化 学 (無機化学)

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 ここでは,非金属元素の化学的性質に関連し,【放射性同位体について】【放射性崩壊】【放射性系列】【核反応について】に項目を分けて紹介する。

 【放射性同位体について】

 元素には,陽子の数が同じ(同じ原子番号)で,中性子数の数が異なる同位体( isotopes :同位元素ともいう)が存在することを【原子核の構造】で紹介した。
 同位体は,放射性壊変せずに安定して存在できる安定同位体( stable isotope ),放射性壊変する放射性同位体( radioactive isotope )に分けられる。
 放射性同位体には,天然に存在する自然放射性同位体( natural radioactive isotope )と核変換によって人工的に得られる人工放射性同位体( artificial radioactive isotope )がある。
 
 なお,放射性壊変(ほうしゃせいかいへん: radioactive disintegration )とは,JIS Z 4001 「原子力用語: Glossary of terms used in nuclear energy 」の定義では“原子核が自発的に核変換し,粒子又はγ線が放出され,若しくは軌道電子捕獲によってX線が放出される現象。原子核の自発核分裂も含まれる。”である。
 核変換( nuclear transformation )とは“ある核種が他の異なる核種に変わる現象。”と定義されている。核変換で生じた核種を娘核種という。
 JIS Z 4001 では,放射性壊変を用いているが,一般的には,同じ意味の放射性崩壊(ほうしゃせいほうかい: radioactive decay )を用いる例が多い。

 

 【放射性崩壊】

 放射性崩壊は,α壊変とβ壊変に分けられる。γ線を放出する現象をγ崩壊というが,これは放射性崩壊ではない。次にこれらの状態変化について紹介する。
 α壊変( alpha decay :α崩壊ともいう)
 原子核から放出される粒子がα粒子(ヘリウムの原子核)の放射性壊変をα壊変という。
 この放射性壊変によって元の核種の原子番号は 2 減り,質量数は 4 減る。放出されるヘリウム原子核をα線と呼ぶ。

α壊変の例(イメージ図)

α壊変の例(イメージ図)

 β壊変( beta decay :β崩壊ともいう)
 原子核がβ粒子(電子,又は陽電子)を放出,又は原子核が軌道電子を捕獲することによる核変換をβ壊変という。β壊変には,次の3種類がある。
 β壊変
 中性子電子( electron )と反電子ニュートリノを放出して陽子になる現象をいう。この放射性壊変によって元の核種の原子番号は 1 増え,質量数は変わらない。放出される電子をβ線と呼ぶ。
 一般的には,安定同位体より中性子の多い核種で発生する。なお,単にβ壊変といった場合は,この現象を指す。
 β壊変
 陽子陽電子( positron )と電子ニュートリノを放出して中性子になる現象をいう。この現象は,陽電子壊変( positron decay )とも言われる。この放射性壊変によって元の核種の原子番号は 1 減り,質量数は変わらない。放出される陽電子もβ線と呼ばれる。
 一般的には,安定同位体よりも中性子の少ない核種で発生する。
 軌道電子捕獲( orbital electron capture )
 陽子核外電子(軌道電子)を捕獲し,電子ニュートリノを放出して中性子になる現象をいう。一般的には略して電子捕獲( electron capture )とい場合が多い。この放射性壊変によって元の核種の原子番号は 1 減り,質量数は変わらない
 この現象では,捕獲された電子の軌道に外殻の電子が遷移する緩和過程で特性X線を放出する。

β壊変の例(イメージ図)

β壊変の例(イメージ図)

 γ崩壊( gamma decay )
 励起した原子核が,電磁波(γ線)を放出してエネルギー状態を安定化させる現象をγ崩壊と呼ばれる。しかし,γ崩壊は,α壊変やβ壊変とは異なり,核種が変わらない(原子番号や質量数が変わらない),すなわち核変換が起きていないので,放射性壊変の定義に一致しない現象である。
 原子核が外部からエネルギーを与えられた場合,又はα壊変やβ壊変で生じた娘核種が励起状態にある場合など,原子核の励起状態から緩和する過程で準位間のエネルギー差に等しいγ線を放出する。この現象は,核異性体転移( isomeric transition )と呼ばれる。核異性体転移には,γ線放出の他に核外電子を放出する内部転換( internal conversion )も含まれる。
 γ線源として利用されるコバルト60は,β壊変でニッケル60になる過程で,図に示すように,励起された状態のニッケル 60 を経由し 1.17 MeVと1.33 MeVの2本のγ線を放出する。

Co 60 のβ壊変とγ崩壊(イメージ図)

Co 60 のβ壊変とγ崩壊(イメージ図)

 【参考】
 陽子( proton ):近似的に 1.602 18×10-19 C の正の電荷と 1.672 6×10-27 kg の静止質量をもつ安定な粒子。(JIS Z 4001 )
 中性子( neutron ):電荷をもたず,近似的に 1.674 93×10-27 kg の静止質量をもつ粒子。自由な状態では約 890 秒の平均寿命をもつ。(JIS Z 4001 )

