第四部:無機化学の基礎 無機化学とは(基本)

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  ここでは,無機化合物の光学的特性評価に用いられる 【光の分類】, 【光関連の基礎用語】 に項目を分けて紹介する。

  光の分類

 「発光・吸光の評価」で紹介するように,エネルギー状態には,物質固有の基底状態( ground state )と励起状態( excited state )があり,エネルギー状態間の移動により,状態間のエネルギー差に応じたエネルギーを(電磁波)やとして出し入れ(放出・吸収)する。
 物質の状態変化は,原子核の状態変化と原子核を取り巻く軌道電子の状態変化電子遷移,及び分子の運動状態(回転,振動など)の遷移では,に分けられる。

 原子核内状態遷移では,状態間のエネルギー差が大きいので,発生するは,エネルギーの大きい(波長の短い)γ(ガンマ)線と呼ばれる電磁波である。

 電子遷移では,内殻電子(主量子数 1 の K 核や 2 の L 核など)が係る場合に波長の短い(エネルギーの大きい)X線が,外殻電子(最外殻電子,分子軌道電子など)が関わる場合には,X線よりエネルギーの小さい紫外線や可視光の放出(発光)や吸収(吸光が起きる。
 なお,γ線X線との区別は,波長ではなく発生機構,すなわち,状態遷移が原子核で起きたか,軌道電子で起きたかの違いによる。軌道電子の励起により生じた X線領域(紫外線より短波長)の電磁波は,蛍光 X線( X-ray fluorescence )又は特性X線( characteristic X-ray )と呼ばれる。

 分子の運動状態(回転,振動など)の遷移では,波長の長い(エネルギーの小さい)赤外線や熱としてエネルギーの放出や吸収が起きる。

 これらは,物質固有の現象のため,この現象を的確に把握することで,物質種や量の特定に利用できる。
 これらの発光・吸光過程の違いを利用した化学分析法には,吸光分析(赤外線吸収スペクトル法,紫外線吸収スペクトル法,原子吸光分析,分光光度法,フレーム光度法),発光分光分析(誘導結合プラズマ発光分光法,蛍光分析,燐光分析),X線分析(X線吸収法,X線蛍光法,X線マイクロアナライザー)などがある。

光の波長(エネルギー)区分と分析利用例

光の波長(エネルギー)区分と分析利用例


 【参考】
 光(光子)のエネルギー
 エネルギー E ( J )は,プランク定数 h( Js ),周波数ν( s-1 ),波長λ( m ),光の速度 c( m s-1 )とすると,
      E = hν= h cλ-1
で与えられる。
 なお,真空中の光速は,c = 2.99792458×108 m s-1 である。
 プランク定数( Planck constant )
 量子力学の創始者の一人であるマックス・プランクにちなんで命名された物理量である。 作用量子とも呼ばれ,SI 単位はジュール秒( Js )である。
 2014 年の CODATA(国際科学会議,科学技術データ委員会International Council for Science : Committee on Data for Science and Technology )推奨値は次の通りである。
      h = 6.626070040(81)×10-34 ( Js ) = 4.135667662(25)×10-15 ( eV s )
 エネルギーの換算: 1eV = 1.602176487×10-19 J

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  光関連の基礎用語

 ここでは,光関係の基礎用語として,JIS Z 8120 「光学用語: Glossary of optical terms 」JIS Z 8105 「色に関する用語: Glossary of colour terms 」における定義を抜粋して紹介する。

 ( light )JIS Z 8120,JIS Z 8105
 1. 知覚(的)光( (perceived) light ):視覚系に特有な知覚及び感覚の普遍的で本質的な属性。
 2. 可視放射( visible radiation ):人の目に入って,直接に,視感覚を起こすことができる光学放射。
 備考 日本語の用語では,光という語を修飾語として用いる場合には,可視放射以外に紫外放 射,赤外放射を含む広い波長範囲の光学放射を表すことがある。
 光子,光量子( photon )JIS Z 8120
 放射エネルギーの素量(量子)。その値はプランク定数 h と放射の周波数 ν の積に等しい。フォトンともいう。

