第四部:無機化学の基礎 生活と無機(環境問題)
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ここでは,化学物質の関連する環境問題の理解に先立ち, 【環境問題とは】, 【国際的取り組みの変遷】, 【気候変動枠組条約締約国会議( COP )】 に項目を分けて紹介する。
環境問題とは
【腐食・防食とは】「防食概論:塗料と環境」 で紹介しているように,地球規模の環境問題は,20世紀後半になって,幾何級数的な人口増加に伴い,生活維持のためにエネルギー・資源を大量に消費する社会となり,地球の持つ自律・自浄能力をはるかに超え,地球の生態系のバランスを崩し始めたことが主要因と考えられる。
環境問題のキーワードには,「持続可能な社会」,「持続可能な開発」が挙げられる。このための施策としては,“生物多様性の保全”,“低炭素社会の構築”,“循環型社会の形成”,“大気・海洋・水・土壌環境の保全”,“化学物質の環境リスクの管理”が挙げられる。
この中で,化学が大きくかかわる“大気・海洋・水・土壌環境の保全”で問題とされる具体的な課題は,
● 汚染物質発生源付近での大気汚染,水質汚染,土壌汚染など公害として扱われる局地的な課題,
● 酸性雨,粒子状物質( PM )や光化学オキシダントなどの大気環境汚染,広域の海洋生物に影響する海洋汚染などの県境,国境を越えた比較的広い地域の課題,
● オゾン層破壊,地球温暖化などの地球規模の課題に分けられる。
なお,一般的に地球環境問題という場合は,次の 2 つの条件のいずれか,またはその両方を満たす問題についていうことになっている。従って,局地的な公害は地球環境問題の範疇に入らない。
(1)被害,影響が一国にとどまらず,国境を越え,ひいては地球規模にまで広がる環境問題
(2)国際的な取り組み(政府開発援助等)が必要とされる環境問題
【参考】
総務省統計局「世界の統計 2020」から世界の人口の推移を抜粋して次に紹介する。
1950年 25億36百万人,1955年 27億73百万人,1960年 30億35百万人,1965年 33億40百万人
1970年 37億00百万人,1975年 40億79百万人,1980年 44年58百万人,1985年 48億71百万人
1990年 53億27百万人,1995年 57億44百万人,2000年 61億43百万人,2005年 65億42百万人
2010年 69億57百万人,2015年 73億80百万人,2019年 77億13百万人
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国際的取り組みの変遷
1962年
米国の生物学者レイチェル・カーソンは,『沈黙の春』( Silent Spring )を出版した。この本は,環境に与える農薬などの化学物質の影響(海洋汚染)を訴えたもので,環境問題・環境保護運動の原点となる本と評価されている。
1970年
国際的な資源・人口・軍備拡張・経済・環境破壊などの課題に対処するため,世界各国の科学者・経済人・教育者・各種分野の学識経験者などが 1968年 4月にローマで会合を開き,1970年 3月にローマクラブ( Club of Rome )を設立した。
“人口増加,資源の枯渇,環境汚染などが続けば,100年以内に地球上の成長は限界に達する”との警告を報告書『成長の限界』を1972年に発表した。内容に関しての異論は多いが,全世界的に地球環境問題の認識を明らかにした第一歩といえる。
1972年
1972年 6月に,国際連合人間環境会議( United Nations Conference on the Human Environment )がストックホルムで開催された。「ストックホルム会議」は,環境問題に関する初めての大規模な政府間会合である。
「かけがえのない地球」( Only One Earth )を掛け声に,113か国が参加し,「人間環境宣言」及び「環境国際行動計画」が採択され,国際連合で環境問題を扱う機関の国連環境計画( United Nations Environment Programme : UNEP )がケニアのナイロビに設立された。なお,開催日( 6月 5日)は,国際連合の記念日(環境の日)になった。
1985年
オゾン層保護を目的とする国際的な枠組みを設定する「オゾン層保護のためのウィーン条約」が採択さた。ウィーン条約では,「オゾン層の変化により生ずる悪影響から人の健康および環境を保護するために適当な措置をとること」,「研究および組織的観測などに協力すること」,「法律、科学、技術などに関する情報を交換する」などが定められている。
1987年
ウィーン条約の下,オゾン層破壊に影響する物質の特定,その生産,消費,貿易の規制などを定める「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」が採択された。モントリオール議定書では,「オゾン層破壊物質の規制スケジュール」,「非締約国との貿易規制」,「規制措置の評価および再検討」などが定められ,議定書の事務局をナイロビの国連環境計画( UNEP )に設置した。
1988年
気候変動に関する政府間パネル( Intergovernmental Panel on Climate Change : IPCC )が,国際連合の国連環境計画( UNEP )と世界気象機関( World Meteorological Organization : WMO)がに共同で設立した。
地球温暖化についての科学的な研究の収集,整理のための政府間機構で,各国の政策決定者に必要な科学情報を提供するための機関である。
気候変動に関する政府間パネル( IPCC )では,5年ごとに地球温暖化に関する科学的知見やその影響,対策などに関する世界中の研究成果をとりまとめた評価書を公表している。
1992年
国際連合主催の国連環境開発会議( United Nations Conference on Environment and Development : UNCED )がブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催された。これは,地球サミット( Earth Summit )とも呼ばれる。
国際環境開発会議には,国際連合の招集を受け,世界 172か国(ほぼすべての国際連合加盟国)の代表や産業団体,市民団体などの非政府組織( NGO )の代表が参加し,延べで 4万人を越えるう国際連合の史上最大規模の会議となった。
会議では,毒性のある物質などの計画的な生産,気候変動に対応しうる化石燃料に代わる新しいエネルギー源,排ガスの問題解消のための新しい公共交通システムの確立,水不足の解消などが議論された。
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気候変動枠組条約締約国会議( COP )
国際環境開発会議(地球サミット)の成果は,新たな国際的な関係の構築に向けた「環境と開発に関するリオ・デ・ジャネイロ宣言」(リオ宣言: Rio Declaration on Environment and Development )と,この宣言を実施するための行動計画アジェンダ21 : ( Agenda 21 ),森林原則声明が合意された。
また,気候変動枠組条約( United Nations Framework Convetion on Climate Change : FCCC )と生物多様性条約( Convention on Biological Diversity : CBD )の署名,「持続可能な開発委員会」 ( Commission on Sustainable Development : CSD ) の設置が決められた。
気候変動枠組条約とは,地球温暖化問題に対する国際的な枠組みを設定した条約で,国連気候変動枠組条約,地球温暖化防止条約などともいう。
生物多様性条約とは,生物の多様性を生態系,種,遺伝子のレベルでとらえ,多様性の保全,構成要素の持続可能な利用,遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する国際条約である。
その後,1995 年に第 1 回目の気候変動枠組条約締約国会議( Conference of the Parties : COP 1 )が開催され,その後毎年開催されている。
1997 年には,第 3 回締約国会議( COP 3 )が日本の京都で開催され,温室効果がスの排出抑制または削減に関する京都議定書が締結された。
2015 年には,フランスのパリで開催された第 21 回締約国会議( COP 21 )において,京都議定書より広範囲の国が参加する新しい枠組みのパリ協定が採択された。
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