため,国際的動向を踏まえた規制合理化のための措置等を講じている。.
 規制対象の化学物質
 第一種特定化学物質( PCB 等 33物質)平成30年4月現在
 特徴:難分解性,高蓄積性及び人又は高次捕食動物への長期毒性を有する化学物質。
 措置:製造又は輸入の許可,使用の制限,政令指定製品の輸入制限,物質 指定等の際の回収等措置命令等。
 第二種特定化学物質(トリクロロエチレン等 23物質)平成2年9月現在
 特徴:人又は生活環境動植物への長期毒性を有する化学物質。
 措置:製造,輸入の予定及び実績数量を把握,製造又は輸入の制限の認定し,製造又は輸入予定数量の変更を命令,当該物質使用製品のとるべき措置について技術上の指針公表・勧告,表示の義務付け等。
 監視化学物質(酸化水銀(Ⅱ)等 41物質)平成30年4月現在
 特徴:難分解性かつ高濃縮性であり,人又は高次捕食動物に対する長期毒性が明らかでないもので,化審法の規定に基づき公示された物質。
 優先評価化学物質(二硫化炭素,クロロホルム等)2020年4月現在
 特徴:優先評価化学物質とは,第二種特定化学物質の有害性要件(人又は生活環境動植物への長期毒性)に該当しないことが既知見から明らかであるとは認められず,当該化学物質に関して得られている知見及び製造,輸入等の状況から,当該化学物質の環境汚染による人又は生活環境動植物へのリスクがないとは判断できない化学物質であり,当該化学物質による環境の汚染により人の健康に係る被害又は生活環境動植物の生息もしくは生育に係る被害を生ずるおそれがあるかどうかについての評価(リスク評価)を優先的に行う必要がある物質で厚生労働大臣,経済産業大臣,環境大臣が指定するものを言います(化審法第2条第5項)。

 化管法/PRTR法
 一般的には,PRTR とは,有害性のある多種多様な化学物質がどのような発生源から,どれくらい環境中に排出されたか,あるいは廃棄物に含まれて事業所の外に運び出されたかというデータを把握し,集計し,公表する仕組みと説明される。
 PRTR 制度の対象となる化学物質は,「第一種指定化学物質」として計 462物質が指定され,そのうち,発がん性,生殖細胞変異原性及び生殖発生毒性が認められる 15物質は「特定第一種指定化学物質として区分されている。
 対象となる化学物質や排出量集計については,算出のためのマニュアルが準備されている。

  ページの先頭へ