第四部:無機化学の基礎 生活と無機(建築材料)

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  ここでは,構造物,建築物の主要材料であるコンクリートに用いるセメントに関連し, 【セメントの製造】, 【セメントの種類と用途】, 【セメントの硬化反応】 に項目を分けて紹介する。

  セメントの製造

 セメント( cement )
 広義には,物と物を結合する接着剤(adhesion bond , adhesive agent , adhesive cement , adhesive material , bond , cement , glue など)全般を意味する。
 一般的には,建築・土木で用いるモルタルコンクリートを作るために骨材を結合する材料をいう。セメントは,水や液剤などで水和,重合し硬化(水硬性:hydraulicity )する粉体として供給されている。
 JIS A 0203 「コンクリート用語:Concrete terminology 」では,
 セメントを“水と反応して,硬化する鉱物質の微粉末。一般にはポルトランドセメント,混合セメントなどをいう。”と定義している。
 ポルトランドセメント( portland cement )
 水硬性のカルシウムシリケートを主成分とするクリンカーに適量のせっこうを加え,微粉砕して製造されるセメント。
 混合セメント( blended cement )
 ポルトランドセメントに,高炉スラグ微粉末,シリカ質混合材,フライアッシュなどの混合材をあらかじめ混合したセメント。

 ポルトランドセメントの製造方法
 一般的な製造工程は,下図に示すように,原料工程,焼成工程,仕上げ工程に分けられる。
 原料工程
 石灰石( CaCO3 ),粘土,けい石,酸化鉄原料(銅や鉄の精錬時のスラグなど)などを調合し,粉砕機(原料ミル)で粉砕する。一般的には,セメント 1トンの製造には,石灰石 1,100kg,粘土 200kg,その他原料 100~200kg が用いられる。
 焼成工程
 混合された粉体原料は,段階的に乾燥・余熱を行い,ロータリーキルン(回転窯)に送り込み焼成する工程をいう。ロータリーキルンでは 1450℃以上の高温で焼成され,水硬性の化合物の凝集体(クリンカーが得られる。
 仕上げ工程
 クリンカーは,一般的な組成( xCaO・yAl2O3・zSiO2・wFe2O3 )の複数の鉱物(クリンカー鉱物という)で構成される軽石状の集合体として得られる。
 冷却されたクリンカーを予備的に粉砕しながら,石膏( CaSO4・2H2O )を添加し,仕上げ粉砕機(仕上げミル)を用いて,平均粒径 10μm程度まで微粉砕し,製品として梱包される。
 なお,混合セメントは,予備粉砕時に石膏の他に,混合材(品質調整用)を添加したものである。

ポルトランドセメントの製造工程例

ポルトランドセメントの製造工程例
出典:(一般社)セメント協会「セメントとは;製造工程」


 ポルトランドセメントの組成範囲
 クリンカー鉱物の組成(質量%)
 けい酸三カルシウム( 3CaO・SiO2エーライト 記号 C3S ) 45~75%
 けい酸二カルシウム( 2CaO・SiO2ビーライト 記号 C2S ) 7~32%
 アルミン酸三カルシウム( 3CaO・Al2O3アルミネート層 記号 C3A ) 0~13%
 鉄アルミン酸四カルシウム( 4CaO・Al2O3 ・ Fe2O3フェライト層 記号 C4AF ) 0~18%
 硫酸カルシウム二水和物( CaSO4・2H2O :石膏) 2~10%
 化合物組成(質量%)
 酸化カルシウム( CaO :記号 C ) 61~67%
 二酸化ケイ素( SIO2 :記号 S )19~23%
 酸化アルミニウム( Al2O3 :記号 A ) 2.5~6%
 酸化鉄(Ⅲ)( Fe2O3 :記号 F ) 0~6%
 三酸化硫黄( SO3 :記号 Ŝ ) 1.5~4.5%

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  セメントの種類と用途

 ポルトランドセメントJIS R 5210 「ポルトランドセメント」)
 土木・建築構造物用として,用いられるポルトランドセメントには,用途により,普通ポルトランドセメント,早強ポルトランドセメント,超早強ポルトランドセメント,中庸熱ポルトランドセメント,低熱ポルトランドセメント耐硫酸塩ポルトランドセメントの 6種がある。なお,それぞれには,アルカリ骨材反応( alkali aggregate reaction )による劣化抑制を目的とした低アルカリ型の規定があるので,ポルトランドセメントの種類は合計 12種となる。
 普通ポルトランドセメント
 土木・建築構造物用として,最も汎用性の高い(使用セメントの 70%)セメントである。
 早強ポルトランドセメント
 ポルトランドセメントの一種で,エーライトの含有率を高め,水と接触する面積を増やすため微粉砕し,短期間で高い強度(普通ポルトランドセメント 3日分を 1日で発揮)を発現するようにしたセメントで,緊急工事,寒冷期の工事,コンクリート製品に用いられる。
 超早強ポルトランドセメント
 早強ポルトランドセメントより短期間(普通ポルトランドセメント 7日分を 1日で発揮)で強度を発揮するセメントで,緊急補修用途で使用されることがある。
 中庸熱ポルトランドセメント
 反応熱(水和熱)を抑えるため,エーライト,及びアルミネート層の含有量を少なくしたセメントで,結果としてビーライトの多い組成になる。
 発熱が少なく,強度発現は遅れるが,長期強度に優れ,乾燥収縮が小さく,硫酸塩に対する抵抗性が大きいなどの特徴があり,ダム,大規模橋脚工事などに用いられる。
 低熱ポルトランドセメント
 ビーライト含有率 40%以上で,中庸熱ポルトランドセメントより水和熱が低いセメントである。材齢初期の強さは低いが,長期で強さを発揮し,高流動性のセメントである。
 耐硫酸塩ポルトランドセメント
 硫酸塩に対する抵抗性が弱いアルミネート層の含有量を極力少なくしたセメントで,護岸,温泉地付近,化学工場など硫酸塩の影響の大きい環境での工事に用いられる。
 低アルカリ形ポルトランドセメント
 使用する骨材がアルカリシリカ反応性について「無害」であると判定できない場合に,セメント成分中の全アルカリ量を 0.6%以下に抑えたセメントで,アルカリ骨材反応が起きる可能性がある場合に使用される。

