第四部:無機化学の基礎 無機化学とは(基本)
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ここでは,無機化学の基本に関連し, 【元素の分類と性質】, 【金属の分類】, 【非金属の分類】, 【特性評価に用いる性質】, 【参考;クラーク数】 に項目を分けて紹介する。
元素の分類と性質
数多くの物質を構成する元素は,わずか 100 種程度の元素であり,その中で日常生活にかかわりの深い元素は高々 30 種程度に過ぎない。他の元素は,きわめてわずか自然界に存在するか,人為的に作り出されたもので,ごく特殊な用途に使われるに過ぎない。
参考として,人類の利用が容易な地球の地表部付近から海水面下10マイルまでの元素の割合を示すクラーク数( Clarke number )を本節の最後に紹介した。
なお,純物質,混合物,化合物,単体など基本的な物質の分類については,【第二部:物質の構造】で紹介しているので,ここでは,一般的な分類について紹介する。
一般的な無機化合物の分類では,
初めに,塑性変形が容易で,展延加工ができ,不透明で輝くような光沢(金属光沢)があり,電気および熱をよく伝導する物質を金属,
これらの性質を持たない物質の非金属に分ける。
【参考】
物質( material,substance,matter )
物理学の対象となる物質は,一定の質量( mass )を持って物体を構成しているもの,いわゆる化学物質で,原子,分子,素粒子などの集合体。
純物質( pure substance )
1 種類の元素からなる単体( elementary substance )と 2 種以上の元素で構成される化合物( compound )とに分けられる。一般的には,単体,化合物とも分子( molecule ),又はイオン( iron )で構成される。
混合物( mixture )
複数の純物質の混合割合がどの部分をとっても同じになる均一混合物( homogeneous substance :海水,空気など)と採取する部分によって混合割合が異なる不均一混合物( heterogeneous substance :岩石,牛乳など)に分けられる。
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金属の分類
金属の性質は,【金属結合】の特徴である自由電子により発現する。
金属元素の分類については,【金属結合:化学的分類】,金属物質としての分類は,【金属結合:その他の分類】で詳細に紹介している。
金属の一般的な分類を要約すると,
● 比重による分類(比重 5 より大きい重金属,小さい軽金属),
● 存在量(又は産出量)による分類(希少なレアメタルと存在量の多いコモンメタル),
● 化学変化の難易や価格による分類(変化し難い又は高価な貴金属,変化し易い又は安価な卑金属)などである。
他に,工業用材料としての金属は,成分,用途や特性などから,炭素鋼,合金鋼,耐候性鋼,工具鋼,非鉄金属など数多くの分類がある。
【参考】
レアメタル( rare metal )
以下の ①~④ のどれか一項目を満たし,かつ ⑤ の条件にあてはまるものをレアメタル(希少金属)という。
① 存在する量が少ない。
② 鉱床を作らず,広く薄く分布している。
③ 鉱床を作っても,特定の国や地域に限定されている。
④ 鉱物からの取り出し,精製が難しい。
⑤ 現代の産業に欠かせない素材である。
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非金属の分類
金属の性質を有しない無機化合物はすべて非金属に分類される。このため,物質の状態(気体,液体,固体),技術分野,用途などで様々の分類がある。
例えば,
気体では,理想気体,実在気体,混合ガス,活性ガス,不活性ガス,毒ガス,腐蝕性ガス,可燃性ガス,不燃性ガス,火山ガス,燃焼ガス,排気ガス,プラズマなど,
液体では,溶液,溶媒,イオン液体,腐蝕性液体,引火性液体,発火性液体など,
固体では,結晶,非結晶(アモルファス),鉱物,セラミックス,ガラス,酸化物,硫化物,水素化物,塩,酸性塩,塩基性塩などなど様々な分類がある。
【参考】
物質の三態(three states of matter)
固体,液体,気体などの物質の状態をまとめて物質の三態や三相(three phases of matter)と呼ぶ。
気体( gas )
一定の形と体積を持たず,自由に流動し,圧縮やずれに対する抵抗が小さく,圧力の増減で体積が容易に変化する状態である。また,外部から力を受けない状態では,気体の体積が無限に膨張する。
液体( liquid )
流動的で容器に合わせて形を変えることができる。液体は気体と異なり,粒子間の相互作用(引力)が比較的弱く,粒子(原子や分子)の位置は固定されず,自由に流動できるが,粒子間の距離がほぼ一定に保たれるため容器全体に広がることが無い。また,圧縮性が小さいので,ほぼ一定の密度を保つ。一般的に,液体の密度は,固体の密度に近く,気体より著しく高い。
