第四部:無機化学の基礎 非金属元素

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  ここでは,周期表 17族のハロゲン族元素に関し, 【ハロゲンとは】, 【ハロゲン単体の性質】, 【ハロゲン間化合物】, 【非金属のハロゲン化物】, 【金属元素のハロゲン化物】 に項目を分けて紹介する。

  ハロゲンとは

 周期表 17族の元素を総称してハロゲン族元素( ふっ素,塩素,臭素,よう素,アスタチン)という。殆どの元素はハロゲン族元素と化合物(ハロゲン化物を作る。
 ハロゲン族元素電気陰性度が他の元素より大きく(陰性が強い),多くの金属元素イオン結合性の高い塩を形成する。
 一方で,多くの非金属元素とは共有結合性の化合物を形成できる。

 等核二原子分子( F2 ,Cl2 など)以外に,ClF ,BrF3 ,BrCl などハロゲン元素同士の化合物(ハロゲン間化合物も形成する。

 ここでは,ハロゲン元素の単体の特性,ハロゲン間化合物イオン結合性のハロゲン化物,共有結合性のハロゲン化物を紹介する。
 なお,アスタチンは,同位体がすべて半減期(半減期 8.3 時間以下)の短い放射性同位体で,実用的化合物がないので,紹介を省略する。

 【参考】
 電気陰性度( electronegativity )
 化学結合にあずかる電子(共有電子対)を引き寄せる力の強弱を表す尺度である。
 一般的には,電気陰性度の小さい元素は,陽性が強く(陽イオンになり易い),大きい元素は,陰性が強い(陰イオンになり易い)と考えてよい。
 電気陰性度の尺度を決める方法が種々提案されている。 この中で,広く用いられているのは,二原子分子の解離エネルギー,共有結合エネルギー,イオン結合エネルギーなどから求めたポーリング提案の値である。


主な元素の電気陰性度(ポーリング)
出典:日本化学会編,「化学便覧:基礎編Ⅱ」(丸善)から抜粋
  周期    1 族    2 族    13 族    14 族    15 族    16 族    17 族 
  1    H :2.1                         
  2    Li:1.0    Be:1.5    B :2.0    C :2.5    N :3.0    O :3.5    F :4.0 
  3    Na:0.9    Mg:1.2    Al:1.5    Si:1.8    P :2.1    S :2.5    Cl:3.0 
  4    K :0.8    Ca:1.0    Ga:1.6    Ge:1.8    As:2.0    Se:2.4    Br:2.8 
  5    Rb:0.8    Sr:1.0    In:1.7    Sn:1.8    Sb:1.9    Te:2.1    I :2.5 
  6    Cs:0.7    Ba:0.9    Tl:1.8    Pb:1.8    Bi:1.9    Po:2.0    At:2.2 

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  ハロゲン単体の性質

 ふっ素( F2 :fluorine )
 原子番号 9 ,原子量 18.9984 ,化合物中の酸化数は常に -1 ,常温常圧で淡黄褐色の気体,融点 -220℃,沸点 -188℃,密度 1.7 kg/m3 ( 0 ℃),天然には蛍石や氷晶石などとして存在する。
 ふっ化水素( HF )又はふっ化水素カリウム( KHF2 )の電気分解で得られる。ヘリウムとネオン以外の単体元素を酸化するので単体で保存することはほとんどない。

 塩素( Cl2 :chlorine )
 原子番号 17 ,原子量 35.45 ,主な酸化数は -1 , 1, 3 , 5, 7 ,常温常圧で黄緑色の気体,融点 -101.5℃,沸点 -34.0℃,密度 3.2 kg/m3 ( 0 ℃),地球上で存在量の多い元素(18番目)で,鉱物などの塩化物,塩,塩化物イオン,塩化水素として,海水・淡水・大気中に存在する。
 塩化ナトリウム( NaCl )水溶液のイオン交換と電気分解を併用したイオン交換膜法で水酸化ナトリウムと同時に得られる。

 臭素( Br2 :bromine )
 原子番号 35 ,原子量 79.9 ,主な酸化数は -1 , 1, 3 , 5, 7,常温常圧で赤褐色の液体,融点 -7.3℃,沸点 58.8℃,密度 3.1028×103 kg/m3(室温),天然には海水中に臭化物イオンとして存在する。
 臭化物イオンを含む水溶液を酸性条件下で塩素を吹き込み,酸化された臭素単体を蒸留精製して得られる。

 よう素( I2 :iodine )
 原子番号 53 ,原子量 126.9 ,主な酸化数は -1 , 1, 3 , 5, 7,常温常圧で紫黒色の固体で沃度(よーど)ともいう。融点 113.6℃,沸点 184.3℃(昇華性あり),密度 4.933×103 kg/m3(室温),天然には海水中のよう化物イオンとして,海藻中に生物濃縮されて存在する。
 よう化物イオンを含む水溶液を酸性条件下で塩素を吹き込み,酸化されたよう素単体を昇華精製して得られる。