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 【放射性系列】

 地球の年齢(約46億年: 4.6×109 年)より放射性半減期( radioactive half-life )が(略して半減期という)著しく短い放射性核種は,壊変が進み,現在の自然界に存在しないはずである。
 しかし,天然ラドン温泉の成分であるラドン 222 (半減期約 3.824 日)は,半減期が著しく短い(平均寿命約 5.5 日)にもかかわらず天然に存在し続けている。
 すなわち,天然に存在する半減期の短い放射性核種は,供給され続けていること,すなわち他の放射性核種の放射性壊変により生成され続けていることを意味する。
 地球の年齢程度かそれ以上の半減期を持つ天然の放射性核種には,半減期 44.68 億年のウラン238や半減期 140.5 億年のトリウム232などが存在する。
 出発物質の放射性壊変で,娘核種が次々と生成するので,半減期が短くとも存在し続けていると考えられる。
 この中で,原子番号 90 トリウム 232,原子番号 93 ネプツニウム 237 (半減期 214.4 万年),原子番号 92 ウラン 238 及びウラン 235 (半減期 7.038 億年)で始まり安定な最終生成物に至る 4 種の壊変系列を放射性系列( radioactive series )という。
 壊変系列の名称は,トリウム 232 に始まり鉛 208 に至るトリウム系列( thorium series : 4n 系列),ネプツニウム 237 に始まりビスマス 209 に至るネプツニウム系列( neptunium series : 4n+1 系列),ウラン 238 に始まり鉛 206 に至るウラン系列( uranium series : 4n+2 系列),ウラン 235 に始まり鉛 207 に至るアクチニウム系列( actinium series : 4n+3 系列)である。
 下図には,ウラン系列の複数の壊変経路の中で主要な経路を紹介する。

放射性壊変の例(ウラン系列)

放射性壊変の例(ウラン系列)

 【参考】
 放射性核種の平均寿命( mean life , average life )は,壊変定数λの逆数(JIS Z 4001 で与えられるので,半減期 T1/2 の 1 /ln2 倍(約 1.44 倍)となる。
 放射性半減期とは,放射性核種の原子の数が,放射性壊変によって半分になるのに要する時間をいう。放射性半減期 T1/2と壊変定数λの間には,次の関係がある。(JIS Z 4001 )
      T1/2 = ln2 ・λ-1 ≒ 0.693 λ-1
 壊変定数( decay constant )とは,放射性核種において,その 1 個の原子核が単位時間当たりに放射性壊変を起こす確率で,崩壊定数ともいう。N を時刻 t に存在する問題の原子核の数とすると,壊変定数λは,次の式で与えられる。(JIS Z 4001 )
      λ= - 1/N・dN /dt

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 【核反応について】

 JIS Z 4001 「原子力用語: Glossary of terms used in nuclear energy 」では,次の様に定義している。
 核反応( nuclear reaction )とは,“ 1 個以上の原子核が関与する事象で,質量,電荷又はエネルギー状態が変化する。広義には,核子の弾性散乱も含む。(JIS Z 4001 )”と定義している。なお,この分野では,“原子核を構成する粒子である陽子と中性子の総称”を核子( nucleon )と定義している。
 狭義の核反応とは,一般的には,“重い原子核が同じ程度の質量をもつ二つ(又はまれに三つ以上)の原子核に分かれる現象(JIS Z 4001 )”の核分裂( [nuclear] fission ),及び “二つの軽い原子核が反応して,元の原子核のどちらよりも重い原子核を必ず一つと余分のエネルギーとを生じる核融合反応( nuclear fusion reaction )を起こすこと(JIS Z 4001 )”を核融合( nuclear fusion )という。
 核反応において,原子核に衝突する粒子には,陽子,中性子,π中間子,電子,光子などの素粒子の場合,重陽子(重水素の原子核),α粒子(ヘリウム4の原子核),さらに重い原子核などの場合がある。
 
 核反応の表記
 原子核 A に粒子 a(入射粒子)を衝突させた時,原子核 B と粒子 b とが生ずる場合を,化学反応式のような形式で表現すると
      A + a → B + b
と書けるが,核反応を表記する場合は, A(a,b)B とし,この反応を (a,b) 反応という。
 例えば,コバルト 60 を得ようとした場合に,コバルト 59 に中性子を照射(γ線を放出)する場合,ニッケル 60に中性子を照射(陽子を放出)する場合がある。それぞれは,次の様に表記される。
      59Co ( n ,γ) 60Co    60Ni ( n ,p ) 60Co
 ラザフォードが最初に行った実験の窒素 14 にα粒子(ヘリウム 4 )を衝突させた時の反応 14N + 4He → 17O + 1H は,
      14N (α, p ) 17O
と表記する。

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