 放射( radiation )JIS Z 8120
 a ) 電磁波(又は光子)によるエネルギーの放出又は伝搬。
 b ) これらの電磁波(又は光子)。
 可視放射,可視光,可視光線( visible radiation , light )JIS Z 8120
 目に入って,視感覚を起こすことができる放射。 光線という概念で用いる場合は可視光線という。一般に可視放射の波長範囲の短波長限界は 360 ~ 400 nm ,長波長限界は 760 ~ 830 nm にあると考えてよい。
 紫外放射,紫外線( ultraviolet radiation )JIS Z 8120
 単色光成分の波長が可視放射の波長より短く,およそ 1 nm より長い放射。JIS 誤植?(→ およそ 10nm より長い放射。)
 赤外放射,赤外線( infrared radiation )JIS Z 8120
 単色光成分の波長が可視放射の波長より長く,およそ 1 nm より短い放射。JIS 誤植?(→ およそ 1μm より短い放射。)
 白色光( white light )JIS Z 8120
 肉眼で白色に見える放射。 通常連続スペクトルから成る。

 ルミネセンス( luminescence )JIS Z 8120
 熱放射以外の放射で,放射,電気などのエネルギーを吸収して物質が励起状態となった後に,吸収したエネルギーを放射の形で放出する現象。ルミネセンスには蛍光,りん光などがある。
 蛍光( fluorescence )JIS Z 8120
 励起後約 10-8 s 以内しか持続しないルミネセンス。
 りん光( phosphorescene )JIS Z 8120
 励起後約 10-8 s 以上持続するルミネセンス。

 波長( wavelength )JIS Z 8120
 光波の隣り合う同位相の 2 点間を伝搬方向にはかった距離。平面波の場合,λ=υ/νである。ここに,λ(ラムダ)は媒質中の波長,υ(イプシロン)は媒質中での位相速度,ν(ニュー)は周波数である。
 波数( wave number )JIS Z 8120
 a ) 単位長さに含まれる波の数で,波長の逆数。
 b ) 2πを波長で除した値。量記号κ(カッパ)で表す。
 周波数( frequency )JIS Z 8120
 時間当たりの光の振動数。 周波数に 2 π(パイ)を乗じたものを角周波数という。
 光路長( optical path length )JIS Z 8120
 屈折率 n の媒質において,光の進む道筋の長さ l ,その道筋に沿った媒質の屈折率 n との積。光学距離ともいう。

 反射( reflection )JIS Z 8120,JIS Z 8105
 放射が,その単色放射成分の周波数を変えることなく,ある表面又はある媒質によって戻される過程。
 備考1. ある媒質に当たる放射の一部は,媒質表面から反射(表面反射)し,他の一部は,媒質内部で散乱して戻される(内部反射)。
 2. 放射の周波数は,放射を戻す材料の運動によるドップラー効果さえなければ,変化することはない。
 反射率( reflectance )JIS Z 8120,JIS Z 8105
 反射光の放射束又は光束φr と入射光の放射束又は光束φi との比φr /φi 。一般に百分率 (%) で表す。量記号:ρ,単位:1
 全反射( total reflection )JIS Z 8120
 屈折率の大きい媒質から屈折率の小さい媒質へ光が入射するとき,特定の角以上の入射角で,入射光のエネルギーがすべて反射される現象。
 拡散,散乱( diffusion , scattering )JIS Z 8105
 放射ビームが,その単色放射成分の周波数を変えることなく,ある表面又はある媒質によって多くの方向に散らされて,その方向分布を変える過程。
 備考 入射する放射の波長によって拡散特性が変わるか変わらないかによって,選択拡散及び非選択拡散に区別される。