 【参考】
 密度( density )
 3次元(空間),2次元(面),1次元(線)に分布するある量の割合を密度という。単に密度といえば,一般的には単位体積あたりの質量を指す質量密度をいう。
 3次元の密度,すなわち体積密度には,単位体積あたりの物質の量を指す質量密度,物質の数を指す数密度,単位体積中の電荷(電子,原子核,イオン)の量を指す電荷密度などがある。
 2次元の密度には,単位面積当たりの人の数を表す人口密度,単位面積あたりの磁束を指す磁束密度(磁場),単位面積に垂直な方向に単位時間に流れる電気量(電荷)を指す電流密度,記録メディアにおける単位面積あたりの記録容量を指す記録密度などがある。
 工学的には,物質の量の割合を対象物の面状の分布や線状の分布で表すため,単位面積あたりの面密度( や単位長さあたりの線密度で表すことがある。

 密度の単位
 単位体積の物質の質量を意味する質量密度の単位は,国際単位系( International System of Units ,略称 SI )では,kg/m3 (キログラム毎立方メートル)の使用を推奨し,日本の計量法では,kg/m3 ,g/m3 ,g/L の 3つが定められている。過去には,g/cm3 が多く用いられていた。
 参考: 103 kg/m3 = 1 g/cm3 ,  1 kg/m3 = 1 g/L
 基準とした物質( 4℃の水,0℃ 1気圧の空気など)の密度との比を意味する比重(無次元量)と似た数値のため混同されがちであるが,比重には単位がなく,密度とは定義が異なるので注意が必要である。

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  ハロゲン間化合物

 ハロゲン間化合物( interhalogen compounds )
 複数の異なるハロゲン元素が結合した化合物である。加水分解しやすく,酸化剤としての性質がある。
 ハロゲン元素 X と Y の電気陰性度が X < Y の場合のハロゲン間化合物は,一般式 X Yn ,n = 1 , 3 , 5 , 7 の化合物になる。
 次には,主な化合物と利用例を紹介する。
 n = 1
 ClF :ふっ素化剤, BrF :臭素化試薬, BrCl :酸化剤(殺菌・消毒剤),
 ICl :有機合成試薬(よう素や塩素の付与など), IBr :臭素化剤
 n = 3
 ClF3 :酸化剤,ふっ素化剤, BrF3 :ふっ素化剤,非水溶媒, IBr3 :臭素化剤
 n = 5
 ClF5 :ふっ素化剤, BrF5 :ふっ素化剤,酸化剤, IF5 :ふっ素化剤,酸化剤

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  非金属のハロゲン化物

 非金属元素(周期表 13 , 14 , 15 , 16 族)とのハロゲン化物は共有結合性化合物となる。
 13 族元素 ホウ素( B )
 ホウ素のハロゲン化物は,正三角形分子の BX3 型を作る。水との接触で,加水分解しハロゲン化水素とホウ酸( H3BO3 )を与える。ホウ素のハロゲン化物は,アンモニア,アミン類,エーテル類などと付加化合物を作る。このとき,ハロゲン化ホウ素はルイス酸として働く。

 14 族元素 炭素( C ),ケイ素( Si )
 炭素のハロゲン化物は,正四面体分子の CX4 型を作る。なお,炭素のハロゲン化物(四ふっ化炭素,四塩化炭素など)は,有機化合物として扱われる。
 ケイ素のハロゲン化物は,正四面体分子の SiX4 ,Si2X6 型を作る。四ハロゲン化ケイ素は蒸留で精製できるため,高純度ケイ素製造の原料となる。水と接触すると加水分解し,ふっ素を除きゲル状のケイ酸( SiO2 )とハロゲン化水素を与える。四ふっ化ケイ素は加水分解でさらにヘキサフルオロケイ酸イオン( SiF62- )を与える。他に,塩化物は Si6Cl14 まで,臭化物は Si3Br8 までの同族体が作られる。

 15 族元素 窒素( N )
 三塩化物( NCl3 )と三ふっ化物( NF3 )を作る。NF3 は沸点 – 129 ℃の安定な気体で,化学的に不活性である。NCl3 は沸点 71 ℃の不安定な黄色油状液体でる。
 リン( P )
 一般式 PX3 , PX5 の他,P2Cl4 , P2I4 の化合物を作る。PX3 は元素から直接の反応で得られるが,水と接触すると加水分解し,亜リン酸を生じる。
      PX3 + 3H2O → H3PO3 + 3HX
 ひ素( As ),アンチモン( Sb )
 三ハロゲン化物( AX3 )とふっ素の五ハロゲン化物( AsF5 , SbCl5 , SbF5 )を作る

