第四部:無機化学の基礎 無機化学とは(基本)

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  ここでは,無機化合物の光学特性に関連し, 【光の吸収】, 【吸光量の評価】, 【吸光係数】 に項目を分けて紹介する。

  光の吸収

 物体の色は,物体表面からの反射光の可視領域のスペクトルが,白色や無色と感じる太陽光のスペクトル分布と異なるために生じる。
 すなわち,物体の色は,特定波長の光の吸収により生じる。具体的には,入射した特定の波長の光エネルギーを他のエネルギー(異なる波長の光,熱,振動など)に変換することで,この現象を吸光( absorption )という。

 光のエネルギーとは
 光は,無質量の粒子(光子: Photon )として扱われ,光子のも持つエネルギー( E )は,【光の評価】で紹介したように,光子の周波数(ν)プランク定数( h = 6.626070040×10-34 Js )から
      E = h ν
で与えられる。光子の周波数(ν)は,波長(λ)光の速度( c ,真空中 2.99792458×108 m s-1
      ν = c λ-1
の関係にある。
 式から,波長(λ)の短い光子,すなわち周波数(ν)の大きい光子は,大きいエネルギーを持つことが分かる。

 光の吸収と状態変化
 量子論によると,物質のエネルギー状態(電子の軌道,分子の振動・回転などの状態)は,連続でなく物質の状態で決まる固有の飛び飛びの値をとる。
 すなわち,光子のエネルギーが,物質の状態間のエネルギー差に等しいとき,そのエネルギーを吸収して状態が変化(遷移)する。変化した状態を励起状態( excited state )という。
 一般的には,近赤外線(波長 800 ~ 2500 nm )より波長の短い光,すなわち可視光,紫外線,真空紫外線,X線などの持つエネルギーで励起される場合は,軌道電子のエネルギー状態の遷移が起きる。
 近赤外線より波長の長い光,すなわち赤外線,遠赤外線,マイクロ波による励起では分子の振動や回転などの遷移が生じる。
 すなわち,物質が吸収できる光のエネルギー(波長)は,物質の遷移可能なエネルギー状態などに依存する物質固有のものである。従って,物質の色は,物質特有の性質といえる。

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  吸光量の評価

 物質が吸収できる光は,その物質固有のものである。従って,光を照射し,吸収された光の波長を調べることで,物質の特定が可能である。
 さらに,吸収される光の量は物質の量と定量的な相関にある。この関係を用いた物質の特定と定量を目的とした化学分析手法を吸光光度分析( molecular absorptiometric analysis )という。

 JIS K 0115 「吸光光度分析通則:General rules for molecular absorptiometric analysis 」では,分光光度計又は光電光度計を用い,波長範囲として 200 nm 付近から 1100 nm 付近の物質による光の透過,吸収又は反射を測定し,定量を行う場合の通則について規定している。

 物体をある波長(λ)の光が通った際に,その光の強度の弱まる程度を示す量は吸光度 D( absorbance )(光学濃度ともいう)といい,JIS Z 8120 「光学用語: Glossary of optical terms 」では次のように定義している。
      D = log10 ( I0 /I )
      ここで,I0 :波長λの入射光強度,I :波長λの透過光強度
 なお,JIS K 0212 「分析化学用語(光学部門)」では,吸光度 Abs の記号を用いている。

 JIS K 0212 では,光の強度変化( I0 , I )と光の通る道の長さ(光路長 L ),物質の量(濃度 C )との関係を次のように定義している。
      I = I0×e-μC L  又は  I = I0×10-εC L
      ここに,μ:吸収係数,ε:吸光係数
 
 この関係をランバート・ベアーの法則( Lambert-Beer law ),又はランベルト・ベールの法則と呼ぶ。この法則を用い,濃度を変えて求めた検量線から吸光係数ε= Abs /CL )を求めることで,濃度未知の物質量を算出できる。

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  吸光係数

 吸収係数・吸光係数( absorption coefficient )
 光がある媒質に入射したときに,どの程度の光を吸収するのかを示す定数で,長さの逆数の次元を持つ。
 JIS Z 8120 「光学用語: Glossary of optical terms 」
 この JIS では,吸収係数を次のように定義している。
 吸収係数は,媒質が光を吸収する程度を表す量。 次の式の中のα又はβをいう。
      I = I0 e-αx = I0 10-βx
      ここに,I :透過光の強度,I0 :入射光の強度,x :光が媒質を通過する距離
 この定義では,自然対数の形式ではα常用対数の形式ではβを用いる。

 JIS K 0212 「分析化学用語(光学部門): Technical terms for analytical chemistry (optical part) 」
 この JIS では,モル濃度当たりの吸収係数をモル吸光係数 ( molar absorptivity )と定義している。
 モル吸光係数については,“物質の吸光度 Abs を,濃度 1 mol /L,光路長 1 cm に換算した値で,物質の種類,波長,温度などによって決まる定数ε(単位は cm-1・L )。すなわち,目的物質の濃度を c ( mol /L ),光路長を l ( cm ) として,ε= Abs /(c l) で表す。”と定義している。
 ランバート・ベアーの法則( Lambert - Beer’s law )は,次のように説明されている。
 媒質に光束を透過させたとき,入射光束の強度と透過光束の強度との関係を示す法則。
 強度 I0 の単色の入射光束が,濃度 c ,長さ l の媒質層を通過したとき,光の強度が It に減少する。このとき I0 と It との間に成り立つ,次の関係式の法則をいう。
      It = I0 e-μcl = I0 10-εcl
      ここに,μ:吸収係数,ε:吸光係数
 このJIS の定義では,自然対数の形式ではε(吸光係数)常用対数の形式ではμ(吸収係数)と記号と用語を使い分けている。

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