 屈折( refraction )JIS Z 8120
 光がその単色光成分の周波数を変えずに光学的に不均質な媒質中を進むとき,又は異種の媒質間の境界面に入射するとき,位相速度の変化に応じて伝搬方向が変わる現象。
 屈折角( angle ofrefraction )JIS Z 8120
 光が媒質の境界面に入射するとき,屈折後の光線(異方性媒質では波面の法線)が入射点における境界面の法線となす角(鋭角)。
 屈折率( refractive index )JIS Z 8120
 真空中の光の位相速度と媒質中の光の位相速度との比。量記号 n で表す。
 透過( transmission )JIS Z 8120,JIS Z 8105
 光がその単色光成分の周波数を変えずに媒質を通過する現象。
 透過率( transmittance )JIS Z 8120 ,JIS Z 8105
 透過光の放射束又は光束φt と入射光の放射束又は光束φi との比φt /φi 。一般に百分率 (%) で表す。量記号:τ,単位:1

 吸収( absorption )JIS Z 8120
 放射エネルギーが物質との相互作用によって他の種類のエネルギーに変換する現象。
 吸収率( absorptance )JIS Z 8120
 物質によって吸収される光の放射束又は光束φa と,物質に入射する放射束又は光束φi との比。Φa /φi 。一般に百分率 (%) で表す。
 光学濃度,吸光度( optical density, absorbance )JIS Z 8120
 物質が光を吸収する程度を表す量。 単に濃度ともいう。次の式で表される。
      D = log10 ( I0 /I )
      ここに,D :光学濃度,I0 :入射光の強度,I :透過光又は反射光の強度
 光の強度( intensity of light )JIS Z 8120
 光波が媒質の中を伝搬する場合,エネルギーが流れる方向に垂直な単位面積を単位時間に通過するエネルギーの時間平均値。光波の振幅の二乗に比例する。

 スペクトル[光の]( spectrum )JIS Z 8120
 光を単色光成分に分解して波長の順に並べたもの,又はそれを表示したもの。
 分光分布( spectral distribution )JIS Z 8120
 波長λを中心とする微小波長幅内に含まれる放射量 X (放射束,放射輝度,放射照度など)の単位波長幅当たりの割合。 Xλ ( = dX /dλ) を波長λの関数として表したもの。分光組成ともいう。
 相対分光分布( relative spectral distribution )JIS Z 8120,JIS Z 8105
 ある値を基準にとって,分光分布を相対的に表したもの。基準値としては,分光分布の最大値,特定の波長における値,分光分布から求めた測光量の値などを用いる。量記号: S (λ) ,単位:1(無次元量)(最大値などで基準化したとき),ワット毎メートル毎ルーメン [ W・m-1・lm-1 ] (測光量の値で基準化したとき)

 放射量( radiant quantities )JIS Z 8120
 放射のエネルギー及びその単位時間当たりの割合,並びにそれらの面積密度,立体角密度,面積密度の立体角密度などの総称。例 放射エネルギー,放射束,放射強度
 参考 放射量は物理量である。
 測光量( luminous quantities )JIS Z 8120
 放射を CIE 標準分光視感効率及び最大視感効果度によって評価した量。例 光束,光度,照度
 参考 測光量は心理物理量である。
 光束( luminous flux )JIS Z 8120
 放射束を CIE 標準分光視感効率と最大視感効果度に基づいて評価した量。 量記号:Φv ,単位:ルーメン ( lm )
 光量( quantity of light )JIS Z 8120
 光束の時間積分値。量記号:Qv ,単位:ルーメン秒 ( lm・s )
 輝度( luminance )JIS Z 8120
 光が伝わる経路上の断面(発光面及び受光面を含む。)の単位面積当たり,かつ,経路方向の単位立体角当たりの光束。量記号:Lv ,単位:カンデラ毎平方メートル ( cd・m-2 )
 照度( illuminance )JIS Z 8120
 光の照射を受ける面の単位面積当たりに入射する光束。量記号:Ev ,単位:ルクス ( lx )
 プランクの放射則( Planck’s law )JIS Z 8120
 黒体の分光放射輝度を波長及び温度の関数として与える法則。

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