固体( solid )
液体と比較して変形や体積変化が極めて小さい。固体を構成する粒子(原子,分子やイオン)は,粒子間の相互作用(引力)により粒子(原子や分子)の位置がほぼ固定され,移動が制限される。粒子が規則正しい繰り返しで並ぶ場合(結晶)と不規則に並ぶ場合(アモルファス)がある。
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物質の特性評価に用いる性質
無機物質の特徴を表す際に用いられる主な性質には,例えば,
【元素一覧】では,元素単体の基本的な特性として,融点,沸点,などの熱的特性の他に,
物質の基本的な特徴を表す密度,色など光学的性質,結晶系,電磁気的性質,溶媒への溶解性などがある。
【参考】
熱力学(thermodynamics)
熱のもつ性質を物理的に明らかにすることが求められ発達した学問。
熱力学では,巨視的な状態を巨視的な量(圧力,体積,温度などで,状態量という)で記述する。記述に際して,状態量(quantity of state)の間の普遍的な関係(法則)と経験式(状態方程式)とが用いられる。これらの関係を用いることで,少ない状態量(状態変数:state variable , state space)で熱力学的状態を記述できる。
三重点( triple point )
相図における融解曲線,昇華圧曲線,蒸気圧曲線の交わる点。
平易に表現すると,物質の三相(三態)が同時に安定的に共存する温度
電磁気学(electromagnetism)
電気と磁気に関する現象全般を研究する物理学の基礎部門である。
物理光学(physical optics)
波動光学ともいい,光を波動性に着目した光波という概念で捕え,光波の伝搬,干渉,回折,分散,散乱,放射,吸収など光と物質との相互作用などを論じる分野である。
溶解( dissolution )
JIS K 0211 2013 「分析化学用語(基礎部門)」では,“液体中に他の物質が溶け込んで均一な相になる現象”と定義している。すなわち,一般的には,液体中に気体,液体や固体が溶ける現象をいう。
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参考:クラーク数
クラーク数( Clarke number )とは,地表部付近から海水面下10マイルまでの元素の割合
クラーク数トップ20
O ; 49.5 , Si ; 25.8 , Al ; 7.56 , Fe ; 4.70 , Ca ; 3.39
Na ; 2.63 , K ; 2.40 , Mg ; 1.93 , H ; 0.83 , Ti ; 0.46
Cl ; 0.19 , Mn ; 0.09 , P ; 0.08 , C ; 0.08 , S ; 0.06
N ; 0.03 , F ; 0.03 , Rb ; 0.03 , Ba ; 0.023 , Zr ; 0.02
レアメタルのクラーク数比較
典型元素
周期表 1族 Li ; 6×10-3 ,Rb ; 0.03 ,Cs ; 7×10-4
周期表 2族 Be ; 6×10-4 ,Sr ; 0.02 ,Ba ; 0.023
周期表 13族 B ; 1×10-3 ,Ga ; 1×10-3 ,In ; 1×10-5 ,Tl ; 3×10-5
周期表 14族 Ge ; 6.5×10-4
周期表 15族 Sb ; 5×10-5 ,Bi ; 2×10-5
周期表 16族 Se ; 1×10-5 ,Te ; 2×10-7
希土類以外の遷移元素
周期表 4族 Ti ; 0.46 ,Zr ; 0.02 ,Hf ; 4×10-4
周期表 5族 V ; 0.015 ,Nb ; 2×10-3 ,Ta ; 1×10-3
周期表 6族 Cr ; 0.02 ,Mo ; 1.3×10-3 ,W ; 6×10-3
周期表 7族 Mn ; 0.09 ,Re ; 1×10-7
周期表 9族 Co ; 4×10-3
周期表 10族 Ni ; 0.02 ,Pd ; 1×10-6 ,Pt ; 5×10-7
希土類元素(レアアース)
周期表 3族,ランタノイド系
Sc ; 5×10-4 ,Y ; 3×10-3 ,
La ; 1.8×10-3 ,Ce ; 4.5×10-3 ,Pr ; 5×10-3 ,Nd ; 2.2×10-3 ,Pm ; ? ,
Sm ; 6×10-4 ,Eu ; 1×10-4 ,Gd ; 6×10-4 ,Tb ; 8×10-5 ,Dy ; 4×10-4 ,
Ho ; 1×10-4 ,Er ; 2×10-4 ,Tm ; 2×10-5 ,Yb ; 2.5×10-4 ,Lu ; 7×10-5
赤字,青字の元素は,地殻での存在量が多いにも関わらずレアメタルに分類されている。これは,レアメタルの定義における“産出国,地域が限られる”,“精製が難しい”などの理由による。
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