 混合セメント
 建築・土木工事に用いる混合セメントで,JIS規格には,JIS R 5211「高炉セメント」,JIS R 5212「シリカセメント」,JIS R 5213「フライアッシュセメント」がある。それらは,混合比率により A種,B種,C種に区分される。
 高炉セメントとは,高炉スラグ(金属精錬時に分離された鉱物成分)を混合したセメントで,セメントの水和反応で生じた水酸化カルシウム( Ca(OH)2 )の刺激で徐々に水和反応を起こす性質(潜在水硬性といわれる)を持つ。耐海水性,化学抵抗性に優れ,ダム,港湾などの大型土木工事に用いられる。
 シリカセメントとは,天然のシリカ( SiO2 )を 60 %以上混合したセメントで,初期強度の発揮に時間はかかるが,ポゾラン反応が起きやすく耐薬品性に優れ,主にコンクリート製品に用いられる。
 フライアッシュセメントとは,火力発電所で石炭の燃焼時に発生する灰(フライアッシュを混合したセメントで,主成分の二酸化けい素( SiO2 )が,水酸化カルシウムと反応し水和物(けい酸カルシウム水和物)を生成(ポゾラン反応という)し,緻密で耐久性に優れたコンクリートが得られる。ダム,港湾などの大型土木工事,水密性を要求する構造物に用いられる。

 エコセメントJIS R 5214「エコセメント」)
 都市ごみ焼却灰,下水汚泥を主原料とするセメントで,通常のセメントに近いものが開発されている。鉄筋を使わないコンクリート分野での利用例がある。

 その他
 他に特殊セメントと呼ばれる膨張性のセメント(セメントに膨張材を加えたもの),低発熱セメント(高炉スラグ,フライアッシュなどを混合したセメント),白色ポルトランドセメント(顔料等を加えて任意に着色できるように,酸化第二鉄( Fe2O3 )の含有量を低減したセメント),セメント系固化材(ジオセメントなどとも言われ,土壌の改質を目的に用いられるセメント),超微粒子セメント,高ビーライト系セメント,超速硬セメント,アルミナセメント超微粒子セメント,高ビーライト系セメント,超速硬セメント,アルミナセメントなどがある。

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  セメントの硬化反応

 セメントは,製造方法で紹介したように,約 1500℃と高温度で焼成されており,常温では不安定な結晶構造を持つ。水との接触で,成分の溶解と,難溶性の水和生成物セメント水和物という)の析出で硬化する性質を持つ。
 析出する水和生成物は,微細で表面積が著しく大きく,水和物間の水素結合ファンデルワールス力などにより,大きい凝集力と骨材との接着力を発現すると考えられている。

 一般的には,各クリンカー鉱物の水和反応は,発熱反応(自発的に起きる)で,その速度は,アルミネート層 C3A(アルミン酸三カルシウム;3CaO・Al2O3 エーライト C3S(けい酸三カルシウム;3CaO・SiO2 フェライト層 C4AF(鉄アルミン酸四カルシウム;4CaO・Al2O3 ・ Fe2O3 ビーライト C2S(けい酸二カルシウム;2CaO・SiO2)といわれている。

 C3SC2Sの反応
 との反応で,ゲル状のけい酸カルシウム水和物( nCaO・SiO2・mH2O ,n=1.2~2.0 ,m=4.0 ,記号 CSHと積層構造の六角板状水酸化カルシウム( Ca(OH)2 ,記号 CHを生成する。
 CSH の形態は,水和反応初期に現れる網状のType Ⅱ,水和反応数時間後に現れる繊維状のType Ⅰ,水和反応後数日して現れる等寸法状のType Ⅲ及び密実なType IV に分類されるが,出現する形態や量は,コンクリートの水・セメント比,養生温度,経過時間などの条件で変化する。

 C3AC4AFの反応
 石膏(硫酸カルシウム)が存在すると,水和生成物として CH の他に針状のエトリンガイド AFt ( 3CaO・Al2O3・3CaSO4・32H2O )を生成する。
 石膏の消費で未水和の C3A C4AF AFt が再反応し,六角板状のモノサルフェート水和物 AFm ( 3CaO・Al2O3・CaSO4・12H2O )が生成する。
 次いで,エトリンガイドの消費で,未水和の C3A C4AF は,すでに生成していた CH と反応し,アルミン酸カルシウム水和物( 4CaO・Al2O3・13H2O )を生成する。これらの水和物の組成や形態も,コンクリートの水・セメント比,固化までの環境条件などで変化する。

 結果として,セメントと水の混合により,下図に模式的に示すように,種類,大きさおよび形態の異なる水和生成物が互いに絡み合い,様々な径および形状の空隙を有する複雑な硬化体を形成する。

 【参考】
 水セメント比( water-cement ratio )
 フレッシュコンクリート又はフレッシュモルタルに含まれるセメントペースト中の水とセメントとの質量比( JIS A 0203 「コンクリート用語」)。

セメント硬化体の組織(模式図)

セメント硬化体の組織(模式図)
元図出典:Sudjono, Agus Santosa ,早稲田大学博士学位論文(2月-2003)「ポルトランドセメントの複合水和反応と組織形成モデルに関する研究」

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