第一部:化学と物質構造・金属結合

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 エネルギーバンド

 金属などの巨大分子では,前節で紹介したように,結合に関わる原子数が多いため,分子軌道は数多くの電子軌道に分裂する。電子軌道のエネルギー順位は連続していないが,エネルギーギャップが小さく,電子の移動が容易なため,あたかも連続した帯状の様相を呈する。このため,これらのエネルギー準位をまとめてエネルギーバンド( energy band )という。

分子軌道とエネルギーバンドの模式図

分子軌道とエネルギーバンドの模式図


 エネルギーバンドは,右図に示すように,電子に満たされた価電子帯(充満帯)と,電子を含まない伝導帯(空準位)に分けられる。
 なお,価電子帯で最もエネルギーの高い軌道を最高被占軌道 HOMO )といい,伝導帯で最もエネルギーの低い軌道を最低空軌道 LUMO )という。伝導帯と価電子帯のエネルギーギャップをバンドギャップ禁制帯という。

 エネルギーバンドの構造は,巨大分子の物性に大きく影響する。
 価電子帯の電子が伝導帯に容易には移動できないほど禁制帯のエネルギーギャップが大きい物質を不導体( nonconductor )や絶縁体( insulator )という。
 禁制帯のエネルギーギャップが比較的小さく,条件次第伝導帯に電子が移動できる物質は,半導体( semiconductor )と呼ばれる。
 価電子帯の電子が伝導帯に容易に移動できるほど禁制帯のエネルギーギャップが小さい物質を導体( conductor )という。

 金属のような良導体( good conductor )では,HOMO と LUMO のエネルギーギャップが非常に小さく,価電子帯の電子の一部が比較的自由に伝導帯に移ることができる。
 この電子は,隣り合う原子の間を自由に動き回ることができるので,自由電子と呼ばれる。
 【参考】
 バンド理論( band theory )
 周期的な原子配列,分子配列を持つ物質(特に結晶)の電子状態を量子力学で記述する理論の一つである。 通常は, 結晶中の電子のエネルギーと,電子の波数の関係を表す関数を計算する手法全般を指す。バンド理論では,エネルギーと波数の関係(分散関係)をエネルギーバンド(バンド構造)と呼ぶ。
 LUMO( Lowest Unoccupied Molecular Orbital )
 最低空軌道と訳され,電子がない空の軌道のうち最もエネルギーの低い軌道のことをいう。
 HOMO( Highest Occupied Molecular Orbital )
 最高被占軌道と訳され,電子が存在している軌道のうち最もエネルギーが高い軌道のことをいう。
 バンドギャップ( band gap )
 巨大分子では,結合に関わる原子数が多いため,分子軌道は数多くの電子軌道に分裂する。電子軌道のエネルギー順位は連続していないが,あたかも連続した帯状の様相を呈するため,エネルギーバンド( energy band )という。
 電子に満たされたエネルギーバンドは,価電子帯,又は充満帯といい,電子を含まないエネルギーバンドを伝導帯,又は空準位という。
 価電子帯で最もエネルギーの高い軌道を最高被占軌道( HOMO )といい,伝導帯で最もエネルギーの低い軌道を最低空軌道( LUMO )という。伝導帯と価電子帯のエネルギーギャップをバンドギャップ(禁制帯)という。
 半導体( semiconductor )
 金属などの導体と絶縁体の中間的な抵抗率をもつ物質で,熱,光,磁場,電場などの影響で電気特性が顕著に変わる特徴を持つ単体又は化合物である。
 JIS C 5600「電子技術基本用語」では,半導体を“室温での導電率が金属と絶縁体との中間(およそ 105 ~ 10–8 S/ m )にある物質。およそ 2 ~ 3 eV 以下のバンドギャップをもち,絶対零度では自由電子(正孔)をもたないために絶縁体であるが,温度の上昇とともに自由電子(正孔)密度が増加し,室温では電気伝導をもつようになる。また,不純物のドーピングで N 形,P 形 の伝導の形の制御ができる。”と定義している。
 自由電子( free electron )
 自由電子とは,束縛を受けていない電子をいう。即ち,特定の原子核の近傍に留まらず結晶全体に非局在化している電子である。  自由電子の存在が,電気や熱の高い伝導性の要因の一つとなっている。このため,自由電子は伝導電子とも呼ばれる。

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