 16 族元素 硫黄( S ),セレン( Se ),テルル( Te )
 一般式 A2X2 , AX2 , AX4 , AX6 の化合物を作る。このうち,AX6 はふっ化物に限られる。六ふっ化硫黄( SF6 )は,ふっ化物中で最も不活性な化合物である。硫黄,セレン,テルルを直接ふっ素や塩素と反応させると,AX4 型の化合物を作る。溶融した硫黄に塩素を通じると S2Cl2 ができる。

 18 族元素 キセノン( Xe ),クリプトン( Kr )
 18族の元素は,希ガス類と呼ばれ,化合物を作らない安定した元素であるが,キセノンやクリプトンは,ふっ素と安定な化合物( XeF2 , XeF4 , XeF6 ,KrF2 , KrF4 など)を作れる。

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  金属元素のハロゲン化物

 殆どすべての金属元素はハロゲン化物を作る。そのうち,アルカリ金属( Li , Na , K , Rb , Cs , Fr ),及びアルカリ土類金属( Ca , Sr , Ba , Ra )はイオン性化合物となる。遷移金属のハロゲン化物は,イオン性結合もあるが,結晶中ではハロゲンイオンを配位子とする錯化合物(錯体が多い。
 次には,主な金属元素のハロゲン化物について紹介する。

 1 族元素 アルカリ金属
 ハロゲン化アルカリは,原則として 1:1 のモル比をもつ。気体では 2 原子分子となっているものが多く,固体は,脆い無色透明なものが多く,セシウム( Cs )を除き NaCl 型結晶構造を持ち,セシウムのふっ化物( CsF )は NaCl 型結晶構造であるが,他のハロゲン化セシウムは CsCl 型結晶構造を持つ。
 ふっ化リチウム( LiF )を除き,水に溶けやすく,水溶液中ではほぼ完全に電離している。ふっ化物を除き,水溶液を電解すると,陰極に水素,陽極にハロゲンを生じる。ふっ化物の水溶液では,陽極に酸素を発生する。

 2 族元素 ベリリウム( Be ),マグネシウム( Mg )及びアルカリ土類金属
 一般式 MX2 型のハロゲン化物となる。ふっ化ベリリム( BeF2 )を除き,ふっ化物は水に難溶であるが,他のハロゲン化物は水に容易に溶け,ほぼ完全に解離する。固体の構造は比較的複雑なものが多い。

 4 族元素 チタン( Ti ),ジルコニウム( Zr )
 チタンは,TiCl4 ,TiCl3 ,TiCl2 を与え,TiCl4 は水に可溶である。熱水で加水分解( TiCl4 +4H2O → Ti(OH)4 + 4HCl )し,塩酸を与える。また気相でマグネシウムにより還元され,アルゴン寄留中で純粋な金属チタンを得るための反応(クロール法)として利用される。なお,TiCl3 ,TiCl2 は還元性に乏しい。ジルコニウムは,300 ℃で昇華するZrCl4 を与える。

 12 族元素 亜鉛( Zn ),カドミウム( Cd )及び水銀( Hg )
 塩化亜鉛( ZnCl2 )は潮解性で,水溶液中では Zn(H2O)n2+ の錯イオンとして存在する。塩化カドミウム( CdCl2 )も同様の特性を持つ。
 消毒剤などに用いられる塩化水銀(Ⅱ)は水溶液中で完全に解離せず,HgCl2 としても存在する。

 13 族元素 アルミニウム( Al ),ガリウム( Ga ),インジウム( In )及びタリウム( Tl )
 ハロゲン化アルミニウム( AlX3 )は,ふっ化物はイオン結合性化合物で,他の化合物は気相でハロゲン架橋された二量体(例えば Al2Cl6 )を作る。塩化アルミニウムは大気中の水(水蒸気)の影響で加水分解( Al2Cl6 + 3H2O → 6HCl + Al2O3・nH2O )し,塩化水素を発生する。水溶液中では,Al(H2O)63+ の水分子を配位子として持つ錯イオンを作る。
 ガリウム,インジウム及びタリウムも三ハロゲン化物を与え,そのうち塩化ガリウム,臭化ガリウムは塩化アルミニウムと同様に二量体を作る。

 14 族元素 錫( Sn ),鉛( Ga )
 一般式 MX4 のハロゲン化スズとハロゲン化鉛は,正四面体構造(ハロゲン化炭素と同じ)を持つ。SnCl4 は,沸点 114.1 ℃の液体で,熱水で加水分解する。PbCl4 は,黄色の液体で,100 ℃以上で爆発する不安定な化合物である。

 【参考】
 錯体( complex )
 配位結合や水素結合によって形成された分子の総称で,古くは錯塩( complex salt )と呼ばれていた。狭義には,金属と非金属の原子が結合した構造の化合物(金属錯体)をいう。
 錯体は混合物とは異なり,特異な性質を持つ「純物質」として扱うことが可能なので,配位化合物( coordination compound ),錯化合物( complex compound )とも呼ばれる。

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